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2015年11月 5日 (木)

ジョン・サンドフォードの「バージル・フラワーズ・シリーズ」、第7作、Storm Front(ストーム・フロント)を読んだ (John Sandford's "Virgil Flowers" Series, the seventh novel)

2015.11.5
  久々の投稿。
 昨年3月以来、休火山状態になっている。罪悪感に駆られて、二度、「安易版」をチョコチョコと載せただけ。
 時代物小説を書いてみようと思い立ち、そっちの作業に集中しているからだ。「こっちはしばらく棚上げにしていいや」、とブログ書きを停止した。

 その時代劇、とりあえず江戸の警察/探偵物でいくかと決め、「八丁堀がああだのこうだの」、「与力がどうだの、同心がこうだの」と、関連知識習得に努め、試作めいたことをやっている。忙しく、いろいろ、ひねもす、あれやこれやと。そのせいだ。
   「傑作をと、ひねもす座りまくって、ケツを病む」、 
ハハ。

 しかし、やっぱ、ブログを死火山にしちゃっちゃまずいね。しかも、見返りとして試作書きが発展的に進んでいるならまだしもだが、壁にぶち当たった状態で膠着の態をきたしている。外国物スパイ/警察探偵作家の新刊探りとか、未知作家開拓とかも、やらなくなってしまっている。
 まずい、打開しなきゃ。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 ということで本題、サンドフォード、「バージル・フラワーズ」シリーズの第7作だ(第8作"Dead Line"がすでに発表されているが、まだハードカバー版しかない。――いや、この記事の原稿を書き始めたときにはそうだったが、2015.11.3にamazon経由で入手した。いずれ紹介記事を書く予定)。

     Photo_2     Storm Front; John Sandford, 2013; Simon & Schuster UK Ltd. SBN:978-1-47113-216-2 、2014
    
  左から第1作: Dark of the Moon (2007)、第2作:Heat Lightning (2008) 、第3作: Rough Country (2009)、第4作: Bad Blood (2010)、第5作:Shock Wave (2011)、第6作:のMad River (2012)、第7作: Storm Front。

      
       <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>

◆◆◆◆◆◆◆◆
粗筋
一、幕開け
 ミネソタの夏、最高の季節、七月、最高が盛りを迎えようとしている、なかでも今日は、その最高の、そのまた最高の日だ。屋内にいても感じられる。

 バージルは、材木販売詐欺事件を捜査している。年代物の「納屋材」(barn lumber)(*1)だと偽って偽物をつかませる事件が多発しているのだ。
 マンケート(Mankato)市内、国道169号(Highway 169)沿いにあるパーキンス(Perkins)レストラン。 ひとりの女と話をしている。
  多発する詐欺事件の背景に横断的組織詐欺集団の存在が窺われ、その女が、その組織に関わっているのではないかと踏んでいるのである。
  女の名は「Florence "Ma" Nobles」、フローレンス・ノーブルズ、俗に「マ」(Ma)。

 店のボックス席に斜めに座り、カウボーイブーツの片足を席の端から垂れ下げながら女としゃべっている。 このところ、この女の追跡捜査を続けている。女は5人の子持ち、すべて父無し子(ててなしご)、しかも、それぞれが別個の異人種間結合児である。そのうち3人は、捜査活動のなかで顔を合わせ知っている。Mateo(マテオ)、Tall Bear(トール・ベア)、Mose(「モーゼ」)だ(*2)

 バージル、
  フレンチフライを指でつまみ上げ、それを女の顔に突きつけながらいう。
 「デイブ・モス(Dave Moss)は言ったぞ、あんた、同じ商品を、15回も別々の相手に売りつけたってな。
 マ、あんたの息子のロルフ(Rolf)は、2,000ボードフィート(board feet)(*3)もの材木をミネソタ川に沈めて持っているんだってな、年代物にみえる味を出すために。それを、来年、ニューイングランド一帯に売り捌く計画だ」。
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Ma made a rude noise with her lips, and Virgil said ,"Come on, Ma, that's not necessary."
Ma said, "That goddamn Moss can kiss my ass--though, to be honest, he already did that and seemed to like it all right. This is more a domestic than anything else, Virgil. I broke it off with him, He's just getting back at me,"


 女は鼻を鳴らした。
「よせやい、マ、分かってんだから」、とバージル。
 「あのくそったれモス、ケツにキスしてみろってんだ――ああ、実は、まあね、すでにそうしてんだけどね、んでもって、あたしは、それ、えらく気に入ってたんだけどね――、だけど、だからネ、あいつがいうのは痴話喧嘩のもつれにしかすぎないのよ。バージル、あたし、あいつを「振った」のよ、だから悔しまぐれに嘘の垂れこみをしてんの」

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 「さあ、どうだかな、マ。
 Barry Spurgeonという男がいるんだが、あんたの息子から44,000ドルで材木を買った。コネチカット州のグリニッジ(Greenwich)で古い農家風の家を建てるためにナ。ところが、年代物だというんだが、なんとなく疑わしいので、年輪検査をやった。そしたら、どうだい、材木は去年伐採したものだった。
 なんてこった、マ、あんた、5年すらも寝かせなかった。男は金を返せといっている。本物の「時代物納屋材」だということで買ったんだから、返せと」。

 携帯が鳴った。取り出して、見た。ルーカス(Lucas Davenport)からだ(*4)。
「電話に出なきゃならん」、とマにいい、「返答」タブを押して、
「ちょっと待ってください」と答え、マに向かって、
「そこに座ってろよ、逃げるなよ」という。

 「材木のことなんかほっといて、あたしの疼きをどうやって癒してくれるか、それを相談しようよ。マが、下唇を突き出していう。
 もう七月だけど、3月18日からしてないのよ。バージル、あんたのこと、疼きを静めてくれるのに最適の人だと思ってるの。

 バージルは席を立ってトイレに向かって歩く。中には誰もいない。
「はいお待たせ、それで?」。
 「やってもらうことができた・・・なに、簡単な仕事だ」。
「え-っ、ショットガンは家に置いてきているんだよ」(*5)。
 「いや、いや、いや、そんな大したことじゃないんだ」、
 ダベンポートはそういうのだが、嘘っぱちだ、簡単な仕事だと騙すことで知られた男なのである。

 「イスラエルから捜査官がやってくる。グスタフ・アドルフス大学(Gustavus Adolphs)の教授に会って話をする必要があるといっている。その教授は実はマンケートに住んでいる。おそらくあんたと同じ街区だ。彼は牧師で、名前は・・・えーと、そう、Elijah Jones(エリジャ・ジョーンズ)という。ルター派の牧師、君の親父さんと同じだ」。

「イスラエルのおまわりだって、何の用だい」。
 バージルは電話で話しながら女を見張っている。
 マは、やくざ者レッドネック(無教育貧困白人労働者層の一種の愛称的蔑称)だ、まちがいない、しかし可愛いブロンドでもある。34歳で、もう5人も子どもがいるんだけどね、19歳を筆頭に。だけど、そんなこたどうでも・・・小柄でほっそりした身体に、豊かな髪の毛を長くお下げに編んで背中に垂らしている。
 まあ、例えていうならば、キングサイズベッドに裸で横たわって、その髪を身体に広げて・・・。
 妄想に捕われるバージル。

 「なんか、貴重な人工遺物らしいんだが・・・」、
 意識が電話の声に引き戻される(人工遺物 = 過去の人間の営み/業を示す日常品など)。
「え、なに、もう一回いってください・・・すみません、ここで取り調べている容疑者に気をとられたもんで・・・例の、このところ携わっている納屋材木詐欺事件で」、とバージル。

 「イスラエルの捜査官がMSP(ミネアポリス/セントポール国際空港)にやってくるんだ、で、あんたがその女性捜査官を出迎えてくれれば有り難いんだがな、そういったんだ」、
 ダベンポートは続ける。
 「そのジョーンズという男だが、遺跡発掘現場から貴重な人工遺物(artifact、工芸品)を盗み出して合衆国内に密かに運び込んだ。イスラエルを不法出獄している。捜査陣の追跡によると、男は、とある港から船を雇ってキプロスに渡り、そこから飛行機を乗り継いで帰国した」。

 「人工遺物って、どんな種類のものですか」。 
  バージルは、ちょっと興味を惹かれたようだ、
 「不思議な力を持っているとか、魔力?」。
 「まあ、それは知らぬが、言うところによると、なんか、stele(石碑、石柱)の一部だそうだ、『スティール』、『ステーリーイ/steelee』っていうのかな、どう発音するのか、とにかく、古代文字が掘ってある。その出現によってイスラエルの国が狂乱状態に陥っているんだそうだ」、
 そういって続ける。
「とにかく、イスラエルはそれを取り戻したいといっており、我が国の国務省は、ジョーンズがそれを盗んで国に持ちこんだんだとすれば、九つほどの法律に違反しているといっている、一件書類を送るよ」。
 「それって、連邦管轄犯罪事件じゃないの、イスラエルは、なんでFBIに持ちこまないんだ」。
 「ああ、連邦管轄事件だ、で、FBIはジョーンズの身柄を拘束するように命令を出した。イスラエルからの情報に基づいて。また、奴は入管時に、申告すべきものはないといっており、それは虚偽にあたる。FBIから事務所(ミネソタ州犯罪罪捜査局/BCA)に処理依頼が来た。なにかと物事の分かっている地元に任せるべきだろうってな。ああ、それは君の部署だが(BCAマンケート支局)。それと、今月、連中に借りができちゃっているし。まあ、とにかく、ボスがもうOKしちゃっってるんだ」。

---------------------------

  「まちがいない、その石碑って、魔力を宿したものだ。イスラエルがその魔力でイランやどこかを吹き飛ばすとか、あるいは、それを所持する人に祟って、例えば、あんたのキンタマを腐らせたり、子種を無くしたり」。
 「子種はもう要らんよ、子どもらに、もう充分苦労させられている。とにかく、そんなこたどうだっていい、くそ牧師をとっ捕まえて、石を取り戻し、くそイスラエル捜査官を追い出せ、いいか!」。
 会話が続く......

 バージルが自分の顔を見つめているのに気付き、マが、おもむろに舌を突きだし、これみよがしに、上唇を舐める。男が見逃しはしまいかと、もう一度舐めまわす。ダベンポートがなにやらいっている。聞き逃した。

「なんてこった、材木事件に追われているのに、その女性、いつ到着するんですか」。
      「? ? ? !!!」
 しばらく沈黙があって、
  「だから、いま言ったじゃないか、いつ到着するかは分からないって、今日か明日か、次の日か、はっきりしたら事前にあんたに電話するか、メールで知らせるって・・・何をボヤっと・・・」。
 「あ、申し訳ない、ちょっと、あっ、こいつが逃げやしないかと・・・・・、で、その女性、イスラエル捜査官、なんていう名前の人ですか」。
 「Yael Aronov」、
 ダベンポートは"Yale"「エール」と発音した。
「それって、"Y-a-e-l"ですか」。
 「そうだが」、とダベンポート。
「それ、"Ya-el"(ヤエル)っていうんです、バージルはいう、
 "Book of Judge"(旧約聖書第7番本、「士師記」)(*6)では、YaelはSisera(シセラ)という名の敵の指揮官に会い、自分の天幕に誘い込み、以下、聖書から引用すると、
 ――『ヤエル、すなわちHeber(ヘベル)の妻は、天幕の杭を抜き取り、木槌を手にして男に忍び寄り、そのこめかみに杭を打ち込み、地面に刺し通した。男が熟睡し無抵抗だったことによる。そして男は死んだ』――
 引用終わり、とあります」。

  「ほらな、あんたはこの仕事にピッタシの男だ。聖書を知っているだけでなく、あんたのバツ3のカアチャンは(*7)、その聖書の「エール」って女にそっくりだったからな」、
 ダベンポートがいう。
「『ヤ、エ、ル』・・・だけど、まあ、別れたあのワイフ、あんたのいってることは当たってる」。

 そんなことで結局材木事件は、その日のうちには解決するには至らなかった。
 駐車場まで歩いて行きながら、バージルはマに、疼きを癒すには別の男を探さなきゃいけないといいつつ、
 「あんたの疼きに魅力がないってわけではないんだけどな、すごいそそられるぜ」という。 「そういってくれるのはうれしいけど、言葉だけじゃなんの解決にもならないわ」、とマ。
「すぐに癒してもらっておけよ、もしあの材木を売り続けるなら、あんたを刑務所に送らなきゃいけないからな」、バージルがいう。
 「性格悪いね」、女が答える。
 マは赤のフォードF150新車で去った。家屋解体業が下火で全然儲からない、相手はこれまでそう愚痴を言い続けてきていただけに、バージルには、なんだか嘲弄されていうるように思えた。

 引用がちょっと長いが物語はこういう情景で始まる(*8)。

*1.barn lumber
 直訳すれば「家畜小屋ないし納屋の建築に使用されている材木」である。便宜上「納屋財」と訳しておく。
  家畜小屋、納屋、工場などの解体によって生じる柱、梁、床材などの廃材について、再使用中古材木市場が存在する。その特異分野に、いわゆる「ビンテージ 物」市場がある。そのような種の古い建物からの材木を別荘その他の新規建築において、居間、書斎などの趣味/嗜好/装飾用に使用するのである。趣旨からし て、高価市場が形成される。ニューイングランドなど東部からの需要が多い。
見よ→ココ
*2.Mateo(マテオ)、Tall Bear(トール・ベア)、Mose(「モーゼ」)だ
   それぞれ、Mateo=メキシコ人、Tall Bear=北米原住インディアン、Mose=ユダヤ人、と父親の人種を暗示しているのであろう)。

*3."board foot"(ボードフット)
 木材の体積単位-- [1フィート平方、厚さ31インチ]
*4.ルーカス・ダベンポート
 バージルの上役、人物像についてはココココ参照。
*5.ショットガン
 
バージルは火器として拳銃よりもショットガンを好む。職務規則によって捜査活動従事中は銃器の常時携帯が義務付けられているのだが、拳銃携帯を嫌い、ややもすると銃を車の座席下に隠して無携帯で行動する。この性癖は公然の秘密となっており、ルーカスは「見て見ぬふり」をしている。
*6."Book of Judge"(旧約聖書第7番本、「士師記」)(ししき)
*7.「バツ3」
 バージルは3回の離婚経験者。 →見よ

*8.実際には、プロローグ的に、ある男(ジョーンズ牧師)のイスラエルからの逃走劇が先行する。遺跡発掘現場から発掘物を盗み、皮の肩掛けカバンで包み、ダッフルバッグに入れて運び出した。他人のクレジットカードで借りておいたAvisレンタカーでハイファまで走り、キション川(Kishon River)河口の漁港から貧乏ヨット旅行中のドイツ人夫婦を500ドルで買収して密出国、キプロスのリマソル(Limassol)港に上陸。病身、騙り話、血尿実演で難なく通関し、Larnaka International空港からパリ、ドゴール空港、ミネアポリス空港へと戻ってきた。マンケートの住民なのである。

二、追跡劇
 この後、逃走犯ジョーンズ牧師逮捕と石碑回収を巡って追跡劇が展開していく。
 石碑は、――それは、黒の石灰石、長さ1フィート、最も分厚い部分で厚みが10インチ程度の一片で、表面に古代文字が彫ってあるものだが――、ソロモン王の伝えにまつわるものだという。                Photo                             (stele、ココから)

 紀元前986年頃、エジプトで、Siamunという名のファラオ(王)が即位した(筆者「注」 - 第21王朝第6代王「サアメン」)。
  同時期、パレスチナにはダビデ(David)の興したイスラエル国があり、ソロモン(Solomon)が代3代王に就いた(他の王位承継資格者たる兄弟全員を殺害して)。SiamunとSolomonの在位時期は、一部重なり合う。
 当時、いずれかの王国がいずれかの都市、別王国ないし別支配者の都市を滅ぼすと、占領したその地に「勝利の碑」(triumphal steleを建立する風習があった。そのような石碑は、時代の変遷、支配者の移り変わりのなかで無価値ないし敵対物となると、打ち壊される。その多くは、砕かれ、他の場所に運ばれて、建物建築の基礎石として使用された。所与の石碑片もその種のものであろうと推測される。
 
  さて、石碑には両面にそれぞれヒエログラフと、原始期の古代ヘブライ語で文字が記されている。
 ヒエログラフでは、"Siamun"王による一連の都市征服行動の一環としての、とある小都市への勝利が記されている。都市の名は、その部分が欠けており不明である。
 これに対して、裏面の原始ヘブライ語でも同じ内容のことが書かれているのだが、勝利王の名が"Solomon"になっている。

 問題はここだ。
 ダビデは、「豊かで強力な」王様ではなかった。
 聖書を注意深く読めば、――且つ、聖書が事実を記しているとすればだが――、そのことは明白である。当初は、領土の端から端まで一日で歩ける距離の、小さな、しかも田舎地方の王国にすぎなかった。徐々に領地を広げていったということはあるが、特に豊かな王国になったわけではない。
 ところがだ。
 ソロモン王は突然変身した。
 ――莫大な富、山のような財宝を保持し、700人の妻と300人の側室を侍らせ、かのシバの女王(Queen of Sheba)が、はるか遠くアラビア半島の端、イエメンから、王に拝謁し、その寵愛を得るためにやってくる――
 こういう超弩級キングに変身した。

 ずっとエジプトの支配下にあり、顎で使われていたような国が、そのような様であるわけがない。Siamun vs. Solomon、「サアメン」と「ソロモン」。
 このSolomonとはSiamunのことではないか。ユダヤ人の「ソロモン」は存在せず、ダビデ王国は「サアメン」という名のエジプトのファラオに征服されたのではないか、アラブ人の王に。それが長い時代の伝承のなかで、記録の写記、転記の過程で、ユダヤ人のソロモンに変わってしまった。ユダヤ人「ソロモン」とは、アラブ人「サアメン」のこと
 聖書が編纂されたのは、ソロモンなりサアメン王の没後300年から400年後のことである。聖書の著者としては、ごくわずかに残存する文字記録を除き、内容のほとんどを、口頭伝承に頼るしかなかった。ヘブライ語は大なり小なり表音文字であり、しかも、原始ヘブライ語の表音には、その後変更が加えられている。
 ユダヤ人、民族最高の王とされてきたのは、実はエジプト人だった。

 ダビデ王はキリスト教徒にとってもイスラム教徒にとっても重要な存在である。
 "Messiah"(メシア)――ユダヤ教で「救世主」、キリスト教で「イエス・キリスト」は、ダビデ王の子孫だと伝えられる。ソロモンは、ダビデ王の他の息子ら、つまり、我が兄弟をすべて殺した。聖書はそう伝えている。となると、キリストはユダヤ人「ダビデ」の子孫ではなく、エジプトのファラオ、「サアメン」、アラブ人の子孫だということになる。
 イスラム教でも、「メシア」はダビデ王の子孫だと伝える(*9)。                                            

*9.イスラム教でも、ユダヤ教、キリスト教からメシアの概念は継承されている。
 メシアとは、ダビデの子孫から出現する者で、人々を苦難から救済して、神(アラー)の支配を確立する者だとされる。イエスは、神が派遣したメシア、神の使徒。預言者にして、神の使徒。「ムハンマド」も、預言者にしてメシア、神の使徒。イエスはこれに先行する者。

  石碑は、世界史に衝撃を与えるものだ。特に、イスラエルとアラブ諸国にとって、各々、重大な意味を持つ。
 真正古代遺物なのか偽造物か、真偽に疑問は残るものの、本物であれば、シオニズムや1948年建国の意義を根底から覆す歴史証拠として援用しうる可能性を秘めたものである。

 犯人はそれを売却しようとしており、500万ドルの値段がつく。
 ジョーンズ教授は、イスラエルでの遺跡発掘に長年の実績があり、その業界では世界に名が知られている。世界中の収集家とのパイプも豊富だ。
 複数の買主を相手に最高値で売り抜けようと立ちまわるジョーンズ逃走犯。
 回収に動くスラエル、それを助けて犯人を追うバージル。

 石碑を入手しようと企てる者は次のごとし。
元トルコ陸軍諜報部員、二人組
 そのうちの一人は、過去のクルド人せんめつ(殲滅)作戦において、拘束したクルド人捕虜の睾丸を次々と切り落としたことで恐れられた。仲間の隠れ場所を聞きだすための拷問である。 
 旧トルコ領から出土する重要人工遺物の収集家として知られるトルコの大富豪がいる。旧トルコ領とは現イスラエルの地も含まれる領域だが、とにかく、二人組はこの男の手先として動いている。500万ドルの値をつけたのはこの買い手である。

ヒズボラ(神の党
   (Hezbollah。アラビア語で"Party of Allah"または"Party of God"の意味)
 イスラエルという国家の殲滅(せんめつ)を掲げて活動する反欧米、急進的シーア派イスラム主義組織である。殲滅運動の強力な武器となりうる石碑が喉から手が出るほど欲しい。
 このテロ組織の命を受けて、ベイルート在住の男が石碑買い取りに動こうとしている。 男の甥がミネソタ大学の留学生として当地に住んでいる。
  Faraj Awadいう名の甥は、叔父からの依頼により、ジョーンズ逃走犯が石碑を実際に所持していることを確認するために、犯人と接触をはかる。

 "Come on and sit down. Even the Israeli, as long as she builds no settlements behind my couch."
 「どうぞ、入って座ってください。イスラエル人の方にも入ってもらっていいですよ。長椅子(ながいす)の裏に入植地を造ったりしないかぎりはね」。


 事情聴取のために学生寮風の部屋を訪ねたバージルとイスラエル女性捜査官に、こんなことをいうトボケ若者だ。
 「入植地云々」、何を言おうとしているのか、読者諸氏、分かるよね、もちろん。
 .........まあ、老婆心でいっておこうか。
  アラブ人が多く住んでいたパレスチナの地を、電撃的に侵して建国した1948年事実と、パレスチナの地で、「『入植』」の名において同様の行為をその後も続けている(とアラブ国家その他から非難されている)行為」、「ある日、夜が明けたら一帯がイスラエルに占領されていた」という行為、いわゆる、「パレスチナ紛争」行為を指している。
 叔父はやがて当地にやってくる。

テキサス州オースチン在住の「テキサス大学」教授、John Rogers Sewickey。
 Ancient Mysteries(古代の謎)を研究している。同大学「全質変化」研究センター(Center for Transubstantial Studies)でコア課程(core cource)を教えている。本や研究論文をいっぱい書いている。
 「全質変化」とは、神学上の概念で、「聖餐(せいさん)」のパンとぶどう酒をキリストの肉と血とに変化させることをいう。

 イラクで「エデンの園」探索調査をしたことがある。金は大して持っていない。"The Holstein"と名付けたキャデラック超大型ビンテージ車で行動するのをトレードマークにしている。二人の前妻に対して、毎月離婚扶養手当小切手を切らなければならないので楽じゃない。
 自分で買い取るだけの財力はないことからして、おそらくはイラク手先として動いているのではないか。同国に滞在したこともあるから。

[英語表現学習] "Hook'em Horns"
 テキサス大学はLonghornをマスコットにしており、"Hook'em Horns"(人さし指と小指を立てた指合図(牛の長い角)でもって自校を表わす。他方、その指合図は、一般的には、悪神、黒魔術、けだものの象徴として知られている。
そのことを受けて、上記人物の出自の説明を受けている会話のなかで、バージルが、
"Hook'em Horns," Virgil said.
「テキサス大学かい」
という場面がある。つまり、テキサス大学と黒魔術研究の二面性を語っているのである。

                              Hookhemhorns_2                                                                            (
ココら)   

東部に住む資産家「野外考古学者」、ハンサム道楽者、Tag Bauer。
 チベットの寺院で「釈迦の托鉢碗」(たくはつばち)を発見し、中国監視の目を逃れてヒマラヤ越えでそれを密かに持ち出し、インド亡命中のダライラマに手渡したとか、ノアの箱舟の残骸厚板、聖書で伝えられる「ゴフェルの木(gopher tree)」を素材とする板をアルメニアで発見したなどと吹聴している。書物を表わし、TV番組を主催したりしているが、父親からの遺産も底を尽きかけており、落ち目になりかけている。

そして再びイスラエル
 先述のごとく、イスラエルは、米国政府に協力を願い、政府間公式ルートを通じて古代美術品管理局(Israel Antiquities Authority)の女性捜査官を派遣してきた。バージルは、この捜査官と共に動く。
 だが、実は、回収にかける同国の執念は、そんな生易しいものではなかった。非情
犯罪行為も厭わずに、秘密裏に石碑を奪い返そうと、工作員を暗躍させていたのである。

 すなわち、「モサド(Mossad)」だか「シャバク(Shabak)」だかはっきりしないが、そのような工作員を送りこんでいたのである。
「モサド」は、「イスラエル諜報特務庁」(海外諜報)、
「シャバク」は、「イスラエル公安庁」(治安維持、防諜機関)の通称である。
 先のテキサス大学教授は、冷酷女スパイによって、体中を粘着テープでグルグル巻きにされ、宿泊中のホテルの部屋の床に放置された。あやうく窒息死するところをバージルに助けられるという一幕も起きる。

◆◆◆◆◆◆◆◆
■感想/評価
 「ハラハラドキドキ、手に汗握る、息詰まる」の緊張感なく、「ページをめくるのががもどかしい、本を置くのが惜しい、徹夜で読みふける」ということがない。読みながら居眠りをこくという現象を何度も繰り返しながら、「義務感で読み終えた」。

 「マ」という女、空閨を埋めてくれと盛んに誘いをかけてきており、バージル当人も憎からず思っている相手だが、これが逃亡犯牧師の手先となって動く。明らかに犯人蔵匿、証拠隠滅、逃走援助、その他の罪を犯している。だが、バージルは、「今度やったら逮捕するぞ」と脅かすだけで、看過する。
 現実味がない。

 クルド人捕虜のキンタマを切り落とす拷問で恐れられた残忍な元トルコ陸軍諜報部員だとか、イスラエル殲滅を掲げて動く反欧米急進的シーア派イスラム主義組織「ヒズボラ」だとか、かのイスラエル諜報機関「モサド/シャバク」の冷酷工作員といった者を、「おどろおどしく」登場させながら、人は一人として死なない。死ねばいいということではないが、「物語」としては詰らぬ。重く敷いた攻防戦配役、状況設定ともそぐわない、というか、「あきれた」みたいに感じる違和感がある。

 とにかく、全体を通じて「現実味がない」という要素が多く、「薄っぺら」。「駄作」とはいわぬまでも、物足りない作品だ。 


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