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2013年6月24日 (月)

James Lee Burke(ジェイムズ・リー・バーク)の世界。おびただしい風景描写、カントリー/ジャズ音楽への深い造詣、南部ルイジアナの沼地、河、川、人工水路に、モンタナの渓流に登場する魚たち――1978年の異色純文学風作品"The Lost Get-Back Boogie"を素材に語る(Part-9)。

2013.6.24
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 俺の名はIry Paret(アイリー・パレット)、31歳、カントリー/ブルーグラスのギター弾き/歌手だ。ルイジアナ州Houma(ホーマ)で生まれ育つ(*1)。州湾岸西端部のナイトクラブに出演していたとき、バンド席に狼藉を仕掛けてきた荒くれを、もののはずみでナイフで刺し、死に至らしめ、アンゴラ刑務所に服役、5年刑期のうち3年弱を残して仮出獄した。

 1_2家に帰ると、一人住まいの父親は腸ガンで死にかけていた。妻は、つまり俺の母親だが17年前に火事で焼け死んでいる。オレの幼い妹と一緒に。オレと、もう一人の妹と、弟が残った。オレ以外の二人はリッチに生活しているのだが、帰ってみると、ガンに侵された父親の世話をろくにしていなかった。オレは怒ったが、「じゃあ、刑務所にいたアンタは何をしてくれたというのよ」と妹から返されると、無力だった。

 父親の死が近いことを悟ったオレは、町を出てモンタナに行くことに決めた。刑務所で仲良くなった男がそこにいる。その父親が、かなりの有力者として牧場をやっているのだ。  
 親父は2週間後に死んだ。幸い、仮出所保護観察制度下のモンタナへの移住許可申請が認められた。バイユー沿いの4エーカーの土地と父親形見のピックアップ・トラックだけをもらって残余遺産を放棄し、それによって二人に借金を返済した気持ちになれた。モンタナに出発した。
 三日目の夕刻、モンタナ州ミズーラに到着した。
 それが前回記事までの経過である。  
                                (↑画像 - Hyperion社、ISMN: 0-7868-8934-9。1978年発表作品)

*1.関連記述からの推測である。どこの町であるか、作者は明示していない

◆◆◆◆◆◆◆◆
一、ミズーラ
 道路を南に曲がってBitterroot Valleyへと進み、バディ(Buddy)が書いてよこした地図を頼りにその父親の牧場を目指した。
                ――↑前回記事末尾――

  道路両脇に広がる牧草地は、奥行きが浅く、わずかな広がりをみせるだけで山すそに吸収されている。山々は高く黒く屹立し、切れ目から月光をのぞかせる雲々に上部を隠している。Bitterroot River(ビタールート川)は、まるで鏡のかけらのように、散在する長い砂州と柳の島々を横切って輝いている。
 その先、懐中電灯で標識を照らしながら進んでいき、二度道に迷ったが、とうとう目的地に到着することができた。Buddy Riodan(バディ・リオーダン)の父親の場所だ。鉄条網のゲートと牛放牧柵で囲まれた土地で、轍の跡が刻まれた道路が上方に登っている。
Photo_2          Missoulaの下方(南)、縦の楕円がビタールート峡谷平野。ビタールート川沿いに州道93号が走っている。楕円左側を
            くねくね走っているのは尾根道で、アイダホ州との州境になっている。

Photo_3                                                            
  (Bitterroot River、 ココから)

二、バディのこと
 Buddy Riordan(バディ・リオーダン)は、アンゴラ刑務所で会ったとき、マリファナ所持の罪により、5年から15年の不定期刑で服役していた。優れたジャズピアニストだ。ニューオリンズで、Burton'sというクラブの定着仕事を持ち、いい気分で葉っぱにラリって、メキシコ湾からの心地よい潮風を受けながら楽しくやっていた。
 ところが、コートのポケットにマリファナ2包みを入れているところを便所で逮捕されたのだ。ヤンキー(北部人、Yankee)であったため、misdemeanor(軽罪)ではなく」felony(重罪)で起訴された。判事は、想像もできないような極刑を科した(*2)。

*2.misdemeanor、felony
misdemeanor(軽罪)
 アメリカでは、多くの法域でmisdemeanorはfelonyよりも法定刑の軽い犯罪――例えば1年以下の懲役または罰金――と定義されている。
felony(重罪)
 アメリカでは、連邦および数多くの州の制定法で死刑または長期1年を超える定めのあるものがfelonyであると定義されている。 
     
(「BASIC英米法辞典」編集代表田中英夫、東京大学出版会)
ヤンキー(Yankee)
 なお、「ヤンキー」とは、南北戦争南軍州兵/州民が北軍のそれを指して言った蔑称だが(奴隷制度廃止を巡る憎しみを想定せよ)、北東部、シカゴ(イリノイ州)とニューヨークを結ぶ線の周辺あたりの州の人々を指していうものであると理解していた。モンタナ州まで含むとは驚いた。本当かい。南部になじみのある著者がいうんだから、間違いないのだろうが(メキシコ国境に近いテキサス州南部、Los Angeles, Texasで生まれ、ルイジアナ州州境あたりで幼年期をすごし、同州とミズーリ州の大学に学んだ)、じゃあ、ワシントン、オレゴンなど西海岸北部州も含むことになるのかい。 (蔑称の意味合いはその後薄らいでいったように思える)
   
Wikipediaで調べたら、南部英語では「(一般的に、総じて)「北部人」のことを"Yankee"という」とある。
           (Within Southern American English, "Yankee" refers to Northerners.)
 さらに、ニューイングランド文化との関係で使用されることもあるという(イギリス植民地州住民の子孫、その地方の方言など)。
 

  バディは当時アンゴラで5年を過ごしていた。所内には、囚人たちからアウトサイダー(部外者、よそ者)とみなされている者が、すなわち仲間囚人社会に属していない者とみなされている囚人がほんの数名いたが、そのうちの一人だった。
  ヤツは、頭の中にバードことチャーリー・パーカーのリズムを持っていて、時として、ベンゼドリン(硫酸アンフェタミン)を吸って飛んでいるのか、それとも、ただ単に荒々しいリフ(*3)が頭の中で飛び跳ねているためにハイになっているのか、外観からは分からないことがあった。
 かつて、看守たちは、定期的な身体検査の際にバディが飛行機用の接着剤をポケットに忍ばせていたのを見つけて、三日間懲罰房に入れたことがある。ところが、宿舎に連れ戻したとき、依然としてハイ状態で自分のビートに揺れていた。それ以来、狂ってるとしてヤツには干渉しなくなった。

*3.リフ(riff)
 音楽用語。ジャズ的リズム感のある、長さの短い音楽フレーズ。


 看守たちに理解できなかったことは、バディはずっと前に人生を諦めていたということだ。10代のどこかの時点で、太平洋側北西部で自堕落な生活を送り始めたときに、「おらあ、もう止めったっと」という文字を書きこんだのである。不満や社会問題を訴えたということではない。自分自身のリズムを刻み始めただけのことであり、なんらかの種類の目に見えない一線の向こう側に身を置いたというだけのことである。

 思うに、初めて会ったときにバディについてオレが感じ取ったことは、つまり、ヤツが発する秘密の電気のようなものだが、感じたのはそれだった。オレが懲罰房から出てきたときに運動場で会ったのだ。
 冷たくて湿った風が吹いていた。おれは州支給の煙草パケージにわずかに残っていた刻みを煙草に巻こうとしていた。やつは塀によりかかっていた。片方の足を後ろで組み、こすって暖めた両腕の手首をポケットに深く突っ込んで。
 ピンストライプのズボンは細い腰からずり落ちそうにまとわりついている。デニムの上着を着て、襟元までボタンをかけている。骨ばった顔は寒さで赤くなっており、口にくわえた短い煙草は唾で濡れていた。

 「よお、オレのコートのポケットに仕立てのものが入っているから、それを吸いな」。
 そういうので、キャメルのパックを引っ張り出して、一本口にした。
「何本か持っていきな、土曜まで支給はないからな」。
  「わるいな」。
「ム所は初めてかい」。
  「軍隊でいくらか喰らったことがある」。
「ここじゃ、それは関係ない。メシが終わったらオレの房舎に来いよ。いい気分にさせてくれるものをやるから」。
 おれは煙草を貰ったことを、すでに後悔し始めていた。顔を塀に向けて、両手で覆ってマッチを擦った。
「おい、心配するなよ。取って食おうというわけじゃない」、やつはいう、
 「あんたの記録を見たんだ。俺たち、ジャズバンドをやってるんだけど、エレキベースが要る。悪い話じゃないぜ。たまに女房舎で演奏することがあるし、毎週土曜日は、便所掃除じゃなしに、レクレーション室の床のワックスがけをするだけでいい。
 それにな、マッチの付け方を誰かがあんたに教えてやらなきゃいかん。マッチは、ここじゃ、煙草と同じくらい貴重品だ」。

三、再会
 牧場は峡谷の切り立った面の方に延びている。母屋は、丸太造りの長く延びた二階建の建物だった。前面に広いポーチがあり、建物には、羽目板でできた脇部屋がいくつか備わっている。全部の部屋の明かりが点いており、後方に、満月の下で、峡谷の崖が急激に黒く立ちあがっている。トラックを降りると、まだ八月初旬だというのに、冷気で身を切られるようだった。そこで、軍隊支給の上着を羽織った。ルイジアナで、カモ猟のときに着ていたものだ。
 若い娘がポーチに出てきたので訊いた。
「バディ・リオーダンの家に行きたいんですが、ここでいいのかどうか、何度か道に迷ったりしましたから」。
 バディは、その先、道路の行き止まる林の山小屋に住んでいるという。
 松林の縁に平屋の丸太小屋があった。ポーチとブランコがあり、レンガの煙突をしつらえてある。
 煙突の煙が低く平らに木々の下を漂い、風に乗って峡谷にたなびいていく。ポーチにフライロッド(釣竿)が2本立てかけてある。ラインが、コルクの握りに固く巻きつけられている。 

 バディが、ドアから裸足で出てきた。袖のないナイロン製狩猟ベストを着て、両手に、缶ビールとスプーンを持っている。
----------------------------------
Hey, Zeno, where the hell you been? I thought you'd be in yesterday," He hit me on the shoulder with the flat of his hand like a lumberjack.
「おい、このやろう、どこをうろついてたんだ。昨日来るっていってたんじゃないのか」。
  ヤツはそういって、樵(
きこり)のような手のひらでオレの肩を打った。
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(オレ)ワイオミングでインディアン(ヒッチハイカー)を乗せ、回り道をした。美人の奥さんにちょっと失礼なことをしでかした(手を握ったまま眠りこみ、相手も「白人」に遠慮したか、放せずにいた)。
(バディ)
よくあることだ気にするな。昨日からポット(深鍋)に漬けて仕込んであるシカ肉があるから、それを煮て食べよう。
 こういった話をした。
 小さな台所があって、木材ストーブが据えてある。その縁は、松材の樹液と樹脂の熱で真っ赤に焼けている。ビールの缶を手に、シカ肉が煮える匂いをかぎながらテーブルに座る。疲れが身体からすっと引いていくような気がする。バディはまな板でキノコを刻んで、ナイフで救って鍋に入れた。キノコとワイン、いいなあ。

 町に行って居酒屋でビールを飲み、食事用のワインを買い、追加在庫ビールを仕入れてこようということになった。
 「おやじさんのことは気の毒だったな」とバディ。

(オレ)早く町に行ってビールを買おう、1ケースぐらい空けないと眠れそうにない。
(バディ)ここじゃ、よく眠れる。空気は、アメリカ合衆国一だ。それが毎晩峡谷から吹いてくる。静かで、聞こえるのは、小屋の裏を流れるクリークの音と、たまに松かさが屋根に落ちてたてる音だけだ。もう遅いから家族に紹介するのは明日にしよう。母屋に行って朝飯を一緒に食べよう。そこで親父と話をすることができる。干し草梱包作業で日当10ドルだ。ここらでは悪くない金額だ。家賃はいらないし、毎日Bass CreekかBitterrootで魚を釣ってくることができる。小さな野菜農園をやっているし、冷蔵庫には、鳥や獣の肉が入っている。かなりいい人生だ。もっと早く気付いていればよかった。そうすれば、あの5年を過ごさずにすんだ。お前ら南部の原始人とな。
 バディはこういう話しをして、訊いてきた。

 「ところで、南部の話がでたついでに訊くが、もしかしてあのルイジアナの赤黒い葉っぱ(マリファナ)を持ってきていないだろうな」。

(オレ)「さあ・・・どう思う、バディ」。
(バディ)「まあ、訊いてみただけだ。あのミズーラ(Missoula)の大学(*4)の連中は、LSDっていう新しい薬をやっている。数分で脳みそがバラバラになる。醒めるときは、壊れたかけらを一つずつくっつけるようなかたちでしか元に戻らない・・・・・・悪かった、ヤクに捕われているわけではないんだ。
 さあ、出かけて一杯やって、気合いを入れよう。

 おれは手のひらで目をこすった。頭の中を赤い光が走った。
(オレ)そうだな、気絶しそうだ。まだ、身体の下でトラックが揺れてる。

(バディ) 
 ビールを一杯やって、何かちょっと腹に入れりゃ、落ち着くさ。
 さあ行くぞ、モンタナの居酒屋がどういうものか見せてやる。どん百姓で溢れてる。最初の夜だ。ちょっと景気をつけて、お前の萎えた南部チンポコに元気をつけてやれ。
  ----なんだな、おまえら南部人はセックスキチなんだってな。便所が汚いのと、サック販売機が必ず置いてあるのは、そのせいだってな・・・・・・。

(オレ)なんだよ、行くんじゃないのかい。
(バディ)おー、そうだった、お前のトラックで行こう、俺のは昨夜クリーク(渓流、画像 )のど真ん中に置いてきたから。
 そんなやりとりをして町に行った。オレのトラックで。

          *4.University of Montana (モンタナ大学)のことであろう。

 月は、はるか南に移動しており、川の暗い水が細い流れに分散し、砂州の縁に生えている柳の木の周りで銀色に光っている。谷の両側の山々は、月光に映えて巨大に見え、こちらに倒れかかってくるように思える。松林がギザギザの影を見せている向こうに、遠くの山頂に残る雪が期に月の光で燃えている。小さなクリークの橋を渡るたびに、水が岩の上に白く跳ねてさざ波を立て、やがて鏡面の深みに落ち着いていくのが見える。

 雑貨ストアの隣にある合板造りの居酒屋の駐車場に車を停めた。給油ポンプが2基置いてある。ピックアップ・トラックが何台も停まっており、どれもが、リアウインドウに装着したラックにライフルとショットガンが立てかけてある。バンパーに貼ってあるステッカーは、南部のことを、いきなり思い出させるものだった。

"I Fight Poverty -- I Work; Put The Bible Back In Our Schools; Don't Worry, They're Only Ninety Miles Away.
貧乏はいやだ―  働くぞ、バイブルなんか教会に戻しちまえ。なんてこたない、たったの90マイル離れているだけだ。
 
 (こう訳したが、どういうことを言っているのか意味不明)

――この編終わり、続く――

[更新] 2014.1.2
  句読点を手直しし、記述を少し追加した。 


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コメント

The Lost Get-Back Boogie Part_10 よろしくお願いします。
ジェイムズ・リー・バークの大ファンです。英語がわからないので、翻訳モノが出なくなってロビショーから遠ざかってました。
ここでバークの新作(自分にとって)に出会えて、喜んでおります。

投稿: akira_h | 2013年12月30日 (月) 20時59分

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