外国小説

2013年1月 9日 (水)

James Lee Burke(ジェイムズ・リー・バーク)の世界。おびただしい風景描写、カントリー/ジャズ音楽への深い造詣、南部ルイジアナの沼地、河、川、人工水路に、モンタナの渓流に登場する魚たち――1978年の異色純文学風作品"The Lost Get-Back Boogie"を素材に語る(Part-5)。

2013.1.9
  到着、父の死、モンタナへと。今日は、その一、我が家に到着した場面。
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 ........やがて、向こうに、枯れた小川に架かっている短い木の橋のそばに、郵便箱が立っているのが見えた。
 運転手に金を払い、樫の木々の間を延びている石畳の小道を、玄関に向かって歩いていった。

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 前回(2013.1.3記事)の続きである。
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 家は曽祖父が1857年に建てたもので、当時のクレオール建築様式に従ったものである。建物の両側にレンガの煙突があり、二階部分に設けた格子のベランダを、レンガ造りの柱が支えている。棟を切った屋根は、今ではトタン張りになっており、建物の片側の基礎が沈んでしまっているために柱にひびが入っている。
 ずっと下の方、バイユーのそばの草地には、かつての奴隷居住区の形骸が朽ちながらも依然として残っており、石で築いた井戸が、今では泥で埋まり草の蔓で覆われているが、燻製小屋のそばに地面から突き出ているのが見える。

 父は、「世界大恐慌(1929)」で農場の大部分を手放してしまったのだが、それ以来、43エーカーにしがみついて生きてきた。石油会社に対して地下資源掘削権を賃貸することは、連中を「テキサスの詐欺師たち」(Texas Sharpers)と呼んで嫌い、頑として拒絶してきた。しかし、この数年、サトウキビ栽培は歩合契約に基づいて黒人農夫に請け負わせる程度のことしかやっていなかった。

 木陰に、昨年(1)の登録であることを示すナンバープレートを付けた父親のフォード・ピックアップトラックが停めてある。玄関までの小道の終点に古いビュイックが停まっている。
 ポーチのブランコが、微風を受けて、わずかにチェーンに身をねじっている。
 開き戸をノックし、薄暗い内部を覗こうとした。

"Hellow" 「こんちは」
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 二階の廊下で誰かのたてる音がする。
  奇妙にも、自分の家なのに不作法を感じながら、中に入る。室内は、ホコリと、ずっと陽を受けていない場所の匂いがする。
  なぜかしらないが、目に入るのは、暖炉の上の壁の鹿角のラックにかかった銃だけだ。側面ボックス・マガジン式30-40クレイグ・ライフル(.30-.40 Kraig)と、レバーアクション・ウインチェスター(Winchester)と、12口径二連ライフルが、錆を浮かせており、トリガー・ガードと銃身にはクモの巣がかかっている。

"What you want here?"
 「何か御用ですか」。
 階段の上に、糊の効いた看護婦制服を着た大柄な黒人女性が立っている。黒い股まで巻き上げている白いストッキングが、肉の厚みで破裂しそうだ。
"I'm Mr. Paret's son"
 「パレットの息子です」。

*1.物語の時代は、1962年である(この後にみるように、火事で死んだ母親と妹の墓に1945年11月の刻があり、火事は17年前だというから)

Photo                          1857年当時のクレオール建築様式とは、このようなものであろう  (ココから)

Photo_2                   1961年式フォード・ピックアップ・トラック(ココから)

 父親は腸がんの末期症状に近い状態にあり、女は看護婦であった。鎮痛剤を打ったばかりなので、長くは話すことができないだろうという。目覚めてから、改めて話をすればよいと。
 父は、衰弱しきった真っ白な顔で、シーツを顎まで被って横たわっていた。骸骨のようにやせ細った拳をみせて。

He ticked a finger on his stomach and squinted into the glare of light from the open door with one watery blue eye, and I saw that he couldn't recognize me in the silhouette. I eased the door closed behind me. He smiled, and his hand off his stomach and tapped it softly on the side of the bed.
"How'd they treat you, Son?"
"It wasn't bad."
"I thought you might be in yesterday from your letter. I had that nigra nurse make up your bed." His voice clicked when he spoke, as though he had a fishhook in his throat.


胃の上で指を組んでいる。開いたドアから差し込む光を、水の溜まったようなブルーの片目で斜めに見透かした。しかし、光の陰になっているのでオレだと見分けがつかないようだ。静かにドアを閉める。
 父は笑いを浮かべ、胃から手を離してベッドの端をたたき、腰を掛けろと合図した。
「向こうはどうだった、おい」。
「まあまあだ」。
「手紙から、昨日帰ってくるもんだと思っていた。あのクロ看護婦におまえの部屋を片付けさせておいた」。
 しゃべると、喉に釣針がひかかったように、かすれたような擬音が混じる。


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話をするなかで、父親がかかっている病院が貧困層相手の慈善病院のような「チャリティ」病院(Charity)であることを知り、怒りがこみ上げてくる。弟Aceも妹Ritaも裕福な結婚生活を送っており、父親をもっとましな病院にやるだけの財政的余裕があるはずだ。 

"Daddy, did Rita and Ace put you in at Charity?"
They got families of their own, Iry. It costs fifteen dollars a day to keep that nigra woman out here. They ain't got money like that."

「父さん、リタとエースは、チャリティ病院にかからせたのかい」。
「二人とも自分の家庭がある、アイリー。来てもらっているあの黒人女を雇うだけでも一日に15ドルかかるんだ、二人とも、高い病院代を支払う余裕はないよ」。


 オレは、股の間で両拳を握りしめて、感情を抑えなければならなかった。父親から目を反らし、顔をそむけた。

"Look at me , Son, and don't start letting those razor blades work around inside you. The one thing I regret is that my children never held together after your mother died. I don't know what they done to you in the penitentiary, but don't take your anger out on them,"

「おい、こっちを見ろ。剃刀の刃に心をずたずた裂かせるんじゃないぞ。おれが失敗したなと思ってることは、母親が死んでから、お前たち兄弟の仲がぴったりいったことがないということだ。刑務所で何があったか知らんが、あの二人に当たってはいかんぞ」。

 鎮痛麻酔剤が効き始めたか、涙の溜まったような目の光が失せてきて、声も喉から絞り出すようにしなければならなくなった。オレは、枕の上の白い髪の毛とシーツの上に伸ばしている細い腕をみつめた。
 この男を、ベロー・ウッド(Belleau Wood)(2)の戦場で砲弾が唸って飛び交う中を突進し、毒ガス容器の上に身を投げ出して、ガス噴出を防いだほどの男を、こんな姿にしてしまうような病気と年齢が、はたして存在するものだろうか。

"Why don't you go to sleep an I'll see you later," I said.
"I want you to do one thing for me this evening. Cut some azaleas by the porch and take them down by your mother's grave."
"All right, Daddy."
"I know you don't like to go down there. The light in his eyes was fading away like a quick blue spark.
"I was going down there anyway," I said.
His eyes closed, and the lids were red against the paper whiteness on his face.


「ぐっすり休みな、後で話をしよう」。
「夜になる前にやってもらいたいことがある。ポーチのそばのツツジを少し切って、お母さんの墓に添えてほしいんだ」。
「いいよ、父さん」。
「お前が、あそこに下りて行くのがいやなことは知っているんだけどな」、
  目の光が、瞬時の青い火花のように、薄れていった。
「どうせ、あっちの方へ降りていこうとしてたところだから」。
  父の目は閉ざされ、目の縁が、白い顔色のなかで、赤くなっていた。


*2.第一次世界大戦においてドイツ軍とアメリカ軍のあいだで激戦が繰り広げられたフランスの地名。

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 オレの部屋は元のまま残っていた。410口径銃身、22マグナム弾仕様の上下二連銃(over-and-under)が部屋の隅に立てかけてある。マーチン(Martin)フラット・トップ・ギターとドブロー(Dobro)が入っているダブル・ギターケースがベッドの上に置いてある。その皮のケースには、THE GRATE SPECKLED BIIRDという金文字が浮彫で入っている。ダラスで200ドルかけてあつらえた特注品である。
 ケースを開ける。
 ケースの裏地として施されている南部連合旗(Confederate flag)と、ワックスのかかったギター表面の反射光が目に入り、オレは、しばらく想い出に浸った。
 悲鳴と怒声、震える手に握っている血塗られたナイフの、酒場の想い出に。

Photo_2                                                (Confederate flag、ココから)
Photo_4                       (Martinフラットトップ、ココから)
Photo_3                                             (Dobroギター、ココから)

 裸になってカーキーズボンとデニムシャツに着替え、刑務所から身につけて帰った着衣をすべて丸めて捨てた。下に降りて、いつも父親が流しの下に常備していたAncient Ageを見つけ、ブリキのコップにたっぷりと注ぎ、窓から外を眺めながらゆっくりとすすった。
 もう一杯、今度は水割りにして飲み、ツツジを切るための肉切り包丁とボトルを手にして家を出た。

 赤い花をつけた枝を1ダースほど切り、傾斜を下っていった。墓はバイユーの手前にある。二十基あまりの先祖の墓に混じって、母と妹のそれが、隣り合わせに並んでいる。共通の墓石にノミで削った区切線を入れたもので、
                       CLAIRE PARET AND FRAN
                     NOVENBER 7, 1945

と彫ってある。
 墓には、錆び澱んだ水に腐った茎の刺さったブリキのコップがあった。
 それを放り投げた。
 あれから、17年になる。しかし、今でも夢を見る。
 火事と、自分の姿を。走り戻って家の裏側に回り込み、ボルトのかかったドアを壊そうとして拳で撃っている自分の姿を。
 炎の中で、母親の顔はテンカンのように引き攣っている。手は依然として、クリーニング溶剤の入った缶を握ったままだ。妹のフラン(Fran)は、後光のような炎を背景に、立ちつくし、エプロンを炎が舐めている。
 雇い人のニグロ、Alcideがオレの身体を後方に投げ飛ばし、ツルハシでちょう番を叩き壊そうとした。しかし、吹き込む風で室内は炉のようになり、地獄の中でフランは、衣服も髪の毛も焼けただれてしまった。

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 オレはボトルに口をつけて飲み、泥の平地を歩きまわり、バイユーの静かな水面に小石を飛ばした。すぐに、ブリームの幼魚が群れて水面にさざ波が立った。
 陽はほとんど消えかかっている。糸杉に寄りかかって座り、再びボトルに口をつける。
  「オレは、いったいぜんたい、ここで何をしているんだろう」、
 こういう思いがよぎる。
 斜面を登って燻製小屋まできたとき、玄関ポーチの看護婦の車が停めてあった場所にキャデラックが停まっているのが見えた。
 弟のエースだろう、妹リタの好みは、おそらく高級小型車だろうから。

 ( 以上、"The Lost Get-Back Boogie" by James Lee Burke、Hyperion社Mass market版、 ISBN: 0-7868-8934-9、25-31ページから)

――この稿終わり――


 

 

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2013年1月 3日 (木)

James Lee Burke(ジェイムズ・リー・バーク)の世界。おびただしい風景描写、カントリー/ジャズ音楽への深い造詣、南部ルイジアナの沼地、河、川、人工水路に、モンタナの渓流に登場する魚たち――1978年の異色純文学風作品"The Lost Get-Back Boogie"を素材に語る(Part-4)。

2013.1.3
    ――謹賀新年、今年も拙ブログをよろしく――
 固定読者層みたいなものはないのだが、まあ、こう挨拶して始めることにしよう。
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 前回記事(2012.12.28)からの続きである。
 すなわち、 2012.12.27記事において、物語の主人公が仮釈放でアンゴラ刑務所を出て、Baton Rouge(バトンルージュ)から汽車に乗り(Kansas City Southern Lines)、ニューオリンズで乗り換え(Amtrak Sunset Limited)、ミシシッピ川を渡り、Bayou Lafourshe(バイユー・ラフォーシェ)(画像)を越え、Schriever(シュリーバー)と推測される故郷の駅に到着したところまでを書いたが、その記述を「少し膨らませよう」としていたのであった。

 物語の世界は、1962年、オレ、主人公の名はアイリー・パレット(Iry Paret)、31歳。カントリー/ヒルビリー/ブルーグラスのギター弾きだ。演奏中のトラブルでナイトクラブの荒くれ客を刺し服役した(そのいきさつはココ )。殺人罪(manslaughter、故殺、非謀殺)による5年の刑だが、2年3カ月を終え、悪名高い刑務所でよく無事に過ごせたものだが、とにかく事件を起こさずに過ごしてきて、3年弱を残して仮釈放で出てきたところだ。

■さて、 ニューオリンズから乗った汽車がミシシッピ川を渡った。
 汽車はゆっくりと、橋を越えていき、さらに、土手と泥湿地と柳の木々の上空に上昇傾斜で長く伸びている線路 を進み、そして、昇りつめたか、今度は突然下降加速し始め、バイユー田舎を、そこらじゅう澱み(よどみ)小川だらけの湿地帯荒野を、糸杉と樫の木が醸し出す 深い緑のなかを、心苦しいほど美しい風景のなかを、しゃがみながら突きぬけていった。
  木々の幹は苔に覆われ、根元にはきのこが充満し、リュウキンカ(
立金花、北米産サクラソウの一種)がみっしりと茂っている。
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Most of the passengers in my car were French people, with cardboard suitcases and boxes tied with string in the luggage rack. An old man in overalls and a suit jacket was speaking French to his wife in the seat behind me, and I listened to them with a violation of privacy that normally I would have walked away from. But in Angola the hacks, who came primarily from north Louisiana and Mississippi, never allowed anyone to speak French in their presence, and even back in the Block it wasn't used unless there was no non-French-speaking person within earshot, because it was considered to have same clandestine quality as a private whisper between two snitches.
  ("The Lost Get-Back Boogie" by James Lee Burke、Hyperion社Mass market版、 ISBN: 0-7868-8934-9、20-21ページ)

 おれの乗っている車両の客はほとんどがフランス系の人であった。硬厚紙製のスーツケースや箱をいくつも荷物棚に置いて紐で縛りつけている。後ろの席で、「つなぎ」に背広上着といういでたちの年寄りが妻にしゃべりかけていた(「つなぎ」とは、自動車整備工などが着ている上下続きの作業服、あるいはそれに類した衣服)。
 おれは、プライバシーを侵害して、その会話に耳を傾けた。普通はそういうことはしないのだが、そうした。というのは、アンゴラ刑務所では、看守は、その大半がルイジアナ州北部やミシシッピ州の出身なのだが、看守は、自分たちがいるところでは、フランス語でしゃべることを絶対に許さなかったからである。房の中でさえも、声が聞こえる範囲内にはフランス語のわからない者は一人もいないという場合でないかぎり、フランス語が使用されることはなかった。なぜならば、フランス語による会話には、密告人同士が囁きを交わしているのと同じ程度に秘密の響きがあるとみられていたからでる。


The train crossed Bayou Lafourche, and I leaned into the window and looked at the men in pirogues floating motionlessly against the cypress roots, their cane poles arched and beaten with light against the pull of a bull bream below the lily pads. Before the train moved back into that long corridor of trees, through the swamp I saw one man rip a large google-eye perch through a torn leaf and drip one hand quickly into the water with the cane bending in his other hand the boat almost tilted into the shadows, and catch the line in his fingers and pull the fish slowly away from the lily pad.
                                                 (上掲書21ページ)

  汽車はバイユー・ラフォーシェを越え、おれは身をかがめて窓を覗き、丸木舟(pirogue)に乗った男たちがじっと動かずに糸杉の根っこのところで浮かんでいるのを眺めた。男たちの手にする竹竿が弓のようにしなり、水連の葉の下でもがくブル・ブリーム(bull bream、
コイ科の淡水魚)の引っ張りに耐えるのを眺めた。さらに、汽車が樹木の長いトンネルに入る前に、沼地の向こうで一人の男が大型のギョロ目パーチ(goggle-eye perch)スズキ科の淡水食用魚)を針にかけて、しなる釣竿を片方の手で支えながらもう一方の手をすばやく水中につっこんで、その動きによってボートが浅瀬で転覆するほど傾くなかで、釣り糸を指に巻きつけて、スイレンの葉の下からゆっくりと魚を引き上げるのを見た。

[breamと
goggle-eye perch]
Bream(ブリーム)
  日本語Wikipediaでは、「ブリーム」(bream、画像)の説明として、ヨーロッパに分布するコイ科の淡水魚だとしている。アメリカ南部にもいるのかどうか書いていないのが気に食わないが、まあ、そういう魚のようだ。
Photo                              (ブリーム、Wikipediaから)

 他方、"bull bream, Louisiana"で画像検索するとこういうのが現れる。
Bull_bream                                 (ブル・ブリーム/bull bream)
                 (上のヨーロッパ云々のものとは違う種類のようだ。物語でいっているのは、こちらであろう画像はココから)

Goggle-eye perch(ゴグルアイ・パーチ、ギョロ目パーチ)
 スズキ科の淡水魚だという。"goggle-eye perch in Louisiana"で検索するとこういうのが出る。スズキとブラックバスとメバルを合わせたような魚だね。画像はココから)
Photo_2                                       (goggle-eye perch/ギョロ目パーチ)。

Then we are back into the lon
g span of track through the trees and dead water in the irrigation canals and the occasional farmhouses that you could see beyond the railroad right-of-way. I walked up to the club car and had a bourbon and water while the train, slowed into the hometown. The X signs and LOUISIANA LAWSTOP warnings on the crossings moved by gradually with the decreased speed of the train, and then the uplifted faces of the people on the plat form stared suddenly at mine, then turned with a quick brightness of recognition at someone stepping off the vestibule.

 そして汽車はまた、長い一直線の走行となり、樹木と澱んだ水の灌漑用運河が散在する野原を進んでいった。時折、鉄道用地(線路用に確保した敷地)の向こうに、農家の建物が現れる。
  軽食談話車両に行きバーボンの水割りを飲む。列車がホームタウンに近づき、速度を落としはじめた。踏切の「X」標識とLOUISIANA LAW STOP警告(
「停止することが州法で義務付けられている踏切である旨の警告表示)をゆっくりと通り過ぎて、やがて停止し、乗客を迎えに来ているプラットホームの人々の目がこちらの顔を注視し、移動し、目当ての相手がデッキを下りてくるのを見つけてぱっと輝く状況に移った。

                            *right-of-way = 公道用地; 鉄道[線路]用地; 送電線[輸送管]用地.
Railroad_rightofway

 駅の外でタクシーに乗ろうとする。
"Do you know how to get to Robert Paret's place?
    「ロバート・パレットの家に行きたいんだけど、道わかるかい」。
"Who" The taxi driver's breath was full of beer ......
  「といっても、誰だかわかんないなあ」。
"It's up Joe's Shipyard road. You reckon you can take me there?"
  「ジョー造船所のそばなんだけど、いけるかい」。
"That's sixteen miles, ponda. I'll turn the meter off for you, but it's still cost you ten dollars and......."
  そりゃあ、16マイルもあるぜ、あんた。メーターを倒さずに行ってあげてもいいが、それでも10ドルはかかる。それに・・・・・・。

           
       *podna =非常に親しい友人、または、そういう仲の者への呼びかけことば。
                 「なあ、おい」、「よう」、「おまえ」。

■故郷の町
 この描写からして、降りた駅はSchriever(シュリーバー)であろう(バイユー・ラフォーシェを越えて云々で、しばらくして到着した併せて、この後に出てくる、「空港」に絡む記述からして)。
 そして、故郷の町は、Houma(ホーマ)ではないか(到着し駅から16マイル、造船所のそば)。

Photo_2          
 赤丸
A の印がシェリーバー。その右肩の[308]、斜め下の[1]とある黄色の線がラフォーシェ・バイユーの水路である(川308号と1号線ハイウェイに挟まれるかたちで走っている)。鉄道線路は、Aから少し上がって右方向へ下がっていく薄い直線がそれである。
 上から①Thibodaux(ティボドー)、②Schriever、③Bayou Cane(バイユーケーン)、④Houma(ホーマ)の町。これらの町は、 Houma--Bayou Cane--Thibodaux Metropolitan Statistical Area.(ホーマ/バイユー・ケーン/ティボドー都市圏国勢調査区域)を構成している。2000年の国勢調査で、人口はそれぞれ、①12,000、②5,800、③17,000、④32,000人である(Wikipedia)。 

 タクシーで海岸寄りの自宅に向かう。途中、街中を通り過ぎるが、すっかりさびれてしまっている。通りの、レンガと木材で店舗正面を構えていた商店街は、閉鎖してしまっている。かつては黒人客でたて込んでいた安物雑貨店は、ほとんど空っぽだ。裁判所広場の道路は、樫の街路樹が並んでいて、幅の広い歩道やいつも老人たちが座って休憩してる木のベンチに日陰を提供していたものだが、その界隈は、いまでは映画撮影所の放置されたセットの様子を呈している。南部連合記念碑(Confederate monument)は鳩の糞だらけであり、傍に据えてある南北戦争使用大砲の砲身には紙屑が詰まっている。保釈請負業者の事務所が一、二軒空いているだけだ。かつて二階にカード・ゲーム部屋のあった角の酒場は、窓に板が打ちつけられて閉鎖している。

Photo_3     HoumaTerrebonne Parish Courthouse(ホーマ市、テレボーン郡庁舎/裁判所)。画像はココから)

"Where did the town go?" I said.
"It just dried up after they put in that new highway," the driver said. "People ain't going to drive into town when you can get everything you need out there. You just getting out of the service or something?"
"I've been away awhile."


町はどこへ行っちまったんだい」、おれが問う。
「あの新しい道ができてから、干上がっちまったんでさ」、ドライバがいう、
  「あっちで、何もかもすべてがそろうから、町になんかやってきはしませんよ。
   だんな、除隊してきたかなんかですかい」。
「しばらく町を離れていたんだ」。


 運転手はいう。
 稼げないわけじゃない。空港(1)に着ければ、一回で、今日一日で稼ぐ金の2倍を稼げる。配車係から駅に着けろという指示がなければそうできた。空港で観光客を乗せてモーテルまで半マイル運べば、そのチップだけで、駅で半日かけて稼ぐ金よりも多く稼げる。
 そうしゃべりながら、座席に置いたビールの6本パックから一本を取り、リングを引っ張って飲もうとして、泡を喉にこぼした。
「よかったら、一本どうぞ」
 缶は生ぬるかったが、オレは、一本とって飲んだ。
 

*
1.Schrieverの町の北西部郊外に"Thibodoux Municipal Airport"(ティボドー市営空港)という空港がある。
       

 
街を抜けて郊外に出る。アスファルト舗装がとぎれ、バイユーにかかる木の橋を渡り、ジョーズ・シップヤード(Joe's Shipyard、ジョーの造船所)の脇の黄色いでこぼこ道を行く。ドックに沿って、エビ漁船、油運搬平底船、地震探査による海底油田開発会社に使用されているクオーター・ボート(後甲板ボート、quarter boat)などが澱んだ水路に係留されていた。

.....and Negro children were fishing with cane poles for bullheads and gars among the cattails. The driver was out of beer and we stopped at a tavern filled with deckhands, fishermen, and doodlebuggers(seismograph workers) and I bought him a round at the bar and a carton of Jax to go.

 黒人の子どもたちが、竹竿(葦竿)で、ガマ(蒲)の茂みからナマズやガーを吊り上げていた。運転手が飲む手持ちビールがなくなってしまったので、車を停めて居酒屋に入った。甲板員(平水夫)や漁師や海底油田探査作業員らで溢れている。運転手にバーで一杯おごり、Jaxのカートン(12本入りの箱)を土産にもたせた。

Bullhead(ナマズ)
Photo_2                           (ココから)

Cattail(がま、ガマ、蒲)
Photo_3                                 (ココから)

Gar(ガー)
 ガーパイク(garpike)科の淡水魚2属7種類あるとされる。画像は"gar in Louisiana"で検索したもの。写っているのはほとんどが、巨体になることで知られるAligator gar(アリゲータ・ガー、「鰐ガ―」の意)のようだ。
 こどもらが釣っていたのは、もっと小型のものであろう。ただし、でかいのがかからないとはかぎらない。

Photo_4                                                                      
(ココから)

道路はバイユーの縁に沿って続き、岸辺には糸杉の列が水面に覆いかぶさるように生えている続いている。水際に近い幹の膨らんだ根元が、通り過ぎる船の波に黒く濡れており、白いサギが砂の上に作った巣にうずくまっている。

I had fished for bream, sacalait, and mud cat under every cypress on that bank, because they always came into the shade to feed in the hottest part of a summer afternoon, and there was one tree that had rusted mooring chains nailed into the trunk with iron stakes that the bark had overgrown in stages until the chain looped in and out of the tree like a deformity.

 オレは子どもの頃、この堤防の、生えているすべての糸杉の下でブリームサク・オ・レマドキャット(
ナマズ)を釣った。というのは、魚たちは、夏の日の午後、気温が最も上がるときに、餌を食べに木陰に寄ってくるからである。そのうちの一本には、幹に打ちこまれた鉄の杭に繋がった舫い(もやい)チェーン、錆びついた鉄鎖が幹に巻き付いており、まるで絵画や彫刻のデフォルメのように鎖が樹皮の中に埋まったり再度現れたりするほど変形している。

Sacalait(サッカレイト、サク・オ・レ)
  Crappie(クラッピー、Snfish/サンフィッシュの一種)のことである。ルイジアナ南部ではこう呼ぶ。フランス語の"sac-au-lait"(「ミルクの袋」の意)からきている。
 Crappieの別称として、他に、Papermouths、 Strawberry bass、 Speckled bass、 Specks (特にミシガン州で), Speckled perch、Calico bass (ニューイングランド州全域)、Oswego bassがある(Wikipedia)


Photo                                           (ココから)
Mud cat(マッドキャット)
 一般的には"mudcat"であろうが、本では"mud cat"となっている。
 "Madcat"についてWikipedia記事がないか検索すると、いくつか項目があるなかで、次のような説明がある。
    ――Catfish native to the Mississippi Delta's "muddy waters," especially the yellow bullhead――
             (ミッシッシピ・デルタの濁った水に住むナマズ、特に、"yellow bullhead")

                      
Photo_2              "mudcat"検索で現れた画像(ココから)。なお、"bullhead"の画像を上に掲げてあるので参照されたい。

 My grandfather said that Jean Laffite used to tie his boat there when he was blackbirding and that he had buried a treasure between two oaks on the back of our property. 
 オレの祖父は、かつて、Jean Laffite(ジャン・ラフィット)が、奴隷取引をしにきたときに、その船を、よくこの木に繋いでいたもんだと語っていた。そしてまた、おれたちが住んでいる家の敷地の裏手にある2本の樫の木の間に宝物を埋めたともいう。

Jean Laffite(ジャン・ラフィット、1776-1823)
 メキシコ湾で活動したフランスの海賊、私略船船長。
 私略船("privateer"の訳)とは、戦時下において敵船捕獲の免許を得た民間武装船のこと。


                        Jean laffite(ジャン・ラフィット)
Photo_3                                       (ココココから)

 オレは兄貴と二人で根元を掘ったが、6フィート(1.8m)もの深さから現れたのは巨大な鉄鍋で、シャベルでこじって蓋を開けたら、入っていたのは、獣油を取るために煮た豚の骨だった。

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 やがて、道路を板で舗装している箇所にやってきた。何年か前、道路が波で洗い流されてしまったのに行政側では修復しようとしなかった。その先に住んでいるのは、オレの父親と、二三の海底油田探索会社の事務所だけだったからである。そこでシェル石油社(Shell Oil)が板を敷いて補修したのである。
 板がタイヤで跳ねてオイルパンにぶつかったりしながら進んでいき、やがて、向こうに、枯れた小川に架かっている短い木の橋のそばに、郵便箱が立っているのが見えた。
 運転手に金を払い、樫の木々の間を延びている石畳の小道を、玄関に向かって歩いていった。
  ( "The Lost Get-Back Boogie" by James Lee Burke、Hyperion社Mass market版、 ISBN: 0-7868-8934-9、22-24ページ)

――この稿終わり――


 

 

 

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2012年12月28日 (金)

James Lee Burke(ジェイムズ・リー・バーク)の世界。おびただしい風景描写、カントリー/ジャズ音楽への深い造詣、南部ルイジアナの沼地、河、川、人工水路に、モンタナの渓流に登場する魚たち――1978年の異色純文学風作品"The Lost Get-Back Boogie"を素材に語る(Part-3)。

2012.12.28
                     <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>> 
  前回記事は、仮釈放でアンゴラ刑務所を出て、Baton Rouge(バトンルージュ)から汽車に乗り、ニューオリンズで乗り換え、ミシシッピ川を渡りBayou Lafourshe(バイユー・ラフォーシェ)(画像)を越え、Schriever(シュリーバー)と推測される故郷の駅に到着したところで終えた。
                                        バトンルージュからニューオリンズ
                        Photo_5     Kansas City Southern Railway(KCS、カンサスシティ・サザン鉄道)Southern Belle (KCS train)(Wikipedia)     

                        
ニューオリンズで乗り換えた。   
Photo_3        Union Passenger Terminal(ユニオン・パッセンジャターミナル)、ニューオリンズの、汽車バス総合駅とAmtrak列車(ココから。 

           そして、ミシシッピ川を
越えBayou Lafourshe(バイユー・ラフォーシェ)を越えた。 Photo_3                          (Bayou Lafourshe)
       上段左端画像、黄色がラフォーシェ・バイユーの線を太く示したもの。右側の青はミシシッピ川。画像はココから。元来はミシシッピ川の支流であったが、
    その後Donaldsonvilleの地点で埋められ、
現在では流れのない川になっている。川の西側をルイジアナ・ハイウェイ1が、東側をルイジアナ・ハイウェイ308が
    走っている。つまり、川はこの2本の道路に挟まれて
延びている。下の画像を見よ。

Photo_5
  ラフォーシェ・バイユー(川幅があまり広くないように見えるが、場所によっては沼みたいなところもあるのであろう)

 汽車が速度を落とし、踏切の「X」標識とLOUISIANA LAW STOP警告(「停止することが州法で義務付けられている踏切である旨の警告表示)をゆっくりと通り過ぎて、やがて停止し、乗客を迎えに来ているプラットホームの人々の目がこちらの顔を注視し、移動し、目当ての相手を見つけてぱっと輝く状況に移った。
(この描写からして、降りた駅はSchriever/シュリーバーか。ルイジアナ州内での停車駅は、New Orleans→①Schriever→②New Iberia/ニューイベリア→③Lafaette/ラファイエット→Lake Charles/レイク・チャールスであり、次はテキサス州のBeaumont/ボーモントである。バークの小説にはNew Iberiaを舞台にしたものが多いが、そこではないような気がする。そう考える理由は、追々記事の後続編で分かるであろう)

 
Photo                ニューオリンズで乗り換え、ミシシッピ川を越え、バイユー・ラフォーシェを越えた。
左側黒い楕円で囲ったのが
Schriever(シュリーバー)の町であり、その楕円の右肩に308とあるのがラフォーシェ・バイユーの水路である(308ハイウェイに沿っている)。 


Photo_2    ルイジアナ州内
Amtrak Sunset Limited列車停車駅。最初の停車駅の印にティボドー( Thibodoux)という名が付されているようにみえるが、停車する町はその少し南のSchriever/シュリーバーである(すぐ上の画像を見よ)。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 今日は、その道中について、少し記述を膨らませる。
■バトンルージュを発った。
 窓の外を、羽目板造りの雑貨店、タバーン(居酒屋)、樫の木などの風景が過ぎ去っていく。ハイウェイの向こうには沼地に生える灰色の木々が見え始めた。麦わら帽の黒人たちが、キャナル(運河)沿いにケーン・フィッシング(1)をやっている。白いサギが飛び立って、羽を陽の光で金色に染め、枯れた糸杉(cypress)の上を飛んでいった。売り子(butcher boy)が汽車の揺れに合わせて身体の均衡をとりながら、雑誌や新聞や飲み物を籠に詰め込んでやってきたので、Times-Picayune()(2)を買って、食堂車(談話室車両、club car)に向かった。

*1.原文は、"Negroes in flop straw hats cane-fished along the canal......."
  どういう釣り/漁なのか。

(1)"cane fish trap"というものがある。魚を捕るための罠(わな)、下の画像にみるように、葦(あし)や竹のような素材でで作った籠である。れを沈めて、入り込んだ魚を捕る。
(2)釣りざおによる釣り。竹や葦をロッド(竿)に使うからそう呼ぶのか。
  "river cane"という植物があるようだ。
頑丈な葦のような、竹に近いもののようだ。「竹」(bamboo)がこの地域に存在するかどうかは知らない。 
 おそらく、この(2)の方であろう。
                                            Photo_6                     (cane fish trap。(画像はココから)    
*2Times-Picayune(タイムズ・ピカユーン、タイムズ・ピキューン)
 ニューオリンズで発行されて いる地元の日刊新聞(現在は3日/週)。1837年創刊。
ジャーナリズムについての優れた仕事に対するエドガー・アラン・ポー賞 の基金を拠出していることなので知られているが(「注」、作家のポーとは別人。この新聞の著名な記者であった人物の名を冠した賞)、2012年9月末を以って、印刷版では日刊を廃止し週3回となっている。  
 おそらく経営難からのことであろうが、人々が救済に立ちあがっているのに、経営陣/株式所有一族は、「救ってもらいたくない」とし、一種の「戦争」になっているようだ。 
Photo  

   Times Picayuneを救うための戦い
  救ってもらいたくなんかないとする新聞を救いたいとしてニューオリンズの人々が団結――その戦いぶりをKevin Allman記者が報じる。

 Gambitというネット紙の2012年9月18日号は、このような見出しで事を報じている。


 Jaxビールを飲み、新聞の一面に目を通す。視線を車窓に写すと、新しく生えてきたサトウキビ畑と、黒Angus牛(アンガス牛)の群れが過ぎ去った。
 しかし、ニューオリンズに近ずくに連れ、田舎風景が変わりはじめた。この2年でものすごい変わりようだ(物語の時代は1962年)。もはやデルタ地域の田舎ではなくなっている。沼地が広い面積にわたって埋め立てられ、造成宅地、住宅、ショッピングセンターなど、開発の波が押し寄せていた。ピカーン栽培園(Pecan)や乳業牧場が、Food City(3)、Winn-Dixie、Cash Discountといったスーパーマーケット・チェーン店などに変わっている。

Jax_2 Photo_2Photo_3 Davis_food_city_2Winndixie    上から、Jaxビール、黒Angus牛(食肉用)、ピカーン(胡桃のような実の成る木)、Food City、Winn-Dixie

*3."Food City"とはおそらく郊外型大規模小売店舗であろうと見当をつけてネットで調査したら、それらしきものが2店あった。ひとつは、K-VA-T Food Cityというもので、バージニア州Abingdonを本拠に、同州、ケンタッキー、テネシー州などで大規模小売店舗チェーンを展開している。1955年から現在の名称で営業展開しており、現存する。
 他は、Davis Food Cityというものであり、1955年創設以来テキサス州ヒューストンで同じく大規模小売チェーンを展開していたとされるが、2007年に閉鎖している。
 本では、単に"Food City"としているだけで、その正体がつかめないが、この両者のうちで当時(
物語の時代は1962年)ルイジアナ州に存在した可能性があるのは、この後者、ヒューストン本拠のそれであろう。こう推測して上の画像を掲げたが、間違っているかもしれない。

Somebody had been busy in the last two years; it was no longer a rural sectin of the delta. Land-development signs stood along the highway, replacing the old ads for patent medicine and Purina feed, and green areas of marsh had been bulldozed out and covered with land fill for subdivision tracks. Mobile-home offices strung with colored flags sat on cinder blocks in the mud, with acres of waste in the background that were already marked into housing plots with surveyors' stakes. The shopping-center boys had been hard at work, too. Pecan orchard and dairy barns had become Food City, Winn-Dixie, and Cash Discount.
 
 ("The Lost Get-Back Boogie" by James Lee Burke、Hyperion社Mass market版、 ISBN: 0-7868-8934-9、20ページ)

■ニューオリンズで汽車を乗り換える
 列車は古い型のもので、座席は埃っぽく、黄ばんだ二重ガラス窓の外側ガラスには、いたずら空気銃の弾によるひびが入っている。汽車がミシシッピ川を渡る。窓から、遙か下の広く広がる水面を見下ろすと頭がくらくらする。
  
Huey3                                   (画像はココから)
Photo_2                           (画像はGoogle地図航空写真の拡大) 

  この橋だ。Huey P. Long Bridge(ヒューイ P. ロング橋)という。鉄道線路2軌道と、US 90ハイウェイの道路が線路の両脇に2車線ずつ走っている。 全長は道路部分が2.5キロ、鉄道部分は7キロ。水面からの高さ47メートル。1935年開通。橋の名前は、有名かつ悪い意味でもを馳せた知事の名前に由来している。その知事は、同年の9月に暗殺されたという(Wikipedia)

Photo_4                                      ユニオン・パッセンジャー駅とヒューイ鉄橋の位置関係。
 赤のA印が駅で左側の丸で囲ってあるのが鉄橋。鉄橋に至る途中経路は、行ったことがないので分からないが、おそらく、川の湾曲に沿った点線であろう(あるいは、棒直線で示しているようなルートか、一部地下に潜るなどして?)。

 駅を出てから川を渡るまでの描写を掲げておこう。
  I had to change trains in New Orleans for the rest of the trip home. The train was an old one, with dusty seats and yellowed windows cracked on the outside of the double glass with bb holes.
  We crossed the Mississippi and my head reeled when I looked down from the window at the wide expanse of water far below.
The tugboats and Standard Oil barges and the brown scratches of wake off their hulls looked as miniature and flat as painted pieces on a map.
  The train clicked slowly across the bridge and the long stretches of elevated track above the levee and mud flats and willow trees, then began to gain speed and bend through the bayou country and the achingly beautiful dark green of the cypress and oak trees, covered with moss and bursting at the roots with mushrooms and cowslips.    


 家に帰るには、ニューオリンズで汽車を乗り換えなければならなかった。列車は古い型のもので、座席は埃っぽく、黄ばんだ二重ガラス窓の外側ガラスには、いたずら空気銃の弾によるひびが入っている。汽車がミシシッピ川を渡る。窓から、遙か下の広く広がる水面を見下ろすと頭がくらくらする。
 タグボートとスタンダード・オイル社のタンカーがゆっくりと進んでおり、船体がかきたてる茶色の波が、地図に描かれた図のように小さく平たく見えた。汽車はゆっくりと、橋を越えていき、さらに、土手と泥湿地と柳の木々の上空に上昇傾斜で長く伸びている線路を進み、そして、昇りつめたか、今度は突然下降加速し始め、バイユー田舎を、そこらじゅう澱み(
よどみ)小川だらけの湿地帯荒野を、糸杉と樫の木が醸し出す深い緑のなかを、心苦しいほど美しい風景のなかを、しゃがみながら突きぬけていった。木々の幹は苔に覆われ、根元にはきのこが充満し、リュウキンカ(立金花、北米産サクラソウの一種)がみっしりと茂っている。(上掲書20ページ)

[空気銃の弾によるひび]
  (.....yellowed windows cracked on the outside of the double glass with bb holes.)
     "bb hole"とは、bb gun(一種の空気銃)の弾による穴のことである。

Photo_2                                      (リュウキンカ)

[参考資料]
Huey P. Long Bridge ― 同じ名の橋が二つあるので要注意
バトンルージュにあるHuey P. Long Bridge
    同じくミシシッピ川に架かっている同名の橋が、この地域にもう一本ある。こちらは、川の両側、East Baton Rouge Parish(東バトンルージュ・パリッシュ)とWest Baton Rouge Parish(西バトンルージュ・パリッシュ)を結ぶもので、バトンルージュの人々は "the old bridge"(古橋)と呼ぶ(先にみた、本題のもう一本の方は、Jefferson Parish/ジェファーソン・パリッシュにある)。
  橋の名は、先にも触れたように、当時の、橋を建設した州知事の名に由来する。
  こちらの橋は、カンサスシティ・サザン鉄道(Kansas City Southern)の線路1軌道と、US 190道路 (Airline Highway、「空港ハイウェイ」と呼ばれる)4車線を走らせている。1940年8月開設で、全長1.8キロ、水面からの高さ34メートル、老朽化とメンテナンスの貧しさが 問題になっているとされる。
 レーン(車線)幅は狭く、未経験ドライバーには、非常に危険な橋だという。特に、激変天候のときには路面が氷結するので危険だと(Wikipedia)。
 
 
上に"parish"(パリッシュ)とは、他の州で"county"(カウンンティ、郡)とよぶ行政区域割りに相当するものである。ルイジアナ州では、そのフランス色統治歴史に由来するのであろうが、こう呼ぶ(元来は、「小教区」、「教区」といった教会の行政区域を指すことば)。
 なお、ここでの話には無関係だが、この州だけは、アメリカ合衆国で唯一、民法体系として、コモンロー(Common Law)ではなく、シビルロー(Civil Law、いわゆる「大陸法系民法」、ナポレオン法典が著名)を採用している。

Photo_5                                  (カンサスシティ・サザン鉄道(サザンベル列車)が走るHouey P. Long Bridge)
Photo_6                                       (上の橋の拡大画像)

Photo_8
丸印がこの橋の所在地。左側は、西北部にある町Alexandria(アレクサンドリア)、すなわちバトンルージュの一つ手前の駅と、右側斜め下降線は終着駅ニューオリンズとつながっている。


Huey Pierce Long(ヒューイ・ピアース・ロング)知事
 1893.8.30-1935.9.10の生涯。ルイジアナ州第40代知事(1928-1932)。その後、1932-1935まで、民主党の上院議員。過激なポピュリスト政策を説き、実施したことで知られる。フランクリン・ルーズベルトを支持したが、後にたもとを分かち、いずれ自ら立候補することも考えていたが暗殺された。
 1934年、大恐慌の期間中、貧困層を救済し、ホームレスをなくすために、会社と個人に純資産ベースの税金を課して富の再分配をはかる制度を創出した。景気対策として、連邦政府が、公共事業、学校、大学に資金を投入し、老齢年金にも金を投入すべきだと説いた。連邦準備金政策を猛烈に批判した。カリスマ的性格、過激な政索、行政、行動をとる志向性などの故に、政治対抗派から、州政府をほとんど独裁者として牛耳っていると非難された。極左ポピュリストとして、1936年の選挙においてルーズベルト再選出阻止に動こうと画策したり、1940年には自ら出馬しようと画策していたが、1935年に暗殺された。
 ルイジアナ州のハイウェイ、病院、教育機関を充実させた。その政治につき、賛否両論があり、独裁者だ、デマゴーグだ、ポピュリストだ、いや違う、という議論がある。(Wikipedia)

◆◆◆◆◆◆◆◆

  ―― 「今日は、その道中について、少し記述を膨らませる」――
 こういったのだが、内容を大して盛り込みもしないのに、ここまでで記事の図体がかなり大きくなってしまった。 画像をべたべた貼ったせいだが、まあ、ここで終えて、続きは次稿に廻すことにする。

――次稿に続く――

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2012年12月27日 (木)

James Lee Burke(ジェイムズ・リー・バーク)の世界。おびただしい風景描写、カントリー/ジャズ音楽への深い造詣、南部ルイジアナの沼地、河、川、人工水路に、モンタナの渓流に登場する魚たち――1978年の異色純文学風作品"The Lost Get-Back Boogie"を素材に語る(Part-2)。

2012.12.27
                       [関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>> 
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 さて、本論に入って、物語は主人公が刑務所を仮出所する場面から始まる。
 悪名高いアンゴラ刑務所(Angola Prison)である。正式には、The Louisiana State Penitentiary(ルイジアナ州刑務所)という。

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 前稿((2012.12.24)はこう終わった。その続きである。
                                              (なお、物語の時代は1962年である)

◆◆◆◆◆◆◆◆ 
 主人公の名、「オレ」の名前は、Iry Paret(アイリー・パレット)、現在31歳。カントリー/ヒルビリー/ブルーグラスのギター弾きだ。 殺人罪(manslaughter、故殺、非謀殺)で服役した)。
 ルイジアナ州(Louisiana)のメキシコ湾岸ほぼ西端部、Lake Charles空軍基地の(現在は名称が変わっている)近く、ハイウェイ90沿いのナイトクラブで、人を刺したのだ。

 ニ週間契約で演奏をしていたのだが、休日前夜の土曜日、明日は休みということもあって、演奏休憩時間に店の裏でマリファナを吸ったりしてテンションが上がっていた午前2時、リクエスト曲対応のもつれからバンド席に殴りかかってきたあらくれ客を、リクエスト要求に直接応対したバンド歌手を殴り倒し、ドラムセットなどの楽器を壊して、なおもオレの大事なギターに襲いかかり、阻止しようとするオレにビール瓶で殴りかかってきた狼藉客を、とっさに、ポケットに入っていたイタリア製ジャックナイフで刺したのだ。

 リクエスト曲はThe Wild Side of Lifeで、オレのギターは、マーチン・フラットトップ(Martin)(画像) だ。

 ポケットにナイフがあったのがいけなかった。たまたま入っていたのが。
 まあ、たまたまかどうか、いちがいにはいえないのだが、とにかく、瞬時の成り行きでそうなってしまったのである。
 5年の懲役刑を受け、「アンゴラ」(Angola)に収容された。2年3ヶ月を務め、3年弱を残して仮出所となった。所内では、バンド演奏で大いに同僚服役囚たちを「慰めた」。
 スチールギターとピックアップが各々一つ、フラットトップ2本とアンプ。フィドルとマンドリンがマイクにくっつけて弾く。こういう構成だった。オレはフラットトップだ。
 Orange Blossom SpecialPlease Release Me Darlingといった曲がトウモロコシ畑を越えて"Camp 1"まで届いたものだ(演奏は娯楽室でやる。「キャンプ・ワン」とは、看守などの職員家族居住区のひとつであろう)。

アンゴラ刑務所(Angola Prison)
  The Louisiana State Penitentiary(LSP、ルイジアナ州刑務所:)のことで、「アンゴラ」("Angola")として知られる。"Alcatraz of the South"(南部のアルカトラス)とか、"Firm"(農場)というニックネームで呼ばれる。ルイジアナ州公安/矯正局(Louisiana Department of Public Safety & Corrections)が運営している刑務所である。
 ルイジアナ・ハイウェイ66の終点、St. Francisvilleの北西22マイル(35キロ)ミシシッピ州との州境に沿っている。監視厳重度で最高ランクに属する刑務所のうちの最大のものであり、1,800人の職員で5,000人の囚人を収容している。(Wikipedia)(画像)
      5                           アンゴラ(ルイジアナ州刑務所)正面ゲート。右は、銃座を据えた監視塔。

3_2                                   その所在地

4_2                          広大なもので、三方をミシシッピー川に囲まれ、
北側(画像上部)はミシシッピ州と接している(点線が州境)。(A)印が正面ゲート

  刑務所ゲートの外に出ると、同じ日に釈放/保釈になった者が他に4人いた。フェンスの傍にしつらえてある木のベンチに座って囚人輸送バスの到着を待っている。銃座監視塔の影が4人の身体を横切っていた。
 オレはバスを待たず、歩いた。「輸送車はすぐ来るから待てよ」という呼びかけを無視された古参看守ゲート番の、敵意と、自分の手の届かないところに手持ち財産を逃がしてしまったという無力感、自分は行きたくてもいけない世界に出て行こうとする者への嫉妬心が入り混じった冷たい視線を背に受けながら。

"The state car ought to be up in a minute, Paret," the gateman said. He was one of the old ones, left over from the thirties, and he had probably killed and bullied more men in the levee than any other hack on the farm. Now he was almost seventy, covered with the kind of obscene white fat that comes from years of drinking corn whiskey, and there wasn't a town in Louisiana or Mississippi where he could retire in safety from the convicts whom he had put on anthills or run double-time with wheelbarrows up and down the levee until they collapsed on their hands and knees.
("The Lost Get-Back Boogie" by James Lee Burke、Hyperion社Mass market版、 ISBN: 0-7868-8934-9、16ページ)
 「輸送車はすぐ来るぞ、パレット」、門番がいう。
 年寄りの門番の一人で、1930年代からいる。おそらく、殺して埋めた囚人の数は、この刑務所の看守のなかで一番の男だ。もう、ほぼ70歳になっている。トウモロコシ・ウイスキー(バーボン)を長年飲み続けてきたことから、醜い、白い脂肪が全身を覆っている。長年にわたって、恣意的な懲罰として、囚人をアリ塚(蟻塚)に埋めたり、塀の内を手押し車を押して何周も、ひざまずいてぶっ倒れるまで、走らせたりしてきたから、出獄者からの復讐が怖くて、引退生活を営もうにも、安心して暮らせる町はルイジアナとミシシッピにはどこにもない。

"I think I need to hoof this one," I said.
"It's twenty miles out to that highway, boy," And he didn't say it unkindly. The word came to him as automatically as anything else that he raised up out of thirty-five years of doing almost the same type of time that the rest of us pulled.
(上掲書同ページ)

「歩こうと思うんだ」、おれはいう。
「あほ、ハイウェイまで20マイルもあるぞ」。
 それは怒りからいったわけではなく、自動的に口に出たのだ。受刑者たちが過ごす日々とほぼ同じことをやって過ごしてきた35年間のなかで身に染みついたその他のことばと同じで、自動的に口に出るのである。

"I know that, boss. But I got to stretch it out," I didn't turn to look at him, but I knew that his slate-green eyes were staring into my back wit a mixture of resentment and impotence at seeing a piece of personal property moved across a line into a world in which he himself could not function. (上掲書同ページ)

 「わかってますよ、ボス」、「だけど、伸びをして、いろいろと払いのけたいんです」。
 振り返らずにこう返事したが、当人の灰緑色の目がこちらの背中に突き刺さっていることを知っていた。敵意と、手持ち動産の一つが境界を越えて自分の手の届かない世界に逃げてしまったという無力感が入り混じった冷たい視線が突き刺さっていることを。

 道路に沿った溝の澱んだ水はスイレンの葉で覆われており、新しく開き始めた花々の上を、トンボが紫の羽で飛び交っている。
 木々の葉はホコリで覆われ、根元の赤黒い地面には、ナメクジの這った痕が光っている。

 汗ばんできたのでコートを脱ぎ、下着やシャツなど身の回り品の入った段ボール箱を縛っている麻紐に、その箱は出所時に支給された新品スーツが入っていたものだが、その麻紐に挟み込んだ。1マイルほど歩いたところで、輸送車が暑苦しく唸りながらやってきて、セカンドギアに減速して、「暑いだろう、それに、ハイウェイでもヒッチハイクは無理だぞ」と、運転席の看守がいうが、笑みを浮かべながら、手のひらを振って断った。黄色い土ぼこりをあげて車が走り去り、怒った誰かがこちらに指を突きだしているのがリヤ・ウインドウから見えた。
 段ボール箱を溝に投げ捨てた。

 さらに3マイル、居酒屋があったので、そこに入りビールを飲んだ。店主の従兄の車に便乗して、Baton Rouge(バトンルージュ)に到着した。

 そこからは、自宅のある海岸線まで車で3時間の距離だから、バスでもヒッチハイクでもよかったのだが、汽車に乗った(1)。昔から汽車旅が好きなのだ。
                           Photo_5                   Southern Belle (KCS train)(Wikipedia)

 ニューオリンズで乗り換えた(2)。       Photo_3       Union Passenger Terminal(ユニオン・パッセンジャターミナル)、ニューオリンズの、汽車バス総合駅とAmtrak列車(ココから。 

*1.バトンルージュから乗った汽車はKansas City Southern Railway(KCS、カンサスシティ・サザン鉄道)であろう。カンサス(カンザス)を始点としてニューオリンズを結ぶ路線で、それがここに停まる。Southern Belle(サザン・ベル)という愛称で呼ばれている列車である。この町に乗り入れている鉄道はそれしかないのではないか。この地に行ったことはないが、そのように思える(おそらく、この小説が設定されている時代1962年当時でも)。
 なお、Amtrakはシカゴ
とニューオリンズを結ぶ路線を走らせているが、それはバトンルージュには停まらない(末尾に掲げた画像参照)

2.ニューオリンズで乗り換えたのはSunset Limited(サンセット・リミティッド)列車であろう

 Sunset Limited
は、Amtrak(アムトラック)鉄道網の傘下路線のひとつで、フロリダ州Orlando(オーランド)からロスアンルスまで結ぶ大陸横断南部路線、ないし、その路線を走る列車の名称のことである。ただし、現在は、ニューオリンズからロスアンゼルスまでとなっており、運行も週3便しかないという。
  Amtrakとは、National Railroad Passenger Corporation(全米鉄道旅客公社)という、全国規模の公営鉄道を運営する公共企業体の名称であるが、それが運営している鉄道網ないし列車のことを指すことばとしても使用される。なお、このサンセット・りミティッド路線自体は、Union Pacific Railroad(ユニオン・パシフィック鉄道)の所有物であり(以前はSouthern Pacific Transportation Company/サザン・パシフィック鉄道が所有。この会社社が買収して、さらに8年後にユニオン社が買収した)、Amtrakは、"trackage rights"(路線共同使用権、乗入権)契約によって、つまり、賃借料金を払ってその上を走らせているのである。

 ミシシッピ川を越えて、その後Bayou Lafourshe(バイユー・ラフォーシェ)(画像)を越えた。

Photo_3        上段左端画像、黄色がラフォーシェ・バイユーの線を太く示したもの。右側青はミシシッピ川。画像はココから。元来はミシシッピ川の支流であったが、
    その後Donaldsonvilleの地点で埋められ、
現在では流れのない川になっている。ある地域では、川の西側をルイジアナ・ハイウェイ1が、東側をルイジアナ・ハイウェイ308が走っている。つまり、川はこの2本の道路に挟まれて延びている。下の画像を見よ。

Photo_5      ラフォーシェ・バイユー(川幅があまり広くないように見えるが、場所によっては沼みたいなところもあるのであろう)

 汽車が速度を落とし、踏切の「X」標識とLOUISIANA LAW STOP警告(「停止することが州法で義務付けられている踏切である旨の警告表示)をゆっくりと通り過ぎて、やがて停止し、乗客を迎えに来ているプラットホームの人々の目がこちらの顔を注視し、移動し、目当ての相手がデッキを下りてくるのを見つけてぱっと輝く状況に移った。
  (この描写からして、降りた駅はSchriever/シュリーバーか。ルイジアナ州内での停車駅は、New Orleans→①Schriever→②New Iberia/ニューイベリア→③Lafaette/ラファイエット→Lake Charles/レイク・チャールスであり、次はテキサス州のBeaumont/ボーモントである。バークの小説にはNew Iberiaを舞台にしたものが多いが、そこではないような気がする。そう考える理由は、追々記事の後続編で分かるであろう)

Photo                ニューオリンズで乗り換え、ミシシッピ川を越え、バイユー・ラフォーシェを越えた。
左側黒い楕円で囲ったのが
Schriever(シュリーバー)の町であり、その楕円の右肩に308とあるのがラフォーシェ・バイユーの水路である(上で触れたように、水路は308ハイウェイに沿っている)。

Photo_2    ルイジアナ州内
Amtrak Sunset Limited列車停車駅。最初の停車駅の印にボドー( Thibodoux)という名が付されているようにみえるが、停車する町はその少し南のSchriever/シュリーバーである(すぐ上の画像を見よ)。

Photo_7                                    
  ( Union Passenger Terminalの所在地) 

Photo_9          (Amtrakシカゴ←→ニューオリンズ路線。バトンルージュには停まらない)

David Frizzell & Shelly West - Wild Side Of Life
   ("The Wild Side of Life"が正しいようだが、そのままにしておく)

 この世界はよく知らないのだが、Hank Thompson(ハンク・トンプソン)(画像)という有名な奏者、70年にもわたっ活躍した奏者の作品だという。
 その人物が唄っているTubeも場にあるのだが、こちらに惹かれたので
、このTubeにした。

 この歌を唄ってくれって、荒くれ男客がバンド席に近寄って2回もリクエストし、さらに催促しても歌手が、マリファナでラリっていた歌手がそれを無視するようなとぼけた態度をとったので、男が怒ったのだ。

 長くなったので、この稿はここで終える。  

  ―― Part-3に続く ――

 

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2012年12月24日 (月)

James Lee Burke(ジェイムズ・リー・バーク)の世界。おびただしい風景描写、カントリー/ジャズ音楽への深い造詣、南部ルイジアナの沼地、河、川、人工水路に、モンタナの渓流に登場する魚たち――1978年の異色純文学風作品"The Lost Get-Back Boogie"を素材に語る(Part-1)。

2012.12.24
                                    <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
  James Lee Burke(ジェイムズ・リー・バーク)について何か書いてみようと考え、その"The Lost Get-Back Boogie"を読み直した。

◆◆◆◆◆◆◆◆
1_2 一、気に入り作家
1.以前から興味を強く惹かれていた、というか、気に入っていた作家だ。
 しかし、そうであっただけで、この人の世界に精通しているわけではなく、まだ「よくは知らない」存在だ。
 つまり、いっぱい書いているなかで――多作だということは最近になって知ったんだけど――5冊しか読んでいない。しかも、作品群がいくつかの系統だったシリーズ物に別れているのだが(これも後から知ったこと)、amazon.comで買うすべを知らなかった当時のこととて、時につれ、書店の洋書陳列棚にたまに現れるものを、「アレ! あった、うれしい」として買ってきた5冊がその系統横断のつまみ食いみたいなことになっている。そのようなことで、人物像というか作風というか、そういうことをまだよく掴んでいないのだ。

 しかし、一言だけいえることがある。
 それは、読んだ5冊全作品が、ニューオリンズ周辺を、南部ルイジアナを、アメリカ南部を物語の主たる舞台にしている、あるいは、こういう地域が物語の重要な要素となっているということである。当人はこの地域に愛着を有している人物であり、地域を熟知している。
 何か書いてみたいと考えたのは、この「地域性」に関係がある。そこらへんのことは追々触れていくとして、とにかく、この本を読み直した。ここ10日ほどかけて。
 話の内容は、まったく覚えていなかった。たいがい、読み返しはじめて少し経つと「ああ、そうだった」と記憶が多少なりともよみがえるものだが、それがなかった。めずらしい。おそらく、前回は、ざざっと読み流したというか、「おもしろくねーや」と途中でおっぽりだしたのであろう。
 
2_2
2.重い作品
 十日もかかったのは、じっくりと読んだからである。読み進んでいるあいだ、到達地点から頻繁に後戻りしたり、一度読み終わってからも、またあちこちに戻って読み直したりした。
 この本、"The Lost Get-Back Boogie"だが、――さて、これをどう訳すばいいのかということは後回しだが――かなり「重い」本なのだ。
 いわゆる純文学調の趣きのあるもので、人の生き様、生き方などについてのさまざまな疑問、葛藤や、父親の期待に応えられない男の父親コンプレックス、自責の念、酒、薬物への逃避、「破滅型」、「自滅型」人間の行動パターン、その思考分析といったことが全編を通して多く語られる。
 軽い「私立探偵物」ではない。「物語性」も強くない。まったくないとはいえないまでも、手に汗握るといった要素はない。
 このバークという人、文体特徴として、全体的に、文章がえらく長い。カンマ、カンマ、カンマで、一文が延々と続くのである。だから、述べている内容を理解するのに時間がかかる。したがって、斜め読みには向いていない、というかほとんど不可能だ。記述内容が重いこともあって、なおさらである。

 現れる地名や施設、魚、樹木、植物などについての周辺情報を調べたり、記事に書く材料を書きとめながら読み進んでいったことも、時間がかかった原因だ。
 
3.出会ったきっかけ
 最初に買ったのは、昔のことなのでよく覚えていないが、おそらく、Dixie City Jamだった。それとも、The Lost Get-Back boogieだったか。
 まあ、はっきりしないが、とにかく、いずれにせよ、題名に惹かれて買った。書店の陳列棚から手に取った。
 "Dixie"、"New Orleans"、"Jam"、"Boogie"といったことばに敏感に反応する謂れがあったのである。長年、こういった要素に深く関連する音楽を聴き、演っていたのだ。

ニ、作品、経歴など
 さて、ということで、風景描写、カントリーミュージック、魚について書いていくが、その前にもう少しだけ寄り道をする。
 作品群や経歴について多少触れておく。
(1)作品
Dave Robicheaux (デイブ・ロビショー)シリーズ
    The Neon Rain (1987)
    Heaven's Prisoners (1988)
    Black Cherry Blues (1989)
    A Morning for Flamingos (1990)
    A Stained White Radiance (1992)
    In the Electric Mist with Confederate Dead (1993)
    Dixie City Jam (1994)
    Burning Angel (1995)
    Cadillac Jukebox (1996)
    Sunset Limited (1998)
    Purple Cane Road (2000)
    Jolie Blon's Bounce (2002)
    Last Car to Elysian Fields (2003)
    Crusader's Cross (2005)
    Pegasus Descending (2006)
    The Tin Roof Blowdown (2007)
    Swan Peak (2008)
    The Glass Rainbow (2010)
    Creole Belle (2012)
Billy Bob Holland(ビリ・ボブ・ホランド)シリーズ
    Cimarron Rose (1997)
    Heartwood (1999)
    Bitterroot (2001)
    In the Moon of Red Ponies (2004)
Hackberry Holland(ハックベリ・ホランド)シリーズ)
    Lay Down My Sword and Shield (1971)
    Rain Gods (2009)
    Feast Day of Fools (2011)
Miscellaneous(その他
    Half of Paradise (1965)
    To The Bright and Shining Sun (1970)
    Two for Texas (1982)
    The Lost Get-Back Boogie (1986)
    White Doves at Morning (2002)
Short Stories Anthologies(短編集)
    The Convict (1985)
    Jesus Out to Sea (2007)
              (Wikipedia)から。茶色表示は読んだ本。黒太字はエドガー賞受賞作。

(2)経歴など
   1936年12月5日テキサス州生れ、現在76歳。テキサスとルイジアナ州の州境あたりで育ち、南部の大学、大学院を出ている。いろんな職業を経て30歳ぐらいで職業作家になったようだ。エドガー賞(長編)を2度受賞している(  Black Cherry Blues /1989とCimarron Rose/1997 上の太字斜体作品)。モンタナとルイジアナ州をに住み分けているようだ。(Wikipedia)
 容姿からして(画像)、インディアンの血を引いているように思えるが、どうか。

三、アンゴラ刑務所(Angola Prison)
  さて、本論に入って、物語は主人公が刑務所を仮出所する場面から始まる。
 悪名高いアンゴラ刑務所(Angola Prison)である。正式には、The Louisiana State Penitentiary(ルイジアナ州刑務所)という。

 ――次稿に続く――

 

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2011年12月 7日 (水)

シェリル追想―その4(7)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"

                                                   <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2011.12.7
        <<<フォックストロットで喜悦の一夜を過ごしたマローン、FBI女性捜査官(後編)>>>
   「シェリル追想―その4。シェリル撃たれる」('2011.11.9)、「その4(2)」(11.15)、「その4(3)」(11.22)、「その4(4)」(11.23)、「その4(5)」(12.2)、「その4(6)」(12.6)に続く記事である。

◆◆◆◆◆◆◆◆
  女性FBI捜査官、マローン(Malone)、40歳半ばの顔の角ばった、法律専門家、バツ4の女だが、この捜査官が最近フォックストロットを踊りまくっているという。
************************
 「ところで、マローンのこと覚えているだろう」。
 「もちろん。元気でやっているかい」。
 「やつだけど、あいつ、このところフォックストロットを踊りまくってるんだ」。
 「えっ、ほんとかい。5人目の亭主にするつもりか」。
 「可能性はあるな・・・・・・」


 
フォックストロットを踊りまくっている」とは、「(アレを)やりまくっている」ということの隠喩だ。あるいきさつ、ルーカス、マローン、マラードの三人だけが知るいきさつからきていることだ。
 シェリルも、間接的にではあるが、このいきさつに関わっている。
  いきさつは、稿を改めて説明することにしよう。

*********************************
 今日の記事は、この「稿を改めて説明」記事の後篇である。

◆◆◆◆◆◆◆◆
  ルーカスは到着した日の翌日と翌々日の2日滞在してミネアポリスに戻った。FBIはLopez容疑者の監視を続けている。発つ前の晩、三人で再度リンクに行った。経営者、クララはいなかった。仕事の関係で出張だと、ウェイトレスが「残念ですね」みたいな顔つきでルーカスにいう。
 「ああ悲劇!」、ウェイトレスが注文を聞いて去った後にマローンがいう、
 「ダベンポート、埃っぽい西部の町に、さらに一つ失恋を残して寂しく町を去る」。

             (リンカーは、状況を把握するために、ミネアポリスに行ったのである)

 翌日の午後遅くミネアポリスに着いた。
「大して収穫がなかった」、シェリルが念を押すように尋ねる。
 シェリルとブラックには途中で状況を知らせ、落ち合う場所を決めていたのだ。
「犯人じゃない、ちんけな売人だ」。
「だけど、FBIはまだ犯人だと思っているのね」。
「マラードは、依然としてチャンスがあると思っている。しかし、マローンって名の頭のいい助手がいるんだが、その助手はワシントンに戻ってやり直した方がいいと考えている」。
「ダサイな」、ブラックが嘆く。

     ********************◆◆◆*****************
 さて、ここで、今まで意識的に触れずにきた重要人物登場させることにする。話を先に進めるために必要になった。
  話の筋をすべてぶちまけるのは未読潜在読者の意欲を削いでしまうのでよくないと考えて伏せてきたのだが、ジョン・サンドフォードによるこの一連のダベンポート刑事シリーズ、「**Prey」シーリーズは、推理、謎解きには重きを置いてない小説群なので、すなわち、「ミステリー」ではなく、犯人が誰であるかということは冒頭部から分かったうえで話を展開させていくという手法の小説群なので、意味のない気配りだったかもしれない。

 ということで、登場するのはカーメル・ローン(Carmel Loan)、ミネアポリス市に住む女性弁護士である。超高級法律事務所に属し、凄腕の刑事弁護士として名を馳せている。
 実は、この物語は二本の柱で成り立っている。一本は闇の仕掛け人、女殺し屋殺、ご存じクララ・リンカーなのだが、もう一本の柱、むしろストーリー展開その者からすればこちらの方が主柱ともいえるのだが、それが、この女性弁護士なのである。この女も、身勝手な動機から冷酷に人を殺していく。

**************
 カーメル・ローンは岡惚れした既婚男を手に入れるために、その妻を殺した(*1)。プロの殺し屋に依頼したのである。ミネアポリス在住のロロ(Roland D'Aquila)というヤクの売人を仲介人としてセントルイスの元締めに依頼したのだが、その殺し屋がリンカーである。ロロは、以前カーメルが無罪を勝ち取ってやった相手であった。
 ところが、ロロは、カーメルが殺人の仲介をロロに依頼する場面をビデオに収めており、それをネタに金を強請ってきた。テープと交換に金を払っても、隠し持った原オリジナル版で先々何度でも強請ってくるであろう。カーメルはリンカーと二人で禍根を絶とうとする。リンカーが、駐車場でロロの脚に銃弾を一発撃ち込み、男を拉致してその自宅に連れ帰る。二人して原版の所在を問い詰めるが、男は吐かない。カーメルは、拷問を加える。両足の膝の皿を電気ドリルで穿ち、さらにかかとを深く穿つ。しかし、ロロは壮絶な痛みのなかで死を覚悟して居直り、口を割らなかった。カーメルは男を撃ち殺した。こめかみに、6発撃ちこんだ。しかし、最終的に、二人はオリジナルの所在を突き止める。片親違いの妹に預けていたのだ。二人は妹の家に行き、テープを取り返して、当人と、同居の男、ヒモのような存在の男を撃ち殺した。
 二人が立ち去ろうとしたとき、アパートの隣に住む5歳の女児がドアを開けて廊下に出てきて、二人の姿を見た。
 女児の記憶に基づいてモンタージュ写真を作成したが、二人とも頭をスカーフで包み顔を隠していたので、役には立たなかった。
 
 ルーカスは、あるきっかけから当初の人妻殺しと後続殺人事件について、カーメルが関わっているのではないかと疑うようになった。そこで、策略を用いてカーメルの家の合い鍵を作り、女の自宅に忍び込む。証拠を物色し、電話/住所録やコンピュータ内部データを漁った。容疑はますます強まる。友人のハッカーに依頼しての通話先追跡やFBIによるさらなる調査などを経て、ウイチタに出張する運びになったのであった。

*1.この殺された妻というのは バーバラ・アレン(Barbara Allen)という女性で、昨日の記事で次のように描写している。夫の名はHale Allen、財産権/不動産分野を専門にしている弁護士である。
----------------------
 クララ・リンカー(Clara Rinker)という女の殺し屋(
殺人請負人)がミネアポリスで地元名家出身の裕福階級女性を殺す。立体駐車場の昇降階段ですれ違いざまに至近距離からサイレンサー装着22口径銃で後頭部を撃って即死させ、さらに一発、倒れた後 もこめかみに5発、合計7発の弾丸を撃ち込んだ。たまたま現場に出会わした市警官も撃たれて重傷を負う。(2011.10.30過去記事「シェリル追想―その3」で、その場面を詳しく描写している参照されたい)
          ********************◆◆◆*****************

  話を戻して、ルーカスが店に現れたことによって異変を察知したリンカーは、急遽ミネアポリスに飛び、カーメルと状況分析をする。リンカーは、ロロの妹を殺した際に廊下で顔を見られた女児の家に、宅配便配達を装って押しかけ、親子が警察に何をしゃべったのか、他に同アパートの住民で目撃した者がいたのかなどについて尋問する。そのうえで、尋問しに来たことを口外しないように口止めをする。しゃべったら殺すと。
 母親(Jan Davis)は、卒業後再入学による学位論文執筆中の大学院生であり、夫と離婚手続き中である。
 母親は心底ビビったが、ヘザー(Heather Davis)という名の 女児は警察に通報する。
 通っている保育園には、児童との触れあいキャンペーン活動で、「優しいおまわりさん」(Officer Friendly)が何度か出入りしており、電話番号入りのその立ち姿ポスターが教室の後壁に貼ってある。この、「優しいおまわりさん、オフィッサー・フレンドリー」に園長室から電話して、脅迫事件をシェリルに、ルーカスに連絡してきた。休憩時間に、園長が園児を引き連れて外に出た隙に、園長室に忍び込んで電話したのである。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 さて、さて、ついつい話が長くなって、いつまでたっても終わりそうにない。以降は端折ることにしよう。

――中断未完、続く――

 

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2011年12月 5日 (月)

シェリル追想―その4(6)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"

                                                   <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2011.12.5
         <<<フォックストロットで喜悦の一夜を過ごしたマローン、FBI女性捜査官>>>
  「シェリル追想―その4。シェリル撃たれる」('2011.11.9)、「その4(2)」(11.15)、「その4(3)」(11.22)、「その4(4)」(11.23)、「その4(5)」(12.2)に続く記事である。

 前回の記事(「その4(5)」)は次のように終えた。
********************************
  "By the way, you remembered Malone?"
 
"Of course. How is she?"
 "She's fox-trotting with somebody else," Mallard said.
 "Uh-oh, Gonna be number five?"
 "Could happen, ........................................."

 「ところで、マローンのこと覚えているだろう」。
 「もちろん。元気でやっているかい」。
 「やつだけど、あいつ、このところフォックストロットを踊りまくってるんだ」。
 「えっ、ほんとかい。5人目の亭主にするつもりか」。
 「可能性はあるな・・・・・・」


 
フォックストロットを踊りまくっている」とは、「(アレを)やりまくっている」ということの隠喩だ。あるいきさつ、ルーカス、マローン(Malone)、マラードの三人だけが知るいきさつからきていることだ。
 シェリルも、間接的にではあるが、このいきさつに関わっている。
  いきさつは、稿を改めて説明することにしよう。

*********************************
 こう終わっている。そこでその説明だ。もちろん、シェリル追想を兼ねている。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 第10作Certain Prey(「確実な獲物」の意。邦訳版があるかないかは不知)でのできごとである。

 クララ・リンカー(Clara Rinker)という女の殺し屋(殺人請負人)がミネアポリスで地元名家出身の裕福階級女性を殺す。立体駐車場の昇降階段ですれ違いざまに至近距離からサイレンサー装着22口径銃で後頭部を撃って即死させ、さらに一発、倒れた後もこめかみに5発、合計7発の弾丸を撃ち込んだ。たまたま現場に出会わした市警官も撃たれて重傷を負う。(2011.10.30過去記事「シェリル追想―その3」で、その場面を詳しく描写している参照されたい)
 殺人課のシェリル(巡査部長)や、長年ペアを組んできている相棒のブラックらが捜査に乗り出すが、この若い殺し屋女は、12、3年間で27人も殺している殺人鬼で、FBI(連邦捜査局)が長年必死になって追っている相手だった。
 そのようなことで、FBIと密に連絡をとりながら捜査を進めていくことになった。連携相手は、ワシントンD.Cの本部にいるルイ・マラード(Louis Mallard)だ。この殺人鬼逮捕に執念を燃やしている。

 捜査が膠着状態に陥るなか、シェリルが案を出す。
 セントルイスのマフィア20人余について、ミズーリ州南西部やカンザス州東部にかけた過去電話を追跡したら、リンカーに殺人依頼を出している元締めを割り出せるのではないか。
 「この一週間で始めて出た良案だ」、
 ルーカスが褒め、すぐに案をマラードに伝えた。

 マラードは喜んだ。電話会社相手の捜査活動はお手の物だ。直ちに、三人の部下を作業に貼り付ける。

 ――有力な容疑者が浮かびあがった。カンザス州ウイチタ(Wichita)の人間だ。女じゃなくて男だ。小柄なプエルトリコ人だ。女装して殺しをやってきたのである。容疑固めをするために、これからウイチタに向かう――

 マラードから、翌日の午後ルーカスに、このような電話が入った。
 これまでポルシェで何度も長旅をしてきたが、さすがにウイチタまでとなると疲れる。ルーカスは、ポルシェ販売店から売り物の中古BMW-740ILを借りて、650マイル(1,040キロ)を9時間で走った。なぜドライブか。飛行機恐怖症なのだ。
 あちこち痛みのきている車だったが、走行は快適だった。
 モーテルにチェックインして、ワシントンD.C.本部交換台経由でマラードに連絡し、落ちあい場所、Joseph'sという名のレストランに向かう。
 15分で着いた。ちょうどウェイターが料理を席に並べているところだった。

 マラードは女性と一緒だった。角ばった顔で、髪はグレーだ。自分と同じぐらいの齢だろう、ルーカスはそう踏んだ。40代半ばだ。名はマローン(Malone)だという。

 「マローンは、チームで法律問題を担当している専門家だ」、ステーキに手を伸ばしながらマラードがいう。「盗聴記録や捜査令状などの事務を管掌し、判事との折衝を行う」。
 「あなたも捜査官ですか」、ルーカスが問う。
 マローンは、小さな四角い肉片を口に押し込んだばかりだったので、答える代わりにピンストライプのジャケットの左側をはだけて、黒い自動拳銃の握りを見せた。
 「すごいアクセサリーだな」、
 ルーカスは、ちょっと気を惹くような風情でいった。
 「わたし、おまわりの口説きに弱いのよね」、マローンは飲みこんでからいった、
 「どきどきしちゃうわ」。

 「よせやい」、マラードがいう、「中年の求愛なんて、みてられないぜ」。
 「この人、何が気に食わないんだ」、ルーカスがマローンに問う。
 「離婚したばっかなのよ」、マローンが頭をマラードの方向に振っていう、
 「まだ未練があるの」。
 「ああ、そりゃ悪かった」。
 「うそだ・・・・・・まあ、とにかく、完全に終わってる」。

 マラードはこういったが、一瞬悲しそうな顔をしたので、ルーカスは背中を叩いて、「そのうち忘れるさ」と慰めたくなった。しかし、ルーカスは(
ウェザーとの離別の経験から)忘れられないことを知っていた。マラードも同じだろう。
 「それに」、マラードがいう、「その状況は、オレだけじゃないから」。
 「私のこといっているのなら、お門違いよ」、マローンがいう、
 「みんな、ろくなもんじゃなかったから」。
 「みんな?」、ルーカスが問う。

 
 「バツ4だ」、マラードがフォークをマローンの方に突き出すようにしていう。
 「なんだって」、とルーカス、「FBI局内の相手とか」。
 「二番目のがいなかったら、私は今ごろ副長官になっていたわ」、マローンがいう。
 「そいつ、何をやったんだ」、ルーカスが問う。
 「役者だったのよ」。
 「へボ役者だ」、マラードがいう。
 「違うわ、うまい役者だったんだけど、裸シーンから抜けられなくて」、マローンはいう、
 「裸場面の撮影現場で、裸のままワシントンポスト紙のインタビューに応じて、妻がFBI捜査官だと話したの。それが致命傷になった」。
 「出世の泳ぎが下手だったんだ、私もマローンも」、マラードがいう、
 「二人とも、いまだに白シャツを着ている」。
 「五人目はもう確保できてるんですか」、とルーカスが問い、
 「まだ」、「だけど、あちこち探しているわ」、マラードが応えた。


 マラードが話題を転じ、Lopezという名のその容疑者を24時間体制で監視しているのだとルーカスに状況を説明し、これまでの電話盗聴録音の編集済みテープを貸すから今晩聴けといい、明日逮捕を前提に動くという。相手が動きを見せたら、逮捕するのだという。ルーカスは行動を共にする許しをもらい、
 「しかし、私は相手に顔を見られたくない。そいつがツインシティ(ミネアポリス/セントポール)に出入りしていたとすれば。私は、この件でテレビに何度か出ているから、相手が気付くかもしれない」と告げる。
 「あ、そう、ということは、あなたって、セレブリティなのね、地元のヒーロー」、マローンがいう。
 「さあ、いくぞ・・・・・・、マローン、一緒に来るかい」、マラードがさえぎった。


 ホテルのマラードの部屋で件のテープを聴く。ルーカスは、その会話の内容からして、電話の主は麻薬の、ヘロインの末端売人であると判断する。末端売人は、例外なくジャンキー(中毒者)である。したがって、確実性と厳重な秘密を要するプロの殺人依頼をジャンキーに対してすることはないから、その男は犯人ではないと述べる。マラードはその見解に賛成しない。
 テープを聴き終えて、あれこれいいながらしばらく座っていた後に、マラードがいう。

 「ケーブルテレビでヤンキースの試合やってるが見るかい」。
 「いや、外に出たい、一日中車に座りっぱなしだったから」。
 「どこへ行くつもり」、マローンが問い、
 「バーにでもいって、ビールを二、三本」、ルーカスが答える。
 「付き合うわ」、「ゆったりした服に着替えてくる」、マローンがいう。
マラードがため息をついていう、
 「いいだろう、テレビを眺めているよりはいいかもしれない」。
マローンがマラードの顔にちらっと眼をやり、「邪魔よ」というように、額に細いしわを一本寄せ、0.5秒でそれを消した。そしていう、
 「30分後にここに集合しましょう」。


 マローンは黒のスラックスに、ゆったりとした黒のジャケットを着ていた。その下には薄手のブラウスだ。さらにその下には、ルーカスが思うに、フリルのついた黒のブラをつけているにちがいない。ジャケットの左側は、セミオート拳銃の膨らみをかすかに見せている。女が先にドアを出たので、空気に香水がかすかに匂った。エキゾチックなそれだ。
 マローンが素早く助手席に乗り込み、マラードは後部座席に座った。マローンはダッシュボードの計器類、ライト類、ドア、ハンドルなど検分していう。
 「小さな町の警官がなんでこんな車に乗れるの、わたしたちはトーラスに乗ってるっていうのに」。
 「俺たちは政権交代のたびに汚職と戦っているからだ」、マラードがいう。
 「ミネアポリスはD.C.より大きい」、ルーカスがいうと、マローンが鼻を鳴らし、マラードが、「いいよ、もう」と牽制した。

 
 ダウンタウンに行く途中に、停車しているパトカーがいた。ルーカスは、その鼻先に車を止めた。
 「なにをするつもり」、マローンが問う。
 「調査だ」、ルーカスはそう答えて、警察バッジを掲げてパトカーに歩み寄り、窓ガラスを開けた運転者に、バッジケースを開いてみせて、いう。
 「こんちわ、ミネソタから来た警官だ。友達と一緒なんだけど、バーかカクテル・ラウンジを捜してんだ、ほら、ちゃんとした店を、どこか知らないか」。
 運転者はルーカスのバッジケースを受け取ってしばらく検分し、鼻を鳴らすようにいう、
 「副署長だってか、え」。
 バッジを返し、
「大して多くはないんだが・・・・・・」、
助手席の相棒の顔を見て、
 「どうだ、リンクなんか」。
 「まあ、ベストだろうな」、相棒が応じ、
 「真っ直ぐ4ブロック進むと二つ目の信号があるから、そこを右折して、さらに四、五ブロック行くと、リンク(Rink)という店がある」、とルーカスに応えた。
 「そりゃいいや」、ルーカスが背筋をまっすぐに戻し、
 「仕事が終わったら来たらどうかね、まだ俺たちがいれば、一杯おごるよ」。
 「そりゃすまんな、だけど俺たちゃ徹夜勤務だ」、運転者がいい、さらにいう、
 「なあ、訊いていいかい、(
こんな車に乗りやがって)ミネアポリスじゃ基本給、いくらくれるんだい」。

 三人でしばらく給料や休暇や病欠制度などについて語り合った後にルーカスは740に乗りこみ、ボンネットを開けるラッチに足をひっけてしまい、外に出て、ボンネットを閉め、リンクに向かって出発した。

 ボンネットのラッチは壊れかかっているのだ。来る途中でも、同じ現象を何度も起こし苦労した。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 さて、いよいよフォックストロットの説明だ。
**************************************
 店の所有者リンカー、すなわち冷酷無比の殺し屋だが、リンカーは額を金づちで殴られたようなショックを受けた。
 なんと、ルーカス・ダベンポート(Lucas Davenport)が現れたのだ。店に入ってきた。
 バー(カウンター)の後ろに立っていたのだが、一瞬頭脳に火花が散り思考が停止した。5秒後に立ち直り、相手に連れがいることに気付いた。弁護士のような女性と、学者か大学のレスリング・コーチのようにみえる首の太い男と一緒だ。顔をそむけてカウンターを抜けて裏部屋に入り、半面鏡の窓から相手を観察しはじめた。

 どうやら、ダベンポートは、ほんとに偶然に、何かのきっかけで偶然この店に来合わせたようだ。みていると、弁護士風女に盛んに冗談を飛ばし、女はそれを喜んでいる。
 店にはダンスホールがある。ホールのフロアは、磨きをかけた楓材(かえで材)だ。破産した空手道場の床を移設したもので、市内随一のフロアだ。人工皮革張りの椅子を配したブースが、フロアを取り囲んでいる。週末なので生バンドが入っている。一行が入ってきたときには休憩中だったが、バンドがスタンドに戻った、3回目、ラストステージだ。リンカーはブースを順に回って、客のご機嫌をうかがう。バンドがウェスタン曲を奏で始め、数組のダンス客がフロアに散った。

 ルーカスは、マローンを軽く口説いていた。マラードは、会話を捜査の話にもちこもうと、しゃかりきだ。マローンは捜査話はしたがらない。しかし、ルーカスがダンスを誘っても応じなかった。
 「こういうのは踊らないのよ」。
 「何か、哲学的な理由でもあるの」。
 「ロックだとかカントリーは踊らない。それだけのこと。やったことないもの、私はフォックストロットを踊るし、ワルツも踊れる。だけど、こういうのは踊れない、こういう,、なんていうか、ほら・・・・・・」。
 「堅苦しく考えすぎだよ・・・・・・」
そのとき、一人の女が席で立ち止まり、
 「楽しんでいただいていますか」、と声をかけてきた。
 「ああ、大いにね」、ルーカスが見上げながらいう。ウェイトレスではない。
 「どなたですか」、と問う。
 「オーナーのクララと申します、うまくいっているかどうか、席を回って確認させていただいております」。
 「いい店だ。ミネアポリスにも店を出したらいかがですか」。


 ミネアポリスからですか。そうだ。連れは東部からだ。ウイチタへようこそ。
 こういう会話の後、リンカーが立ち去ろうとした。しかし、おそらく、いつもより一杯多く飲みすぎたのであろう、マローンが口を出した。
 「あなたのとこのバンド、ワルツはやらないんでしょうね」。
 「そうですね、やらないと思います。ワルツを踊りたいんですか」。
 「この人が踊ろう踊ろうといってきかないのよ」、マローンが長い首を突き出してルーカスを指し示して、
 「だけど、私はロック踊れないの、やったことないの」。
 「一度試されたらいかがですか」、リンカーがいい、素早く周りを見回して、
 「ちょうど手が空いていますから、よろしければ、踊りますか」、とルーカスを誘った。


ルーカスは、5秒間で、女がとうてい自分らの太刀打ちできる相手ではないことを悟った。
 「ダンサーでしょう、プロの」、こう問う。女は笑って答える。
 「そうですね、むかし、まあ、一種の」。
 「やっぱりな、ちょっと程度を下げてくれませんか、こっちのアラが目立ってしょうがない、それに、こっちは齢だし」。
 「あら、とてもお上手ですよ」、女はいう、
 「草深いミネアポリス出の、白人にしては」。

ルーカスは笑って、女を回転させた。
 二人はしゃべりながら、いや、音楽越しに怒鳴りながら、楽しく踊った。 

――続く――

 
 
 

 
 

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2011年12月 2日 (金)

シェリル追想―その4(5)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"

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2011.12.2
 「シェリル追想―その4。シェリル撃たれる」('2011.11.9)、「その4(2)」(11.15)、「その4(3)」(11.22)、「その4(4)」(11.23)に続く記事である。
  ルーカスとデルは、オルソン夫妻死亡現場モーテルから病院に戻った。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 シェリルはまだ手術台にいるという。
「なんてことだ、どれぐらいになるんだ」、マリ署長に訊く。
 署長は空き病室を占拠して、患者用の電話二本を両手に忙しくやりとりしてしていた。時計を見ていう。
「4時間」。
「あとどのぐらい」。
「分からないわ、ルーカス、行きなさい、何かやりなさい」。
「何をやりゃいいんだ」。
「なんでもいいから。ここにいるのは、あんたのためにならない」。
 さらに、デルを見やっていう。
「あんたも」。


[郡検事事務所(county attorney's office)で]
 署から地下トンネルを通って郡役所ビル(Government Center)に行きエレベーターで郡検事事務所に上がった。
 検事Randall Towsonと要件を話し終えた後、トーソンがいう。
 「マーシーの容態はどうだ」。
 「これから病院に寄るつもりだ。しばらく前に訊いたときには、まだ手術台にいた」。
 「ルーカス、大丈夫だよ」。
 トーソンはルーカスとマーシーのいきさつを知っているのだ。
 「彼女元気だし、手術台まで運びこみさえすれば・・・・・・」
 「うん、そう、そう願っているのだが」。
 「大丈夫、助かるさ、きっと助かる」。


3  市庁舎(City Hall、警察署はこの中にある)と、ヘネピン郡役所Government Center)。右下の丸印は無視されたい(立体駐車場)
Photo_2  ヘネピン郡検事(事務所)のウェブページ画像。左端ツインタワーが郡役所である。

 病院には、所在なさげに動いている警官が何人もいた。連中に頷きながら真っ直ぐ看護婦デスクに向かう。看護婦がルーカスの姿を認めて、否定の首を振っていう。
 「まだ出てきません。だけどドクターGundersonがコーラを飲みに出ていらっして、ほとんどの修復措置をやり終えたっておっしゃっていたから、もうそんなに長くはかからないと思います」。
 「助かるんだな」。
 「がんばっています。ですが・・・・・・」。
 看護婦はことばを濁し、権限もなく情報を流して咎められるのを恐れるように廊下の両側を見やっていう。

 「うん、うん、ですが、なんだ・・・・・・」。
 「ですが、乳房のすぐ下、中心線から数インチ外れたところを撃たれているので、肺臓被害の問題があります。それと、あばら骨のかけらが散らばって突き刺さっている問題。でも、脊髄には被害はありません。ですから、しっかりと出血を止めれば、そして体が持ちこたえれば、助かると思います。私はそう思いますが、実際に立ち会っているわけではないので」。
 「そうか、よし」、ルーカスがいう、
 「やつは、ものすごく強い」。


 看護婦デスクを離れ、ローズ・マリ署長が指令室として使用している空き病室にいく。副署長のレスター(殺人/強盗などの担当)がいた。

 ――トム・オルソンは多重人格(二重人格)症ではないか。警察の顧問シュリンク(精神科医)がそう示唆している――
 レスターが話題を持ち出す。いろいろ議論した後に、その件についてエル・クルーガー(Elle Kruger)の専門意見を仰ごうということになった。クルーガーは、ルーカスの幼友達、初恋の人、無二の親友、修道尼、修道院付属大学の心理学教授である。これまでにも、捜査を成功に導くうえで非常に貴重な助言を何度も受けている。     

 そうこうしているところに、メイプルウッド(Maplewood)警察署の警官から電話がかかってくる。
 手配していた車、行方不明になっているデリック・ディールの車が見つかったというのだ。相手先署長との連携で警官に指示してトランクを開けさせると、中に当人の死体があった。
 *デリック・ディール(Derrick Deal)は、サンディ・ランシング(Sandy Lansing)という女が勤めていたブラウンズ・ホテルでの、女の上司である。この女は、 アリーアイ・メソン(Alie'e Maison)殺害現場の捜索中に廊下のクローゼットから転がり出た死人である。 アリーアイ殺害事件時のパーティには70人余の裕福階層が出席していたが、女は、そういった面々に麻薬を調達している売人だった。その副収入で分不相応に豪華な服装をし、ポルシェを乗りまわしていた。ホテルはスポーツ選手などの著名人に人気だが、その高額さと超高級売春斡旋などの芳しくない噂で知られている。ディールは、売春斡旋、不法就労メキシコ女性従業員の弱みにつけこんだレイプ、セクハラ、チップのピンハネなどの悪行をやっていた。

Photo                    (ミネアポリスとメイプルウッド)

事件4日目
 ルーカスは眠れぬまま悶々と朝を迎える。7時に目覚ましが鳴る。病院に電話する。マーシーは依然として危篤状態で集中治療室にいる。しかし、生きている、昏々と寝ている。
 デルと二人で、スティルウォーター刑務所(Stillwater Prison、州刑務所)に行き、Rashid Al-Balah(ラシッド・アルバラー)という名の囚人から、それは、殺人罪で投獄したものの、その殺したとする相手、被殺害者、Tric Bentoin(トリック・ベントワン)という男がひょっこり生きて現れたという話題の人物なのだが、その囚人から、ランシングに麻薬を卸していた男、地域の大元締めの名を突きとめた。Richard Rodriguez(リチャード・ロドリゲス)という。
 刑務所に行く前に病院に寄っていた。その際、傷口から血が漏れ出ている疑いがあると告げられていた。心配だ。
 
 刑務所から戻ってきて寄ると、手術室に運び込まれたという。
「なに」、とルーカス。
 看護婦が腕時計をみていう、
「15分前に」。

  監視し続けてきたものの、血圧が上がらないので、出血場所を突き止めて完全に止血するために手術することにしたのだという。

1 スティルウォーター刑務所(Stillwater Prison、州刑務所)。元々は、2マイルほど北方に設置されたのだが(1851)、手狭になったので、この拡張施設を作ったのだという(Wikipedia)。

2           ミネアポリスとスティルウォーター(Stillwater)の位置関係。赤い気球印が刑務所施設

事件5日目、水曜日。
 病院に行く。
 ブラック(Black)が訪問者用の椅子に前かがみになって突っ伏していた。ルーカスを見て起きあがる。ひげが伸びている。
「何も変わらないけど、たまに意識が戻るようになった。今はまた昏睡している。しかし、医者は、平常に戻るところまできているといっている。今日あたり目覚めるだろう」。

 ルーカスはベッドの顔を見つめる。マーシーは、常に、署内で最も活発な人物であった。常に何事かをやっていた。何かを動かしていた。ベッドで支えられているなんて、らしくない。細く、やせ衰えて、疲弊しきっているようにみえる。ルーカスはブラックの肩を叩き、「大丈夫だよ」といって立ち去った。


Photo_34   シェリルとルーカス。USA Network社映画"Certain Prey"の予告編/TV放送報道YouTubeから。上の画像は、署の殺人課事務所、下はルーカス(特別犯罪捜査/諜報/情報収集担当副署長)の個室事務所であろう。

 件(くだん)の麻薬大元締め、ロドリゲスは、ある銀行から金を借りまくって建物を買い漁り、大々的にアパート賃貸事業をやっている。ヤクで稼いだ金のマネーロンダリング(資金洗浄)のためだ。銀行の不動産融資担当幹部職員が、この不法活動に手を貸している疑いがある。銀行に出向いて、この職員の事情聴取をする。

 病院に戻る。シェリルは依然として危篤状態ではあるが、容態は改善しているという。始めて明るい兆しが見えた。
 看護婦が、「一分だけですよ」と厳しい顔つきで命じて、マスクを着用させ、部屋に入れた。
 マーシーの瞼は半分閉ざされていた。ルーカスとデルとブラックが寄っていくと、目が部分的に開き、しばらくして唇の端を歪めた。
 「寝てて給料がもらえんだ」、ブラックがいう。
 「オレは残業申請書にサインしないよ。君は依然として殺人課所属だからな」、ルーカスだ。
 「マーシー、死んだら、あんたのピストルオレにくれるかい」、これはデル。
 シェリルは何かを云おうとしているのだが、ルーカスには聞こえない。そこで、屈んで耳を近づける。シェリルの唇は干からびている。
 「なんだって」、ルーカスが問う。
 「くそったれ」、シェリルが呟く。頭をほんの少し廻した。

「おお、よくなった!」、ルーカスが喜び声でいう。
「くそったれ」っていったぜ。

 ルーカスはベッドの傍にしゃがみこみ、青色のマスクの下からいう。
「痛いだろう」、「だけど、もう大丈夫だ、きっと治る」、「撃った男は、絶対に捕まえる」。
 シェリルが頭を廻して顔をそらし、瞼が再び閉ざされた。
「時間です、出てください」、看護婦が告げた。

 ホールでルーカスがいう。
「あいつ、よくなったぞ、えっ、よくなったぞ」。
「ああ、よくなった」、ブラックがいう。
「驚いたな、44口径で撃たれたんだぜ、えっ、かなりよくなった」、デルがそういい、ジーパンを腰にずり上げた。全員が互いに頷き合った。


 署に戻って、ワシントンD.C.のFBI本部にいる友人、ルイ・マラード(Louis Mallard)に電話する。この男は、数カか前に(夏、現在は11月)、それまで30人もの人を殺害していた殺し請負人、クララ・リンカー(Clara Rinker)という女の殺し屋追跡で行動を共にした相手だが(第10作"Certain Prey")、これにFBIデータベースからの情報調査を依頼したのだ。

 次いで、署長室でロドリゲス監視その他についての作戦会議。デル、殺人/強盗凶悪犯担当副署長レスター(Frank Lester)、郡検事トーソン(Towson)、検事補ロング(Long)といった面々とだ。
 途中でFBIマラードから電話が入る。署長の秘書が顔を覗かせ、「ホワイトハウスだっていう男の人から電話が入っているんですけど、冗談ではないみたいです」という。
「出た方がいいわ」、と署長。
 マラードからだった。「『署長室で会議中』だと秘書がいうので、担いだのだ」、といって笑う。
 いろいろ話をしたうえで、マラードがいう。


 "By the way, you remembered Malone?"
 
"Of course. How is she?"
 "She's fox-trotting with somebody else," Mallard said.
 "Uh-oh, Gonna be number five?"
 "Could happen, Anyway, we'll grind some more on Rodriguez, but I thought you'd want to know he was collecting cash."


 「ところで、マローンのこと覚えているだろう」。
 「もちろん。元気でやっているかい」。
 「やつだけど、あいつ、このところフォックストロットを踊りまくってるんだ」。
 「えっ、ほんとかい。5人目の亭主にするつもりか」。
 「可能性はあるな。とにかく、ロドリゲスが金をかき集めていることを知らせておいた方がいいだろうと思って電話したんだ」。


 「フォックストロットを踊りまくっている」とは、「(アレを)やりまくっている」ということの隠喩だ。
あるいきさつ、ルーカス、マローン(Malone)、マラードの三人だけが知るいきさつからきていることだ。
 シェリルも、間接的にではあるが、このいきさつに関わっている。
  
  (以上、John Sandford, "Easy Prey"Berkley mass-market edition/ March 2001, ISBN 0-425-17876-5、183-257ページから)

  いきさつは、稿を改めて説明することにしよう。

――続く――

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2011年11月23日 (水)

シェリル追想―その4(4)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"

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2011.11.23
 「シェリル追想―その4。シェリル撃たれる」('2011.11.9)、「その4(2)」(11.15)、「その4(3)」(11.22)に続く記事である。

 ルーカスは、ヤエル・コブ(Jael Corbeau)宅を出た後、ミネアポリス北東直線4マイル(6.5キロ)ほどのところにあるノース・オークス(North Oaks)に向かい、そこで部下のデル(Del Capslock)と共に、麻薬ディーラー宅のがさ入れ(家宅捜索)をしていた。その現場に、署長ローズ・マリ(Rose Marie Roux)から急報が入る。シェリルが撃たれたと。
 シェリル(Marcy Sherill)とは、ヤエルの家でさっきまで一緒だった。別れたばっかりだ。

 事件は、超人気モデル、アリーアイ・メソン(Alie'e Maison)が殺されたことから始まった。パトロン的存在の富裕女性が主催した夜間パーティに出席して、その家の寝室で殺されたのである。当人の死体発見後、廊下のクローゼットから、もう一人の女の死体が転がり出た。アリーアイの死体には、死ぬ前になんらかの性行為を行った痕跡がある。ヤエルの口から、この性行為は、アリーアイとヤエルともう一人の女によるトリプル(3人)同性愛プレイであることが分かった。
 当日の昼間、このモデルのファッション・アート・ビデオ撮影があった。撮影を指揮したのは、写真家兼ファッションアート・ディレクタ/プロデューサのアムノン・プレイン(Amnon Plain)という男であったが、この男も、モデル殺人の捜査が始まった後に、続いて殺された。ヤエルは、このプレインの妹である。二人ともパーティに出席していた。このパーティには70人余が出席したが、その大半がヤクに汚染されているようだ。転がり出た女は、高級売春斡旋が噂されている高額ホテルの従業員であるが、上記パーティ出席者のような層に麻薬を売って巨額の金を稼いでいた。そのことが、同じく、ヤエルの口から判明した。

 ルーカスは病院に急ぐ。心は千千に乱れる。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 ルーカスは運転に集中した。次々と車を追い抜いていく。デルがナビゲータ役を務め、割り込む隙間を知らせる。
 「あの赤の後ろを左に行け、そのまま左をずっと、いけ、いけ・・・・・・」。
 ランプを降り、I-35Wのコーナーを廻り、古いブロンコ(Bronco)とシボレー・ピックアップ・トラックの間をすり抜けて。

 行程の半分ほどきたときにルーカスがいう。
前にも、これと同じ状況があったな」。
「シェリルのやつあいつはいっつもこうなる」、デルがいう、
「この前は、出血多量で死ぬところだった」。
「ローズ・マリがいうには、ひどいようだ」、ルーカスが呻く、
「ひどいっていうんだ・・・・・・」。


Photo_11        ノース・オークスから、I-35W(インターステイト35西)を図のように南に下ってきた。

Photo_10   ミシシッピー川を越してしばらく走って右折すれば、ヘネピン郡医療センターだ。右側にメトロドームがある(2010年12月に雪の重みで屋根が陥没したが)

 
ルーカスとデルは、救急室に駆け込んだ。
 入ってすぐの廊下に、血の気の引いた、蒼い顔のヤエル・コルブが立っていた。二人の警官が脇にいる。
「どこだ、シェリルは」、とルーカス。
「手術中」、ヤエルがルーカスに近寄りながらいう。
「さっき運びこんだばっかり」。
 ルーカスは廊下を手術室に向かった。ローズ・マリがレスターと一緒に立っている。
 レスターがルーカスの腕を掴んでいう。
「落ち着け」。
 ローズ・マリがいう。
「なにも見ることはできなわ、ルーカス」。
 レスターが付け加える。
「もう意識がないんだ、ルーカス。麻酔をかけた」。
 ルーカスは息を整えた。デルがすぐ背後にいることに気付いた。
「傷はどれほだ」、とデルが問い、
「助かるか」とルーカスが問う。

「二回撃たれた」、「一発は腕、一発は左胸、肺がいかれた。左側に転がったから死なずにすんだ。わき腹で横たわっていなかったら窒息しただろう、と医者はいっている。 
「助かるか」、ルーカスが問い、レスターが答える、
「ひどい。しかし、生きている。生きたまま運びこんだんだから・・・・・・」。
「ああ、なんて、なんてことだ」。
 ルーカスは壁に崩れ落ち、目を閉じた。
「そうだ、ヤエルだ」、ルーカスは壁を押して立ち上がり、入口に向かった。ヤエルはまだそこにいた。

 

「何が起きたんだ」。
 ヤエルが堰を切ったように説明する。
「ダウンタウン(警察署)にいこうとして、家を出たの、そしたら通りから自動車がやってきて、窓が開いて、マーシーが私に怒鳴って、ピストルを引き出して、その男がわたしたちに向けて発射し始めたの。マーシーが私を突き飛ばして、そして倒れたの。自動車はそのまま走り去って、私がマーシーを見たら、体中血だらけで、家に走り込んで911をして、また出てきて、必死で血を止めようとして、救急車が来たので、抱えていた体を下ろして・・・・・・」。

「数発撃たれた」、
 制服警官の一人がいう。
 ヤエルが頷いてルーカスに歩み寄り、そのシャツを両手で握りしめていう。
シェリルは、こういった。あなたにこう伝えてくれって、いったことはそれだけ、シェリルは、自動車を撃ったっていったの。『ルーカスに、私は車を撃ったって伝えて』って」。
「どんな車だ、登録番号覚えているか」。
「いや、いや、車はちらっと見ただけ、シェリルが私を突き飛ばしたから」。
「何も見ていないのか」。
 ヤエルはルーカスのシャツを握ったまま目を閉じた、そして、いう、
「黒っぽい車だった、長くて黒っぽい」。
 ルーカスが念を押す、
「長くて黒っぽい」、「どういうことだ、長くて黒っぽいって、メルセデス・ベンツとかキャデラックのような車か」。
「違う違う、そういう感じじゃない」、「単に、長くて黒っぽい感じがするって感じ」。
「アメリカ製か」。
「分からないわ、20年前ごろの大きな車、だけど、なんていう車かは分からない。ああ・・・・・・」。
 ルーカスはヤエルの身体に両手を廻して抱きしめた。
「いや、よくやった、よくやった」、「何かを記憶しているだけでも驚きだ」。

 署に指示を飛ばす。警官を総動員して、長くて黒っぽい車を探せ。弾丸の跡のある車が近隣にいないか、しらみつぶしに探せ。しかし、ヤエルの自宅は半ダースものインターステイト道路(州連結道路)の入口ランプのすぐそばにある。希望は薄い。
 病院では、新たな医者がもう一人到着して手術室に急いだ。血管外科だと看護婦がいう。
 「どういうことだ」、ルーカスが問う、
  「心臓手術か」。
 「さあ、わかりません」、看護婦が答える。
 手術室看護婦が一人、手術室から出てきた。ルーカスとデルはその行く手を塞ぐように遮って状況を訊く。
 「どうなんでしょう、わかりません」、「生きています、呼吸器で息をさせています」。

 一時間後、デルがいう。
 「ここにいても、俺たちには、どうすることもできない、
  できることは、死んだということを知ることだけだ、もし死ぬとしたら」。
  「じゃあ、どうしようってんだ」、
 ルーカスは腹立たしい。同時に、恐ろしい。声が嗄れている。
 「オルソンを探して、車を見よう」、デルが応える。

*************************************
 
シェリルは以前にも一度、撃たれたことがある(*1)。出血多量で死にかけた。そのとき、デルは現場から病院まで、シェリルを介抱した。ヘリコプターだ。必死になって動脈を押さえながら。数週間後にシェリルは、そのためにできた青痣についてデルに苦情をいった。
「弾の穴はなんてことなかったのよ」、
「だけど、デルが押さえたためにできた、あの青痣、あれでもうお尻が痛くて痛くて・・・・・・」。

「車種、分かるかい」、ルーカスがデルにいう。
「青黒い1986年製ボルボ・セダンだ」、
「オルソン夫妻はFour Windsに泊まっているといっていた。そこから始めよう」。
「オレが運転する」、ルーカスがいう。

 
モーテルの駐車場にボルボがあった。古くて黒っぽい。しかし、銃弾の痕跡はなかった。残念がっているところに、建物の角から、オルソンが、その角の傍に設置してある販売機で買ったのであろう、ポテトチップスをかじりながら現れた。
「何やってんだい」。
「あんたの車を調べてたんだ」。
「なぜ」。

 いろいろことばを交わすが、収穫は得られそうにない。シェリルの容態が気にかかる。引きあげることにする。オルソンはモーテルの入り口に立ち、二人がポルシェに乗りこむのを見届けて中に入っていった。駐車場を右折して100フィートほど進み、赤信号で止まった。そのとき、異変が起きた。

 オルソンが両手を振り回しながら駐車場を横切って走ってくる。何事かを怒鳴っている。あるいは、悲鳴をあげているのか。走ってくる様子に、気が触れたような異様な感じがある。荒々しいフルバックの走りのようだ。タックルしようとかかってくる何人もの相手を、目に見えない相手を掻き分け押し倒しながら前進してくるような。
 ルーカスはエンジンを止め、デルともども外に出た。信号が青に変わり、後ろについていたレクサスがクラクションを鳴らす。ルーカスは運転者に合図して、オルソンの方に向かう。オルソンは50ヤード(45m)手前まできたところで突然立ち止まり、息切れしたかのように、前かがみになって両手を膝に置く。

 レクサスの運転者が車を降り、警察官だという釈明にもかかわらず、怒鳴り、悪態をつき、クラクションを鳴らし、後続車が追随する。一帯は喧騒のるつぼと化した。
 オルソンが、突然立ち止まったと同じように唐突に飛び上がり、ルーカスらに向かって走りはじめた。駐車場を縁取る芝の帯のうえで、対面方向からやってきた二人の数フィート手前で立ち止まり、騒音を背景に、目を張り裂けるほど大きく見開き、両耳の上の頭髪をむしり取るように両手で掴み、口を開くが声は出ず、顎だけをガクガク動かす。そして、顔面を下にしてぶっ倒れた。

 デルが911通報する。罵声とホーンの喧騒は続く。ブルーミントン市警のパトカーがやってきた。警官二人のうち一人は巡査部長でルーカスのことを知っていた。事情を説明する。レクサスのドライバーに、「公務執行妨害で留置場にぶち込むぞ」とひと脅しくれる。救急車と援軍が間もなく到着するだろう。
「モーテルの部屋を調べに行く。援軍が着いたら、一組をモーテルに寄こしてくれ」。
「オーケイ」。
 後を任せて、モーテルに向かう。

 オルソン夫妻が死んでいた。それぞれベッドに横たわって。夫は入口に近いベッドに、服を着たままうつぶせで、頭が異様な角度で右に曲がり、片方の腕をベッドの外に伸ばし、その下の床に拳銃転がっている。妻は隣のベッドで、靴を脱ぎ、服を着て、仰向けに、枕に頭を乗せ、こめかみに銃弾の入った赤い傷痕がある。

 オルソン夫妻の車も、息子トム・オルソンと同じダークブルーのボルボだった。ただ、型が10年新しい。その車には銃弾の痕があった。

◆◆◆◆◆◆◆◆
■脚注*1―「前にも撃たれたことがある」について
 第7作"Mind Prey"でのできごとである。少し詳しく振り返っておこう。

****************************
 精神科女医親子(
12歳と少し下の女児二人)が拉致された。監禁場所で凌辱されるがままの時間が過ぎていく。二日、三日、四日・・・・・・。必死の捜査が続くなか、誘拐犯人に内通して捜査情報を逐一漏らしている疑いが二人の女に対して浮かびあがる。二人とも被害者女医の身近にいる者だ。どちらの女かはっきりしない。確証もない。
 五日目、犯人からルーカスに電話が入る。これから監禁場所に行って人質を殺すという予告だ。止むをえぬ。ルーカス捜査班は、急遽女二人を逮捕し、署の尋問室で二人を責めに責めて、やっとの思いで片方から情報を吐かせ、犯人を突きとめた。

 時間に追われる。ヘリコプターで逮捕に向かう。親子がまだ生きていればよいが。
 ヘリは署の通りを挟んだ向かい側、ヘネピン郡役所'(Hennepin County Government Center)前のプラザに待機させてある。ルーカスとデルが署の外に出る階段を駆け上がっているところにシェリルが現れた。
 「無線で聞いたわ」。ジーンにブーツ、格子縞のシャツに野球帽をかぶっている。
 「悪い、行かなきゃ」、デルと二人でシェリルの脇を駆け抜けながら、ルーカスが振り返ってどなる。
 「私も行く」、シェリルが後を追う。
 「いや、こなくて・・・・・・」、ルーカスがいいかける。
 「ふざけんな、行くわよ、わたしも」、シェリルが遮り、「どこ?」と問う。
 ヘリが、ローターを回転させて待っている。テレビカメラ隊が三人の姿を捕え、チョッパー(
ヘリ)に向かって後を追う。
「行くぞ」、ルーカスがパイロットに。
「どこ」。
「イーガン(Eagan)だ、超特急で」。


 パイロットは、I-35とハイウェイ55の立体交差まで行って、その上空を旋回しながら待機しようという。地上から犯人の家の正確な住所を知らせてくることになっているのだが、なかなか連絡がこず、一同歯ぎしりをしているのである。
 「もう間に合わないかもしれない。予告電話が入ってから1時間15分も経っている。何もなければ家まで45分で着く(ミネアポリスから)。やつが最後にもう一度ということで、彼女にかかっていってくれておればいいのだが」。ルーカスがいう。
 パイロットが、女パイロットだが、ルーカスの顔をしげしげと見ていう。
「かかっていくって、もう一度犯してくれておればいいがっていうこと?」。
「そうだ、やつがずっとし続けていることだ」、ルーカスがいう、
「死ぬよりはましだ」。
「ああ、なんてこと」、パイロットが顔をそむけて、目指す立体交差に向かって急降下した。
 「あそこだわ、なんて渋滞なの、何があったんだろう」
 一同下を見ると、全方向ともに大渋滞だ。いたるところで警察車両のブルーのライトが点滅している。
 「やった、連中が時間稼ぎをしてくれている、渋滞を抜けるには2時間かかるだろう、
 もしかしたら、チャンスがあるかもしれない」。

 やっと連絡が入った。
 名前はLaDoux(
ラドゥ)、住まいはFarmington(ファーミントン)のすぐ北側、Pilot Knob Road(パイロット・ノブ・ロード)から1マイルほどのNative American Trail(「土着インディアン街道」の意)沿いだ。

       ――いろいろあって――

 犯人は監禁場所の地下室から人質を連れだそうとして思わぬ逆襲に合い、胸と、顔面、鼻、目にひどい刺し傷を負う。地下室から逃げてきて、家の前の草むらに膝を突く。左を見て、ショットガンを持ち上げる。警官の数が多くなった。地下室から男のどなり声が聞こえる。チョッパーの轟音が近づき、家の後ろから現れ、頭上6フィート(1.8m)でホバリングし始めた。

 シェリルが家の角から走り出てきた。二人は、同時に相手に気付いた。シェリルのピストルが持ち上がり、一発。弾丸が犯人のコートの端を剥ぎ取った。犯人が一発撃ち返した。シェリルが倒れた。両足を膝の後ろから押されて崩れ落ちるように。

 ヘリが巨大なバッタのように攻めかかってきた。犯人はガラスの向こうの、黒いバイザーを着用してパイロットを狙って、ショットガンを発射した。何も起きない。スライドをポンプするのを忘れていたのだ。チョッパーが唸りながら頭上2フィートに殺到してきた。犯人は後ろに回り込んで逃れ、家の角を曲がって走り去り、トウモロコシ畑の葉の海に消えた。 


Photo  ミネアポリス、イーガン、飛行ルート。中間の○印がI-35とハイウェイ55の立体交差点。この上空で旋回しながら名前や住所の詳細情報連絡を待った。

2 下の○印が、「Farmington(ファーミントン)のすぐ北側、Pilot Knob Road(パイロット・ノブ・ロード)から1マイルほどのNative American Trail街道沿いだ」と描写されている地点。赤い目印は、Pilot Knob Roadのそれ。

*********************************

――続く――

 

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2011年11月22日 (火)

シェリル追想―その4(3)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"

                                                   <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2011.11.22
 「シェリル追想―その4。シェリル撃たれる」('2011.11.9)、「その4(2)」(11.15)に続く記事である。

◆◆◆◆◆◆◆◆
  シェリルがドアのところで迎えた。
「ヤエルは工房にいるわ。あんたがいるあいだに、外に出てチーズバーガー買ってくる」。
「いいだろう」。
 
ヤエルは、ジーンズにゆったりとしたフランネルシャツ、陶土のこびりついたエプロン姿で木の椅子に座り、クリーム色の水差しを手に取って眺めていた。目のふちと鼻が赤く、腫れぼったい。まだ衝撃から恢復し切っていないようだ。水差しは、三千年前のものでイスラエル北部ガリラヤ地方の産だという。
「シェリルはどこ」。
「私がここにいるからというんで、食事しに行った」。
「そう、なら、散歩しましょう」。


 冷気のなかをしばらく歩いた後にヤエルが口を開く。
「サンディ・ランシングについて、調べはついたんですか」。
「ちょっとした謎だよね。ホテルの経営陣でもないし、金持ちの家庭でもない。なのに、高級服着て、豪華なアパートに住み、ポルシェに乗っている。それに、大量のコカインを吸っている。ただじゃない。金がどこから来るのか究明しているところだ。最初は、ブラウン・ホテルの金持客に女の世話をしているんじゃないかと考えていたんだが、違うようだ。


 ヤエルの口から、女がヤク(薬)のディーラーだということが判明する。
「パーティに来ていた客の半分は、サンディからクスリを買っていた」、
「なんでも、望みのものを揃えてくれる。秘密が固いし、一元客には売らない、確かな紹介状がないと売らない」。

 いろいろと語るなかで、ヤエルはサンディ・ランシングが麻薬ディーラーである旨の供述を参考人調書のなかで述べることに同意する。

 家に戻り、玄関前のポーチに腰をおろして、しばらくしゃべった。縁石に車が停まり、シェリルが降りてきた。
「シェリルは、あなたのこと大好きのようね」。
 ヤエルがそういい、ルーカスは女が自分の顔を見つめているのを感じた。
「わたしも、彼女のこと、大好きだ」、半分向き直っていう、「シェリルとは、以前付き合っていた。だけど完全に終わった。一緒に暮らしていくには、お互いに我が強すぎるからだ」。
「タフなしゃべり方するわね、あの人」。
「タフだよ、彼女は」。
「あなたほど?」。
シェリルがこちらに向かってくる。ルーカスがいう、
「おそらく」。

A city car pulled to the curb, and Sherill got out.
"Sherill likes you a lot," Jael said. He could feel her watching his face.
"I like her a lot," Lucas said. He half turned. "Sherill and I have a little history. That's all over. We weren't good for each other."
"She talks tough," Jael said.
"She is tough."
"Tough as you?"
Sherill was coming to them. Lucas said, "Maybe."

 シェリルがやってきて言う。
「どう、調子は」。
 目が、ルーカスとヤエルの表情を探るように交互に追う。ヤエルが立ちあがっていう。
「うまくいってるわよ。でも、弁護士に電話しなくちゃ」。
「なに、どうしたの、ルーカスが悪さをしかけるかなんかしたの」。
「まだ、そんなに親しい間柄じゃないわ」。

 
ヤエルが家に入り、声が届かなくなったとき、シェリルが問う。
「何があったの」。
 サンディ・ランシングは、ヤクのディーラーだった。欲しいものを何でも手にれてくれた。近隣相手の素人売人とは次元が違う。ヤク取引の関係で誰かに殺されたのか。そこらはっきりしないが、ヤクに関係することは確かだ。どうのこうの。しかし。アリーアイ殺しとの関連がどうもしっくりとこない。アムノン・プレインの殺害は、アリーアイの弟、オルソンによる復讐じゃないか。オルソンを追跡すべきか。そうだ。15人もの刑事が捜査にかかわっているのに、なんの進展もない。レスター(
殺人等担当副署長)と、その件を協議しよう。

「調書取りに、ヤエルを署に連れてくるかい」。
「そうするつもり。でも、5時になったら退きあげるけどね。トム・ブラック(Tom Black)が5時に来るから」。
「そうか、ヤエルを保護し続けてくれ」。

「イカレたんでしょう、彼女に、そうでしょう」。
 ルーカスは前かがみになって、声をひそめていう。
「おれが何をしたいか、わかるだろ」、
「ああいう女三人と立ち回って、ほら、わかるだろう、キングサイズのベッドで。えっ、ものすごくファンキーな金髪レスビアン3人がオレの身体にまとわりついて重なっている。えっ、ダベンポート・レスボ・サンドイッチだ・・・・・・」。
 シェリルが、ルーカスの胸を手で押す、
「まったく、エロじじいが、エロな夢を見て、何をいってんだか」、
「三人の金髪がルーカスとベッド、ものすごい御馳走が三つと、短小ウインナ」。
 二人で大笑いしているところに、ヤエルが家から出てきた。
「弁護士は三時まで動けないって。弁護士事務所で落ち合って、市庁舎(City Hall)まで歩いていくことにした」。    (
「注」―ミネアポリス市警察はこの「市庁舎」の中にある)
「弁護士は、よしなさいというんだけど、私が、したいといったの」、ルーカスの顔を見上げていう。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 ルーカスは別れを告げて、ダウンタウンに向かった。デルに電話した。ドアを蹴破りに、がさ入れに行く準備ができたという。Loganという男の自宅と、Beeという男の自宅と事務所だ。まず、Beeの自宅に行という。North Oaks(
ノース・オークス)にある。
 「20分後にそこで会おう」。
Photo
           (ヤエルの自宅はミネアポリス南部にある。そこからノース・オークスに向かったわけである)

 家宅捜索は、ミネアポリス署の麻薬課刑事などの警察官と保安官事務所の保安官補らで行った(Ramsey郡保安官事務所) 。黒のスパンデックス製タイツと"Twin Cities Marathon"(ミネアポリス・セントポール・マラソン)広告入りTシャツ姿の痩せた金髪女が応対に出た。誰もいないと言い張ったが、裏口から男が一人走って逃げた。

 「保安官補リックが追っている、逃げられるもんか」、同僚保安官補がいう。「捕まるもんか、Beeはマラソン選手だ」、と女。「リックも選手だ」、と保安官補。

 
家の電話に、つまりBee宛に、ヤク取引がらみのものと推測しうる電話がかかってきて、ルーカスが巧妙に相手の電話番号を聞きだしたりした。
  電話を切ってあれやこれやとやりとりをしているときに、再びその電話が鳴った。


「ルーカス?」、女の声がいう。
 名前を呼ばれて、ギョッとする。しばらく間を置いてから受話器を取った。
「そうだが?」。
「こちら、ローズ・マリ」、女はいう。
「なんだ、びっくりしたぜ、精神異常者かなんかを相手にしているのかと・・・・・・」。
 マリ署長がさえぎる。
「聞いて・・・・・・いうのはいやだけど・・・・・・シェリルが撃たれたのよ」。

 ルーカスは、しばらく、何がどうなっているのか理解できなかった。
「なに、なに?」。
 デルが顔を見て緊張した。
シェリルが撃たれたのよ。ヘネピン
に搬送しているところ」。
   
(「注」―「ヘネピン」とは、Hennepin County Medical Center、ヘネピン郡医療センターの病院のことであろう)
「ああ・・・・・・、なんて、こった、傷はひどいのか」。
「ひどい、ひどいのよ」。
「すぐ行く」。
 ルーカスは受話器を放り投げるように戻して走りはじめた。
 デルが怒鳴る。
なんだ、どうした」。
 怒鳴り返す。
シェリルが撃たれた。ここにいろ。指揮をとれ」。
「くそ、冗談じゃない、ラリーに任せりゃいい」、デルもルーカスの後を追って走りはじめた。
 玄関ドアを走り抜け、金髪女としゃべっているコーヘン(
Larry Cohen、市警察麻薬課刑事)に怒鳴る。
「ラリー、後を頼むぞ、シェリルが撃たれた、そこに行く、後をどうすりゃいいか、分かるな」。
 歩道で、腰まで水に濡れた保安官補が、手錠で縛った男を芝生に引っ張り上げている。背の低い痩せた男で、頭から足先までずぶぬれになっている。
「くそ湖に落ちたんだ」、保安官補が話しかけてきた。
 しかし、ルーカスとデルは走り抜け、ルーカスのポルシェに飛び乗り、走り去った。ノース・オークスのノロノロ道路を、タイヤをきしらせながら猛スピードで走り抜け、サッカー場の脇を通り越し、南に、ミネアポリスに向かって、猛スピードで走った。

Photo_2
           ヘネピン郡医療センター。左下に救急患者搬入口(Emergency)が見える。画像はWikipediaから。

Photo_3                   ヘネピン郡医療センター。上の丸印が、市警察のあるミネアポリス市庁舎(City Hall)。

(以上、「John Sandford's "Easy Prey"; Berkley edition, March 2001, ISBN 0425-17876-5」、159-168ページから)


 

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