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2014年1月 6日 (月)

James Lee Burke(ジェイムズ・リー・バーク)の世界。おびただしい風景描写、カントリー/ジャズ音楽への深い造詣、南部ルイジアナの沼地、河、川、人工水路に、モンタナの渓流に登場する魚たち――1978年の異色純文学風作品"The Lost Get-Back Boogie"を素材に語る(Part-10)。

2014.1.6
 おそまきながら、謹賀新年、今年も拙ブログをよろしく、
 と、ご挨拶して書き初め。
  なんだね、当ブログのこの記事、James Lee Burke(ジェイムズ・リー・バーク)関連記事、見る人誰もいなかったんだけど、ハハ、読んでくれた人が現れた。
 「Part 10を書け」という。ハハ、うれしいね。そこで!"Part 10"。

                                         <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>> 

◆◆◆◆◆◆◆◆
 モンタナ州ミズーラ市(Missoula)の南方、ビタールート谷(Bitterroot Valley)。
 俺は、ここに住む友人を訪ねてやってきた。遙か南、ルイジアナ州から、1961Fordピックアップ・トラックを駆って。ヤツの家に着いて、そこは谷間のド田舎なのだが、在庫ビールを補充しがてら、町に繰り出して一杯やってこようということになった。
 オレのトラックで行った。
 ヤツの車はマス釣りに行った先のクリークに停めっぱなしにしてきたのだという。ヤツ、Buddy Riordan(バディ・リオーダン)は、アンゴラ(Angola Prison、ルイジアナ州刑務所)で知り合った相手だ。

 雑貨ストアの隣にある羽目板造りの居酒屋の駐車場に車を停めた。給油ポンプが2基置いてある。ピックアップ・トラックが何台も停まっており、どれもが、リア ウインドウに装着したラックにライフルとショットガンが立てかけてある。

          ----------------ここまで、Part-9--------------

 店に入り、バー(カウンター)に座ってビールを飲る。持ち帰り用ビールを1ケースとソーテルヌ・ワイン(sauterne)の小瓶を一本頼んだ。
  玉突き台の向こうで、石の暖炉の丸太が、唸りを上げて燃えている。壁にはヘラジカ(elk)やムース(mooseアメリカヘラジカ)の角が掛けられており、床には錆の浮いたフロンティア・ライフル(銃身の非常に長いライフル/画像)が数本、鹿の蹄に横たわっている。

Photo_2          (壁にかかっているライフルは、右端画像に見るように、鹿の爪で作った止め具に載っている。画像は、ココココココから)

 客の男たちはほとんどが、擦れたジーパンにナイロン製あるいはLeviジャケット、擦れ痛んだカウボーイ・ブーツかワークブーツ、色褪せたシャツ、天候に曝され汗がバンドに染みたカウボーイハットといった服装である。
 みな、図体がでかく、力が強そうに見える。大きな、荒々しい手と、風に曝されて荒れた顔をしている。

 玉突きをやっている男たちは、ショットをミスる度に、突き棒のゴムのついた側の端を台に打ちつけてドンと鳴らし、新たにゲームでボールを揃える際には、ガチャガチャとうるさく音をたてる。俺の隣に座っている二人の男は、ポーカーのサイコロを皮のコップで荒々しく振って、バンと音を立ててバーに叩きつける。

 俺は、初めのうちは気付かなかった。あるいは、オレは生れつき、前科者特有のパラノイア(妄想的分裂症)気質を持っているように感じているんだが、そのせいだろうと考えて撥ねつけていたのかもしれない。
 しかし、間もなく、テーブルに座ってる連中や、カウンターのエルボウ(肘、曲がったところ)に座っている男がちらちら寄こす視線に気付くようになった。そして、俺たち二人に原因があるわけではないことを確認しようとしてちらちらっと後方を振り返る際に、連中の目に冷たい悪意や、挑戦のひらめきを見た。
 何か知らないが、問題があり、オレはその上にどっかり座っていたのだ。オレはそう悟った。

Photo_2               (画像は、ココココココからのものの合成。玉突きは、映画Hustle/ハスラーのポールニューマン)

 俺は静かに座ってバディがビールを飲み終えるのを待った。すぐに場を去ろうとしたのだ。しかし、ヤツは、俺が止める間も与えずに、二本の追加を頼んでしまった。

 いまや、連中は、あからさまに、激しく「ガンつけ」をしてくるようになった。オレは目の前にあるパンチボード(小さな穴がいっぱい並んでいる板、ゲームや賭けの道具。見よ↓下画像)をじっと見続ける。

Photo_2                                       (パンチボード、画像はココから)

 その時、オレは不思議な感覚に捕われた。
 ――人の視線というものは、オレの横顔の上をさまよいまわる死神みたいに感じさせることがある、おれは充分成人した男なのだが、それであるにもかかわらず、そういう感情に追い込むことのあるものだ――
 この感覚だ。

 オレは、手にしたタバコを、まるでアホみたいに吸い続けることで、そうしながら、灰皿の中身をあれこれ検分することで、視線/死神感覚をごまかそうとした。
 そして、手洗いに立った。直観的な詐欺師のこっそり歩きで。両手を、ズボンのポケットに低く突っ込み、ハッ、クソッタレ、冷静だぜ、こちとら。肩をやや前かがみにして、両膝をゆったりとくつろがせながら。

 それなのに、カウンターに戻ってきてとき、じろじろ刺す目線は依然として消えなかった。オレはルイジアナの筋金入り不良なんだが、ハ、誰も、そんなこた、屁にも気にしていなかった。
 バディは、アホが、三杯目を飲んでいた。

「おい、これ、どうなってんだ」、
 オレは静かに訊いた。
   「ほっとけ、あんな連中」
「何なんだ」。
  「いいってえことよ、オイ、ところで、おまえ、便所に行くとき、カッコよかったなあ」。
「よせ、おい、バディ、出るぞ」。
  「まあ、落ち着けって、何人かイキがったからって、逃げてられるかってんだ」。
「何がどうなってんだか知らんが、他人の揉め事に巻き込まれるのやだぜ」。
 「分かった、これを飲み終えるまで待て、それで出よう」。

 外でCreat Fallsビールの段ボール箱をトラックの荷台に積み、石畳敷きの駐車場でぐるっと方向転換した。アスファルト道路に出て、ギアをセカンドに入れ、家に向かった加速した。ギザギザ頭の山の切片が月に刺さっている。

Greatfalls                       (Great Fallsビール。ココから)

 「ウン、で・・・何だったんだ、あれ」。
「親父がな、長年にわたって、ここらの住民を悩ませてきているんだ。そして、ここにきて、連中を蒸し焼きにした」。
 「なんで」。
 「パルプ工場ができたんだが、それを閉めさせようとしてんだ。ということは、400人ほどの男が失業することになる。だけど、気にするな、あんたにゃ、なにも関係ない。あそこにいた連中は、マッチョ気取りでカッコつけただけだ、年中やりたがる。

 われわれはキャトル・ガード(家畜脱出防止溝)を渡り、暗がりに沈んだ母屋を通り過ぎていった。建物後方の峡谷の壁が、雲間から射す月光に、険しく灰色にそびえ立っている。

 「明日家族に会わせるからな」、バディがいう、
 「メチャクチャいい家族だ、おれは、馬鹿な事をして、連中にあんな迷惑をかけなきゃよかったって、たまに悔やむことがある」。

 それで俺は、バディが酔っ払っていることに気付いた。というのは、おれが知っているかぎり、ヤツは個人的なことはしゃべらないやつだったからだ。ベンゼドレックス(Benzedrex)をやってラリってるときか、黒人たちからたまに入手するマリファナで浮いてるとき以外はしゃべらない。

 バディはソーテルヌ・ワインを(画像 )シカ肉の鍋に注ぎ、黒コショウとパセリを振りかけた。そのうえで、鉄の蓋を戻して、30分ほど置いてマリネにした。
 そのあいだ、二人はビールを飲み、おれはドブロのチューニングを試みた。血膨れになった耳のように分厚く、鈍くなっている指で。

 「おまえがなんで、ヒルビリー(hillbilly)(*1)なんて音楽にこだわり続けているのか、おれには分からない」、バディはいう、
  「だけど、まあ、上手いよな・・・・・・それで、あれ、作曲中だっていっていたあれ、できたかい」。
 やつの顔からは血の気が引き、タバコは挟んだ指を焦がしそうになっている。

「いや、まだだ、まだ、断片があれこれと浮かんでるだけでな」。
 「"Jolie Blonde"(*2)を演ってくれ」。

■Jole Blon(Jolie Blonde)/ジョリ・ブロン
 Pretty Blonde=可愛い金髪娘、の意だという。元来は、歌手から離れて親許に去っていったブロンドむすめ、今では他の男の腕に抱かれているムスメを唄った歌だという。



        ( この曲をドブロで弾き、唄ったわけだ)
   
 俺は、ドブロ(Dobro)でそれを弾き、下手くそなケイジャン・フランス語(Cajuan French)で唄った(*3)。聴きながらバディは、鍋のシカ肉を木のスプーンで混ぜている。
 やつの白い顔がストーブの熱で火照って、二年前にアンゴラ刑務所の広場で会った男、物想いと孤独に捕われている男のように見えた。
 俺たちはキッチンテーブルをポーチに引きずっていき、ブリキの皿からシカ肉を食べた。ガーリック・バターを塗ったパンと、バディが木製ボールに刻み盛った玉ねぎとビートのサラダと共に。

 鹿肉を食べるのは久しぶりで、キノコとワインのソースは、すごく、いい、うまい。
 山々の頂上から風が雪を吹き飛ばす様を見ながら、俺は思った。すべて、うまくいくだろうと。
   - - - - - -しかし、あのバーにいた時点で悟るべきだったのだ。あるいは、少なくとも、物事の一部でも悟るべきだった。
 事が、そこに存在していたんだ、問題が、事が。

*1.Hillbilly/ヒルビリー
   Hillbilly(ヒルビリー)とは、現在"countly music"(カントリー・ミュージック)と呼ばれている音楽ジャンルの、一時期の呼称(1925-1950年代)である。ただし、ハンク・ウイリアムズなど一部 の層は、その差別用語的な響きのゆえに反対したとされる(元来、主としてアパラチャ山脈などの田舎山岳地方に住む貧困層白人に対する悪意的な蔑称)。現在でも、 フォークソング(old-time music)やブルーグラス(blue grass)などを指すことばとして使用されることがあるという(Wikipedia)。

*2.Jole Blon(ジョリ・ブロン)
 元来はCajuan(ケイジャン)の伝統的なワルツで、その人気ゆえに、ケイジャン国歌ともいわれる。その後、全国的に流行った(Wikipedia)。

*3.ケイジャン(Cajuan)
  ケイジャン(英語: Cajun)とは、「アカディア人」を意味する「アケイディアン」(acadian)の訛り。フランスのアカディア植民地(米国東部メイン州あたりと、国境を挟んだカナダ周辺)に居住していたフランス語系の人々のうち、現在の米国ルイジアナ州に移住した人々とその子孫。
  音楽分野でケイジャンという用語は、白人がアコーディオンなどを演奏する音楽の一分野をさしている。見よ(Wikipedia)



――Part-11に続く――

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