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2014年1月14日 (火)

James Lee Burke(ジェイムズ・リー・バーク)の世界。おびただしい風景描写、カントリー/ジャズ音楽への深い造詣、南部ルイジアナの沼地、河、川、人工水路に、モンタナの渓流に登場する魚たち――1978年の異色純文学風作品"The Lost Get-Back Boogie"を素材に語る(Part-12)。

2014.1.14
 モンタナ州に着いた日の翌日の午後、主人公、Iry Paret(アイリー・パレット)は、ミズーラ市(Missoula)に出向いて仮出所保護観察官に移住開始申告を済ませる。
 その後、たっぷりと残った時間をかけて、初めての町を探検する。
Photo_3          (左画像=市庁舎/City Hall。保護観察官事務所は、通常、裁判所、警察署などと共に、市庁舎の中にある。右画像=文字どおり、「青く、金色に輝く」午後。画像はココ から)

        ----------------以上、Part-11の末尾------------------

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◆◆◆◆◆◆◆◆
一、ヤバイ予感
 ミズーラは素晴らしい町だ。東西南北、四面とも山々が聳え立って(そびえ)いる。Clark Fork Riverがビジネス街のど真ん中を流れており、タイヤチューブ(inner tube)やゴムボート(Rubber Raft)に乗った大学生たちが、手に手に缶ビールを持ち、白い水面を下っている。土手で釣りをやっている連中に野次を飛ばしたり、手を振ったりしながら。
 街は楡(ニレ)と楓(カエデ)に包まれている。芝生はあくまで緑にみずみずしく、そこかしこと花壇が散らばめられている。シャツの袖をまくった男たちがガーデンホースで草花に水を撒いている、その様子は、まるで1940年代の記憶を彷彿(ほうふつ)とさせるようだ。

 俺は刑務所に入った時以来、初めて味わう自由、解放感に浸りながら、通りを進んでいった。自宅、親父の家でさえ、想い出を呼び起こさせる遺物が存在する。家の暗さ、壁にかかった祖先の肖像、死、バイユーの浸食作用によって時間と共に1フィートずつ削られていく家族墓地、いつも家に帰る度に脳の中に新しい毛細根を伸ばしてくる、あの脳の中の黒い野菜。そういうものが存在する。しかし、ここでは、歩道全体に陽光が溢れている。その歩道たるや、場所によっては、馬や牛をつなぐ足かせ用のリングの埋め込みを、いまだに温存しているといった驚きもの、優れ物なのである。
 
 おれは、Oxfordとか、Eddie's Club、Stockman's Barというような名前の店に入っていった。それはまるで、ドアを通り抜けて、一世紀後戻りするような感覚の動きであった。カウボーイ(牧童)、パルプ加工工場作業員、木材伐採人夫(きこり)、季節労働者、プロの賭けトランプ師たちが、奥のフェルト張りテーブルでトランプ(カード)をやっている。
 スツール(椅子)を備えていないバー(カウンター)がある。飲むことに命をかけている男たちのためのバーだ。ステーキとジャガイモと生ビールのためのバーがある.。隅の方では、カチカチと玉突きの音がしている。ときどき、怒声が聞こえ、椅子の壊れる音がし、男がパンチを喰らって、トイレの石膏ボード壁に、腹を押えて丸まった姿勢で叩きつけられたりする。
 
 俺は、Oxford(オクスフォード)でオニオン載せステーキを食べていた。脚を失った障害者の男が、おれの隣のスツールに腰掛けるために、身を持ち上げようとした。男は、ローラースケートの車輪を装着した板の台に乗って、通りをずっとやってきて、そして店内へと漕いできたのだ、台車を。脚の切断先端部に装着している止め具がスツールに引っかかって、うまく動きがとれなくなっているので、おれはその身を持ち上げてやろうとした。
 男は虫食い前歯の隙間からトカゲのように舌を出して、チッ、チェッと舌打ちをした。

 「彼は手助けを嫌がるんですよ」、バーテンダーがいう。
「すまん」。
 「この人、耳も聞こえないし、しゃべることもできない。戦争でね、そうなった」、
 バーテンダーはそういい、ライマメ・スープを椀によそって、皿に乗せ、クラッカーを添えて男の前に置いた。
 男がズルズルと音を立ててスープを吸っている。「オエッ」、おれは、カウンタの端の方に目を反らせて自分の料理を食べた。
 バーテンダーが、追加ビールを持ってきた。
「店のおごりです」、こういう。
 そして、マッチを口の端に咥え、無表情な目で、訊いてきた。
「町に滞在されているんですか」。

 「ビタールートの友達の家にいるんだけど、何か仕事がないか探しているんだ。とりあえずは、リオーダン氏の牧場で干草積みをやるかな」。
 つい、名前を出してしまった。ちょうど、湖面の氷が割れないかどうか試すために、体重を軽く載せてみたように。
 相手の反応は、「ちょっと怪訝に感じた」という程度のものであったが、しかし、そこには、反動が確かに存在した。
 「フランク・リオーダンをよく知ってるんですか」。
 「その息子の友達なんだ」。
 「そうですか、で、パルプ工場の問題だけど、フランクは何をやらかそうとしているのかね」。

 「大勢の男を失業させようとしてるんだよ」、カウンターのずっと向こうの男が、皿から顔を上げもせずに答えた。

Photo_4        Oxford、stockman's Barという店の画像がネットに出ていた。下段の画像は上段の店の店内ではなく、Google画像ページから適当に摘まんで載せたものである。画像はココココココから。

 おれは、「しまった」と思った。
 「そのことについては、何も分かりません」、おれは答えた。
 「ヤツも、そのことについて、何もわかっちゃいない」、その男がいう。
 男はブリキの帽子をかぶり、長袖の下着に、格子縞のシャツを着ている。
 バーテンダーは、突然外交官に変じ、公平無私の中立的立場に立った。
 「しばらくフランクに会ってないなあ、前は、たまに土曜日にやってきて、カードをやったもんだ」。
 「今はもう、暇がないのさ」、
   脚なし障害者の隣で食べている男がいう、
 「1,300エーカーもの土地に飼っている牛の群れの上に乗っかって、時給1ドル50セントの労働者に(パルプ工場の労働者)解雇通知書(pink slip)が配られるように仕向けてんだよ。
それが、リオーダンというヤツの正体だ」。

 バーテンダーは俺の前のカウンターを、あたかも、自分の罪を拭き取ろうとでもするかのごとく、雑巾でこすり、
 「煙が糞便臭いという人もいるけど、わたしには、パンとバターのような臭いがしますがね」、といって、笑った。喉の奥から胃潰瘍の臭いを吐き、黄色い歯並びを見せて。
 俺は、両側の男たちの怒りを感じ取った。両側をブックエンド(ブックスタンド)で挟まれた者のように。
Photo                                            ("between bookends"。画像はココから)

 皿にフォークとナイフを置いてタバコに火をつけ、怖がっていないところを見せるためにゆっくりと長くタバコを吸い、そして、通りの陽光へ戻った。

 「リオーダン」という名を出して反応を試すことは、これ以上やるまい」、
 俺はそう思い、問題が重大なものであることをバディに認識させ、対処について、もっと真剣に話し合う必要があるなと考えた。

 その午後、この経験をする前に、俺は、あるバーで、一人のジッポ・ロガー(gyppo logger、零細材木事業者、または、その労働者)から、Bonner(ボナー)の町のカントりーバンドで仕事がみつかるかもしれないという助言を聞いていた。
 そこで、Hellgate Canyon(ヘルゲイト・キャニオン)という峡谷を抜けてミズーラの町を出た。

Photo_2               (Gyppo logger。語源は不明だという。左端はSteam donkey=「蒸気ロバ」。ココから)

二、ボナーの町
 Hellgate Canyon(ヘルゲイト峡谷)は、山塊の裂け目である。そこは、歴史的に、Salish Indians(サリシュ・インディアン)Clark Fork(クラーク・フォーク)川を辿って(たどって)きて、毎年、Crow(クロウ)インディアンとBlaxkfoot(ブラックフット)インディアンに大量殺戮されていた場所だ。
Photo_3             (Salish Indians。ココから。「注」― 著者は"Salish Indians"としているが、その名の単一種族は存在しない。
       集合的にCoast Salish Peoplesと称される多数種族から成る集団、人々である。見よ→Wikipedia)


Photo_4                                     (Crow Indians。ココから)

Photo_5                         (Blackfoot Inndian。ココから)     

 俺はクラーク・フォーク川に沿って山塊の深い亀裂を登っていった。山の斜面に、薄い松の茂み、伐採後の二次生えを見ながら、川がブラックフット川と合流する地点まで。
  合流点は、広い範囲で暗い水が渦を巻いており、コンクリート・ダムの上で水煙と虹をなしている。
 
 ボナーの町はAnaconda Company社の城下町だ。会社は、川べりに造成した巨大な木材加工(パルプ)工場である。煙突から噴煙を噴き上げでおり、それが、ブラックフット峡谷数マイルにわたって空中に漂っている。
 町は一つの通りだけで成っており、こぎれいな庭と、日除け樹木と、均一仕様の家屋が、ずらっと並んでいる。
 俺は、ルイジアナとミシシッピ州以外では企業城下町を見たことがない。

 そこには、空気中にサトウキビ製糖工場の臭いはなく、車のリアウインドウから黒人たちの姿を、――夕暮れ時に弁当箱を片手に砂糖絞り機の前から自宅のポーチ、こぎれいに手入れされた庭と樹木の、均一仕様の木造家屋の自宅の、ポーチに向かう姿を見ることもないけれども――、ボナーは、ルイジアナ州のIberia Parish(アイビーリア郡、イベリア郡)から街並みをチョキンと切り取ってきてロッキー山脈のど真ん中に糊でくっつけたような町である。

4       (丸印、左からミズーラ市街、ヘルゲイト峡谷、クラーク・フォークとブラックフット川の合流地点、目的地のボナー。直線距離で西方10キロというところか)

Photo        Blackfoot River(上段左丸印)とKlerk Fork River(下段)の合流地点。上段右印がBonnerの町。

Photo_2                       (合流地点の昔と今。ココから)

Photo_2  上=Blackfoot River、下=Clerk Fork River。まあ、どちらも同じような趣だね、当然ちや当然だが。下段右端画像は、流域と合流地点を示している。その左上隅がミズーラ市街で、合流地点は画像下段の写真のようになっているとして矢印で示している。ココココから。

三、リードギターの仕事を得る
1.Milltown Union Bar
 俺は踏切のそばにある灰色の風化した建物の駐車場に車を停めた。MILLTOWN UNION BAR, CAFE AND LAUNDROMAT(「Milltown労働組合のバー、カフェ、コインランドリー」の意)というネオンサインが屋根にかかっている。
  バーには、電気製のスロットマシンが何台か置いてあり、黄色い馬蹄や、いくつものサクランボや、金色のBARが盛んにウインクしている。正面ドアの壁上部には野生山岳羊(mountain sheep)の頭部がアクリル樹脂ガラスの半球に覆われて飾られており、ジュークボックスの壁上部には、これまた、ヘラジカ(elk)の頭部が巨大な湾曲したラックに装着して飾ってある。

Photo_6                   (スロットマシン、山岳羊、ジュークボックス。ココココココから)

2.ドブロ(Dobro)が威力を発揮
 「リードギターを弾くんだが仕事はないか」。
     俺はオーナーに訊いた。
 案の定、相手は、「要らないね」と暗に拒絶する仕草で、コーヒーカップを皿に置いたり持ち上げたり、ウデウデやってやる。クソッタレ、おっぽっとけ。
 おれは、トラックに戻って、ドブロとピックギターの入ったダブルケースを持ってきて、――それは、ケースの裏地に南部連合旗(Confederate Flag)がかがってあるやつなんだが――、それを持ってきて据えた。 

 音響孔に装着している金属製共鳴盤が、カンターの後ろの銀紫の照明に反射してキラキラトと泳ぎ、オレは、弦に挟んであったスチール製ピックを外して、それをネックの方からフレットをザザッっと下ろしてきて、そのまま、ハンク・ウィリアムズのラブ・シック・ブルース(Hank's Love Sick Blues) のアタマ(音楽用語)に入った。

[南部連合旗(Confederate Flagと)ドブロー(Dobro)]
          [過去記事、Part-5(2013.1.9)から]
*************************************************************
 オレの部屋は元のまま残っていた。410口径銃身、22マグナム弾仕様の上下二連銃(over- and-under)が部屋の隅に立てかけてある。マーチン(Martin)フラット・トップ・ギターとドブロー(Dobro)が入っているダブル・ギ ターケースがベッドの上に置いてある。その皮のケースには、THE GRATE SPECKLED BIIRDという金文字が浮彫で入っている。ダラスで200ドルかけてあつらえた特注品である。
 ケースを開ける。
 ケースの裏地として施されている南部連合旗(Confederate flag)と、ワックスのかかったギター表面の反射光が目に入り、オレは、しばらく想い出に浸った。
 悲鳴と怒声、震える手に握っている血塗られたナイフの、酒場の想い出に。

Photo_2                                             
  (Confederate flag、ココから)
Photo_4                     
  (Martinフラットトップ、ココから)
Photo_3                                     
       (Dobroギター、ココから)
******************************
引用ここまで****************************

■Love Sick's Blues/ラブ・シック・ブルース
   ハンク・ウイリアムズ(Hank Wikkiams)


 
 -----------------------------------------
   ドブロは、常にやってくれる。必ず、仕事が取れる。
 ヤツは、オーナーは、金曜と土曜日の夜、それと、日曜の午後3時間のセッションに、@35ドル払おうといった。

 俺は、ヘルゲイト峡谷を通って帰路を走った。
 エンジンはフードの下で鼻歌を唄い、夕刻に近い太陽が、峡谷の壁と川の深い流れに赤く輝いている。

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[ドブロは必ずやってくれる]
    [過去記事、Part-6(2013.4.28)から]
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(モンタナ移住)申請の結果が出る間、あちこち探しまくった後にThibodaux(ティボドー、画像)郊外の道路際ナイトクラブで週4日の仕事をみつけた。リードギターは間に合っているとして、最初は取り付く島もなかった。しかし、オレがケースを開けてDobro(ドブロ)を取り出した瞬間に、オレは仕事を得た。
  Dobroとは、ブルーグラス特有の楽器である。金属製の共鳴器が音響ボックスに埋め込まれた構造のギターで、スチールギターのように横に寝かせて弾く。 南部山岳地帯以外ではほとんど目にしない。カリフォルニア州エルモンテ(El Monte)の業者に特注して400ドルで手に入れたものである。ネックは薄く、光輝くボックス木材は封筒のように軽く手に馴染む。
 「一晩25ドルとチップ(投げ銭)の均等割り」で契約した。バンドの連中とはうまくいった。

Losthighway_2  最初の夜ハンク・ウイリアムズの曲を6曲立て続けにやり、Johny and Jackに移った。"Poison Love"をやり"Detour"、そして、"I'll Sail My Ship Along"(1)をやった。
 場が興奮に割れた。客はジルバを踊りまくり、ハチャメチャなロック踊りをやり、テーブルから叫ぶ。昔馴染んだ曲に出会うと、郷愁に駆られて吠えまくり、銀貨とドル札をチップ用のビンにねじ込んだ。

 次いで、"The Lost Highway"を唄うと、海上油田関係のラフネック(roughneck)たちが、――荒くれ男、ブリキの帽子をかぶり、軒並みビール焼けの顔に、掘削作業の泥を服にこびりつかせた男たちが――、涙にうるんだ目で、厳しい顔つきで、オレの顔を見上げてきた。
 ハンク・ウイリアムズの真似は得意だ。そして、オレのドブロ(Dobro)は、当時のハンクのバンドのスチール、唄うハンクの後方で響くスチールのように鳴った。

                                                   (上掲書43-50ページ)
*1.I'll Sail My Ship Along
  "Along"は、おそらく、"Alone"の誤植。


Photo_4
                      Dobro(ドブロ)ココから
*******************引用、ここまで***************************


  ―― Part-13に続く ――


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