外国小説/一般

2018年5月 5日 (土)

 鼻はどこへ行くの・・・ / Where do the noses go? 第2話。マリア、ロベルト......人物像と場面設定。誰がために鐘は鳴る/For Whom the Bell Tolls.。 

 マリアとは誰か、男は誰か、人物像と場面設定をざっと紹介しておこう。

********
一、場所はスペイン、時は内乱勃発の翌年、すなわち、1937年、その5月末。舞台は、マドリッド市中心部から直線距離で北北西50キロほどのところの山地。
 首都の北方に、南西から北東方向に斜めに走っているグアダラマ山脈(Sierra de Guadarrama*↡)というのがある。全長80キロほどの山脈だが、その山系某所の山腹である。
 ヘミングウェイは地名を明示していないが、物語の各所に散らばる関連記述からして、ラ・グランハ(La Granja *↡)の南方数キロにあるバルサイン峡谷(Valsain)の一画と推定できる(下に掲ている画像参照)。

 前年7月内乱勃発以来の、反乱軍による地域征服拡張攻勢と、それを阻止しようとする共和国政府との激しいせめぎあいが続くなか、政府は国家の要所マドリッド地域(*↡)を、かろうじてその支配下に維持し続けているものの、戦況芳しからず、反乱軍(以下、「ファシスト軍」、「フランコ軍」とも)によって地域の北西周辺を固められるような状況に陥っている。陥落の危機だ。     

Photo          左=1936年8月から9月にかけての勢力圏。右=1938年11月時点の勢力圏。赤が共和国政府側
                  (Wikipediaより)。


  反乱軍の包囲網前線(戦線)は、北から西にかけて、2018年現在の地域行政区分との関係で言えば、カスティーリャ・イ・レオン州(Castilla y Leon)とマドリッド州の境界線(↓に関係図)にほぼ沿ったかたちで広がっていた。

 ただ、ファシスト軍支配地内部においても、現共和国を支持している住民も、当然のことながら、大勢いる。その中には、反ファシズム、現共和国支持、ないし、共和制立国イデオロギーに染まるというか、とにかく、そういう立場で、命知らずの政治/軍治的活動を行っている反乱分子、「ファシスト派に対する反乱分子」、地元大衆ゲリラ活動家が存在する。
 全員が全員、政治的信念に命をも捧げるというような純粋高邁動機に基づいて動いているわけではない。むしろ、それはほんの一握りで、大部分は内乱騒動のなかでファシスト軍やそれに組する暴徒に財産を焼かれ、肉親を殺されといったことによる憎しみと復讐心からの参加者である。あるいは、ゲリラ活動に乗じた財産略奪、強姦/婦女暴行、暴力嗜好などの不純目的でまぎれこむ者も少なからずいたであろう。
 まあ、とにかく、反乱分子、ゲリラ活動が存在したのである。

  ここ、グランハ地域のバルサイン谷一帯には、そういうゲリラ集団がいくつか生息していた。山間の隠れ家を活動の拠点として、—-場所は、概ね標高800-1500メートルあたりの山腹ないし山頂で、岩盤むき出しの地肌が散在する独特の地形からして数多くの洞窟が存在するのであるが、そういう洞窟などを根城にして―、フランコ軍輸送列車を襲って物資を略奪し、機関車/列車/線路を爆破するなど、山賊的要素をも交えながら、複数のグループが活動している。

                            列車爆破        1
02    03

                           山中移動01   02_2

                         ↑上画像
 舞台となっているグアダラマ山脈某所の山腹はこういう所だ。
 むき出しの岩盤地表に松林が散在する、というか、松林に岩場が散らばるというか、あるいは、両者が混在するというか、とにかくそういう場所だ。そこに、岩場の洞窟を隠れ家として、共和国政府に組する地元ゲリラの一隊が暮らしている。標高1,000m程度か、5月末、日中は暖かく、時に暑かったりするが、夜間は冷え、雨天時は激しい雪になることもある。

********
二、さて、物語の主人公は、共和国政府/マドリッド側からこの戦線の向こう側に潜入して、つまり、敵軍前線の背後に潜入して、峡谷に架かる橋を爆破しようと行動する男である。

 計画はこうだ。
 ナバセラダ(Navacerada)方面から山越えの間道を抜けてラ・グランハに進撃し、その先のセゴビア(Segovia)、敵軍の戦略的軍事拠点都市、を陥れる。

 そのために、先ず、隠密準備の下に、奇襲空爆をやる。
 すなわち、敵がこの間道を我が支配下に置き続けるために配置している地上部隊、二つの峰の尾根に陣取っている部隊を、奇襲による徹底的な空爆によって叩き、壊滅状態にさせる。
 そうしておいて、直後、味方は、敵のいなくなった間道を、戦車隊を先頭に、陸上部隊が猛進撃して攻め入る。一個師団(2個旅団)の兵力を投入し、破竹の勢いを以て、怒涛の如く、一気にセゴビア(Segovia)まで攻め入り、これを陥落させる。

 さて、そうすると、この進撃に対して、敵方は、生き絶え絶えの部隊に援軍を送り込もうとする。兵士、戦車、対空砲トラックといった支援部隊を、後方、セゴビア方面から。
「それ行け、迎え撃て、一歩も譲ってはならぬ」と。
 ところが、どっこい。

    --「アレッ? ? ? !!!」、「橋がない??? !!!」--

  間道に物を運び上げるための道路が機能しない。峡谷に架かる橋が壊されているからである。
  動けない、進めない、兵隊も、物資も。支援部隊を送れない。
 ……..かの男が、爆破していたからである。

  他方、かくして、我が軍は、敵のいなくなった間道を進軍し、橋を修理して進み続ける。ズンズンと。橋の修理架けなおしは、速攻で完了する。なぜかなら、橋が爆破されていることを事前に知っているので、修理班と物資を予め用意してきているからである。
      「行け、セルビアを落とせ!」。
 これが構想である。素晴らしい!

 だが、「お絵描き」を成功させるためには、絶対に欠かせない前提要件が一つある。
  それは、「大進撃開始と同時に爆破しなければならない」ということである。タイミングが問題なのだ。
 敵に、橋を修理するだけの暇を与えてはいけない。そうでないと、修理しなおして増強兵力を送り込んでくるので、迎え撃たれて、激戦になってしまう。

 では、大進撃開始をどうやって知るか。言い換えれば、橋爆破時期の到来を何によって知るか。
 答えは、味方飛行機が、敵の間道守備部隊を、すなわち、二つの峰の背に展開している敵部隊を爆撃し始めたとき。それが爆破のスイッチを押す時だ。
 味方飛行機が敵軍展開尾根を爆撃し始めたら、爆弾を落とし始めたら、すなわち、空爆の爆発音が聞こえ始めたら爆破のスイッチを押す。
 それがタイミングだ。味方陸上軍は空爆開始と同時に進撃を開始するから。

-------------------------------------
 「橋を爆破すること自体には、何の意味もない」、
 髪の毛を剃り上げた傷痕だらけの頭を電灯の光でテカテカさせて、大きな地図を鉛筆の先で指し示しながら、ゴルツがいう。
「分かるか」。
  「はい、分かります」。
「まったく無意味なのだ。単に橋を爆破したのでは、任務に失敗したことになる」。
  「はい、同志将軍」
「やらなきゃいけないのは、指定された時刻に橋を爆破するということだ。攻撃計画で定められた時間計画に基づいてな、当然のことだ、分かるだろ」。

'To blow the bridge is nothing,' Golz had said, the lamplight on his scarred, shaved head, pointing with a pencil on the big map. 'You understand?'
'Yes, I understand.'
'Absolutely nothing. Merely to blow the bridge is a failure.'
'Yes, Comrade General.'
'To blow the bridge at a stated hour based on the time set for the attack is how it should be done. You see that naturally. (Arrow Books、2ページ)

---------------------------------------------------

 エスコリアル宮殿(マドリッド西方郊外)の脇の建物の二階で、現共和国政府支援のために駐在しているロシア軍将軍の指示を受けた。

 男の名は、ロバート・ジョーダン(Robert Jordan)。
 アメリカ合州国人、年齢35、6か、あるいは、もうちょい、独身。母国モンタナ州ミズーラ(Missoula)市の大学でスペイン語講師をしている。今から12年前の夏に(1925)、この国にやってきた。スペイン語と文化を学ぶためである。以来、10年滞在した後に帰国し、この講師の職を得て勤めていた。
 ところが、昨年夏、内乱勃発(1936.7.17)の報が飛び込む。矢も楯もたまらず、心の故郷、愛するスペインに駆け付けた。ちょうど学年最終学期が終わったところであり、翌年の9月新学期まで(今から三ヶ月先の9月)、一年間の休職を願い出た。義勇兵として共和国軍に参加するためである。

 当人、建物など工作物の破壊とダイナマイト爆破の専門技術を持つ。この地で働きながら10年過ごしたあいだに、いつしか身に着けるに至っていた。
 その関係から、身を置いた義勇軍活動では、ダイナマイト爆破専門「特別職」みたいな形で、重く用いられている。すなわち、イデオロギー対立の国際関係において、共和国政府側をロシアとメキシコが支援しているのだが、駐留ロシア軍(*↡)の有力将軍ゴルツの信を得て、その直轄指揮下に入り、すでに、鉄道爆破など戦略的重要爆破作戦をいくつも成し遂げている。

 この山腹には、ゴルツ将軍が手配していた「アンセルモ/Anselmo」という名の道案内人とニ人でやってきた。今日の午後、いや、「鼻がどこへ行くか」我がカワイコチャンMariaが悟ったのが、すでに真夜中を越えた夜1時過ぎのことだから、その時点に立ってこれを語っているのだから、もう昨日のことになる。きのうの午後にやってきた(1937年5月の最終土曜日の午後)。
 道案内男は、信義に篤い「この7月で68歳」の朴訥老人で、マドリッド西方150キロの小さな村の出身者。近辺の山系地理に精通し、抜け道はおろか、獣道一本すら知らぬもの無し。同時に、周辺地域のゲリラ隊首領面々のあいだで顔が広い。
 橋の爆破は、独りではできない。それなりの人数の協力者が要る。男の仲介でゲリラ隊の首領と顔をつないでもらい、協力を取り付けなければならない。
 この山に住むゲリラ分子の数は増え、今では100人以上いるという。

 二人は、爆薬、起爆装置、ロープなどの入った重たい布袋をそれぞれ一つずつ背負ってきた。もちろん、銃を片手に。
 夜明け前から、登ったり下ったりの山道を歩き続けて、荷物を担いで、たまには這うようにして。アンセルモ翁、恐ろしく足が達者だ。こちらも歩くことにかけては自信があるが、とても適わない。

 ----------------------------------------
 「橋を爆破すること自体には、何の意味もない」、
         .......................................
           .......................................
          ........................................
       
   はい、同志将軍」。
 「やらなきゃいけないのは、指定された時刻に橋を爆破するということだ。攻撃計画で定められた
  時間計画に基づいてな、当然のことだ、分かるだろ」。


 ニ人は握手を交わし、ジョーダンは敬礼で分かれ、建物を出て、待たせてある軍幹部用自動車に向かった。老人は居眠りで待機していた。その車でグアダラマを通り抜け、老人は依然として眠り込んでいたが、ナバセラダ道路を登っていき、アルパイン・クラブ(アルプス・クラブ、架空名)の山小屋に到着した。ジョーダンもそこで3時間の睡眠をとった。そして、再び出発した。

 They had shaken hands and he had saluted and gone out to the staff car where the old man waiting asleep and in that car they had ridden over the road past Guadarrama, the old man still asleep, and up the Navacerrada to the Alpine Club hut where he, Robert Jordan, sleep for three hours before they started. (Arrow Books, 10ページ)

       
 ↓下の画像は、経路を地図上で示したものである(鮮明な地図、ココ=Wikpedia)。 

 エスコリアル宮殿→グアダラマ市街を通り抜け→ナバセラダ街道を登って→山小屋到着、3時間仮眠して→夜明け前から徒歩で目的地へ(その先も車で走れる道が通じているが、おそらく、車は山小屋で捨てて、山腹上方の道なき道を徒歩で、あるいは途中から車を捨てて徒歩で目的地へ。

Photo_2                グアダラマ山脈/Sierra de Guadarrama(Wikipedia)

         ↓下の画像は上の地図の縮尺を大きくしたものである(赤線は州境)。
Photo_3

  ***********************************************

*↟マドリッド
1.共和国政府は、内乱騒動から逃れようと、首都を、それまでのマドリッド(Madrid)からバレンシアへ、次いで、バルセロナへ移した。
2.現在の地方行政区画では、「マドリッド」は、単一の県(provincia)で構成される州(自治州/comunidad autonoma)という特異な状況から、州と県と市の三つの概念を指す。
 すなわち、マドリッド市を州都とする「マドリッド州/Comunidad de Madrid」、同じく同市を県都とする「マドリッド県」、そして、マドリッド市である。

*↟ラ・グランハ(la Granja)
 本来は、ラグランハ・デ・サン・イデルフォンソ宮殿(Palacio Real de La Granja de San Ildefonso、略して、ラグランハ宮殿という)という宮殿を指すことばであるが、ここでは、地名/場所を表している。15世紀以降王室関係の教会堂、別荘、農場、貧窮院などが設置し続けられてきたという歴史から、La Granjaといえば地名を表すような使い方が定着しているのであろう("la granja"は「農場」という意味のことば。

*↟グアダラマ山脈(Sierra de Guadarrama)は、イベリア半島中央部にある山脈。セントラル山系の約半分を占め、アビラ県のグレドス山脈とグアダラハーラ県のアイリョン山脈の間にある。
  山脈は南西から北東方向へ伸び、南のマドリード州、北のアビラ県とセゴビア県に伸びる。全体の長さは約80km、最高峰はペニャラーラ山(2,428m*?)である。

三、マリア
  そしてマリア、Maria、ヒロイン。
 十九歳の、足長、「非骨太」、細見体形の器量よし乙女、少女。
 ……. ショウジョ?? ......十九なのに???
  ........つまり、処女だって言いたいのね、言外に、
 「純潔」、「清純」だって、
   そういう若い女性だってことを。

ウン?
 「おとめ」、「しょうじょ」、何気なく書いただけなんだが、思わぬ質問だが、そう訊かれると
   …..そうよノウ・・・。
   …….うーん、ジュンケツ……のう……
   そういえるかどうか・・・。
 まあ、そんなこたどうでもいいが、いや、まて、よくはないか、後々の記事との関係もあるからなあ。ちょっと寄り道して、考えてみるか。
    「処女」ってなんだ・・・っていうか、「純潔」ってなんだ。

(イ)強姦であっても、「ヤラレタら」、つまり、男のモノで貫かれたら、いや、正確に言おう、
  男が陰茎を我が膣に挿入し(「我が」って、その男当人じゃなくて、あたしのことよ、もちろん、つまり、アタシの膣に」)、射精したら、まあ射精の有無は必要条件ではないんだが、ダメなのもいるからね、まあ、とにかく、そのような事態が生じて、事が終わったら、そして、そのことに伴って、わが処女膜、ヒーメンが破かれたら、「純潔」の「守り膜」が裂かれるに至ったら、俗にいえば、穴が開いたら、
  ただ、まあ、大方の場合は「膜」とはいうけど、膣口が粘膜のひだ(襞)によって狭められているだけで、その状態というか構造が「処女膜」と呼ばれているんだそうだが、そして、まあ、たまに「膜が張っている」例があっても、膜には、元々孔が、その数や形状は個人差によって様々だが、孔が開いてるそうだが、まあ、とにかく、
 「狭め襞」にしろ「膜」にしろ、組織裂傷によって出血したら、―-そうなることが多いと認識されているが、まあ、「スポーツ選手などの場合、激しい運動で、すでに破れていることも多いから出血しないことも多い」、なんて、便利な逃避路も用意されているから、「裂傷」や「出血」は要件から外して、とにかく、
 「狭め襞」なり「膜」なりが陰茎によって「押し割られたら」、あるいは「押し破られたら」、それは、もう、「処女」ではない、「純潔」ではない。
  こうか。
 つまり、肉体の物理的な状態」のことを指す。
 それとも、

(ロ)そのような「身体的、肉体的、物理的な、状態、要素で決定されるべきではなく」、
「処女」とは、「純潔」とは、当人の「心」の、「精神面」の、「知覚」のことである。
 あるいは、他人からの評価の視点で言えば、他人の心、精神面における知覚のことである。

 すなわち、仮に、そのような「物理的状態」に陥っているにしても、それが、
任意に行った「性交」によって、すなわち、膣への陰茎の挿入によって、さらにいえば、「狭め襞」なり「膜」なりを押し割って、あるいは押し破って、いわば、「突き通した」という挿入、ペネトレーションによって生じたものでない場合、もう一度言うが、任意の、つまり自分が同意したうえでの性交によるものでない場合、その身は依然として処女である、純潔である。
 言い換えれば、強姦によってきたされたものである場合には、依然として処女である。
 こういうことなのか。
                         ************
 さて、「ちょっと考えてみた」のだが、寄り道、長くなってしまったが、本筋に戻ろう。 
 マリア、十九の娘、むすめさんのことだが、
 この娘、むすめ、―-「ムスメ」では、どうも響きがイマイチだが、いや、そうでもないか、「むすめ」、いいかも、まあ、とにかく、これでいくとして、この娘、
 「キスしたいけど、どうやってすればいいの」とか、
   「まあ、とにかくやってごらん」と男に優しく言われてやりかけて、
    アレッ???、ぶつかっちまう…..
  「鼻はどうすればいいの」
 なんて、一見、無邪気に明るく振舞っているようだが・・・・・・、
 どっこい、どっこい、

     --凄絶、凄惨、悲惨な過去を持つ少女なのだ――。

語ろう、こうだ。
 1936年2月、「スペイン人民戦線(Frente Popular/フレンテ・ポプラ)は、総選挙で右派を抑えて勝利し、大同団結内閣を成立させた。
  「人民戦線」って、いったい何だ、選挙に関係する言葉としちゃ、変な名前だが・・・政党名かい、いろんな政党がごちゃ混ぜの。「大同団結」とあるから。 
  質問、ごもっとも。
 ちょっと寄り道になるが―-話を二歩も進めないうちにそうなるが、--「寄り道」好きだねえ、アンタ、またかい――、まあそういうなよ、けっこう大事なことなんだ、これって、だからネーー、説明しておこう。

--―「各国の共産主義政党は、【反ファシズム】を最優先課題として、【小異を捨て大同に就く】の精神で、国内の多様な勢力と協調していくという姿勢を旨とすべきである」―--
 元来の意味は、こういう戦略のこと、戦略の名称である。
―-そうすることによって、政権獲得の実、実践成果を上げよ、政権を獲得せよ、反ファシズム国となって、世界から、ファシズムを追放せよ――
 こういうことだ。

 共産主義政党の国際組織「コミンテルン」が1935年の国際大会で採択した戦術である。
 --実践的成果を上げられなきゃ、屁にもならぬ。従来の、「社会主義政党やブルジョワ政党を敵視する」という頑なな方針を転換し、実利的、大同団結観点から、「反ファシズム人民戦線を構築する」―-
 こういう方針、闘争戦略を打ち出したのである。 
     --いいね、パチパチ、これ、わし、ブログ主。なんたって、政権を握らなきゃな、何もできない。現代シャポン、日本の惨状をみればよく分かろう。

 それで、スペインではこの戦術に則って、1936年選挙において、ファシズム標榜(ひょうぼう)右派に勝利するため、「スペイン人民戦線」という「統一戦線」を組み、それを旗印として選挙戦を戦ったのである。
-------------------------------
戦線のメンバーは次のとおり。  
 スペイン共産党(PCE)
 スペイン社会労働党(PSOE)
  ●マルクス主義統一労働者党(トロッキー派、POUM)(後に離脱)
 左翼共和党IR)
 共和同盟(UR)
 全国労働者連合(CNT)
 バスク国民運動(es、EAE-ANV)
 カタルーニャ社会主義統一労働者党(PSUC)
 労働総同盟(UGT)                                      (Wikipediaから)
                    

  団結して実現させたいとする達成目標は、次のような項目だったといわれている。
※政治犯の釈放  ※憲法上の諸権利の保障  ※裁判所の改革  ※議会・地方自治体の諸法規の整備 ※租税・地代の軽減 ※中小企業の保護 ※失業の除去 銀行の統制、最低賃金 ※教育の改善 ※国際連盟の擁護  (ココから)

  なお、このあたりを押さえておくことはヘミングウェイ原小説のモチーフ/主題」、作者は何に駆られてこの小説を書いたのか、何を言いたかった、訴えたかったのか、ということを理解するうえで、ある種カナメ(要)になる要素である。そう思う。そこで、末尾に、スペインの当時の政治史のようなものを掲げたので参照されたい。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
 さて、話を戻そう。
 大同団結内閣ができた。
 しかし、5か月後の7月、ファシスト連中は、以前から、虎視眈々と機会を狙っていたのだが、反政府右派軍部による政権側主要軍人暗殺と政府側による報復暗殺事件が引き起こした混乱に乗じて、「現共和国政府に国家統治能力なし」として、軍部の右翼先鋭一派が、モロッコのメリリャ( Melilla、「メリージャ」とも)で、―-それは、スペインの飛地領土で、モロッコの地中海沿岸にある港湾都市だが――そこで、反乱、クーデタの狼煙(のろし)をあげた。
 翌日、これに呼応して、本土のあちこちで、沸々と、というか、地獄温泉のぶくぶくみたいに、同調派右翼軍部による軍事蜂起が一斉に起きた。

 
  共和国派vs反乱派、現政権「人民戦線」内部でのいわば内ゲバ、民衆どうしの反目、抗争、肉親間の敵味方に分かれての殺し合い、ゲリラ闘争、社会騒動、などなど、内乱勃発によって人々の心は荒み、社会は分断された。国土も、共和国支配地域と反乱軍支配地域とに二分された。

 そのようななか、騒動が始まってから間もなく、マリアに起きたことは・・・、
何が起きたのか、そう、何が・・・。

--我が目の前で、両親が銃殺処刑され、
 我が身は、
  暴徒複数人によってさんざ弄られた(なぶられた)あげくに凌辱された――
 これだった。

 処刑は治安警察(guardia civil*↡)によるものであり、強姦は反乱軍支持母体政党、「ファランヘ党/ Falange *↡」、反乱首謀フランコ将軍自らが党首として率いる党の暴徒が為した行為だ。

 父親は「反ファシスト」を信奉する町長であった。母親は敬虔なカトリック信者だ。
 住民何人もが数珠繋ぎ(じゅずつなぎ)で引き立てられてきて、銃殺は、町の屠殺場の建物の壁に立たされて、行われた。

 父親は、「共和国万歳」と叫んで死んでいった。
       Viva la Republican! (allow books, 364p)     
 母親は、「私の夫、この町の町長の夫、万歳」と叫んで。
  宗教排斥ないし軽視、ないし「政教分離」教義のゆえに、カトリック教徒は共産党はじめ左派革新政党を嫌う。その故に、死に際の反骨絶叫文言をそうしたのではないか。作者は、ヘミングウェイはマリアにそう語らせている。

 強姦は、何人もの暴徒による非情極まりないものである。町庁舎と広場を隔てた向かい側にある床屋で、―-同じく政治的理由で殺された店主の死体が入り口に横たわる床屋で――その客椅子で、両手両足を押さえられ、二つ編みの長いお下げを、片方ずつ、根元から、剃刀で、ザックリと切られ、暴れる耳に刃が当たって肉片を削がれたりしながら、切られ、跡をバリカンで刈られ、泣き叫ぶ身に、切り取ったお下げ髪を口枷にして顔を縛られ、なおも暴れる顔に、クソ男が跨った。縛られ、押さえつけられ、さんざ弄られた。そして、広場を越えて町庁舎へ、その二階にある父の町長事務所へ運び込まれて、そこで、長椅子で犯された。何度も、何度も、何人もに。
 そのあげく、半死体のような身は捕虜収容所に収監され、なんてこった、やつらは、さらに、頭髪を剃った。収監規則だとして。
 
 少女は蒙ったトラウマ(Trauma/心的外傷)により、ストレス障害(Stress Disorder)に陥る。
  「・・・・・・絶望・・・・・・」、
 察するに余りある。
  死にたいんだか、生き続けたいんだか、どう過ごしたんだか……とにかく、時が過ぎて、その後、南の方の別の収容所に列車移送されることになった。

 だが、偶然、その列車が、共和国側ゲリラによる列車襲撃鉄道爆破計画の対象となっていたために、事件の混乱に乗じて捕虜の身から逃れることができた。
 すなわち、心身ともに衰弱した身ではあったが、おそらく本能的な動作によることであったのであろう、停止した列車から、機関車が空に吹っ飛んで停止した列車から飛び下りて走り逃れ、物陰にうずくまっているところを、ゲリラ隊に救われたのである。
 
こうだ。
 襲撃隊首領「パブロ/Pabro」の妻、男勝りの大女、「ピラー/Pilar」、豪胆不適にして情に厚く、信義を奉じ、官能、情欲の何たるかを知り、かつ、利発な副首領格の女が慈悲をかけ、少女を自ら背負い、疲れ果ててそれ以上歩けなくなると、今度は、迷惑がる男隊員らの尻を叩いて、交代で背負わせて隠れ屋に連れ帰ったのである。
「つべこべ言わずに、しっかり担ぎな」、
 と男どもにハッパをかけながら。

「脚は長いが、骨細体質だから、大して重くない・・・、
 それは確かにそうだけど、追ってくる敵と戦わなきゃなんねえ。ムスメを下ろし、銃を撃ち、また背負って逃げる・・・そういうことだからね、もう、重くて重くて・・・」、
 大女から命じられて、最初に交代して担がされた男の回想ボヤキだ。

さて、
 ということでマリアがここにいる。野営地の隠れ場、洞窟で暮らしている。男7人と、女2人、マリアとピラー、計9人。連れられてきてから三ヶ月。

  <<料理の入った鉄鍋を持って洞窟から出てくる。隊員たちに振舞うためだ>>

   アレッ? 知らない人がいる、誰だろう。

01_2

   かっこいい!! カピカピ!!! 「こんにちわ」。02_3

    おっ、なんだなんだ、誰だ、わあっ、「アッ、コン、ニ、チワ)。03_2      
       一目で惹かれ合ったんだね、お互いに。

******************************

   残念、人物/場面設定説明、中途半端だが、ここで終わろう。長くなった、紙面が足りない。
   --続く--

 

 


     

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年4月18日 (水)

鼻はどこへ行くの・・・ / Where do the noses go? 誰がために鐘は鳴る/For Whom the Bell Tolls.

  鼻はどこへ行くの・・・
  鼻をどうするのか、あたし、いっも、不思議に思っていたの。

 ヘミングウェイの名作、「誰がために鐘は鳴る*↡」に出てくる傑出、異色、非凡文言だ。
        *↟"For Whom the Bell Tolls" by Ernest Hemingway; 1940年発表小説)

  'Where do the noses go?' I always wondered where the noses would go'

  「上手にキスしてみたいけど・・・」
    「ちょっとやってごらん」。
  「どうやればいいのか」。
    「やってごらんよ」。
                マリアは男の頬にキスした。
    「だめだめ」。
  「鼻はどこへ行くの・・・
   鼻をどうするのか、あたし、いつも不思議に思っていたの」。

 

  'I will try to kiss thee very well.'
     'Kiss me a little.'
  'I do not know how.'
     'Just kiss me'
                  She kissed him on the cheek.
     'No.'
  'Where do the noses go?' I always wondered where the noses would go.'

Photo          (↓下に掲げているArrow Book社2004年版ペイパーバックの75ページ)

    Photo_2
 
↑左側画像はArrow Book社(The Random House Group Limited傘下出版社)、2004年版ペイパーバック、ISBN:9780099908609。
  右画像は、小説の映画化作品、パラマント・ピクチャーズ社(Paramount Pictures)制作の同名映画(1943.7.14初演)の一場面(YouTube)を背景にして、筆者手持ち本を撮影したもの。

Photo_3     初版本の表紙(Charles Scribner's Sons社、1940.10.21発行(英語版Wikipediaから)。

◆◆◆◆◆
↓I don't know how to kiss, or I would kiss you.キスの仕方、知らないの、したいんだけど。
   1

↓試みようと、顔を寄せていくが・・・
2

 ↓あれっ??  Where do the noses go? 鼻はどうすればいいの?
 3

 ↓そう訊いて、「ンフフフ」と照れ笑いをするんだよね。
 4

    

  ↓そこで、男が口を合わせてやる。

5   

  チュ6_2

 チュとやって、というか、「チューッと」っていう感じだけど、まあ、とにかく、すぐに口を離すんだが・・・↓

7

    ・・・うれしいね、見て、この表情・・・↑ 鼻、ああそうすりゃいいのか!!!
↓やり方を悟った娘は、自ら仕掛けていく↑。

8

 ↓そして、男が激(げき)し・・・吸い、ベロのことだが、吸い、絡め、抱きしめ・・・手が動き・・・下の方で、おそらく、もぞもぞと・・・当然女も溶け燃える・・・・・・。

9

   やったね、マリア、コングラチュレイションズ!!  

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
 薄い内容で終わってしまうが、画像多用によるデータ量膨張理由により、今回はここまでで終わる。書くことはいっぱいある。続き記事を「乞うご期待」。

  というが、せっかくだから、「鼻がどこにいくのか」、場面の続きを掲げておこう。
       ---------------------------------------------------------
「ほら、顔をこっちへ回して」、
  マリアが応じ、ニ人のくちびるが固く合わさった。
  マリアは男の身体に我が身を押し付け、密着して横たわり、唇が少しずつ開いていった。突然、ロバートは、相手を我が身に抱きしめながら、かつてないような幸せを感じた。

 'Look, turn thy head,' and then their mouths were tight together and she lay close pressed against him and her mouth opened a little gradually and then, suddenly, holding her against him, he was happier that he had ever been, …………

     (thatはthanの誤り。新版印刷時の誤植か、元々存在した作者のタイプ・ミスか)
        --------------------------------------------------------

  そして、濡れ場に水を差すわけじゃないが、決して野暮天じゃないんだけど、もうひとつ、最後にこれ。

1.原作小説では、この出来事は、夜中に、森の岩陰に敷いた寝袋の中で起きるのだが、
 映画では昼間のことになっている。寝袋の中、闇世界の出来事では、映像にできないから、まあ、当然の脚色だけど。
 その寝袋は、かなり容量の大きい性能自慢のものとして描かれており、そこにムスメが忍んでくるのである。

2.ニ人が交わすことばも、映画では少し変えている。

3. 映画の短髪カワイコチャンは、言わずと知れたイングリッド・バーグマン(Ingrid Bergman)だ。男は、これも、稀代の役者ゲイリー・クーパー(Gary Cooper) 。

  パチパチパチ、拍手。

 --第2話に続く--

◆◆◆◆◆◆
後書き
 当ブログ、永らく休眠しておりました。起きて、また歩きます。よろしく。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年12月 7日 (水)

シェリル追想―その4(7)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"

                                                   <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2011.12.7
        <<<フォックストロットで喜悦の一夜を過ごしたマローン、FBI女性捜査官(後編)>>>
   「シェリル追想―その4。シェリル撃たれる」('2011.11.9)、「その4(2)」(11.15)、「その4(3)」(11.22)、「その4(4)」(11.23)、「その4(5)」(12.2)、「その4(6)」(12.6)に続く記事である。

◆◆◆◆◆◆◆◆
  女性FBI捜査官、マローン(Malone)、40歳半ばの顔の角ばった、法律専門家、バツ4の女だが、この捜査官が最近フォックストロットを踊りまくっているという。
************************
 「ところで、マローンのこと覚えているだろう」。
 「もちろん。元気でやっているかい」。
 「やつだけど、あいつ、このところフォックストロットを踊りまくってるんだ」。
 「えっ、ほんとかい。5人目の亭主にするつもりか」。
 「可能性はあるな・・・・・・」


 
フォックストロットを踊りまくっている」とは、「(アレを)やりまくっている」ということの隠喩だ。あるいきさつ、ルーカス、マローン、マラードの三人だけが知るいきさつからきていることだ。
 シェリルも、間接的にではあるが、このいきさつに関わっている。
  いきさつは、稿を改めて説明することにしよう。

*********************************
 今日の記事は、この「稿を改めて説明」記事の後篇である。

◆◆◆◆◆◆◆◆
  ルーカスは到着した日の翌日と翌々日の2日滞在してミネアポリスに戻った。FBIはLopez容疑者の監視を続けている。発つ前の晩、三人で再度リンクに行った。経営者、クララはいなかった。仕事の関係で出張だと、ウェイトレスが「残念ですね」みたいな顔つきでルーカスにいう。
 「ああ悲劇!」、ウェイトレスが注文を聞いて去った後にマローンがいう、
 「ダベンポート、埃っぽい西部の町に、さらに一つ失恋を残して寂しく町を去る」。

             (リンカーは、状況を把握するために、ミネアポリスに行ったのである)

 翌日の午後遅くミネアポリスに着いた。
「大して収穫がなかった」、シェリルが念を押すように尋ねる。
 シェリルとブラックには途中で状況を知らせ、落ち合う場所を決めていたのだ。
「犯人じゃない、ちんけな売人だ」。
「だけど、FBIはまだ犯人だと思っているのね」。
「マラードは、依然としてチャンスがあると思っている。しかし、マローンって名の頭のいい助手がいるんだが、その助手はワシントンに戻ってやり直した方がいいと考えている」。
「ダサイな」、ブラックが嘆く。

     ********************◆◆◆*****************
 さて、ここで、今まで意識的に触れずにきた重要人物登場させることにする。話を先に進めるために必要になった。
  話の筋をすべてぶちまけるのは未読潜在読者の意欲を削いでしまうのでよくないと考えて伏せてきたのだが、ジョン・サンドフォードによるこの一連のダベンポート刑事シリーズ、「**Prey」シーリーズは、推理、謎解きには重きを置いてない小説群なので、すなわち、「ミステリー」ではなく、犯人が誰であるかということは冒頭部から分かったうえで話を展開させていくという手法の小説群なので、意味のない気配りだったかもしれない。

 ということで、登場するのはカーメル・ローン(Carmel Loan)、ミネアポリス市に住む女性弁護士である。超高級法律事務所に属し、凄腕の刑事弁護士として名を馳せている。
 実は、この物語は二本の柱で成り立っている。一本は闇の仕掛け人、女殺し屋殺、ご存じクララ・リンカーなのだが、もう一本の柱、むしろストーリー展開その者からすればこちらの方が主柱ともいえるのだが、それが、この女性弁護士なのである。この女も、身勝手な動機から冷酷に人を殺していく。

**************
 カーメル・ローンは岡惚れした既婚男を手に入れるために、その妻を殺した(*1)。プロの殺し屋に依頼したのである。ミネアポリス在住のロロ(Roland D'Aquila)というヤクの売人を仲介人としてセントルイスの元締めに依頼したのだが、その殺し屋がリンカーである。ロロは、以前カーメルが無罪を勝ち取ってやった相手であった。
 ところが、ロロは、カーメルが殺人の仲介をロロに依頼する場面をビデオに収めており、それをネタに金を強請ってきた。テープと交換に金を払っても、隠し持った原オリジナル版で先々何度でも強請ってくるであろう。カーメルはリンカーと二人で禍根を絶とうとする。リンカーが、駐車場でロロの脚に銃弾を一発撃ち込み、男を拉致してその自宅に連れ帰る。二人して原版の所在を問い詰めるが、男は吐かない。カーメルは、拷問を加える。両足の膝の皿を電気ドリルで穿ち、さらにかかとを深く穿つ。しかし、ロロは壮絶な痛みのなかで死を覚悟して居直り、口を割らなかった。カーメルは男を撃ち殺した。こめかみに、6発撃ちこんだ。しかし、最終的に、二人はオリジナルの所在を突き止める。片親違いの妹に預けていたのだ。二人は妹の家に行き、テープを取り返して、当人と、同居の男、ヒモのような存在の男を撃ち殺した。
 二人が立ち去ろうとしたとき、アパートの隣に住む5歳の女児がドアを開けて廊下に出てきて、二人の姿を見た。
 女児の記憶に基づいてモンタージュ写真を作成したが、二人とも頭をスカーフで包み顔を隠していたので、役には立たなかった。
 
 ルーカスは、あるきっかけから当初の人妻殺しと後続殺人事件について、カーメルが関わっているのではないかと疑うようになった。そこで、策略を用いてカーメルの家の合い鍵を作り、女の自宅に忍び込む。証拠を物色し、電話/住所録やコンピュータ内部データを漁った。容疑はますます強まる。友人のハッカーに依頼しての通話先追跡やFBIによるさらなる調査などを経て、ウイチタに出張する運びになったのであった。

*1.この殺された妻というのは バーバラ・アレン(Barbara Allen)という女性で、昨日の記事で次のように描写している。夫の名はHale Allen、財産権/不動産分野を専門にしている弁護士である。
----------------------
 クララ・リンカー(Clara Rinker)という女の殺し屋(
殺人請負人)がミネアポリスで地元名家出身の裕福階級女性を殺す。立体駐車場の昇降階段ですれ違いざまに至近距離からサイレンサー装着22口径銃で後頭部を撃って即死させ、さらに一発、倒れた後 もこめかみに5発、合計7発の弾丸を撃ち込んだ。たまたま現場に出会わした市警官も撃たれて重傷を負う。(2011.10.30過去記事「シェリル追想―その3」で、その場面を詳しく描写している参照されたい)
          ********************◆◆◆*****************

  話を戻して、ルーカスが店に現れたことによって異変を察知したリンカーは、急遽ミネアポリスに飛び、カーメルと状況分析をする。リンカーは、ロロの妹を殺した際に廊下で顔を見られた女児の家に、宅配便配達を装って押しかけ、親子が警察に何をしゃべったのか、他に同アパートの住民で目撃した者がいたのかなどについて尋問する。そのうえで、尋問しに来たことを口外しないように口止めをする。しゃべったら殺すと。
 母親(Jan Davis)は、卒業後再入学による学位論文執筆中の大学院生であり、夫と離婚手続き中である。
 母親は心底ビビったが、ヘザー(Heather Davis)という名の 女児は警察に通報する。
 通っている保育園には、児童との触れあいキャンペーン活動で、「優しいおまわりさん」(Officer Friendly)が何度か出入りしており、電話番号入りのその立ち姿ポスターが教室の後壁に貼ってある。この、「優しいおまわりさん、オフィッサー・フレンドリー」に園長室から電話して、脅迫事件をシェリルに、ルーカスに連絡してきた。休憩時間に、園長が園児を引き連れて外に出た隙に、園長室に忍び込んで電話したのである。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 さて、さて、ついつい話が長くなって、いつまでたっても終わりそうにない。以降は端折ることにしよう。

――中断未完、続く――

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年12月 5日 (月)

シェリル追想―その4(6)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"

                                                   <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2011.12.5
         <<<フォックストロットで喜悦の一夜を過ごしたマローン、FBI女性捜査官>>>
  「シェリル追想―その4。シェリル撃たれる」('2011.11.9)、「その4(2)」(11.15)、「その4(3)」(11.22)、「その4(4)」(11.23)、「その4(5)」(12.2)に続く記事である。

 前回の記事(「その4(5)」)は次のように終えた。
********************************
  "By the way, you remembered Malone?"
 
"Of course. How is she?"
 "She's fox-trotting with somebody else," Mallard said.
 "Uh-oh, Gonna be number five?"
 "Could happen, ........................................."

 「ところで、マローンのこと覚えているだろう」。
 「もちろん。元気でやっているかい」。
 「やつだけど、あいつ、このところフォックストロットを踊りまくってるんだ」。
 「えっ、ほんとかい。5人目の亭主にするつもりか」。
 「可能性はあるな・・・・・・」


 
フォックストロットを踊りまくっている」とは、「(アレを)やりまくっている」ということの隠喩だ。あるいきさつ、ルーカス、マローン(Malone)、マラードの三人だけが知るいきさつからきていることだ。
 シェリルも、間接的にではあるが、このいきさつに関わっている。
  いきさつは、稿を改めて説明することにしよう。

*********************************
 こう終わっている。そこでその説明だ。もちろん、シェリル追想を兼ねている。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 第10作Certain Prey(「確実な獲物」の意。邦訳版があるかないかは不知)でのできごとである。

 クララ・リンカー(Clara Rinker)という女の殺し屋(殺人請負人)がミネアポリスで地元名家出身の裕福階級女性を殺す。立体駐車場の昇降階段ですれ違いざまに至近距離からサイレンサー装着22口径銃で後頭部を撃って即死させ、さらに一発、倒れた後もこめかみに5発、合計7発の弾丸を撃ち込んだ。たまたま現場に出会わした市警官も撃たれて重傷を負う。(2011.10.30過去記事「シェリル追想―その3」で、その場面を詳しく描写している参照されたい)
 殺人課のシェリル(巡査部長)や、長年ペアを組んできている相棒のブラックらが捜査に乗り出すが、この若い殺し屋女は、12、3年間で27人も殺している殺人鬼で、FBI(連邦捜査局)が長年必死になって追っている相手だった。
 そのようなことで、FBIと密に連絡をとりながら捜査を進めていくことになった。連携相手は、ワシントンD.Cの本部にいるルイ・マラード(Louis Mallard)だ。この殺人鬼逮捕に執念を燃やしている。

 捜査が膠着状態に陥るなか、シェリルが案を出す。
 セントルイスのマフィア20人余について、ミズーリ州南西部やカンザス州東部にかけた過去電話を追跡したら、リンカーに殺人依頼を出している元締めを割り出せるのではないか。
 「この一週間で始めて出た良案だ」、
 ルーカスが褒め、すぐに案をマラードに伝えた。

 マラードは喜んだ。電話会社相手の捜査活動はお手の物だ。直ちに、三人の部下を作業に貼り付ける。

 ――有力な容疑者が浮かびあがった。カンザス州ウイチタ(Wichita)の人間だ。女じゃなくて男だ。小柄なプエルトリコ人だ。女装して殺しをやってきたのである。容疑固めをするために、これからウイチタに向かう――

 マラードから、翌日の午後ルーカスに、このような電話が入った。
 これまでポルシェで何度も長旅をしてきたが、さすがにウイチタまでとなると疲れる。ルーカスは、ポルシェ販売店から売り物の中古BMW-740ILを借りて、650マイル(1,040キロ)を9時間で走った。なぜドライブか。飛行機恐怖症なのだ。
 あちこち痛みのきている車だったが、走行は快適だった。
 モーテルにチェックインして、ワシントンD.C.本部交換台経由でマラードに連絡し、落ちあい場所、Joseph'sという名のレストランに向かう。
 15分で着いた。ちょうどウェイターが料理を席に並べているところだった。

 マラードは女性と一緒だった。角ばった顔で、髪はグレーだ。自分と同じぐらいの齢だろう、ルーカスはそう踏んだ。40代半ばだ。名はマローン(Malone)だという。

 「マローンは、チームで法律問題を担当している専門家だ」、ステーキに手を伸ばしながらマラードがいう。「盗聴記録や捜査令状などの事務を管掌し、判事との折衝を行う」。
 「あなたも捜査官ですか」、ルーカスが問う。
 マローンは、小さな四角い肉片を口に押し込んだばかりだったので、答える代わりにピンストライプのジャケットの左側をはだけて、黒い自動拳銃の握りを見せた。
 「すごいアクセサリーだな」、
 ルーカスは、ちょっと気を惹くような風情でいった。
 「わたし、おまわりの口説きに弱いのよね」、マローンは飲みこんでからいった、
 「どきどきしちゃうわ」。

 「よせやい」、マラードがいう、「中年の求愛なんて、みてられないぜ」。
 「この人、何が気に食わないんだ」、ルーカスがマローンに問う。
 「離婚したばっかなのよ」、マローンが頭をマラードの方向に振っていう、
 「まだ未練があるの」。
 「ああ、そりゃ悪かった」。
 「うそだ・・・・・・まあ、とにかく、完全に終わってる」。

 マラードはこういったが、一瞬悲しそうな顔をしたので、ルーカスは背中を叩いて、「そのうち忘れるさ」と慰めたくなった。しかし、ルーカスは(
ウェザーとの離別の経験から)忘れられないことを知っていた。マラードも同じだろう。
 「それに」、マラードがいう、「その状況は、オレだけじゃないから」。
 「私のこといっているのなら、お門違いよ」、マローンがいう、
 「みんな、ろくなもんじゃなかったから」。
 「みんな?」、ルーカスが問う。

 
 「バツ4だ」、マラードがフォークをマローンの方に突き出すようにしていう。
 「なんだって」、とルーカス、「FBI局内の相手とか」。
 「二番目のがいなかったら、私は今ごろ副長官になっていたわ」、マローンがいう。
 「そいつ、何をやったんだ」、ルーカスが問う。
 「役者だったのよ」。
 「へボ役者だ」、マラードがいう。
 「違うわ、うまい役者だったんだけど、裸シーンから抜けられなくて」、マローンはいう、
 「裸場面の撮影現場で、裸のままワシントンポスト紙のインタビューに応じて、妻がFBI捜査官だと話したの。それが致命傷になった」。
 「出世の泳ぎが下手だったんだ、私もマローンも」、マラードがいう、
 「二人とも、いまだに白シャツを着ている」。
 「五人目はもう確保できてるんですか」、とルーカスが問い、
 「まだ」、「だけど、あちこち探しているわ」、マラードが応えた。


 マラードが話題を転じ、Lopezという名のその容疑者を24時間体制で監視しているのだとルーカスに状況を説明し、これまでの電話盗聴録音の編集済みテープを貸すから今晩聴けといい、明日逮捕を前提に動くという。相手が動きを見せたら、逮捕するのだという。ルーカスは行動を共にする許しをもらい、
 「しかし、私は相手に顔を見られたくない。そいつがツインシティ(ミネアポリス/セントポール)に出入りしていたとすれば。私は、この件でテレビに何度か出ているから、相手が気付くかもしれない」と告げる。
 「あ、そう、ということは、あなたって、セレブリティなのね、地元のヒーロー」、マローンがいう。
 「さあ、いくぞ・・・・・・、マローン、一緒に来るかい」、マラードがさえぎった。


 ホテルのマラードの部屋で件のテープを聴く。ルーカスは、その会話の内容からして、電話の主は麻薬の、ヘロインの末端売人であると判断する。末端売人は、例外なくジャンキー(中毒者)である。したがって、確実性と厳重な秘密を要するプロの殺人依頼をジャンキーに対してすることはないから、その男は犯人ではないと述べる。マラードはその見解に賛成しない。
 テープを聴き終えて、あれこれいいながらしばらく座っていた後に、マラードがいう。

 「ケーブルテレビでヤンキースの試合やってるが見るかい」。
 「いや、外に出たい、一日中車に座りっぱなしだったから」。
 「どこへ行くつもり」、マローンが問い、
 「バーにでもいって、ビールを二、三本」、ルーカスが答える。
 「付き合うわ」、「ゆったりした服に着替えてくる」、マローンがいう。
マラードがため息をついていう、
 「いいだろう、テレビを眺めているよりはいいかもしれない」。
マローンがマラードの顔にちらっと眼をやり、「邪魔よ」というように、額に細いしわを一本寄せ、0.5秒でそれを消した。そしていう、
 「30分後にここに集合しましょう」。


 マローンは黒のスラックスに、ゆったりとした黒のジャケットを着ていた。その下には薄手のブラウスだ。さらにその下には、ルーカスが思うに、フリルのついた黒のブラをつけているにちがいない。ジャケットの左側は、セミオート拳銃の膨らみをかすかに見せている。女が先にドアを出たので、空気に香水がかすかに匂った。エキゾチックなそれだ。
 マローンが素早く助手席に乗り込み、マラードは後部座席に座った。マローンはダッシュボードの計器類、ライト類、ドア、ハンドルなど検分していう。
 「小さな町の警官がなんでこんな車に乗れるの、わたしたちはトーラスに乗ってるっていうのに」。
 「俺たちは政権交代のたびに汚職と戦っているからだ」、マラードがいう。
 「ミネアポリスはD.C.より大きい」、ルーカスがいうと、マローンが鼻を鳴らし、マラードが、「いいよ、もう」と牽制した。

 
 ダウンタウンに行く途中に、停車しているパトカーがいた。ルーカスは、その鼻先に車を止めた。
 「なにをするつもり」、マローンが問う。
 「調査だ」、ルーカスはそう答えて、警察バッジを掲げてパトカーに歩み寄り、窓ガラスを開けた運転者に、バッジケースを開いてみせて、いう。
 「こんちわ、ミネソタから来た警官だ。友達と一緒なんだけど、バーかカクテル・ラウンジを捜してんだ、ほら、ちゃんとした店を、どこか知らないか」。
 運転者はルーカスのバッジケースを受け取ってしばらく検分し、鼻を鳴らすようにいう、
 「副署長だってか、え」。
 バッジを返し、
「大して多くはないんだが・・・・・・」、
助手席の相棒の顔を見て、
 「どうだ、リンクなんか」。
 「まあ、ベストだろうな」、相棒が応じ、
 「真っ直ぐ4ブロック進むと二つ目の信号があるから、そこを右折して、さらに四、五ブロック行くと、リンク(Rink)という店がある」、とルーカスに応えた。
 「そりゃいいや」、ルーカスが背筋をまっすぐに戻し、
 「仕事が終わったら来たらどうかね、まだ俺たちがいれば、一杯おごるよ」。
 「そりゃすまんな、だけど俺たちゃ徹夜勤務だ」、運転者がいい、さらにいう、
 「なあ、訊いていいかい、(
こんな車に乗りやがって)ミネアポリスじゃ基本給、いくらくれるんだい」。

 三人でしばらく給料や休暇や病欠制度などについて語り合った後にルーカスは740に乗りこみ、ボンネットを開けるラッチに足をひっけてしまい、外に出て、ボンネットを閉め、リンクに向かって出発した。

 ボンネットのラッチは壊れかかっているのだ。来る途中でも、同じ現象を何度も起こし苦労した。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 さて、いよいよフォックストロットの説明だ。
**************************************
 店の所有者リンカー、すなわち冷酷無比の殺し屋だが、リンカーは額を金づちで殴られたようなショックを受けた。
 なんと、ルーカス・ダベンポート(Lucas Davenport)が現れたのだ。店に入ってきた。
 バー(カウンター)の後ろに立っていたのだが、一瞬頭脳に火花が散り思考が停止した。5秒後に立ち直り、相手に連れがいることに気付いた。弁護士のような女性と、学者か大学のレスリング・コーチのようにみえる首の太い男と一緒だ。顔をそむけてカウンターを抜けて裏部屋に入り、半面鏡の窓から相手を観察しはじめた。

 どうやら、ダベンポートは、ほんとに偶然に、何かのきっかけで偶然この店に来合わせたようだ。みていると、弁護士風女に盛んに冗談を飛ばし、女はそれを喜んでいる。
 店にはダンスホールがある。ホールのフロアは、磨きをかけた楓材(かえで材)だ。破産した空手道場の床を移設したもので、市内随一のフロアだ。人工皮革張りの椅子を配したブースが、フロアを取り囲んでいる。週末なので生バンドが入っている。一行が入ってきたときには休憩中だったが、バンドがスタンドに戻った、3回目、ラストステージだ。リンカーはブースを順に回って、客のご機嫌をうかがう。バンドがウェスタン曲を奏で始め、数組のダンス客がフロアに散った。

 ルーカスは、マローンを軽く口説いていた。マラードは、会話を捜査の話にもちこもうと、しゃかりきだ。マローンは捜査話はしたがらない。しかし、ルーカスがダンスを誘っても応じなかった。
 「こういうのは踊らないのよ」。
 「何か、哲学的な理由でもあるの」。
 「ロックだとかカントリーは踊らない。それだけのこと。やったことないもの、私はフォックストロットを踊るし、ワルツも踊れる。だけど、こういうのは踊れない、こういう,、なんていうか、ほら・・・・・・」。
 「堅苦しく考えすぎだよ・・・・・・」
そのとき、一人の女が席で立ち止まり、
 「楽しんでいただいていますか」、と声をかけてきた。
 「ああ、大いにね」、ルーカスが見上げながらいう。ウェイトレスではない。
 「どなたですか」、と問う。
 「オーナーのクララと申します、うまくいっているかどうか、席を回って確認させていただいております」。
 「いい店だ。ミネアポリスにも店を出したらいかがですか」。


 ミネアポリスからですか。そうだ。連れは東部からだ。ウイチタへようこそ。
 こういう会話の後、リンカーが立ち去ろうとした。しかし、おそらく、いつもより一杯多く飲みすぎたのであろう、マローンが口を出した。
 「あなたのとこのバンド、ワルツはやらないんでしょうね」。
 「そうですね、やらないと思います。ワルツを踊りたいんですか」。
 「この人が踊ろう踊ろうといってきかないのよ」、マローンが長い首を突き出してルーカスを指し示して、
 「だけど、私はロック踊れないの、やったことないの」。
 「一度試されたらいかがですか」、リンカーがいい、素早く周りを見回して、
 「ちょうど手が空いていますから、よろしければ、踊りますか」、とルーカスを誘った。


ルーカスは、5秒間で、女がとうてい自分らの太刀打ちできる相手ではないことを悟った。
 「ダンサーでしょう、プロの」、こう問う。女は笑って答える。
 「そうですね、むかし、まあ、一種の」。
 「やっぱりな、ちょっと程度を下げてくれませんか、こっちのアラが目立ってしょうがない、それに、こっちは齢だし」。
 「あら、とてもお上手ですよ」、女はいう、
 「草深いミネアポリス出の、白人にしては」。

ルーカスは笑って、女を回転させた。
 二人はしゃべりながら、いや、音楽越しに怒鳴りながら、楽しく踊った。 

――続く――

 
 
 

 
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年12月 2日 (金)

シェリル追想―その4(5)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"

                                                          <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2011.12.2
 「シェリル追想―その4。シェリル撃たれる」('2011.11.9)、「その4(2)」(11.15)、「その4(3)」(11.22)、「その4(4)」(11.23)に続く記事である。
  ルーカスとデルは、オルソン夫妻死亡現場モーテルから病院に戻った。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 シェリルはまだ手術台にいるという。
「なんてことだ、どれぐらいになるんだ」、マリ署長に訊く。
 署長は空き病室を占拠して、患者用の電話二本を両手に忙しくやりとりしてしていた。時計を見ていう。
「4時間」。
「あとどのぐらい」。
「分からないわ、ルーカス、行きなさい、何かやりなさい」。
「何をやりゃいいんだ」。
「なんでもいいから。ここにいるのは、あんたのためにならない」。
 さらに、デルを見やっていう。
「あんたも」。


[郡検事事務所(county attorney's office)で]
 署から地下トンネルを通って郡役所ビル(Government Center)に行きエレベーターで郡検事事務所に上がった。
 検事Randall Towsonと要件を話し終えた後、トーソンがいう。
 「マーシーの容態はどうだ」。
 「これから病院に寄るつもりだ。しばらく前に訊いたときには、まだ手術台にいた」。
 「ルーカス、大丈夫だよ」。
 トーソンはルーカスとマーシーのいきさつを知っているのだ。
 「彼女元気だし、手術台まで運びこみさえすれば・・・・・・」
 「うん、そう、そう願っているのだが」。
 「大丈夫、助かるさ、きっと助かる」。


3  市庁舎(City Hall、警察署はこの中にある)と、ヘネピン郡役所Government Center)。右下の丸印は無視されたい(立体駐車場)
Photo_2  ヘネピン郡検事(事務所)のウェブページ画像。左端ツインタワーが郡役所である。

 病院には、所在なさげに動いている警官が何人もいた。連中に頷きながら真っ直ぐ看護婦デスクに向かう。看護婦がルーカスの姿を認めて、否定の首を振っていう。
 「まだ出てきません。だけどドクターGundersonがコーラを飲みに出ていらっして、ほとんどの修復措置をやり終えたっておっしゃっていたから、もうそんなに長くはかからないと思います」。
 「助かるんだな」。
 「がんばっています。ですが・・・・・・」。
 看護婦はことばを濁し、権限もなく情報を流して咎められるのを恐れるように廊下の両側を見やっていう。

 「うん、うん、ですが、なんだ・・・・・・」。
 「ですが、乳房のすぐ下、中心線から数インチ外れたところを撃たれているので、肺臓被害の問題があります。それと、あばら骨のかけらが散らばって突き刺さっている問題。でも、脊髄には被害はありません。ですから、しっかりと出血を止めれば、そして体が持ちこたえれば、助かると思います。私はそう思いますが、実際に立ち会っているわけではないので」。
 「そうか、よし」、ルーカスがいう、
 「やつは、ものすごく強い」。


 看護婦デスクを離れ、ローズ・マリ署長が指令室として使用している空き病室にいく。副署長のレスター(殺人/強盗などの担当)がいた。

 ――トム・オルソンは多重人格(二重人格)症ではないか。警察の顧問シュリンク(精神科医)がそう示唆している――
 レスターが話題を持ち出す。いろいろ議論した後に、その件についてエル・クルーガー(Elle Kruger)の専門意見を仰ごうということになった。クルーガーは、ルーカスの幼友達、初恋の人、無二の親友、修道尼、修道院付属大学の心理学教授である。これまでにも、捜査を成功に導くうえで非常に貴重な助言を何度も受けている。     

 そうこうしているところに、メイプルウッド(Maplewood)警察署の警官から電話がかかってくる。
 手配していた車、行方不明になっているデリック・ディールの車が見つかったというのだ。相手先署長との連携で警官に指示してトランクを開けさせると、中に当人の死体があった。
 *デリック・ディール(Derrick Deal)は、サンディ・ランシング(Sandy Lansing)という女が勤めていたブラウンズ・ホテルでの、女の上司である。この女は、 アリーアイ・メソン(Alie'e Maison)殺害現場の捜索中に廊下のクローゼットから転がり出た死人である。 アリーアイ殺害事件時のパーティには70人余の裕福階層が出席していたが、女は、そういった面々に麻薬を調達している売人だった。その副収入で分不相応に豪華な服装をし、ポルシェを乗りまわしていた。ホテルはスポーツ選手などの著名人に人気だが、その高額さと超高級売春斡旋などの芳しくない噂で知られている。ディールは、売春斡旋、不法就労メキシコ女性従業員の弱みにつけこんだレイプ、セクハラ、チップのピンハネなどの悪行をやっていた。

Photo                    (ミネアポリスとメイプルウッド)

事件4日目
 ルーカスは眠れぬまま悶々と朝を迎える。7時に目覚ましが鳴る。病院に電話する。マーシーは依然として危篤状態で集中治療室にいる。しかし、生きている、昏々と寝ている。
 デルと二人で、スティルウォーター刑務所(Stillwater Prison、州刑務所)に行き、Rashid Al-Balah(ラシッド・アルバラー)という名の囚人から、それは、殺人罪で投獄したものの、その殺したとする相手、被殺害者、Tric Bentoin(トリック・ベントワン)という男がひょっこり生きて現れたという話題の人物なのだが、その囚人から、ランシングに麻薬を卸していた男、地域の大元締めの名を突きとめた。Richard Rodriguez(リチャード・ロドリゲス)という。
 刑務所に行く前に病院に寄っていた。その際、傷口から血が漏れ出ている疑いがあると告げられていた。心配だ。
 
 刑務所から戻ってきて寄ると、手術室に運び込まれたという。
「なに」、とルーカス。
 看護婦が腕時計をみていう、
「15分前に」。

  監視し続けてきたものの、血圧が上がらないので、出血場所を突き止めて完全に止血するために手術することにしたのだという。

1 スティルウォーター刑務所(Stillwater Prison、州刑務所)。元々は、2マイルほど北方に設置されたのだが(1851)、手狭になったので、この拡張施設を作ったのだという(Wikipedia)。

2           ミネアポリスとスティルウォーター(Stillwater)の位置関係。赤い気球印が刑務所施設

事件5日目、水曜日。
 病院に行く。
 ブラック(Black)が訪問者用の椅子に前かがみになって突っ伏していた。ルーカスを見て起きあがる。ひげが伸びている。
「何も変わらないけど、たまに意識が戻るようになった。今はまた昏睡している。しかし、医者は、平常に戻るところまできているといっている。今日あたり目覚めるだろう」。

 ルーカスはベッドの顔を見つめる。マーシーは、常に、署内で最も活発な人物であった。常に何事かをやっていた。何かを動かしていた。ベッドで支えられているなんて、らしくない。細く、やせ衰えて、疲弊しきっているようにみえる。ルーカスはブラックの肩を叩き、「大丈夫だよ」といって立ち去った。


Photo_34   シェリルとルーカス。USA Network社映画"Certain Prey"の予告編/TV放送報道YouTubeから。上の画像は、署の殺人課事務所、下はルーカス(特別犯罪捜査/諜報/情報収集担当副署長)の個室事務所であろう。

 件(くだん)の麻薬大元締め、ロドリゲスは、ある銀行から金を借りまくって建物を買い漁り、大々的にアパート賃貸事業をやっている。ヤクで稼いだ金のマネーロンダリング(資金洗浄)のためだ。銀行の不動産融資担当幹部職員が、この不法活動に手を貸している疑いがある。銀行に出向いて、この職員の事情聴取をする。

 病院に戻る。シェリルは依然として危篤状態ではあるが、容態は改善しているという。始めて明るい兆しが見えた。
 看護婦が、「一分だけですよ」と厳しい顔つきで命じて、マスクを着用させ、部屋に入れた。
 マーシーの瞼は半分閉ざされていた。ルーカスとデルとブラックが寄っていくと、目が部分的に開き、しばらくして唇の端を歪めた。
 「寝てて給料がもらえんだ」、ブラックがいう。
 「オレは残業申請書にサインしないよ。君は依然として殺人課所属だからな」、ルーカスだ。
 「マーシー、死んだら、あんたのピストルオレにくれるかい」、これはデル。
 シェリルは何かを云おうとしているのだが、ルーカスには聞こえない。そこで、屈んで耳を近づける。シェリルの唇は干からびている。
 「なんだって」、ルーカスが問う。
 「くそったれ」、シェリルが呟く。頭をほんの少し廻した。

「おお、よくなった!」、ルーカスが喜び声でいう。
「くそったれ」っていったぜ。

 ルーカスはベッドの傍にしゃがみこみ、青色のマスクの下からいう。
「痛いだろう」、「だけど、もう大丈夫だ、きっと治る」、「撃った男は、絶対に捕まえる」。
 シェリルが頭を廻して顔をそらし、瞼が再び閉ざされた。
「時間です、出てください」、看護婦が告げた。

 ホールでルーカスがいう。
「あいつ、よくなったぞ、えっ、よくなったぞ」。
「ああ、よくなった」、ブラックがいう。
「驚いたな、44口径で撃たれたんだぜ、えっ、かなりよくなった」、デルがそういい、ジーパンを腰にずり上げた。全員が互いに頷き合った。


 署に戻って、ワシントンD.C.のFBI本部にいる友人、ルイ・マラード(Louis Mallard)に電話する。この男は、数カか前に(夏、現在は11月)、それまで30人もの人を殺害していた殺し請負人、クララ・リンカー(Clara Rinker)という女の殺し屋追跡で行動を共にした相手だが(第10作"Certain Prey")、これにFBIデータベースからの情報調査を依頼したのだ。

 次いで、署長室でロドリゲス監視その他についての作戦会議。デル、殺人/強盗凶悪犯担当副署長レスター(Frank Lester)、郡検事トーソン(Towson)、検事補ロング(Long)といった面々とだ。
 途中でFBIマラードから電話が入る。署長の秘書が顔を覗かせ、「ホワイトハウスだっていう男の人から電話が入っているんですけど、冗談ではないみたいです」という。
「出た方がいいわ」、と署長。
 マラードからだった。「『署長室で会議中』だと秘書がいうので、担いだのだ」、といって笑う。
 いろいろ話をしたうえで、マラードがいう。


 "By the way, you remembered Malone?"
 
"Of course. How is she?"
 "She's fox-trotting with somebody else," Mallard said.
 "Uh-oh, Gonna be number five?"
 "Could happen, Anyway, we'll grind some more on Rodriguez, but I thought you'd want to know he was collecting cash."


 「ところで、マローンのこと覚えているだろう」。
 「もちろん。元気でやっているかい」。
 「やつだけど、あいつ、このところフォックストロットを踊りまくってるんだ」。
 「えっ、ほんとかい。5人目の亭主にするつもりか」。
 「可能性はあるな。とにかく、ロドリゲスが金をかき集めていることを知らせておいた方がいいだろうと思って電話したんだ」。


 「フォックストロットを踊りまくっている」とは、「(アレを)やりまくっている」ということの隠喩だ。
あるいきさつ、ルーカス、マローン(Malone)、マラードの三人だけが知るいきさつからきていることだ。
 シェリルも、間接的にではあるが、このいきさつに関わっている。
  
  (以上、John Sandford, "Easy Prey"Berkley mass-market edition/ March 2001, ISBN 0-425-17876-5、183-257ページから)

  いきさつは、稿を改めて説明することにしよう。

――続く――

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年11月23日 (水)

シェリル追想―その4(4)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"

                                                  <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2011.11.23
 「シェリル追想―その4。シェリル撃たれる」('2011.11.9)、「その4(2)」(11.15)、「その4(3)」(11.22)に続く記事である。

 ルーカスは、ヤエル・コブ(Jael Corbeau)宅を出た後、ミネアポリス北東直線4マイル(6.5キロ)ほどのところにあるノース・オークス(North Oaks)に向かい、そこで部下のデル(Del Capslock)と共に、麻薬ディーラー宅のがさ入れ(家宅捜索)をしていた。その現場に、署長ローズ・マリ(Rose Marie Roux)から急報が入る。シェリルが撃たれたと。
 シェリル(Marcy Sherill)とは、ヤエルの家でさっきまで一緒だった。別れたばっかりだ。

 事件は、超人気モデル、アリーアイ・メソン(Alie'e Maison)が殺されたことから始まった。パトロン的存在の富裕女性が主催した夜間パーティに出席して、その家の寝室で殺されたのである。当人の死体発見後、廊下のクローゼットから、もう一人の女の死体が転がり出た。アリーアイの死体には、死ぬ前になんらかの性行為を行った痕跡がある。ヤエルの口から、この性行為は、アリーアイとヤエルともう一人の女によるトリプル(3人)同性愛プレイであることが分かった。
 当日の昼間、このモデルのファッション・アート・ビデオ撮影があった。撮影を指揮したのは、写真家兼ファッションアート・ディレクタ/プロデューサのアムノン・プレイン(Amnon Plain)という男であったが、この男も、モデル殺人の捜査が始まった後に、続いて殺された。ヤエルは、このプレインの妹である。二人ともパーティに出席していた。このパーティには70人余が出席したが、その大半がヤクに汚染されているようだ。転がり出た女は、高級売春斡旋が噂されている高額ホテルの従業員であるが、上記パーティ出席者のような層に麻薬を売って巨額の金を稼いでいた。そのことが、同じく、ヤエルの口から判明した。

 ルーカスは病院に急ぐ。心は千千に乱れる。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 ルーカスは運転に集中した。次々と車を追い抜いていく。デルがナビゲータ役を務め、割り込む隙間を知らせる。
 「あの赤の後ろを左に行け、そのまま左をずっと、いけ、いけ・・・・・・」。
 ランプを降り、I-35Wのコーナーを廻り、古いブロンコ(Bronco)とシボレー・ピックアップ・トラックの間をすり抜けて。

 行程の半分ほどきたときにルーカスがいう。
前にも、これと同じ状況があったな」。
「シェリルのやつあいつはいっつもこうなる」、デルがいう、
「この前は、出血多量で死ぬところだった」。
「ローズ・マリがいうには、ひどいようだ」、ルーカスが呻く、
「ひどいっていうんだ・・・・・・」。


Photo_11        ノース・オークスから、I-35W(インターステイト35西)を図のように南に下ってきた。

Photo_10   ミシシッピー川を越してしばらく走って右折すれば、ヘネピン郡医療センターだ。右側にメトロドームがある(2010年12月に雪の重みで屋根が陥没したが)

 
ルーカスとデルは、救急室に駆け込んだ。
 入ってすぐの廊下に、血の気の引いた、蒼い顔のヤエル・コルブが立っていた。二人の警官が脇にいる。
「どこだ、シェリルは」、とルーカス。
「手術中」、ヤエルがルーカスに近寄りながらいう。
「さっき運びこんだばっかり」。
 ルーカスは廊下を手術室に向かった。ローズ・マリがレスターと一緒に立っている。
 レスターがルーカスの腕を掴んでいう。
「落ち着け」。
 ローズ・マリがいう。
「なにも見ることはできなわ、ルーカス」。
 レスターが付け加える。
「もう意識がないんだ、ルーカス。麻酔をかけた」。
 ルーカスは息を整えた。デルがすぐ背後にいることに気付いた。
「傷はどれほだ」、とデルが問い、
「助かるか」とルーカスが問う。

「二回撃たれた」、「一発は腕、一発は左胸、肺がいかれた。左側に転がったから死なずにすんだ。わき腹で横たわっていなかったら窒息しただろう、と医者はいっている。 
「助かるか」、ルーカスが問い、レスターが答える、
「ひどい。しかし、生きている。生きたまま運びこんだんだから・・・・・・」。
「ああ、なんて、なんてことだ」。
 ルーカスは壁に崩れ落ち、目を閉じた。
「そうだ、ヤエルだ」、ルーカスは壁を押して立ち上がり、入口に向かった。ヤエルはまだそこにいた。

 

「何が起きたんだ」。
 ヤエルが堰を切ったように説明する。
「ダウンタウン(警察署)にいこうとして、家を出たの、そしたら通りから自動車がやってきて、窓が開いて、マーシーが私に怒鳴って、ピストルを引き出して、その男がわたしたちに向けて発射し始めたの。マーシーが私を突き飛ばして、そして倒れたの。自動車はそのまま走り去って、私がマーシーを見たら、体中血だらけで、家に走り込んで911をして、また出てきて、必死で血を止めようとして、救急車が来たので、抱えていた体を下ろして・・・・・・」。

「数発撃たれた」、
 制服警官の一人がいう。
 ヤエルが頷いてルーカスに歩み寄り、そのシャツを両手で握りしめていう。
シェリルは、こういった。あなたにこう伝えてくれって、いったことはそれだけ、シェリルは、自動車を撃ったっていったの。『ルーカスに、私は車を撃ったって伝えて』って」。
「どんな車だ、登録番号覚えているか」。
「いや、いや、車はちらっと見ただけ、シェリルが私を突き飛ばしたから」。
「何も見ていないのか」。
 ヤエルはルーカスのシャツを握ったまま目を閉じた、そして、いう、
「黒っぽい車だった、長くて黒っぽい」。
 ルーカスが念を押す、
「長くて黒っぽい」、「どういうことだ、長くて黒っぽいって、メルセデス・ベンツとかキャデラックのような車か」。
「違う違う、そういう感じじゃない」、「単に、長くて黒っぽい感じがするって感じ」。
「アメリカ製か」。
「分からないわ、20年前ごろの大きな車、だけど、なんていう車かは分からない。ああ・・・・・・」。
 ルーカスはヤエルの身体に両手を廻して抱きしめた。
「いや、よくやった、よくやった」、「何かを記憶しているだけでも驚きだ」。

 署に指示を飛ばす。警官を総動員して、長くて黒っぽい車を探せ。弾丸の跡のある車が近隣にいないか、しらみつぶしに探せ。しかし、ヤエルの自宅は半ダースものインターステイト道路(州連結道路)の入口ランプのすぐそばにある。希望は薄い。
 病院では、新たな医者がもう一人到着して手術室に急いだ。血管外科だと看護婦がいう。
 「どういうことだ」、ルーカスが問う、
  「心臓手術か」。
 「さあ、わかりません」、看護婦が答える。
 手術室看護婦が一人、手術室から出てきた。ルーカスとデルはその行く手を塞ぐように遮って状況を訊く。
 「どうなんでしょう、わかりません」、「生きています、呼吸器で息をさせています」。

 一時間後、デルがいう。
 「ここにいても、俺たちには、どうすることもできない、
  できることは、死んだということを知ることだけだ、もし死ぬとしたら」。
  「じゃあ、どうしようってんだ」、
 ルーカスは腹立たしい。同時に、恐ろしい。声が嗄れている。
 「オルソンを探して、車を見よう」、デルが応える。

*************************************
 
シェリルは以前にも一度、撃たれたことがある(*1)。出血多量で死にかけた。そのとき、デルは現場から病院まで、シェリルを介抱した。ヘリコプターだ。必死になって動脈を押さえながら。数週間後にシェリルは、そのためにできた青痣についてデルに苦情をいった。
「弾の穴はなんてことなかったのよ」、
「だけど、デルが押さえたためにできた、あの青痣、あれでもうお尻が痛くて痛くて・・・・・・」。

「車種、分かるかい」、ルーカスがデルにいう。
「青黒い1986年製ボルボ・セダンだ」、
「オルソン夫妻はFour Windsに泊まっているといっていた。そこから始めよう」。
「オレが運転する」、ルーカスがいう。

 
モーテルの駐車場にボルボがあった。古くて黒っぽい。しかし、銃弾の痕跡はなかった。残念がっているところに、建物の角から、オルソンが、その角の傍に設置してある販売機で買ったのであろう、ポテトチップスをかじりながら現れた。
「何やってんだい」。
「あんたの車を調べてたんだ」。
「なぜ」。

 いろいろことばを交わすが、収穫は得られそうにない。シェリルの容態が気にかかる。引きあげることにする。オルソンはモーテルの入り口に立ち、二人がポルシェに乗りこむのを見届けて中に入っていった。駐車場を右折して100フィートほど進み、赤信号で止まった。そのとき、異変が起きた。

 オルソンが両手を振り回しながら駐車場を横切って走ってくる。何事かを怒鳴っている。あるいは、悲鳴をあげているのか。走ってくる様子に、気が触れたような異様な感じがある。荒々しいフルバックの走りのようだ。タックルしようとかかってくる何人もの相手を、目に見えない相手を掻き分け押し倒しながら前進してくるような。
 ルーカスはエンジンを止め、デルともども外に出た。信号が青に変わり、後ろについていたレクサスがクラクションを鳴らす。ルーカスは運転者に合図して、オルソンの方に向かう。オルソンは50ヤード(45m)手前まできたところで突然立ち止まり、息切れしたかのように、前かがみになって両手を膝に置く。

 レクサスの運転者が車を降り、警察官だという釈明にもかかわらず、怒鳴り、悪態をつき、クラクションを鳴らし、後続車が追随する。一帯は喧騒のるつぼと化した。
 オルソンが、突然立ち止まったと同じように唐突に飛び上がり、ルーカスらに向かって走りはじめた。駐車場を縁取る芝の帯のうえで、対面方向からやってきた二人の数フィート手前で立ち止まり、騒音を背景に、目を張り裂けるほど大きく見開き、両耳の上の頭髪をむしり取るように両手で掴み、口を開くが声は出ず、顎だけをガクガク動かす。そして、顔面を下にしてぶっ倒れた。

 デルが911通報する。罵声とホーンの喧騒は続く。ブルーミントン市警のパトカーがやってきた。警官二人のうち一人は巡査部長でルーカスのことを知っていた。事情を説明する。レクサスのドライバーに、「公務執行妨害で留置場にぶち込むぞ」とひと脅しくれる。救急車と援軍が間もなく到着するだろう。
「モーテルの部屋を調べに行く。援軍が着いたら、一組をモーテルに寄こしてくれ」。
「オーケイ」。
 後を任せて、モーテルに向かう。

 オルソン夫妻が死んでいた。それぞれベッドに横たわって。夫は入口に近いベッドに、服を着たままうつぶせで、頭が異様な角度で右に曲がり、片方の腕をベッドの外に伸ばし、その下の床に拳銃転がっている。妻は隣のベッドで、靴を脱ぎ、服を着て、仰向けに、枕に頭を乗せ、こめかみに銃弾の入った赤い傷痕がある。

 オルソン夫妻の車も、息子トム・オルソンと同じダークブルーのボルボだった。ただ、型が10年新しい。その車には銃弾の痕があった。

◆◆◆◆◆◆◆◆
■脚注*1―「前にも撃たれたことがある」について
 第7作"Mind Prey"でのできごとである。少し詳しく振り返っておこう。

****************************
 精神科女医親子(
12歳と少し下の女児二人)が拉致された。監禁場所で凌辱されるがままの時間が過ぎていく。二日、三日、四日・・・・・・。必死の捜査が続くなか、誘拐犯人に内通して捜査情報を逐一漏らしている疑いが二人の女に対して浮かびあがる。二人とも被害者女医の身近にいる者だ。どちらの女かはっきりしない。確証もない。
 五日目、犯人からルーカスに電話が入る。これから監禁場所に行って人質を殺すという予告だ。止むをえぬ。ルーカス捜査班は、急遽女二人を逮捕し、署の尋問室で二人を責めに責めて、やっとの思いで片方から情報を吐かせ、犯人を突きとめた。

 時間に追われる。ヘリコプターで逮捕に向かう。親子がまだ生きていればよいが。
 ヘリは署の通りを挟んだ向かい側、ヘネピン郡役所'(Hennepin County Government Center)前のプラザに待機させてある。ルーカスとデルが署の外に出る階段を駆け上がっているところにシェリルが現れた。
 「無線で聞いたわ」。ジーンにブーツ、格子縞のシャツに野球帽をかぶっている。
 「悪い、行かなきゃ」、デルと二人でシェリルの脇を駆け抜けながら、ルーカスが振り返ってどなる。
 「私も行く」、シェリルが後を追う。
 「いや、こなくて・・・・・・」、ルーカスがいいかける。
 「ふざけんな、行くわよ、わたしも」、シェリルが遮り、「どこ?」と問う。
 ヘリが、ローターを回転させて待っている。テレビカメラ隊が三人の姿を捕え、チョッパー(
ヘリ)に向かって後を追う。
「行くぞ」、ルーカスがパイロットに。
「どこ」。
「イーガン(Eagan)だ、超特急で」。


 パイロットは、I-35とハイウェイ55の立体交差まで行って、その上空を旋回しながら待機しようという。地上から犯人の家の正確な住所を知らせてくることになっているのだが、なかなか連絡がこず、一同歯ぎしりをしているのである。
 「もう間に合わないかもしれない。予告電話が入ってから1時間15分も経っている。何もなければ家まで45分で着く(ミネアポリスから)。やつが最後にもう一度ということで、彼女にかかっていってくれておればいいのだが」。ルーカスがいう。
 パイロットが、女パイロットだが、ルーカスの顔をしげしげと見ていう。
「かかっていくって、もう一度犯してくれておればいいがっていうこと?」。
「そうだ、やつがずっとし続けていることだ」、ルーカスがいう、
「死ぬよりはましだ」。
「ああ、なんてこと」、パイロットが顔をそむけて、目指す立体交差に向かって急降下した。
 「あそこだわ、なんて渋滞なの、何があったんだろう」
 一同下を見ると、全方向ともに大渋滞だ。いたるところで警察車両のブルーのライトが点滅している。
 「やった、連中が時間稼ぎをしてくれている、渋滞を抜けるには2時間かかるだろう、
 もしかしたら、チャンスがあるかもしれない」。

 やっと連絡が入った。
 名前はLaDoux(
ラドゥ)、住まいはFarmington(ファーミントン)のすぐ北側、Pilot Knob Road(パイロット・ノブ・ロード)から1マイルほどのNative American Trail(「土着インディアン街道」の意)沿いだ。

       ――いろいろあって――

 犯人は監禁場所の地下室から人質を連れだそうとして思わぬ逆襲に合い、胸と、顔面、鼻、目にひどい刺し傷を負う。地下室から逃げてきて、家の前の草むらに膝を突く。左を見て、ショットガンを持ち上げる。警官の数が多くなった。地下室から男のどなり声が聞こえる。チョッパーの轟音が近づき、家の後ろから現れ、頭上6フィート(1.8m)でホバリングし始めた。

 シェリルが家の角から走り出てきた。二人は、同時に相手に気付いた。シェリルのピストルが持ち上がり、一発。弾丸が犯人のコートの端を剥ぎ取った。犯人が一発撃ち返した。シェリルが倒れた。両足を膝の後ろから押されて崩れ落ちるように。

 ヘリが巨大なバッタのように攻めかかってきた。犯人はガラスの向こうの、黒いバイザーを着用してパイロットを狙って、ショットガンを発射した。何も起きない。スライドをポンプするのを忘れていたのだ。チョッパーが唸りながら頭上2フィートに殺到してきた。犯人は後ろに回り込んで逃れ、家の角を曲がって走り去り、トウモロコシ畑の葉の海に消えた。 


Photo  ミネアポリス、イーガン、飛行ルート。中間の○印がI-35とハイウェイ55の立体交差点。この上空で旋回しながら名前や住所の詳細情報連絡を待った。

2 下の○印が、「Farmington(ファーミントン)のすぐ北側、Pilot Knob Road(パイロット・ノブ・ロード)から1マイルほどのNative American Trail街道沿いだ」と描写されている地点。赤い目印は、Pilot Knob Roadのそれ。

*********************************

――続く――

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年11月22日 (火)

シェリル追想―その4(3)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"

                                                   <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2011.11.22
 「シェリル追想―その4。シェリル撃たれる」('2011.11.9)、「その4(2)」(11.15)に続く記事である。

◆◆◆◆◆◆◆◆
  シェリルがドアのところで迎えた。
「ヤエルは工房にいるわ。あんたがいるあいだに、外に出てチーズバーガー買ってくる」。
「いいだろう」。
 
ヤエルは、ジーンズにゆったりとしたフランネルシャツ、陶土のこびりついたエプロン姿で木の椅子に座り、クリーム色の水差しを手に取って眺めていた。目のふちと鼻が赤く、腫れぼったい。まだ衝撃から恢復し切っていないようだ。水差しは、三千年前のものでイスラエル北部ガリラヤ地方の産だという。
「シェリルはどこ」。
「私がここにいるからというんで、食事しに行った」。
「そう、なら、散歩しましょう」。


 冷気のなかをしばらく歩いた後にヤエルが口を開く。
「サンディ・ランシングについて、調べはついたんですか」。
「ちょっとした謎だよね。ホテルの経営陣でもないし、金持ちの家庭でもない。なのに、高級服着て、豪華なアパートに住み、ポルシェに乗っている。それに、大量のコカインを吸っている。ただじゃない。金がどこから来るのか究明しているところだ。最初は、ブラウン・ホテルの金持客に女の世話をしているんじゃないかと考えていたんだが、違うようだ。


 ヤエルの口から、女がヤク(薬)のディーラーだということが判明する。
「パーティに来ていた客の半分は、サンディからクスリを買っていた」、
「なんでも、望みのものを揃えてくれる。秘密が固いし、一元客には売らない、確かな紹介状がないと売らない」。

 いろいろと語るなかで、ヤエルはサンディ・ランシングが麻薬ディーラーである旨の供述を参考人調書のなかで述べることに同意する。

 家に戻り、玄関前のポーチに腰をおろして、しばらくしゃべった。縁石に車が停まり、シェリルが降りてきた。
「シェリルは、あなたのこと大好きのようね」。
 ヤエルがそういい、ルーカスは女が自分の顔を見つめているのを感じた。
「わたしも、彼女のこと、大好きだ」、半分向き直っていう、「シェリルとは、以前付き合っていた。だけど完全に終わった。一緒に暮らしていくには、お互いに我が強すぎるからだ」。
「タフなしゃべり方するわね、あの人」。
「タフだよ、彼女は」。
「あなたほど?」。
シェリルがこちらに向かってくる。ルーカスがいう、
「おそらく」。

A city car pulled to the curb, and Sherill got out.
"Sherill likes you a lot," Jael said. He could feel her watching his face.
"I like her a lot," Lucas said. He half turned. "Sherill and I have a little history. That's all over. We weren't good for each other."
"She talks tough," Jael said.
"She is tough."
"Tough as you?"
Sherill was coming to them. Lucas said, "Maybe."

 シェリルがやってきて言う。
「どう、調子は」。
 目が、ルーカスとヤエルの表情を探るように交互に追う。ヤエルが立ちあがっていう。
「うまくいってるわよ。でも、弁護士に電話しなくちゃ」。
「なに、どうしたの、ルーカスが悪さをしかけるかなんかしたの」。
「まだ、そんなに親しい間柄じゃないわ」。

 
ヤエルが家に入り、声が届かなくなったとき、シェリルが問う。
「何があったの」。
 サンディ・ランシングは、ヤクのディーラーだった。欲しいものを何でも手にれてくれた。近隣相手の素人売人とは次元が違う。ヤク取引の関係で誰かに殺されたのか。そこらはっきりしないが、ヤクに関係することは確かだ。どうのこうの。しかし。アリーアイ殺しとの関連がどうもしっくりとこない。アムノン・プレインの殺害は、アリーアイの弟、オルソンによる復讐じゃないか。オルソンを追跡すべきか。そうだ。15人もの刑事が捜査にかかわっているのに、なんの進展もない。レスター(
殺人等担当副署長)と、その件を協議しよう。

「調書取りに、ヤエルを署に連れてくるかい」。
「そうするつもり。でも、5時になったら退きあげるけどね。トム・ブラック(Tom Black)が5時に来るから」。
「そうか、ヤエルを保護し続けてくれ」。

「イカレたんでしょう、彼女に、そうでしょう」。
 ルーカスは前かがみになって、声をひそめていう。
「おれが何をしたいか、わかるだろ」、
「ああいう女三人と立ち回って、ほら、わかるだろう、キングサイズのベッドで。えっ、ものすごくファンキーな金髪レスビアン3人がオレの身体にまとわりついて重なっている。えっ、ダベンポート・レスボ・サンドイッチだ・・・・・・」。
 シェリルが、ルーカスの胸を手で押す、
「まったく、エロじじいが、エロな夢を見て、何をいってんだか」、
「三人の金髪がルーカスとベッド、ものすごい御馳走が三つと、短小ウインナ」。
 二人で大笑いしているところに、ヤエルが家から出てきた。
「弁護士は三時まで動けないって。弁護士事務所で落ち合って、市庁舎(City Hall)まで歩いていくことにした」。    (
「注」―ミネアポリス市警察はこの「市庁舎」の中にある)
「弁護士は、よしなさいというんだけど、私が、したいといったの」、ルーカスの顔を見上げていう。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 ルーカスは別れを告げて、ダウンタウンに向かった。デルに電話した。ドアを蹴破りに、がさ入れに行く準備ができたという。Loganという男の自宅と、Beeという男の自宅と事務所だ。まず、Beeの自宅に行という。North Oaks(
ノース・オークス)にある。
 「20分後にそこで会おう」。
Photo
           (ヤエルの自宅はミネアポリス南部にある。そこからノース・オークスに向かったわけである)

 家宅捜索は、ミネアポリス署の麻薬課刑事などの警察官と保安官事務所の保安官補らで行った(Ramsey郡保安官事務所) 。黒のスパンデックス製タイツと"Twin Cities Marathon"(ミネアポリス・セントポール・マラソン)広告入りTシャツ姿の痩せた金髪女が応対に出た。誰もいないと言い張ったが、裏口から男が一人走って逃げた。

 「保安官補リックが追っている、逃げられるもんか」、同僚保安官補がいう。「捕まるもんか、Beeはマラソン選手だ」、と女。「リックも選手だ」、と保安官補。

 
家の電話に、つまりBee宛に、ヤク取引がらみのものと推測しうる電話がかかってきて、ルーカスが巧妙に相手の電話番号を聞きだしたりした。
  電話を切ってあれやこれやとやりとりをしているときに、再びその電話が鳴った。


「ルーカス?」、女の声がいう。
 名前を呼ばれて、ギョッとする。しばらく間を置いてから受話器を取った。
「そうだが?」。
「こちら、ローズ・マリ」、女はいう。
「なんだ、びっくりしたぜ、精神異常者かなんかを相手にしているのかと・・・・・・」。
 マリ署長がさえぎる。
「聞いて・・・・・・いうのはいやだけど・・・・・・シェリルが撃たれたのよ」。

 ルーカスは、しばらく、何がどうなっているのか理解できなかった。
「なに、なに?」。
 デルが顔を見て緊張した。
シェリルが撃たれたのよ。ヘネピン
に搬送しているところ」。
   
(「注」―「ヘネピン」とは、Hennepin County Medical Center、ヘネピン郡医療センターの病院のことであろう)
「ああ・・・・・・、なんて、こった、傷はひどいのか」。
「ひどい、ひどいのよ」。
「すぐ行く」。
 ルーカスは受話器を放り投げるように戻して走りはじめた。
 デルが怒鳴る。
なんだ、どうした」。
 怒鳴り返す。
シェリルが撃たれた。ここにいろ。指揮をとれ」。
「くそ、冗談じゃない、ラリーに任せりゃいい」、デルもルーカスの後を追って走りはじめた。
 玄関ドアを走り抜け、金髪女としゃべっているコーヘン(
Larry Cohen、市警察麻薬課刑事)に怒鳴る。
「ラリー、後を頼むぞ、シェリルが撃たれた、そこに行く、後をどうすりゃいいか、分かるな」。
 歩道で、腰まで水に濡れた保安官補が、手錠で縛った男を芝生に引っ張り上げている。背の低い痩せた男で、頭から足先までずぶぬれになっている。
「くそ湖に落ちたんだ」、保安官補が話しかけてきた。
 しかし、ルーカスとデルは走り抜け、ルーカスのポルシェに飛び乗り、走り去った。ノース・オークスのノロノロ道路を、タイヤをきしらせながら猛スピードで走り抜け、サッカー場の脇を通り越し、南に、ミネアポリスに向かって、猛スピードで走った。

Photo_2
           ヘネピン郡医療センター。左下に救急患者搬入口(Emergency)が見える。画像はWikipediaから。

Photo_3                   ヘネピン郡医療センター。上の丸印が、市警察のあるミネアポリス市庁舎(City Hall)。

(以上、「John Sandford's "Easy Prey"; Berkley edition, March 2001, ISBN 0425-17876-5」、159-168ページから)


 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年11月15日 (火)

シェリル追想―その4(2)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"

                                                  <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2011.11.15
 前回記事(2011.11..9)の続きである。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 ルーカスは署長室から事務所に戻りシェリルの携帯に電話した。シェリルはプレインが殺されたことをすでに知っていた。ヤエル・コルブの家に詰めて、身辺警護をするように命じる。

 「ボディガードの仕事?」、シェリルは不服だ、
 「他に誰かいないの?」。


 現時点で一番危険な点だ。まだ、追い掛ける犯人も特定できていない。しかし誰かがプレインを殺した。ヤエルの家の窓鉄格子を破ろうとした者がいた。危害を加えようとしている者がいるようにみえる。君に一緒にいてもらいたいのだ。警官だと悟られないような服装で。買い物や何かでコルブと連れだって歩いてもらいたいのだ。兄が死んだばかりだから外に出たがらないかもしれないが、葬式の打ち合わせやなにかでコルブを外に連れ出せることができれば・・・・・・。ルーカスはこう説得する。

 「つまり、餌にするってこと?」、シェリルが問う。
 「オレは、そうはいわないが」、ルーカスが答える。  
 「ふーん」、シェリルが考え込む。
 「そんなに悪くないな、そうやれば、犯人をおびき寄せることができるかもしれない」。
 「そうだ、だから、行ってくれ。待っているだろうから」。

 
ルーカスはデルと共に麻薬ディーラーの一人を家宅捜索する。ベッドのマットレスの下からコカイン袋の山を発見する。

 事務所に戻ると、シェリルからの「電話して」のメッセージがあった。
 ダイヤルしていう。
「モーテルのドアを蹴っ飛ばして、ディーラーを一人逮捕してきたところだ、

 どうだい、そっちの様子は」。

 コルブと一緒に、兄アムノン・プレインの棺桶を買いに葬儀屋に行ってきた。ぞっとした。夫が殺されてその棺桶を買いに来たときのことを想いだしたからだ(シェリルの夫、Mike Sherillは、数年前に、凶悪強盗殺人団が警察/ルーカスへの復讐を企てた事件のなかで殺されたMikeは自動車販売の仕事をしており、当時離婚前の別居中であった。第8作、Sudden Prey)。
 こういうやりとりがあり、シェリルがいう。


 「ルーカス、今朝、ヤエルに強い印象を与えたようね。父親を慕うような気持ちでかと思ったら、そうじゃなく、男として。だけど、いっとくけど、私の個人的見解からすれば、彼女はあんたには若すぎるわよ」。      

 「若すぎるって、彼女が君より若いってことはないだろう」。
 「なにいってんの、私はあんたには若すぎるのよ、わかる?」。
 「オレは、君と付き合い始めたころはうんと若かったのに、別れるころには、絞り取られて年寄りになっていた」。
 「なにいってんのよ、
また色気づいたの、また思春期がやってきたの、
   とにかく、これから二人で買い物やなんかに行くわ、変質者を見張らなきゃ」。
 「セントポール署が男を一人引っ張ってきたが、犯人なんかじゃない。関係なさそうだな」。
 「あそうなの、それで私はどうすればいいの? このままコルブにぴったりくっついてればいいの?」。
 「そうしてくれ、進展があったら連絡するから」。


「注」― 「強い印象を与えた」とは、つぎのようなことだ。
 今朝、ヤエル・アコブが急報により兄アムノン・プレインの殺害現場にやってきた。むごい死体を見て半狂乱になり、廊下に飛び出し崩れそうになった。階上に住む目撃者の聴取から戻ってきて、ちょうど状況にはち合わせたルーカスが身を支えた。その後ミネアポリス南部にあるヤエルの自宅にポルシェで送っていった。ポルシェに乗る前、報道レポーターがルーカスの名を連呼して押し寄せてきた。道中、お互いの顔の傷のことや、なぜオマワリがポルシェに乗れるのかなど、いろいろと話をした。この過程におけるルーカスの一連の言動に印象付けられた。

  John Sandford's "Easy Prey"; Berkley edition, March 2001, ISBN 0425-17876-5、149-150ページ。 

  人気モデルAlie'e Maison(アリーアイ・メソン)の殺害現場で殺されていたもう一人の女、Sandy Lansing(サンデイ・ランシング)の身辺捜査をしていたレーン(Lane、ルーカスの直属の部下)が、新たな進展を持ち帰った。
 サンディの務めていたホテルの上役Derruck Dealが姿をくらましたというのである。サンデイはパーティ(アリーアイの殺害現場)に出席していた大勢の客に麻薬を調達していた売人である疑いが濃い。その元締めが上役ディールではないか。ホテルは著名人客への高級売春斡旋で知られており、仕事はディールが仕切っている。男は、立場の弱い不法就労メキシコ女従業員に関係を迫ったり、チップのピンハネをしたりしている。以前ルーカスが逮捕投獄した男でもある。当時は資産課税評価公務員であった。
 ルーカスは事件直後にホテルで男への尋問を済ませていた。その直後から姿を消したのだという。
 ルーカスは男を探しに、その自宅に向かう。家は閉ざされていた。隣人に事情を尋ねようにも、みな不在だ。 (前掲書151-152ページ)

 署に戻り、ローズ・マリ署長がアリーアイの肉親らに対して行う状況説明会議に同席した。両親、兄のトム・オルソン(Tom Olson)、信頼しうる隣人だという夫婦2組、地元新聞紙記者一人が来ていた。
 トムはがっしりした大男で、狂信的な福音主義キリスト教説教師として活動している。ノースダコタ州ファーゴ(Fargo)を本拠に、レッドリバー・バリー地域で、主として農夫らを相手に教義を説いている。キリストの再臨、ラプチャ―(携挙、the rapture)を信じている。説教が進むにつれて、キリスト十字架磔(はりつけ)時の傷、手首、足、わき腹などから血が流れはじめると噂されている。
 席上、ルーカスは事件捜査の中心人物のような存在だと紹介された。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 自室に戻ると「電話くれ」メッセージが3本届いていた。一本はシェリルからだ。真っ先に電話する。
 「こっちに来てヤエルと話をしたほうがいいみたい」。
 「なぜ」。
 「父親に甘えたいんじゃないの、それに、お互いに顔に傷痕のあるどうしで気が合うし」、からかい気味にそうはいうが、シェリルの口調は真剣だ。
 「彼女、話したいことがあるんだって。実際のことをいうと、何事かを告白したいといっている」。
 「なに。ヤエルは・・・・・・」。
 「違う、違う、誰も殺してなんかいない」。
 「じゃあ、なぜ君に告白しないんだ。君だって傷痕をもっているし」。
 「彼女は私には興味ないのよ、それが理由よ。相手があんただということになって、彼女、告白するかしないか、どうしたものか考えているところなのよ。女って、寝てみようかなって考えている男に告白することがよくあるわ。そういう相手だと、いくらか制御できると考えるのかしらね」。
 「そうか」。
 「それで、いつ来れる」。
 「すぐに行く。だけど、いくつか電話をしなきゃいけない。じゃあな・・・・・・そう、20分後に」。


 残り2本のメッセージ、ひとつは麻薬組織捜査に当たっているデルからのものだ。電話する。麻薬ディーラー二人を襲撃するために捜査令状を取っているところだといい、一時間ぐらいで出発するという。
「支度ができたら電話してくれ。令状に、コンピュータ・ファイルを捜索対象にするということを、確実に明記するようにしてくれ」。

 最後は、25年ぶりにばったり再会したカトリン、大学時代の恋人からのものだ。
「もう一度話したいわ」、低く、緊張した声で、心配事を抱えているような口調だ。
「アリーアイ事件で忙しいでしょうけど・・・・・・セントポールで、どこかで会えないかしら、明日」。
「いいよ、いいとも」、St. Anne's教会の近くにあるレストランの名前を告げた。
「ほら、プラスチックの高い衝立のある、あの昔風の席があるんだ。落ち着いて話ができる」。


 ルーカスはヤエルの家に向かった。
 逢うのが楽しみだとウキウキしながら。

―続く―

 


 


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年11月 9日 (水)

シェリル追想―その4。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"

                                                   <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2011.11.9
 死んでしまったシェリル、愛しいシェリル、ミネアポリス市警察巡査部長、殺人課刑事、Marcy Sherill(*1)の想い出を書き続けている。 
  今日は、第11作"Easy Prey"から。

*1.死亡した第21作、"Buried Prey"(2011.10月)では、警部補、殺人課課長になっているのだが、追想記事として、昔の地位/役職で書いている。

Photo_2
1.Rules of Prey(1989)、2.Shadow Prey(1990)、3.Eyes of Prey(1991)、4.Silent Prey(1992)、5.Winter Prey(1993)、6.Night Prey(1994)、
7.Mind Prey(1995)、8.Sudden Prey(1996)、9.Secret Prey(1998)、10.Certain Prey(1999)、11.Easy Prey(2000)、12.Chosen Prey(2001)、
13. Mortal Prey(2002)、14. Naked Prey(2003)、15. Hidden Prey(2004)、16. Broken Prey(2005)、17. Invisible Prey(2007)、18. Phantom Prey(2008)、
19.Wicked Prey (2009)、20.Storm Prey(2010)、21. Buried Prey(2011)

  (写真は、John Sandford's "Easy Prey"; Berkley edition, March 2001, ISBN 0425-17876-5)

◆◆◆◆◆◆◆◆
 人気モデルAlie'e Maison(アリーアイ・メソン)が殺される。パトロン的存在の富豪女性宅で開かれた夜間パーティに出席し、その家のベッドルームで死んでいた。驚いたことに、通報によって現場に到着した警察官たちが一通りの初動現場捜査/捜索を終え、コーヒーとドーナツで一服しようとする段階まで進んでから、もう一体死体が発見されたのである。施錠されていたために初動捜索では検分していなかったクローゼットを開けたら、女の死体が転がり出た。

 緊急通報により、ルーカスはセントポールの自宅から事件現場に向かう。午前4時前だ。11月中旬だが寒い。山小屋を所有している100マイル北の湖は凍っているだろう。急ぎの時にかぎってガスがない。スタンドに立ち寄る。そこで、大学時代の恋人、Catrin、44歳にバッタリ出会う。25年ぶりだ。ジャガーのフレームにエンジンを載せた小型リンカーン、高級車に乗っている。女は、当時より10ポンドぐらい肥り、顔にふっくらと肉がついているが、ウェールズ人女性の抜けるような肌と、野生的な赤毛がかった金髪、驚くほど魅力的だ。微笑みよこす笑顔に、ルーカスはメロメロ。肺がんで死んだ友人の臨終をみとり、自宅に戻るところだという。ランチの約束をする。
 そんなことがあったのだが、話を戻そう。

 その日の昼間、Alie'eのモデル姿を中核とするファッション・アート撮影があった。そのプロデューサー兼製作監督を務めるのが、Amnon Plain(アムノン・プレイン)。アムノンとその妹Jael Corbeau(ヤエル・コルブ)もパーティに出席していた。ヤエルも、数年前までモデルをしていた者であり、現在は売れっ子陶芸家として活動している。   

 捜査の結果、アリーアイの死因は絞殺で、死亡する前に性行為をしていたことが判明した。その相手はヤエルであり、もう一人女性がからんでいる。レスビアン性行為である。さらに、アムノン・プレインとヤエル・コルブは兄と妹であると同時に愛人どうしであることが判明した。幼い頃に離れ離れになり別れて育ったために、兄妹であることに気付かなかった。その故に起きたことである。アリーアイは男も女も相手にするが、最近はもっぱら女であったという。アムノンは、アリーアイが妹/愛人ヤエルを自分から奪いさったことについて嫉妬し、アリーアイを責めたりしていた。
 転がり出た死体は、ランシング(Sandy Lansing)という女で、高級売春斡旋の噂のある高額ホテルの従業員である。年収2万ドルぐらいの給料のはずなのに、どこから金が沸くのか、豪華な衣服を身につけ、ポルシェに乗っていた。

 アリーアイの左肘裏と足の爪先には、ひどい麻薬常習注射痕があった。パーティ出席者は70人を超えたが、そのほとんどが麻薬に手を染めている。その疑惑はヤエルの尋問その他から判明したが、疑惑を確かなものとして裏付ける事実が存在する。こうだ。

 ルーカスの部下で麻薬捜査の鉄人のような存在のデル(Dell  Capslock)が、元卸/流通/販売チェーン捜査の一環として秘密裏にパーティに紛れ込んでいたのである。
 パーティ主催者のハンソン(Sallance [Silly] Hanson)がスワンソン刑事(Swanson、第一報で現場に駆け付けた刑事、ルーカスが制服巡査だったときにすでに刑事をしていた大ベテラン)に語ったところによると、アリーアイがメイン会場からいなくなった頃に変な男がうろついていた。全員に話しかけていた。街にうろつく薬の売人やポン引きみたいな男で、ガリガリに痩せ、歯が黄色い。
              "I'm with Stupid"、「アホと一緒だ」
 という文字が腹のあたりに書いてあり、そこから矢印で陰茎のあたりを指し示しているTシャツを着ていた。
    「なんてこった」("Huh.")、とルーカス。
   「それが、オレの感じたことだ」("That's what I thought.")、とスワンソン。
 ということで、デルの口から、疑惑が確実であることが判明した。
 しかし、ハンソンはパーティと麻薬との関係を強く否定し、出席者も、全員が否定する。
  Hansonは、うろついていたこの変な男が犯人にちがいない、もう捕まえたのかとルーカスに迫る。

 マスコミ好きの事件だ、大騒ぎだ。早期解決が望まれる。市長や署長からルーカスに檄が飛ぶ。捜査体制として、表立っては、殺人や麻薬を担当する副署長フランク・レスター(Frank Lester)が責任者となり、ルーカスは自分のチーム(特別犯罪捜査、諜報/情報収集班、本人を含めて3人の構成)を率いて、いわば側面支援のような活動をする。しかし、ルーカスが実質的指揮者だ。市長、署長、署員、関係者全員が、それでハッピーだ。以前にもこの体制で動いたことがあり、大成功だった。
 ルーカスは事件の性質上、捜査に女性刑事が要るとして自チームにシェリルを求める。それでなくても人手不足なのに、なおさら殺人課が手薄になるとして署長は渋ったが、結局、一時的に殺人課から離れ、事件が解決するまでルーカスの下で捜査に従事することになった。

*********************************
 ルーカスの部屋のドアに張り紙がしてあった。「来て」とあり、「Marcy」と署名してあった。
 ルーカスは殺人課に向かった。そこは、警官で埋まっていた。日曜日に、一定時間に、一カ所にいる人数としてはこれまでにみたことのないほどの人で埋まっている。副署長のレスターが部屋の端に据えたデスクに座っていて、ノートを手にした警官と話している。
 レスターがルーカスの姿を認め、首を振った。新たな進展はないのだ。

 ルーカスはマーシー・シェリルの席に歩いていった。シェリルはルーカスの姿を認めて、受話器に何事かをいい、電話を切った。
 「ほんとに、入るのね」。
 "I'm really coming over?"

 シェリルは30過ぎの魅力的な顔の女性である。喧嘩好きだ。ルーカスと、短期間の集中的な肉体関係をもった。それは、署の全員が当然の成り行きだと考えたことであり。むしろ起きたのが遅かったとみなしたことであった。数ヵ月後に、二人は納得ずくで関係を絶ち、そうしたことで安堵したのであった。
(上掲書111ページ)
**********************************

◆◆◆◆◆◆◆◆
  ルーカスがシェリルに、ベントワン(Trick Bentoin)という男を州検事(state attorney)の元に連れていく仕事を要請した。シェリルは嫌がる。直ちに、アリーアイ事件にかかわりたいのだ。
 
 ベントワンは、麻薬取引がらみで殺されたとみられていた大物であり、その殺人事件の犯人として逮捕された男(Al-Balah)が終身刑でスティルウォーター(Stillwater)刑務所に服役中である。事件は、麻薬課と殺人課が州検事事務所の刑事をも含めた大捜査陣を敷いて4カ月かけてやっと容疑者を逮捕したものである。裁判では証拠を巡って激しく争われた。検察はきわどく有罪を勝ち取った。
 ところがなんと、件のパーティー会場で、死んだはずのこのベントワンにデルがばったりと出くわしたのだ。驚くデルに男は、パナマに行っていて、帰ってきたばかりだという。犯人逮捕/投獄のことをいうと、死人ベントワンは、笑い声も出せず、廊下でひっくりかえるほど可笑しがった。
 ハンソン家の事件現場で、呼び出しを受けてやってきたデルがこのことをルーカスに伝えると、ルーカスが大笑いし、デルもつられて大笑いした。殺人事件現場用のいかめしい顔つきで張り番をしている制服警官が、「何事か」と廊下の角から顔を出して覗き、バカ笑いしている犯人が誰かを知ると、顔を引っ込めた。

***********************
 "You gotta be bullshitting me."
I'm not, man," Del said, his eyes round. "I talked to him. He thought it was funnier than hell. He hardly ever laugh; he goddamn near fell down in the hallway."
"Ah, fuck." Then Lucas started to laugh, and a minute later Del joined in. A uniformed cop with a solemn murder-scene face poked his head around the corner, saw who it was, and pulled back.


「うそつけ、この」。
「うそじゃないよ、デルが目を丸くしていう。おれはやつと話をした。やつは、可笑しすぎて笑うこともできなかった。笑いで、廊下に倒れるほど苦しがった。
「なーんてこった」・・・・・・ルーカスが笑いはじめた・・・・・・しばらくしてデルも加わった。殺人現場用の厳粛な顔つきを保っている制服警官が、不謹慎を咎めようとしたか、廊下の角からこちらを覗いた。犯人がだれであるかを悟り、顔を引っ込めた。
***********************


  ――州検事のところへ男をつれていく仕事を渋るシェリルに、人手不足だからとルーカスが重ねて要請するやりとりのなかで――
 シェリルは再び椅子の背にもたれかかって、首の後ろで手を組み、ルーカスの顔をじろじろと眺めた。
「なんだい」
「何かあったのね。顔つきからわかるわ。なんていうか・・・・・・粋っぽい雰囲気みたいな」。
「昔の友達に会うんだ」。
 隠す必要はない。関係を持った期間中に、シェリルはルーカスの心が読めるようになっていたのだ。
「美人よね、おそらく」、シェリルが微笑む。
「さあ、どうだかな、20年も会ってないんだ」。
「わあ、何があったの、その女が突然町に戻ってきたの」。
「いや、ミシシッピー河を下ったあたりにずっと住んでいるというんだ」。

 シェリルはルーカスの心が読める。顔を前に突き出していう。まじめな顔で、
「ルーカス、結婚している女(ひと)?」。
 ルーカスは肩をすくめていう。
「結婚していないわけじゃないんだが、おれの理解するところでは・・・・・・なんだよその顔は、、ランチを一緒に食べようとしてるだけだ」。
「ああ神様、ルーカス、ダメだよ、家庭を壊しちゃ」。
 ルーカスはむっとする。
「壊すもんか」、「それより、ベントワンのところへ早く行ってくれ。検事のところへ連れてったら電話してくれ」。
「ルーカス」、シェリルがいっそう真面目な顔でいう。
「ルーカス、あんた、その女(
ひと)はあんたらの齢で。結婚している。ちょうど、危険なところにいる。手を出したら、家庭をめちゃくちゃにしてしまう。あんたの素振りから分かる。

「ベントワンを探せ」。
 ルーカスは身を翻して部屋を出ていった。廊下で、荒い息でいう。
「くそったれ」。   
 (上掲書、111-112ページ)
***************************


 捜査が進むなか、アーモンが銃で殺される。セントポールの自宅兼撮影スタジオで。ルーカスは、セントポール市警察による現場捜索に立ち会う。アーモンの妹ヤエルがやってきて泣き叫ぶ。ヤエルにも、同一犯人に襲撃されるおそれがある。ルーカスは、シェリルにヤエルを警護させることにした。

「マーシ―・シェリルという警官だ」、ヤエルを見ていう。
「きっと、気が合うだろう」。

――続く――

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年11月 3日 (木)

ルーカス・ダベンポート(Lucas Davenport)とマーク・ハーモン(Mark Harmon) ― USA Network社製作、明明後日(2011.11.6))封切の、"Certain Prey。"ジョン・サンドフォード(John Sandford)の"**Prey"シリーズ第10作、"Certain Prey"の映画化作品。

                                                   <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2011.11.3
  一昨日の記事で触れたように、ジョン・サンドフォード(John Sandford)の"**Prey"シリーズ(邦題、「獲物」シリーズ)第10作、"Certain Prey"(「確実な獲物」の意)の翻案映画ができたのだという。
 このシリーズはルーカス・ダベンポート(Lucas Davenport)という異色のミネアポリス市警察官(刑事)を主人公にする警察/犯罪捜査小説である。
 一連の小説のおもしろさは、この主人公のおもしろさに80%負っているといってよい。
 そこで、映画化ということになると、その役を誰が、どんな役者がやるかということが興味の的となる。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 上に主人公ルーカスのことをミネアポリス市警察官といったが、厳密にはそうでないときのこともある(第4、5作)。さらには、警察官としても、その身分/地位はシリーズの進展につれて変わっていく。
 そこらのことを、過去記事の引用によって説明しておこう(元の記事どおりということではなく、かなり手を加えている)。

****************************
    (2010.9.8記事から)
2.John Sandford(ジョン・サンドフォード)という作家の「**Prey」という一連のシリーズ物作品がある(日本では「獲物」シリーズとして刊行されているらしい。ただし、実物を見たことはない)。警察小説というか刑事ものスリラーというか、そういうものだ。ツイン・シティ(ミネアポリス/セントポール、ミネソタ州)周辺を舞台に、ミネアポリス警察署のLucas Davenport(ルーカス・ダベンポート)という刑事が、殺人等の凶悪事件解決に活躍する。

「警察署」の「刑事」と表現しているが、シリーズが進むに従って(2010.9.8現在、20作)身分が変わる。最初は、ミネアポリス警察署の一匹狼的な刑事だった。すなわち、ポン引きだのヤク密売人だのという、自らが自家薬籠中のものとしている街の情報網を駆使しながら事件を解決していく敏腕警部補(lieutenant)だ。
  業務の特異性から、自ら街に出て一匹狼的に活動するのであるが、組織の上では、OSI(Office Of Special Intelligence、特別犯罪捜査部、諜報/情報収集部)という部門を率いるかたちになっている。
 硬骨漢で、女好きで、女にもてる。大学時代はアイスホッケーをやっていた。趣味でやっているコンピュータ・ゲーム作りで富を築き、ポルシェを乗り回している。とにかく、「異色」なんだこの男、いずれ別記事で、おいおい触れていくが。

 
 次には、ある事情で半ば強制的に辞職させられた後に、政治的配慮/考慮に基づく任命(political appointment)による「副署長」(deputy chief)(
*1)として署に戻ってくる。独自のインテリジェンス部門(特別犯罪捜査、諜報/情報収集部門)を指揮する。
 民間人として暮らしたこの数年間に(2-3年)、
コンピュータ・ゲーム開発の会社を興し軌道に乗せる。捜査活動その他のシミュレーション・ソフトウェアがよく売れた。その後会社を売却して莫大な利益を得た。
 この間も、ニューヨーク市警察署の臨時任命による嘱託/顧問上級刑事として、幹部警官を含む複数の同署警察官がからむ私的処刑殺人陰謀の解決に活躍したり(第4作)、ウイスコンシン州で臨時任命郡保安官補として、小児性愛がらみの殺人事件捜査で保安官を補佐したりする(第5作)。

  さらに進むと(第14作、"Naked Prey")、ミネソタ州公安局傘下の犯罪捜査部というところで(Minnesota Department of Public Safety's 、Bureau of Criminal Apprehension)政治的に微妙な事件について州知事の特命を受けて犯罪を解決する捜査官となる。

 「注」 ― これは、ここでとりあげている第10作の後に起きることであるが、参考までに触れておく。

*1."Deputy Chief"という職の者は数名いる。例えば、"Deputy Chief, Patrol =パトロ-ル部門担当副署長、Deputy Chief, Investigations =捜査部門担当副署長とか。なお、「署長」のことを"Chief of Police"というので(大部分の州では)、厳密にいえば「チーフ」とは署長を指すことになろうが、このDeouty Chief職の者は、通常、部下や報道記者などから「チーフ」と呼びかけられる。「副署長」といった感覚であろう。多くの場合、Deputy ChiefはBuerau(Patrol Bureau, Investigations Bureauなど、「課」、「部」、「部門」みたいな組織的存在)の長に就く。その意味では、時と場合によって、「部長」という意味合いになることもままあろう。

 政治的配慮/考慮に基づく任命(political appointment)とは、こういうことだ(推測だが)。
 まず、話の前提として、
署長は市長が任免する(通常は、市警察官として長年歩んできた人材の中から任命する。任命は、市議会の承認を要件とすることが多い)。その下位の職員は、市条例で定める一定の選考手続きを経て、署長が任免する。
 
 さてそこで、政治的配慮/考慮だが、例えば、麻薬取締強化を求めて市長/警察署長を責める市民の叫びに応えるために、あるいは、批判、非難をかわすために、取締り補強のための特別部署を組織して、その長に外部から強力な人材を招聘して据えるというようなことである。
  いうならば、市長の再任選挙のための、あるいは転身しての知事立候補/選挙対策のための任命である。同時に、市長が転ぶと署長も連動して地位を失う結果になることが多いので(新市長が別の人物を署長に据える)、署長にとっても選挙運動(地位保全運動)である。あるいは、署長から市長への転身を狙っているよ うな場合も考えられる。さらには、署長を追い落として自分がとって変わろうと画策しているDeputy Chiefに対抗するための所内抗争自陣強化策としての場合もあろう。


  市警察署の警察官は署長も含めて、市の職員(「公務員」、civil service, civil servant)であるが、一般的な市警警察官採用(若年定期採用。巡査から始まって、巡査部長、基部補、警部というように上がっていくコースでの採用)との対比における「特別職」としての採用ということになるのであろう。

 そこで、最後に、このdeputy chiefとしてのルーカスを、(政治的配慮/考慮でもって)誰が任命したのかという問題が残る。署長なのか、市長なのか。町の実力者からルーカスの罷免を迫られて
Rose Marie Roux(ローズ・マリ・ルー)という署長が、「いえ、辞めさせません」と拒否するシーンがある(第7作目の"Mind Prey")。そのことから推測すると、署長が任命したと考えてよいようにも思えるが、おそらく、「署長が任命するのだが、市長の承認を要件とする」ということではないか。
********************************


◆◆◆◆◆◆◆◆
 さて、ということだが、演じる役者はマーク・ハーモン(Mark Harmon)だという。
■Certain Prey/サーテン・プレイ(「確実な獲物」の意)-USA Network社製作、2011年11月6日封切予定
  予告編

    ">

■こういう役者なのだが、果たして、原作小説で描かれているルーカスのイメージと合っているか。アメリカ本国では圧倒的人気を誇るといわれるシリーズ、警察官にも人気が高いとされるシリーズの愛読者が心に抱いてきたイメージと合っているか。
 下に判断材料を掲げて、読者各位の、この記事を読んでくれている読者だが、その判断に委ねよう。

(一)人物像概説    
        <<<ルーカス・ダベンポート(Lucas Davenportの人物像>>>
この第10作の時点で、年齢は46-7歳あたり。
父母ともにいない。父親は小学5年生のときに心臓発作で、母親は、ルーカスが大学を卒業した後、しばらくして乳がんで亡くなった。
色黒、四角い顔にたくましい顎、濃いブルーの瞳、細身、身長6フィート2、3インチ(185-7cm)。ミネソタ大学では4年間アイスホッケー選手として鳴らした。学校には5年在籍。
ポリス・アカデミーをクラス首席で、おそらくは全校でも首席級で卒業。
女好きで女にもてる。喧嘩好き。
ミネアポリス市警察で、パトロール3年を経て刑事畑を歩き、難事件を次々と解決した。規則を捻じ曲げることがままあるなど、型破りの一匹狼型凄腕警部補刑事として名を売る。
若いころからずっと上司的な存在であった男が警察署長となり、その下で働いてきたが、ある事件においてその署長が犯した重大犯罪的失態の秘密を握ったことから、いわば、辞職を余儀なくされる結果となる(第3作、"Eyes of Prey")。
ゲーム創作の才能があり、当初は、趣味で制作していた戦争軍事展開などのゲーム、コンピュータ化してからは、警察緊急時対処や展開戦術に関するシミュレーションその他のソフトウェアが商業ベースで売れることにより、かなりの金を稼いでいた。その後、その関係のソフトウェア開発企業を興し、短期間で軌道に乗せた。会社設立6年後にその会社のIPO(新規株式公開)で税引き後利益1,000万ドルを手にする。
その後、件の警察署長が替わり、新署長による政治的配慮任命によって、特別犯罪捜査/諜報担当副署長(部長、deputy chief)として署に戻った。
その後、さらに進むと、ミネソタ州公安局傘下の犯罪捜査部(Minnesota Department of Public Safety's 、Bureau of Criminal Apprehension; BCA)というところで、政治的に微妙な事件について州知事の特命を受けて犯罪を解決する捜査官となる。
 ただし、それは、ここで取り上げている第10作より後のことである(第14作Naked Preyから)。
この第10作までに、7-8人の犯人を射殺している。
黒のポルシェ911を乗り回す。
ものすごくおしゃれで、服に金をかける。
詩を読む。ロックを聴く。自分なりの「ロック100選」をこさえ、その妥当性について同僚などとあれこれ論じたりする。
飛行機に乗るのを極度に怖がる。
幼稚園時代からの幼馴染で、現在修道尼、所属修道院の系列大学で心理学教授をしている無二の親友がいる。初恋の人だ。お互いに心を許し合い、難事件に遭遇した際に犯人像プロファイリングなどについて助言を受けることがある。
時に重度のウツ(鬱)状態に陥ることがあるが、シュリンク(精神科医)の治療には頑として応じない。一年ほど前に、同棲婚約者女医との仲が結婚式寸前に破綻したことによって、かなりのウツ状態に陥っていたが、殺人課女性刑事/巡査部長マーシー・シェリル(Marcy Sherill)との「愛慾と論争の40日」によって、すっかり恢復した(第9作)。

(二)人物描写の例
ルーカスは、セントポールの馴染みの本屋で競馬予想紙とエミリー・ディキンソン(Emilly Dickinson)の詩集を買って、ミネアポリスに戻った。詩集は、店の出口の安売り陳列台で見つけたものだ。幸運だった。市庁舎(City Hall)の通りを隔てた斜め前にある公共立体駐車場に車を停めて、古い赤褐色花崗岩の外壁をぐるっと廻って、通りを横切り、プールの横を通ってヘネピン郡庁舎(Hennepin County Government Center)に入った。エスカレーターでカフェテリアに降りて、自動販売機でリンゴを買い、地上に戻って、敷地の外れにある芝生にきた。8月の暖かい日差しの下で、二本の白樺の木の間に腰をおろし、リンゴをかじりながら詩集を読み始めた。

***********************
……but no man moved me till the tide
Went past my simple shoe
And past apron and my belt
And past my bodice too,
And made as he would eat me up
As wholly as a dew
Upon a dandelion's sleeve
And then I started too.


・・・・・・潮が片方の靴を越えて満ち、
エプロンを越え、
ベルトを越え、
ついにはベストを越えて、
私を飲みこもうとするかのように、
タンポポの柄の袖に神聖な露をこしらえるまで、
誰も私の身体を移そうとしなかった。
 そこで、私も出発した。
   **********************


 ルーカスは微笑んでリンゴにかぶりついた。目を上げたとき、黒髪の若い女性が二人乗り乳母車を押してプラザを横切っているのが目に入った。双子は同じピンクの服に包まれ、母親が押し歩くにつれて、身体を横に揺らしている。
 ママは胸が大きくウェストは細い。黒髪が色白の頬で、カーテンのように前後に揺れる。
プラム色のスカートに、絹のベージュのブラウスを着ている。思わず美しさにみとれて、ルーカスは再度微笑んだ。幸福感が全身を、じわっと包んでいく。

 そして、もう一人。反対方向に歩いていく。ブロンドの髪を、短いパンク調のカットにして、身体の線をぴったりと示すニット・ドレスを着ている。愛きょうのあるけばけばしさだ。

 ルーカスは、白のテニスシャツ、カーキー・スラックスのいでたちで、膝まであるブルーのソックスに、長い革ひものついたスリッポンの靴を履いている。シャツは、拳銃を隠すためにズボンにかぶせている。
 細身で色が黒い。髪の毛は真っ直ぐな黒髪で、こめかみのあたりにグレーが混じっている。鼻が長く、ゆがんだ笑いをみせる。
 上の門歯が一本、上部がかけたままになっている。わざとかぶせようとしないのである。目が青くなければ、インディアンにみられるかもしれない。その目は、暖かく、寛容さを表わしている。寛容さは、額の生え際から垂直に走る白い傷跡によって、ある種、強調されている。傷痕は、右目の瞼に走り、目を飛び越して頬から、口の端まで伸びている。
 傷痕は、いくらか野卑な雰囲気を与えるけれども、その裏に、無邪気さのタッチを残している。いわば、Captain Blood(海賊ブラッド)のErrol Flynn(エロール・フリン)のようだ。


 ルーカスは、若い娘らに、その傷はバーの喧嘩でできたものだと吹聴したい。スービック湾(Subic Bay、ルソン島)のバーの喧嘩で、割った酒瓶をかざしてきた相手と対峙した時にできたものだといいたい。あるいは、バンコクのバーで。しかし、どちらにも行ったことがない。傷は、Croix川で、フライ釣りの道糸が弾けてできたものだ。

 
その目は暖かいが、笑うと印象が一変する。
 ルーカスは、かつて一度、ある女性とナイトクラブに行った。その女性は、動物園の飼育係をしている人であることが後で分かったのだが、その相手と、セントポールのナイトクラブに行った。そこは、地下のトイレで児童相手にコカインを売っているところだ。クラブの駐車場で、ばったり、Kenny McGuinnessと出くわした。てっきり服役中だと考えていた相手である。


オレに構わないでくれ、ダベンポート」。男は後じさりしながらいう。
 駐車場は、突然、感電したように時間が止った。ガムの包み紙から、0.25グラムのコーク袋まで、あらゆるものが針のように鋭く、目に飛び込んできた。
「出てきたこと、知らなかったぜ、おい、こら」。
 笑いを浮かべながら、ルーカスが応じる。

 飼育係は、やりとりを眺めている、驚きに目を大きく開いて。
 ルーカスが男に近寄り、そのシャツのポケットに二本の指を差し込んで、ゆっくりと引きよせる。二人が旧知の友人同士で、お互いに想い出を語ろうとするように。ルーカスが、かすれ声で囁く。
「町を出ろ、ロスアンジェルスに行け。ニューヨークに行け。消えなきゃ、ぶちのめすぞ」。
「仮出獄中だ、州を出るこたできない」、男は叫ぶ。
「なら、Duluthに行け、Rochesterに行け。一週間やろう」、ルーカスが囁く。
「親父に話せ、爺さんに話せ、そして失せろ」。
 ルーカスは飼育係の方に向き直った。笑みを浮かべたままだ。男のことは、もうすっかり忘れ去っているようだ」。


びっくりしたわ、あなたって、恐いのね」、
 クラブに入り、女がいう、
「何のことなの、いったい」。
「奴は、少年をやるんだ。10歳の子どもを相手に、その尻をクラック(コカイン)で買う。
「ああ」
 女はそいう話を聞いたことはあるが、漠然としか考えたことがない。ちょうど、自分がいずれは死ぬ運命にあるということを納得する程度にしか信じていないのである。まだ突き詰めて分析する必要のない、遠くの存在、可能性としか捉えていない。

 しばらく後で、女がいう。
あの微笑、嫌い。あなたの笑い方。動物園の獣みたい」。
「ああ、そう、何の動物だ、キツネザルか」。
 女は下唇を舐めてから、
ウルバリン(クズリ、wolverine)を考えていたんだけど」
こういった。


 氷のような笑みが目の温かさを圧倒することが時としてあるとしても、社会生活上での障害になるほど頻繁に起きるわけではない
 そんなことだが、ルーカスはいま、パンク系のブロンド娘が群庁舎の角を曲がるのを眺めている。そして、視界から消える直前に、娘が振り返って、ルーカスに、ニコッと笑った。
 なんてこった。眺めていることを知っていたのだ。女たちは、常に意識している。立ちあがって、後を追え。一瞬考えたが、そうしなかった。いい女がいっぱいいる、みんないい。ルーカスはため息をついて、草の上で再びねっ転がり、エミリー・ディキンソンの詩集を取り上げた。
  ルーカスは満足を絵にかいたような存在であった。いや、絵どころではない。
  写真だ。

      (Rules of Prey; Berkley Introduction edition, ISBN 978-0-425-20581-5、17-23ページ。第1作である)

市庁舎(City Ha1l、緑屋根の建物、この中に市警察署がある)、ヘネピン郡庁舎l(Hennepin County Government Center、市庁舎と5th Stを挟んで対峙するツインタワーのようなビル)、駐車場(右隅の、格子組のような構造になっている建物)そして、ルーカスが座り込んで詩集を読んだ芝生。円形に植え込まれた芝生がそれであろう。
3                                (画像はGoogle地図から)  

                       海賊ブラッドのエロール・フリン
Photo_3                                                  (画像はYoutubeの画面から)


                   ウルバリン(クズリ) 画像はWikipediaから
Photo_2

ルーカスは、背の高い、厳しい顔つきの、肩幅の広い男で、日焼けの跡を残している。片方の眉毛から頬にかけて、細い傷痕が走っている。釣りの道糸のような傷だ。喉にも傷が横に走っている。それは、ある友人がジャックナイフで、とっさの気管切開手術をした跡だ。
  黒髪で、老いの兆しのグレーがいく筋か混じっている。目は、ちょっと考えられないほどの濃いブルーだ。黒の絹セーターシャツを着ており、フレンチ・ブルーの シャツの襟が覗いている。ジーンズを履き、その下には、ズボン内部装着型リグに0.45インチ拳銃を帯びている。皮ジャケットを腕に抱えている。
  
     Lucas was a tall man, hard-faced, broad-shouldered, showing the remnants of a summer tan. A thin line of a scar dropped through one eyebrow onto a cheek, like a piece of fishing line. Another scar slashed across his throat, where a friend had done a tracheotomy with a jackknife.
     His hair was dark, touched by the first few flecks of gray, and his eyes were an unexpectedly intense blue. He was wearing a black silk sweatshirts showing the collar of a French-blue shirt beneath it, jeans, and a 0.45 in an inside-the-pants rig. He carries a leather jacket.

      ("Secret Prey", John Sandford; Berkley international edition, February 1999, ISBN: 0-425-17077-2、15ページ。第9作)
***********************

「注」
 ここでは、喉に大きな傷跡ができている。先に掲げた第1作時の描写にはなかった傷だ。
 第5作、"Winter Prey"において、喉に撃ちこまれた0.25口径拳銃の弾丸を、アーミーナイフ(多機能折りたたみナイフ)の切っ先でえぐり出した傷である。銃弾が気管内に留まって窒息しかけていたところを、現場に居合わせた女性外科医が、とっさの機転でそうしたのである。傍にいた保安官補が携帯しているスイス製アーミーナイフで。
 ルーカスはこの女医に惚れ、やがて婚約し同棲する。相思相愛アツアツで過ごしていくが、結婚を目前にして仲が壊れ、ひどいウツ状態に陥る(第8作、"Sudden Prey")。
 殺人課巡査部長刑事、マーシー・シェリル(Marcy Sherill)と「愛慾と論争の40日」を過ごした結果(第9作)、ウツは治った。
 そして、現在、第10作"Certain Prey"にいるわけである。

 ルーカスと女医は依然として互いに好き合っており、ぐるぐる回りみたいなことを重ねて時間を無駄にしてしまうけれども、最終的には結婚する。男児ができ、女児ができる。
女医の名は、ウェザー・カーキンネン(Weather Karkinnen)という。
 ウェザーとのあいだの物語については、ここでは触れない。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧