英語表現

2013年12月11日 (水)

ジョン・サンドフォードのマッド・リバーを読んだ(John Sandford's Mad River)。Virgil Flowers series(バージル・フラワーズ)シリーズ第6作だ。

                                                     <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2013.12.11
 ジョン・サンドフォードのマッド・リバーを読んだ(John Sandford's Mad River)。
  サンドフォードのファンだ。この新作(*1)のペイパーバック版が出るのを首を長くして待っていた。
 Virgil Flowers(バージル・フラワーズ)シリーズの第6作だ。
 うーん、題名、"Mad River"とは、直訳すれば、いうまでもないが、「狂気の川」の意味である。だが、それは何を意味するのだろうか。
 物語を貫く「狂気」(Madness)と川、物語の舞台となっている地を東西530キロ(330マイル)に流れるMinnesota River(ミネソタ川)、物語の展開に沿うように流れる川を懸けてMad Riverとしたのか。
 気付いたことなど、二、三書いてみよう。

*1.「新作」と書いたが、最新作ではなく、この2013年10月に"Storm Front"というシリーズ第7作がすでに発表されている。例によって一年間はハードカバー版しか流通させないから、こちらが、当ブログ主のことだが、こちらが読むのは、安価版、ペイバーバックが出てからのこと、来年の今ごろのことになる。
6
  左から第1作: Dark of the Moon (2007)、第2:Heat Lightning (2008) 、第3: Rough Country (2009)、第4: Bad Blood (2010)、第5:Shock Wave (2011)と、 
   第6作:のMad River (2012)--
Simon & Schuster社版、2013.10月発売、ISBN 978-1-47111-180-8。

◆◆◆◆◆◆◆◆
一、粗筋
  .舞台は、ミネソタ州南西部、Yellow Medicine、Lyon、Redwood、Renville(*2)の四つの郡(county、カウンティ)の州境が相互に接触/近接する界隈。なかでも、その交点からわずかに3マイルほどRenvilleに入った地にある小さな町、Shinder(シンダ―)(*3)という名の人口数百人の町、ミネソタ西部プレイリー(草原)の町だが、そこが中心となる。
 季節は4月、まだ寒い。

 この町出身の不良、落ちこぼれ若者三人、学年にばらつきはあるが同じ高校出身の三人組、在学当時から相互に面識のあった三人組が――定職に就かず、無一文、覇気もなく、将来計画も、希望もないダメ三人が――、♂♀愛人カップル(Jimmy Sharpと2学年下のBecky Welsh)、♂一人(Tom McCall。Beckyと同学年)が、つまり、男二人女一人だが、空腹を充たし今宵寝る場所を確保するだけの金さえなく、かといって自ら働き稼ぐ意思もない、三人組が、人を殺していく。次々と。金を奪うために、逃走自動車を奪うために。
 一人、二人、三人、五人、七人...........。

①第一殺人 、一人目。
 夜間民家に押し入り、24、5歳の女性を殺す。金曜日。場所はシンダ―の近くにある都市、郡裁判所庁舎所在地であるBigham(ビッグハム)(*4)。ダウンタウンの足元にミネソタ川(Minnesota River)が蛇行している。
 子6人(♀♂♂♂♀♂、24/5歳←→18/19歳のほぼ年子)の裕福医師一家がある(O'leary家)。その家の長女を殺す。上の男子3人は父親に習って医師の道もうとしている大学生である( University of Minnesota/ミネソタ大学。長兄は卒業後の「医学学校」生)。次女は高校最上級生(4年または3年生)、末っ子四男は高校2年生だ。
 その長女、結婚に敗れて離婚係争、出戻り中の長女、結婚のために大学を3年で中退したが復学して当初の目的どおり医師の道を目指そうとしている長女、AgことAgatha O'learyこれの額(ひたい)を撃ち抜く。
 銃で頭を殴られてベッドから床に転げ落ち、失神状態から覚めて弱々しく膝をついているだけの無抵抗の姿なのだが、その女の額をピストルで撃ち抜く。

 元来は、母親が持っている高価ダイヤモンド・ネックレスを奪うために押し入ったのであったが、目的を果たしもせずに、意味のない殺人だけを犯して逃走した。
 賊は、高校生の次女と出戻り長女が二人で寝ている部屋に入り、気付いた次女が姉に声をかけながら騒ぐ。目を覚ましてベッドに起きあがった長女が、"Get out of here. Get .....!"と叫ぶ。主犯格男がそれを銃で殴り倒す。他の二人が「ヤバイ」として急遽走り逃げたにもかかわらず男はなぜかノロノロ気味。そして、意味もなく、無慈悲に撃ち殺してから去ったのである。
  母親はシンダ―出身者であり、賊は、高価ダイヤモンド・ネックレスの存在を知っていた。♀犯が、あるきっかけからその知識を得ていたのである。

②二人目
 第一殺人の直後、若い黒人男を撃ち殺す。
 逃走用自動車を手に入れるために、男を撃ち殺す。
 第一殺人事件で、三人組は自分たちの車を、それはCities(ミネアポリス/セントポール)から乗ってきたのだが、それを少し距離のある場所、丘を越えた向こう側みたいな場所に停めて行動した。何棟ものアパートが立ち並ぶ場所の駐車場に。事件後そこまで駈け戻り、いざ逃げようとするときに、自分たちが乗ってきたポンコツ車のエンジンがかからない。主犯格は惑乱状態に陥る。そのとき、一棟の出入口から若い男が鼻歌交じりで道路に向かって歩いてきた。路上に停めてあった車をリモート装置でウインクさせている。主犯格男が、それを追い掛けていき、ことばもかけず、気配に顔を見上げた男を6フィート距離から撃ち殺した。
 奪った車、Dodge Charger(ダッジ・チャージャー画像)で生地Shinder(シンダ―)に向かう。

③三人目
 主犯格男が、これ、Jimmy Sharp(ジミー・シャープ)という名だが、実の父親を撃ち殺す。
 ジミーが二人を引き連れて、隠れ場所確保のために生家に戻る。父親になじられ、撃ち殺す。
  三人は、Bighamから生地Sinderに逃げ走り、真夜中に到着する。ジミーの生家に行き、車を、第二殺人で奪った「チャージャー」を車庫に隠そうとしているときに、二階の窓から親父が怒鳴る。

"Who the hell is that?"
    「誰だ?」
"It's me." 
  
「俺だ」。
"What the hell do you want?"
 
  「何しに来たんだ」。
"Need to come in for a while. We could use some breakfast."
 
 「ちょっと寄る必要があってな、朝飯も食わなきゃいかんし」。
"Get the hell out of here, you little fart. I don't have anything for the likes of you. Now, scat."
  
「ばかやろう、出ていけ、おまえらのようなやつに用はない、失せろ!」
"Scat, my ass," Jimmy shouted. He turned to the other two and said
"C'mon. Door's never locked."

  「失せろだってか、くそったれ」、ジミーが怒鳴る。他の二人に振り返り、いう、「来いよ、ドアは開いてる、いつも開いてる」。
"Get the fuck away from my house."
  
「出ていけ、オレの家から」と父親。
Jimmy went through the backdoor, Becky behind him, Tom holding back. In the kitchen Jimmy flipped on the light...

  ジミーが勝手口から家に入る。ベッキ―がその背に続く。トムはためらう。キッチンでジミーが明かりをつける。冷蔵庫に行き、牛乳のプラスチックボトルを取り出し、「流しの脇の戸棚にオートミールがあるはずだ」とベッキ―にいう。
 戸棚を開けるとQuaker Oatsの円筒型容器があった。          

She took it out and was holding it in her hands when the oldman storming down the stairs and into the kitchen.

 ベッキ―がそれを取り出して手に持っているときに、父親が階段を駆け下りてきて、キッチンに入る。
"You fuckers get out of here, " he said. He waved his hand at Jimmy, a dismissive gesture.

  「出ていけ、クソッ」、
    そういい、ジミーに向かって手を振る。お前なんかクソ喰らえという印だ。
"You got no rights here no more. Give me that oatmeal."

    「ここにゃ、もうお前の居る場所はない。そのオートミール、食うんじゃねえ、返せ」
"Stay awy from her," Jimmy said.

    「女に手を出すなよ」、ジミーがいう。
"Shut the fuck up."

    「黙れ、この」
"No, you shut the fuck up, I'm tired and we got some trouble over in Bigham, and I'm not putting up with any shit anymore. We are gonna have breakfast and figure out---"

  「お前こそ黙れ、オレは疲れてんだ、ビッグハムでヤバイことになっているしな。もうどうでもいいんだ、我慢なんかしねー、飯を食って、この先どうするか・・・」。
"I'm gonna throw your ass out," the oldman said. He took two steps toward Jimmy, and Jimmy pulled out the gun and pointed it at his forehead. The oldman stopped, and sneered at him and said,
"You got a gun? You think that makes you a man?"

  「おっ放り出すぞ」、
 父親はいい、ジミーに向かって二歩踏み出した。
 ジミーがピストルを取り出し、父親の額を狙う。父親は歩みを停め、嘲笑っていう、
  「ピストルを持ってるってか、それで度胸がついたってか?」
"Don't know about that, but I know that there're some dead folks who don't worry about that no more, " Jimmy said.

  「さあ、どうかな、だけど、そんなこといって、何人か死んだぜ」、ジミーがいう。
"Dead folks, you ain't got the guts." Then a wrinkle appeared in the oldman's forehead and he asked,

  「死んだってか、お前にそんな度胸ありゃしない」
  .............父親はそういい・・・、額に皺をよせ、問う。

"What the fuck you done?"
  「お前、何をやったんだ」
"Killed a white girl and this black dude over in Bighum," Jimmy said. "I hate your old ass and I got half a mind to kill you, too."

  「白人むすめと、あの黒人やろうを殺したのよ、ビッグハムで」、ジミーはいう、
  「おのれなんかクソ喰らえだ、殺すぞ」
"Gimme that fuckin' gun," the oldman said. He made the mistake of taking step toward his son, and Jimmy shot him in the forehead.

  「銃をよこせ」、父親はいい、息子に近寄るミスを犯した。
 ジミーはその額を撃った。

 父親は即死したに違いないであろうが、その身体はそのことに気付いていなかった、明らかに。父親はかかとでトットッと四歩後ずさりして、居間への入り口に倒れた。

Becky looked at Jimmy and said, "Crazy old fuck."
  ベッキ―がジミーの顔を見ていう、
 「くそジジイ」。
Tom came in, looked at the body, and said, "Jeez, you killed your pa."
 トムが入ってきて、死体を見ていう、
  「なんてこった、父親を殺したのかい」。
"And it felt pretty fuckin' good," Jimmy said. "Help me drug his ass into the living room. I want to eat some oatmeal, and I don't want to look at him while I'm doing it.
  To Becky he said, "Come on. Cook us up some oatmeal."  

 「そうよ、いい気分だぜ」、ジミーはそういい、
 「居間に運び込むのを手伝え、オートミールを食う。ヤツの死体を見ながら食いたかないからな」という。
 ベッキ―に向かっていう。
 「ほら、オートミール作ってくれ」。


 その後、
 トムは寝ようとしても死体が階下にあると思うと落ち着かない。とうとう、車で寝ることに決め、毛布を抱えて向かう。
 ジミーとベッキ―は一階の元のジミーの部屋で寝る。ベッドはかび臭かった。
 ベッキ―がセックスを強いる。ジミーは気乗りがしないが、ベッキ―は承知せず、鼻を鳴らしてぐずつく。男はとうとう折れる。
 一緒にシャワーに入るが、男は勃起しない。興奮剤にならないことを知っているのだ。  
 ベッドルームに戻る。ベッキ―が男のモノに口で迫るが、それでも機能しない。
 男は、「起たないことを他人にばらすと殺すぞ」と脅してから、女の股間に顔をうずめる。
 ばらせばまちがいなく殺されるだろうと女は思う。今夜見た殺戮劇と、居間にある死体のこと考えると、そう思うが、しかし・・・・・・
 ――女は悲鳴を上げる、5回、6回、8回・・・・・・
 もう死体のことなどどうでもよかった。この男、起ちはしないけど、口と手は上手い。  

      (前掲書67-69ページ)

④四、五人目
 ウェルシュ夫妻(♀犯の両親)を撃ち殺す。
-------------------------------------
 落ち着かない睡眠を数時間とった後、一味はキッチンで合流、またオートミールを食べる。
     - - -この先どうする・・・・・・。
 寒くて寝られないので車のヒーターをかけたらガソリンが少ししかなく、一時間でエンジンが止まった、この車は使えない、金はない、給油できない、どうする、トムが語る。
 驚いたことに、ジミーはかなりの金を持っていた。
 ポケットから札を掴みだして見せた。昨夜女を撃ち殺して部屋を出ようとしたとき化粧台の上に札束が乗っていたので掴みとってきたのだという。
 「ほんとう、いくらあるの」、とベッキ―。
 「かなりだ」
 「どれ、見せて」
 「お前にゃ関係ねーよ」、ジミーは金をポケットにしまい込む。

 「動き続けなきゃいかん、ハリウッドに行こう、あそこにいきゃ大丈夫だ」。
ジミーがいう。
 「アタシんちから、いくらかむしり取れるかもしれない」、
 ベッキ―(BeckyWelsh、
Rebbeca Welth) がいい、両親、ウェルシュ夫妻の家に行く。

"You little fuckin' brat, I raised you and feed you and now you come around with your peckerwood(*5) friends with your hands out....
 「このガキ、飯を食わせて育てたあげくが、無一文で、こんなペッカーウッド(貧困層白人)連中を連れてきやがって」。
 父親はなじる。
 
"You just call me a peckerhead?"(*5)
  「なに、このやろう、ペッカーヘッドだと」。
"Peckerwood," the oldman said. "I said peckerwood. But you want me to call you a peckerhead? Okay, you're a peckerhead."
 「ペッカーウッドっていったんだ。それがどうした、ペッカーヘッドっていってもらいたいのかい、オウ、いってやろう、オメーはペッカーヘッドだ」。

 ジミーは、父親の胸を撃ち、逃れようとする母親の後頭部を撃つ。 
-------------------------------------

⑤その後も次々と。
 人を殺す・・・。

二、現代版「ボニーとクライド」、Bonnie and Clyde。
Photo_2  事件報道後、人々は、Bonnie and Clyde、「ボニーとクライド」をいう。
   そっくりだと(見よ→「俺たちに明日はない」)。

画像、ボニー(♀)とクライド(♂)
   (
Bonnie Elizabeth Parker、Clyde Chestnut Barrow)
Bonnie and Clyde in March 1933, in a photo found by police at the Joplin, Missouri, hideout.
1933年3月のボニーとクライド。ミズーリ州Joplinの隠れ家で警察が発見した写真。(Wikipediaから)
Photo_3画像 ― ルイジアナ州Bienville Parish(Parishとは他州のcounty、郡に相当する行政区域)での最後(1934.3.23)。銃撃のすさまじさに、捜索隊は午後いっぱい急性難聴に悩まされたという。(Wikipediaから)。

三、ミステリー味もある。
 この作品、めずらしく、ミステリー味もある。
 「謎解き的興味」のことだが、それもある。
 この作者、サンドフォードは、謎解き的興味では勝負しない人だ。これまでいっぱい読んできたが、総じてそういえる。たいがい、物語の顛末は、最初の数ページで分かる。
  ところが、本書では副題的な殺人疑惑を設定して謎解き性を盛り込んでいる。
 すなわち、「ボニーとクライド」ばりの逃走劇、追いつ追われつのスリルを主題にしながら、その脇に副題的な殺人疑惑を設定している。
 第一殺人の被害者「アグ」、Agatha O'learyだが、その夫、離婚係争中の夫に、不審な点、犯罪の匂いがするのである。

*2.物語のなかでは"Bare County"という架空名になっているが、Renville郡のことであろう。
*3.架空名の町。Marshall(マーシャル)から30マイル、Mankato(マンケート)から75-80マイルだという(上掲Simon & Schuster版、20ページ)。
 マーシャルはバージルが生まれ育った町で、両親が今でも住んでいる。父親はルーター派の牧師で、群最大級の教会を営んでいる。マンケートはバージルの現住地
(厳密にはNorth Mankato)
*4.架空名である。
*5."peckerwood"
  貧困層白人、最下層白人を指す蔑称。ただし、単にwoodpecker=キツツキの方言として語られることもある。
  "peckerhead"
      One who has a penis for brains, and no social skills(Urban Dictionaryから)
   チンxxの頭脳しかなく、社会順応性に欠け、仕事もなにもできない男。


Photo       Minnesota River/ミネソタ川。サウスダコタ州北東部、ミネソタ州南西部、両州の境界線上あたりにあるBig Stone Lake(ビッグストーン湖)を水源とし、両州とアイオワ州の3州にまたがって流れている。ミシシッピー川の支流である。画像は(Wikipediaから)。


――仕掛り、未完――

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年9月30日 (月)

♪ "than any Russian play could guarantee"、 どういう意味か。チェーホフ(Chekhov)の演劇、セリフがくどいことで知られているのか。

2013.9.30
 九月最終日、今月一つも記事を載せていない。
 異常に暑くて、熱い夏に、夜に、昼も夜も茹()でられたような熱気に、日本の、地球の狂いざまに、頭がやられたせいかな。
 そういう日がまた、いつまでも続いたんだよな、だらだらと。

 まあ、そのせいにしておくが、とにかく、「ひと月ゼロ記事」になりかけている。それはまずいだろ、どう言い訳しても・・・。

 ということで、急遽、これ、最後の日に。

◆◆◆◆◆◆◆◆
一、論題
     ------- "than any Russian play could guarantee" ------
(イ) これ、 どういう意味か。
    ガーシュイン(1)But Not Fpr Meの一節だが。
                            *1.George Gershwin(ジョージ、兄)作曲、 Ira Gerswin(アイラ、弟)作詞。

     ---With love to lead the way
       I've found more clouds of grey

       than any Russian play could guarantee.---
              
こういう文章の中の一部(節)だ。

(ロ)チェーホフの演劇のセリフは、総じて「くどい」ことで知られているのか。

 この2点について書いてみる。両者は相互に関係する。というか、(ロ)は(イ)を論じるうえでの、意味を探るうえでの一つの考慮点であり、下位に属する論点なんだが、まあ、2点とする。

二、議論
1.(イ)につき、以前はこう考えた
     -----ロシア演劇は暗いものが多いけど、恋に夢中になってしまった私は、
        もっと暗く沈んでしまったわ
-----


  以前、このジャズ・スタンダード曲について記事(2010.8.11)を書いたことがあり、その際に歌詞と日本語訳を掲げた。そこでは上のように訳した。
 こういう理由からである。
(i)直訳すると次のようになる。
       With love to lead the way
                   
恋に導かれるままに身を委ねて(恋に先導されて)
           I've found more clouds of grey
                  (私は、もっと)たくさんの灰色の雲を見つけた(深く陰気な気分に陥った)
            than any Russian play could guarantee.
                    いかなるロシア演劇をもってしてもその量の多さを保証しえないと思われるほど
                   (請け負えないであろうほどあるいは、量の多さを凌駕しえないであろうほど)。

(ii)そうすると、「ここで『ロシア演劇』」という語で表わしている概念、つまり、その語(「ロシア演劇」)がそういう概念の象徴であるということが「所与のものとして」捉えられている概念とは何か」、ということになる。

(iii)そこで、その概念とは何か、うん、
  →[ロシア演劇 = 暗い(暗い物語)]と考えたわけだ。
  特にこれといった根拠があってのことではない。というよりも、まったくそこらは門外漢分野であり、「さて困った」のだが、まあ、なんとなくそう考えた、「カラマゾフの兄弟」なんかを頭に浮かべて。何か考えなきゃ話が進まないからね。
  その結果、上記のような訳にした(末尾にその全体訳を掲げている)

2.エルロイ小説の記述

   ――ロシア演劇(Russian Play)は、セリフがくどくどしい――

 James Ellroy(ジェイムズ・エルロイ)の小説を読んでいて(2)、このようなことを述べている記述に出くわした。え、ほんとかい、初めて知った!!
 驚きだ。

 あれ! あれ、まてよ・・・とすると、あの曲の、But Not for Meのあそこ・・・・・・あのとき、いろいろ頭をひねったて、「えいやっ」で訳したが、そうではなく、こういう意味になるのか・・・・・・なーるほど。
 ――「いくらくどくどいっても言いきれないほど、暗い気分に沈んでしまったわ」――

 とっさに脳がパチパチ、そう閃いた。
 「『ロシア劇のセリフはくどい』――こういうことが定説になっているのか、常識かい、知らなんだのはアンタだけか」――うん、ネットで調べなきゃいかん。

 こう考えた。そして、「印をしておかなきゃいかんな」と、つまり、読んでいた本のそのページのその記述に、後から探したときに(参照、引用などの必要性から)すぐ発見できるように、「赤鉛筆で印をしておかなきゃいかんな」という意識が強く働いた。
 というのは、こういうことだからである。

 <<<後から探す必要が生じたとしても、だいたい、話の脈絡のなかでここらへんだということを記憶しているから、パラパラとめくって、さっと読んで、すぐに見つけられるだろう、おそらく――と考えて、印も何もしない。
 ところが、やっぱ、探すとなると探せない、見つからない。
 これまで、ずっとそうだった。その繰り返しで生きてきており、その都度、反省していた。
 そういう経験を、いやというほどしてきた>>>

 それなのに、今回も、それをしなかった、怠ってしまった。アホだね!!
 「ああ、すぐ探せるだろう」と考えて。
  いやな予感はしたんだが。

 
*2.この過去記事(2003.8.26)参照

3.チェーホフ演劇
 さて、ロシア演劇のセリフは概して「くどい」のか、それが定説か。
ネットで調べた。
 いろいろと知った。

(i)Russian Playとは、チェーホフの演劇を指す。
(a)まず、"play"とは「演劇」のことだという・・・はっ?
 そして、"Russian play"とは、チェーホフの演劇のことを指すのだ・・・ええっ!
 こういうことが書いてある。
 「ロシアの「演劇」って、チェーホフの演劇のことなのよ。
 そうか。

(ii)チェーホフ劇のセリフ = くどいのか。
 そこで、そのことをネットで検証した、確認をとろうとした。
 ところが、そんなこと書いてないね。
 まあ、なんとなく、そう認識することについて、そいう合意ができているような雰囲気もあるんだが、識者ないし論者のあいだで、「まあ、そういえばそうだな」、「そういうことにしておくか」みたいな合意が、うん、半ば、ししぶしぶ合意みたいな空気ができているようだが、いいかげんな合意、いいかげんだね、連中、
 まあ、そういうことだが、とにかく、
 「パチッ」とはいかない。つまり、定説になっているとはいえない。

4.アイラ・ガーシュインの着想
 ------- "than any Russian play could guarantee" ------
 おそらく、「上記のような議論が存在するといういう状況を、というか空気を、『機敏に』察知して、歌詞に引っ張ってきた。
  ・Russian Play(ロシア演劇) = 暗い、暗い劇
    ・Russian Plya(チェーコフ演劇の)=セリフがくどい
  ・その他
 聴く側がどう惑おうと、どう考えようと、意味の把握にどう困惑しようと、その人々に委ねる・・・これだ。鋭い、作詞家として。

三、「桜の園」は悲劇か喜劇か。
 こういう議論がある。
 劇解釈 (喜劇)= 演出→結果としての作品→興行採算面からの評価。
 深くは立ち入らない。 

四、結論
      "than any Russian play could guarantee"
    ――チェーホフ演劇が、いくらくどくど言ってみても追いつかないほど―――

 ということで、But Not for Meの件の一節、その日本語訳を上のように訂正する、というか、置き換えることにする。

 ロシア演劇は暗いものが多いけど、恋に夢中になってしまった私は、もっと暗く沈んでしまったわ。
    ↓ (変更)
  恋に夢中になってしまった私は、あのチェーホフ演劇のセリフが、いくらくどくど言ってみても追いつかないほど、暗い気持に沈んでしまったわ。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 -------------------------------------------

 参考までに、以前載せた詞/翻訳を掲げておく。

[過去記事から}

                But Not For Me
                              
 George and Ira Gershwin, 1930
(Verse)
Old man sunshine listen you!
     Never tell me, "Dreams come true!"
Just try it and I'll start a riot.

Beatrice Fairfax, don't you dare
  ever tell me he will care;
I'm certain it's the final curtain.

I never want to hear from any cheerful Pollyannas,
    who tell you fate, supplies a mate; it's all bananas!

 (Chorus)
They're writing songs of love, but not for me.
A lucky star's above, but not for me.
With love to lead the way
I've found more clouds of grey
than any Russian play could guarantee.

I was a fool to fall and get that way;
Heigh-ho! Alas! And also, lack-a-day!
Although I can't dismiss the mem'ry of his kiss,
I guess he's not for me.

He's knocking on a door, but not for me.
He'll plan a two-by-four, but not for me.
I know that love's a game;
I'm puzzled, just the same,
was I the moth or flame?
I'm all at sea.

It all began so well, but what an end!
This is the time a feller needs a friend,
when ev'ry happy plot ends with the marriage knot,
and there's no knot for me.


******------******------******------******

[バース]
お日さま、よくお聞き。「夢は必ず実現する」なんていわないで。
   もし言おうとしたら、暴動を起こすわよ。
人生相談のベアトリス・フェアファクスさん、彼が私のこと今でも気にかけてるなんて、絶対にいわないでよ、おざなりを。
 もう幕が下りたのよ、私知ってるわ。

 安請け合いばっかり言う楽天家連中は、きっといいことがある、恋人ができるなんて、必ずいうけど、みんな嘘よ、聞きたくないわ。

[コーラス]
  作曲家はラブソングを書くけど、私のためじゃない。
空には幸運の星が輝いているけど、私のためじゃない。


 ロシア演劇は暗いものが多いけど、恋に夢中になってしまった私は、もっと暗く沈んでしまったわ。
    ↓
 恋に夢中になってしまった私は、あのチェーホフ演劇のセリフが、いくらくどくど言ってみても追いつかないほど、暗い気持に沈んでしまったわ。

 あんなに夢中になるなんて、そして失恋するなんて、愚かだったわ。
「あーあ」、「やれやれ」、おまけにもう一つ、「なんてこと」。
彼のキスを忘れられないけど、でも、おそらく、あの人って存在は、私のためじゃない。

 彼がドアをノックしている。だけど私のためじゃない。
彼は、ツーバイフォーの家を計画するだろうけど、私のためじゃない。
そうね、恋はゲームね、それは知ってる。でもね、考え込むことがあるわ、私は蛾だったんだろうか、それとも、私が明りだったんだろうかって。
 まったくうまく始まったのよ、それが、あんなひどい終わり方をするなんて。
こういうときこそ友が必要なのよね、ハッピィエンド物語はすべて結婚で終わるのに、私だけはそうならないときって。

---------------------------------------

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年4月25日 (木)

バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その8 (続編)― ①Jesus, Lee, Get your head out of your ass. ②If I pick out a man, that's pretty much it. ③Cool. Interesting. It's kind of like a little landing strip.

2013.4.25 
 先に掲げた(2013.4.18)「バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その8」の続編として、そこに現れた英語表現について少し学習する。
 三つの文章についてイディオム的表現あるいは語句の意味を学ぶが、それぞれどういうう文略のなかで語られているのかということについては、原記事を参照されたい。
        <<<John Sandford小説を題材にした[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>

◆◆◆◆◆◆◆◆
Jesus, Lee, Get your head out of your ass.
  "Shut up. Anyway, I know I'm not all that attractive---"
    "You're attractive," Virgil said. "Jesus, Lee, get your head out of your ass."

     「おだまり。とにかく、私はあまり魅力的な女じゃないし・・・」。
    「魅力的だよ、なにいってんだ、リー、ぼやっとせずによく見なよ」。

------------------------------------------
  [get ... out of .....] ...を(...から)出す、取り出す
      get the dog out of the room. --- 部屋から犬を出す。
                                                                (小学館プログレッシブ英和中辞典)
   こういうことだから、問題として上に掲げている表現は、直訳すれば、「ケツ(尻)から頭を引っ張り出せよ」ということである。
 イディオム的な日常的俗表現として、次のように使用される。
  (↓goo辞書から)
    [get one's head out of one's ass]
        ((米卑))(ぼうっとせずに)しっかり目配りする, しゃきっとする, てきぱき行動する.

If I pick out a man, that's pretty much it.
  I can't go flitting around, finding out about myself. If I pick out a man, that's pretty much it. 
   だから、自分が女としてダメなのかどうか知ろうとしても、フラフラうろつくわけにはいかない。男を一人見つけられさえすれば、それでいいんだけどね

"That is it."(それがやろうとしていたことだ、やろうとしていたのはそれだ)という文章を、"pretty much"という副詞句が修飾しているのである。
  That's pretty much it. --「まあ、そんなところだ」

Cool. Interesting. It's kind of like a little landing strip.
  この文は前回記事には現れなかった。
 細身だが強靭な体躯の、身長ほぼ180センチの、自分が「女としてダメな存在なのかどうか」、その面での経験豊富な男を実験台にして確かめようと猛烈にアタックしてくる女保安官の、押し付け押し付けしてくる両股、股間に顔を挟まれて、なんとか窒息から逃れて生きのびようとした前夜のことを翌朝のベッドで想いだしているときのフレーズだ。
 Cool. Interesting. It's kind of like a little landing strip.
 いいいね、おもしろい、なんか、
小さな仮設滑走路のようだ。

 仮設滑走路って、なんだ?
 ということだが、ここでウデウデいうより、ネットの無料百科事典「Wikipedia」に説明してもらおう。何のことを指してしゃべっているのか、一発で分かる。
 ただし、18禁みたいな実例写真が載っているから、そのことを予め断っておく。それでも研究したいという人はクリックしてみて。掲載されている写真の4番目のものが"landing strip"だ。
 当ブログ主は、この表現を初めて知ったが、よく知られているもののようだ。

「注」 - It's kind of like a little landing strip.
       "a little"は「小さな」(形容詞)ということではなく、"like"にかかる副詞句ではないかと疑問をいう人がいるかもしれない。
しかし、その場合は、通常は次のようにするところであろう。

    It's kind of a little like (a) landing strip.
 まあ、そうなっていないからといって("like a little landing strip"になっている)副詞句ではないとは、いちがいにいえないのだが、"little"を形容詞と解釈した。


 なんだね、世の中便利になったというかなんというか・・・そして、Wikipediaって、まさにエンサイクロペディア、百科事典だね。
 話のついでに触れておくと、日本語版Wikipediaのことだが、総じて、――モノにもよるが、総じて――、「出来が悪いものが多い」と常々感じているのだが、まあ、「偉そうにいうな」ということだから、その点はともかくとして、外国の人名や、地名その他の固有名詞をカタカナで書きまくるのは止めてもらいたいね。つまり、カッコ書きで原語句を示さず、カナ一辺倒でやるというあれ、まったくお粗末だ。編集陣のセンスを疑う。
 原語句を示す労を惜しむのなら、カタカナなぞ一切要らぬから、原語句だけにして欲しい。
 

Photo_2                   (滑走路/仮設滑走路とはこういうもんだけど。ココから)


◆◆◆◆◆◆◆◆
 これで終わろうとしたのだが、③の表現について、前夜の回想のなかでそれが現れたということは分かるのだが、その表現に至る経緯みたいなことがイマイチはっきりしない。
 そこで、元記事の末尾を再度引っ張ってきて載せて、それ以後につなぎ、そこらのことを説明しておく。

      ----------------元記事からの引用(記事末尾)---------------
V.顔、胸、腰、両股による圧迫からの生還
     ――すごかったなあ――
 翌調目覚めたバージルは思った。
 保安官コークリーの積年にわたる欲求不満、下降カーブをたどった10年の結婚生活のなかで我慢し続けてきた欲求不満は、それがなんであれ、すべて解決された。
 そう思った。
  起きあがろうとして腰の痛みに呻いた。背骨から腰にかけての筋肉を野球時代に痛めていて、たまに痛みがぶり返すことがあった。昨夜、その筋肉を強く引っ 張った。そのことには気付いていたのだが、行為に夢中になっていて、痛みのことはすっかり忘れていたのだ。それが、一夜のうちに硬直し鋼鉄の締金のように 感じる。、

 再度、枕にもたれた。
 バージルは、ほとんど毎晩、寝る前に神について考える。
 ルーター派牧師を父にもつ 環境から、18年間、毎晩ひざまずいて夕べの祈りをささげてきた。大学に入学して、父親影響下の宗教観からは離れたが、依然として無神論者ではなく、神の 存在、現在ではそれは自然の神秘みたいな存在として観念されるものであるが、その存在そのものは肯定している。

 昨夜はしかし、神については考えなかった。
 ゆうべしたことは、女保安官の、身長ほぼ6フィートの、細身だが頑丈な保安官の、

 顔、胸、腰、両股による圧迫のなかで、窒息から逃れて必死に生き延びようとするあがきであった。
 十年連れ添った亭主から思いもせず離婚話のパンチをくらった衝撃から、その亭主は、なんと離婚後三週間で別の女と結婚したというショックから、「自分は女としてダメな存在なのか」と真剣に悩んで、それを探ろうとする女の、すべての抑制をとり払って自らの「女」を、性を、「ダメかどうか」を追究しようと、実験台バージルに立ち向かってくる女の、唇の、乳房の、下腹の圧迫、そして
、アアーッツ、両股による激しい圧迫のなかで窒息から逃れて、なんとか生き延びようとあがいたことであった
 
  (前掲書217、8ページ。一部、原文から離れて多少脚色している箇所がある)
         
 ------------------引用終わり------------------
  *「前掲書」とは、"Bad Blood," 2010, by John Sandford's; Berkley Novel版ペイパーバック、ISBN: 978-0-425-2493-0のこと

 本の記述は、ここから次のように続く。
Coakley was in extremely good shape, and neatly as large as Virgil; When he was astride her, spurring her down to the quarter pole, he realized that he was looking at her nose and mouth, rather than her forehead, or even the top of her head, as had been the case with the other women he'd known.
  And she just . . . manhandled him. Women handled him.

Then there was the whole question of her whatchamacallit. Actually, there were tow questions.
  The first was, "My God. what'd you do down here?"
As a blonde, when she blushed, she got pink from head to toe, "Some girlfriends talked me into it. We got lasered."
"Really?" Virgil couldn't think of what to say, but he liked it, so he said, "Good. Interesting, It's kind of like a little landing strip."

The second question was one of nomenclature. If you're going to talk about the whole lasering concept, the ins and outs, so to speak, it seemed like there should be some word for it.
  (上掲書218ページ)

 コークリーはものすごく健康で、体格もバージルとほぼ同じくらい大きい。その身体に馬乗りに跨ってコース四分の一地点に向かって拍車をかけているとき、バージルは気付いた。
 普通なら、――これまで経験した相手のそれがそうであったように――、普通なら、組み敷かれている女体の額の辺り、さらには、頭のてっぺん辺りにこちらの視線が落ちる構図になるはずなのに、この相手の場合には、それが鼻や口の辺りなのである。
 そして、保安官は・・・、なんというか、一心不乱にというか、そのことだけに集中してというか、荒々しくバージルを襲った。

 そして、相手の、なんと呼べばいいのか、アソコについて、不思議な点があった。
 そう、疑問が2点あった。
 第一は、思わず相手に、「おい、どうしたんだよ、ココ」と訊いた点だ。
 コークリーはブロンド(金髪)だから、赤面すると、頭のてっぺんからつま先まで、体中がピンクに染まる。
 「女友達から勧められたのよ。レーザー脱毛したの」。
 「ええっ、そう」、
バージルは、なんていっていいかわからなかった。だけど、それが気に入ったから、言った。
 
「いいいね、おもしろい、なんか、小さな仮設滑走路のようだ」

 第二の疑問は、用語法の問題である。レザー脱毛というものの全体像を語るつもりなら、いうならば、微に入り細に入り詳しく語るつもりなら、「アソコ」について何か呼称があってしかるべきだろう。 
                                        ――以下省略――
 ("vagina"は特定的すぎてダメ、その他のラテン語呼称もダメ。"pussy"がいいんじゃないか。バージルがそういうと、保安官は、「そのことば大嫌い」だという。そういう会話が続く) 

「注」
 「コース四分の一地点に向かって拍車をかけて
   ゴール=オーガズム到達点に向けて、競馬コースの四分の一辺りを、馬体=女体に拍車をくれているのである。おわかりだろうが、老婆心までに記しておく。
 なお、このゴールは、文字どおり「イクイクイクイク/シヌシヌシヌシヌ」の究極アクメで、コース1/4地点とはそこに至る過程での、いわば予備的な、小出しアクメの一つとみてもいいし、ゴール=[イクx4回(5、6....n)]として、1/4地点はその第1回目(あるいはnを全体とした1/4課程)とみてもいい。
 「目や鼻の辺りに視線がいく
 これもすでにおわかりのことだろうが、背が高い女体だからである。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 さて、これで、John Sandford(ジョン・サンドフォード)のVirgil Flowers Series(バージル・フラワーズ・シリーズ)第1作から第5作までを「バージル・フラワーズ言行録」でカバーしたことになる。
 ということで、言行録、一休みする。
 第6作"Mad River"がすでに発表されてハードカバーで出回っている。ペイパーバック盤は今年10月ごろの発売予定になっている。

Virgil Flowers series
1.Dark Moon(2007)、2.Heat Lightning(2008)、.3.Rough Country(2009)、4.Bad Blood(2010、)5.Shock Wave(2011) 6.Mad River(2012)(未読)

5                                                (Virgil Flowersシリーズ)
 

 
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年4月18日 (木)

バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その8 ― バージルは、抑制から解放されて堰を切ったように奔放に振舞う保安官の、顔の――そして、胸の、尻の、両股の圧迫のなかで、窒息から逃れ、生き延びようと必死にもがいた。

2003.4.18
                                 <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
Last night, he had been trying to stay alive in the face---and also the chest, hips, and legs---of  unchained femininity. 
 昨夜、バージルは、抑制から解放された女性特質というものがみせる姿と対峙して、女の顔の――、そして胸の、尻の、両股の圧迫のなかで、窒息から逃れ、生き延びようと必死にもがいた。
       ("Bad Blood," 2010, by John Sandford's; Berkley Novel版ペイパーバック、ISBN: 978-0-425-2493-0、 218ページ )

◆◆◆◆◆◆◆◆
 バージル・フラワーズ言行録、今回はシリーズ第4作、"Bad Blood"'(「憎悪」、「敵意」、「積年のの恨み」といった意味)(2010)を素材にする。

I.基礎情報
  まずは、表題として掲げた言行場面に至るまでの経緯みたいなことを語っておかなきゃいくまい。
1.事件の輪郭
 バージルは、州南西部にあるWarren county(ウォーレン郡、架空名の郡)の女性保安官を支援して犯罪捜査に従事する。
 次のように始まる。
-----------------------------
 晩秋の日曜日、ミネソタ州、Mankato(マンケートー)バージルは自宅で釣りボートの冬じまいをしている。敷地にはほぼ1フィートもの雪が積もっている。寒いけど、ガレージの戸を開け放ってある。明かり取りのためだ。使い残したガソリンに安定剤を入れ、ベアリング部分のグリスをチェックし、バッテリーを外して家の中の土間に持ち込み、自動コンディショナーに差し込んで・・・・・・。
 母屋からガレージに戻ろうとするとき、白のSUV(
Sport Utility Vehicle、スポーツ用多目的車)が車寄せに入ってきた。背の高い赤毛の女性が運転席から降りる。細身で、骨ばった顔と鼻をしている。鼻は、過去に折れたことがあることを語っている。髪の毛は短いポニーテール。金縁眼鏡、腰まであるキャンバス地のカーコート、黒いグローブ、カウボーイ・ブーツだ。ブーツのかかとによって、身長が6フィート(180cm)に達している。
 やや老けた表情をし、髪にグレイが混じっている。目の周りに疲れがみえる。
 女は坂を登ってきて、グローブを脱ぎ、
"Are you Virgil Flowers?" 
 「バージル・フラウワーズさんですか」、と訊いた。
"Yes, Ma'am."
 「そうですが」。
"You don't look much like a law enforcement officer."
 「あまり、法執行官みたいにはみえないけど」。
"Just because you're a cop, doesn't mean you can't be good-looking."
 「警官だからって、色男であっちゃいけないってこたない」。
 女は薄く笑顔を見せて、
"I'm Lee Coakley, from Warren County."
 「リー・コークリーです、ウォーレン郡の」、という。
"Oh, hey, Sheriff,  pleased to meet you."
 「ああ、やあ、保安官、お会いできてなによりです」。

     - - - - - - - - - -
     - - - - - - - - - -
"I've come over to ask for your help. Or to find out who I talk to, to get your help."
 「あなたに助けてもらいたくてやってきました。あるいは、あなたの助けを得るためには誰と話をすればいいのか知るために」。
---------------------------------

 こういうことで、Homestead(ホームステッド)という町に滞在して複数名の死亡がからむ殺人事件の捜査に従事する。
 [注] Homestead"は、Fairmont市の西方にアイオワ州との州境に沿って立地する架空の町である。Warren郡という架空の郡の郡庁所在地(郡都、seat)で人口14,000人。Warren郡の位置は 実在する二つの郡の間、すなわちMartin郡の西Jason郡の東に存在するものとして設定されている。
 なお、
宿泊は、例によってホリデイ・インだ作者は、なぜか知らぬが、バージルをどこの町にやっても、必ずホリデイインに泊める。
4
 木曜の午後、農協の出荷大豆計量格納サイロ基地で働いている19歳のアルバイト大学一年生"B"から、農夫がサイロ内に転落して大豆に埋まって死亡したという連絡が入った。調べてみると、死因は金属バットのようなもので後頭部を殴られたことに因るものであることが判明した。午後4時、Bを逮捕し収監した。
 翌調、留置場の中でBが首を吊って死んでいるのが発見された。検死の結果、これも自殺ではなく、殺されたものである疑いが濃い。AM 4:00には生きていたのが6:00には死んでいたと留置場警備担当当直警官"C"はいうのだが、その当直警官が怪しい。
 だが、Cは、過般の選挙において、当時の筆頭保安官補(chief deputy sheriff)として、「後継者は当然俺だ」みたいなかたちでコークリーと保安官の座を争った相手である。それなりに地元民の間に浸透している古参でもあり、新参者のコークリーとしては、何かと捜査がやりにくい。
 そこで、バージルのことをよく知る検死官の勧めにより、支援を乞いにやってきたのだ。
 やがて、事件は、狂信的カルト集団がからむ、おどろおどろしい、口にも出せないような姿を見せ始める。
 (集団的な、数世代に「わたる、近親相姦、乱交、婦女子虐待、児童虐待、性的虐待、家庭内暴力、サド/マゾなどなど。最後には、カルト一派暴徒が保安官らを襲撃し、戦争のような銃撃戦までが繰り広げられる)

2.リー・コークリー保安官のこと、バージルのこと
[Lee Coakley保安官] 
 年齢37、8歳。保安官に就任してまだ1ヶ月に満たない。前職は、Homestead市警察の警官。5年間の制服勤務を経て刑事になり、郡保安官に立候補した際には捜査主任(lead investigator)の座にあった。私生活では、離婚したばかりで、16、14、12歳の男の子がいる。ミネソタ州立大学マンケートー校(Minnesota State Mankato)4年生の時にフォード車ディーラーの新車販売部長をしていた相手と結婚しMemmorial Day(戦没者記念日、5月)までに妊娠し長男を産む。17年もの長きを経て去っていった亭主は、離婚後たった3週間で、別の女と、バージルが"She has really big breasts?"(「おっぱいがでかいのか」)と訊いたのに対して"Ample"(「豊かってとこ」)とコークリーが応えた女と再婚した。

[Vergil Flowers]
 齢は36、7歳ってとこか。細身、身長6フィート1インチ(182.5cm)。高校では、三大競技、すなわち、野球、バスケット、アメリカンフットボールで、それぞれ学校代表チームの選手として活躍した。しかし、そのどれもが、「大学級」までいかないので、すなわち、野球では手の長さを生かして三塁守備が抜群なのだが、「大学級」の速い球は打てない、バスケットでは防御選手として活躍したが、さらに上に行くには身長が足りない、フットボールでは、頑丈さが足りないといったことで、ミネソタ大学(University of Minnesota)ではスポーツはやらなかった。生態学を専攻する傍らで"creative writing"(創作執筆)を学ぶ。

  卒業後軍隊に志願して憲兵(軍警察官)として務めた。任期終了除隊後、セントポール市警察に志願して、警察学校を経て8年勤務。刑事として、抜群の犯罪検挙率を上げた。州特別犯罪捜査局(BCA: Bureau of Criminal Apprehension )に出向勤務し、そこで実質的実務責任者の役割を果たしているLucas Davenport(ルーカス・ダベンポート)と知り合い、「取り込まれ」、市警察を辞してそこに移った。そこでも抜群の検挙率を誇っている。ルーカスは、バージルには、やっかいな事件しか与えない。信頼度抜群なのである。
 しかし、勤務中であれなんであれ、公用トラック、あるいは自分の私物トラックに釣りボートを牽引して走りまわることで知られ、市民から糾弾されやしないかと、ルーカスの頭を痛ませている。
 もうひとつ、拳銃携行が服務規程で義務付けられているにもかかわらず、そうしないことがよくある。そのため、年中、事に臨んだ歳に、ルーカスや同僚から「ガン持ってるか」と確認される。
 逮捕時、むやみに犯人の身を傷つけることは避けたいと考えて行動する。そういう男だ。

 上司。同僚から、"That 'Fuckin Flowers'."(あの、「あほフラウワーズ」、「くそったれフラウワーズ」と呼ばれている。
 なぜそう呼ばれるのかと、しじゅう人々に訊かれる。
 州北西端カナダ国境に近いMarshall郡出身の田舎育ち。両親とも健在。父親はルーター派の牧師としてその地で、郡最大の教会を運営している。母親はミネソタ州立大学で土木工学/地質調査の教授。
 大学時代に、父親影響下の宗教教義からは離れた。しかし無神論者ではない。毎晩、日課として、寝る前に、神について、すなわち、宇宙の神秘について考える。  

II.女保安官が離婚の痛みを語る
1.とんでもない事件に発展
 さて、先に戻った保安官を追うようにホームステッドに急行したバージルは、予め「素早く動く必要があるから、すぐに手配しておくように」と保安官に指示しておいた家宅捜索令状を手に、男の保安官補二人を連れて、速攻で件(くだん)の当直保安官補"C"の自宅を襲った。ところが、男は、居間の長椅子で、顎下から頭を撃ち抜いて死んでいた。後頭部から脳漿と骨片が壁に飛び散り、うつろな目が、点けっ放しになっているテレビを見ている。傍に45口径Glock(グロック)が転がっている。奇妙なことに、Cはズボンの窓からイチモツを突き出していた。

 とんでもない事件に発展した。
 しかし、この記事は、事件の内容を語ろうとするものではないから、その後の経緯などについては、触れない。主眼は、バージルが女保安官の両股の圧迫のなかで必死に生き延びようともがいたことを伝えることにある。だから、その面に向かって話を進めていく。

2.離婚の痛みを訴える
 ということで、一連の捜査が進んでいくなかで、次のような場面となる。バージルが宿にしているホリデイ・イン(Holiday Inn)のレストランでのことだ。

------------------------------
 コークリー保安官は大して興味なさそうな様子で食べ物をつまんでいたが、
「BCAにいる友達に聞いたんだけど、あなた、何度も何度も結婚するもんだから、判事が手続料を割引してくれたんだってね」、
 といきなり訊いてきた。
 バージルはむせて、口の中から食べ物を吹き出しそうになった。

「なに、誰がそんなこといったんだ」。
 「友達、匿名、その友達がいうには、4回も結婚して離婚したのよね」。
「ウソだ、名誉棄損だ、誰だか分かれば逮捕するぞ」。
 「で、結局何回なのよ」。
「三回だ、だけど、聞こえほど悪くない」。
 「ねえ、ほんとのこといって、つらかった? 離婚したとき」。
「そりゃ、つらいさ、俺だって人間だ」。
 「でも、彼女がいうには、たった5年間のあいだに、その結婚離婚を全部繰り返したんだってね。しかも、そうしながら、15分置きに別の彼女を作っていた」、「そして、おそらく証人の女の人とも寝たんじゃないかっていわれている」、
 「なんていうか、わたし、ショックだったわ」。
「おいおい・・・・・・」。

 「というのは、わたしは、離婚したとき、そう、3カ月間ずっと、夜寝るときに、何が悪かったんだろうかって、悶々としたわ、どっちが悪いのかって」、
 「今でも悩んでいるわ」。
 女はいう。
 「知ってるでしょう、わたし、6ヶ月経たないと再婚できないのよね、6ヶ月間は籠の鳥」。

  バージルは、自分の場合にはさほど苦痛を感じるというほどのものではなかったと、結婚離婚顛末を語った。長続きしないということが、早い時期にお互いに明確に分かった、三回の内の一つは一週間半で終わった。最初の結婚の相手が好きだったんだが、その相手はいろんな計画を持っていて、こちらがそれに乗っからず、改造鋳造も効かないとみて、計画実現をアウトソーシング(外部調達)することにしたのだ、などなど。

"How about sex? Did she outsource the sex?
(セックスはどうしたの、相手の人は、それも外部調達したの?)
 「知ってるかぎりでは、そのようなことはない。その面は問題ではなかった。問題はもっと、なんというか、ビジネスライクなものだった。俺のことを、自分の気に入ったように鋳造し直すことが不可能だと悟ったんだ、相手は」。

 「うーん」、コークリーがいう。
「なんか、否定的なウーンだな」、とバージル。
 「さあね、さて、そろそろ出ましょうか」、
 相手は室内を見回した。そしていう。


"The thing is, when Larry stopped having sex with me, I thought maybe he was . . . just losing interest in sex. I'd never gotten that much out of it. I'm not especially orgasmic, and so, I just let it go. But then, he dumps me off, for this other . . . person . . . with big . . .  and I start to wonder, maybe I'm just a complete screwup as a woman."
 「問題は、こういうことなのよ。ラリーが私を抱こうとしなくなったとき、私はこう思ったの。おそらく相手は・・・そのう、性生活というものに興味がなくなったんだろうって。私はそれが好きでたまらないってわけじゃなかった。特別、オーガズムを感じまくるってタイプじゃないしね。だから、ただ、そのまま放っておいたのよ。
 それが、どう、あの人、突然、私を放り捨てたわ。別の・・・その・・・大きな胸の・・・そのう・・・女の人の元に走って。だから、私は、疑い始めたの、もしかして、私って、女としては全くのダメ人間なのかって」。


 Virgil held up his hands, didn't want to hear it. "Whoa, whoa, this is a lot of information  --."
She said, "Shut up, Virgil -- I'm talking. Anyway, I'm wondering, am I a complete screw up? The major relationship in my life is a disaster--"
"Hey, you've got three kids," Virgil said. "Is that a disaster?"
"Shut up. Anyway, I know I'm not all that attractive---"
"You're attractive," Virgil said. "Jesus, Lee, get your head out of your ass."

  バージルは両手を上げた。話を聞きたくなかった。
「わあ、わあ、暴露話、充分、じゅうぶん、もういいよ」。
 コークリー保安官はいう、
 「おだまり、バージル。- - - 私の話を聞いて。とにかく、まったくのダメ女かって考え始めたわ。人生で最も重要だった関係が失敗に終わったから・・・」。
「なにいってんの、子どもが三人もいるじゃないか、それって、失敗かい」。
 「おだまり。とにかく、私はあまり魅力的な女じゃないし・・・」。
「魅力的だよ、なにいってんだ、リー、ぼやっとせずによく見なよ」。

"Well, see, nobody ever told me that - - - and you might be lying," she said. "I suspect somebody who got married and divorced three times in five years probably lies a lot."
"Well . . . "
"So, you can see where this is going," she said.
"I can?"
"Of course you can, I'm the sheriff of Warren County. There are twenty-two thousand people here, and all twenty-two thousand know who I am. I can't go flitting around, finding out about myself. If I pick out a man, that's pretty much it. But how can I pick out a man if maybe I'm a total screw up as a woman? I mean, maybe I should be gay. I kind of dress like a guy."
"Do you feel gay?"
"No, I don't. What I feel like Virgil, is a little experimentation, something quick and shallow, somebody with experience," she said. "I can't experiment with the locals, without a lot of talk. So I need to pick somebody out and get the job done."

 「だけど、これまで、そんなこと誰からもいわれたことはないし・・・それに、あんた嘘ついてるかもしれないしね」、コークリーはいう、
 「5年のあいだに三回も離婚している人は、おそらく、かなりのうそつきだろうから」。
「そんなこた・・・」。
 「ね、だから、私が何をいいたいのか、わかるでしょ」。
「分かるはずなのかい?」。

 「もちろんよ。私はウォーレン郡の保安官。人口22,000人。二万二千人の全員が、私のこと知っている。だから、自分が女としてダメなのかどうか知ろうとしても、フラフラうろつくわけにはいかない。男を一人見つけられさえすれば、
それでいいんだけどね
 だけど、女としてまったくダメな人間だとしたら、どうやって男を探せばいいの、つまり、本質的にレスビアンなのかもしれないし、私って男みたいな恰好するから」。
 「レスビアンみたいに感じるかい」。
「いいえ。とにかく、私がしたいのは、バージル、多少の実験なのよ、短期間の、浅い関係でみたいな、誰か経験豊富な相手と」。
 保安官はいう。
「地元の人間と実験することはできない。ぱっと噂が広まるから。だから、外部の相手を探して、仕事を、実験を済ませたいのよ」。


She peered at him with the blue and the green eye, waiting, and Virgil said, finally, "Well, you've got my attention."
 保安官は、片方が青片方が緑の目でバージルを窺い見る、返事を催促しながら。
 バージルは、とうとう応じた。
「そうだな、考えておく」。

                                                                                                              (前掲書134-137ページ)
-------------------------------


III.ドイツ移民系住民の秘密宗教結社
1.悪魔的性生活教義
 保安官補"C"の死は他殺によるものだということがほぼ確実となる。犯人は元の妻"S"である疑いが強い。確定的証拠としてのDNA検査の結果が待ち遠しい。それは、Sの髪の毛と、Cのイチモツに付着していた唾液についてのDNN相互比較である。
 一連の事件の背景には、悪魔的な性的要素が潜んでいるようだ。すなわち、ローティーン児童までをも対象にした
凌虐的性行為が、しかも近親相姦的、集団的なそれがからむ生活習慣が潜んでいるようにみえる。どうも、それには、1880年ごろにドイツから移住してきてこの地に定着した集団の子孫で構成されている秘密結社的な宗教の教義が大きく関係しているようである。

2.「教会」なるものの「集会」を偵察
 バージルは、秘密宗教集団が行っているとされる「教会」の「集会」というものの実体を探ろうとする。BIA本部からセスナ飛行機を出してもらって、集合場所を空から探知し、無線連絡により、陸上で待機しているバージルと保安官が徒歩でそこに近寄り、寝袋持参で長時間偵察するという戦略行動に出た。

3.児童凌虐集団性行為写真の山

 集会の偵察には成功しなかったが、バージルは集会参加で家を留守にしている夫婦の家に忍び込み、悪魔的集団性行為を写した大量の写真を発見する。
 バージルが屋内で家探ししているあいだ、コークリー保安官が無線で連絡をとりながら外で見張りをした。
 保安官は違法な侵入に反対したのだが、バージルが押し切った。


IV.オー、スクリュー・イット、ライトナウ!やって、いますぐやって!
1.不法捜査に保安官びびる
 ひとつかみの写真を手に戻ってきたバージルに保安官がいう。
  "This is awful. We were crazy to even try this."
Virgil nodded. "You're right."
"Nothing right."
"Wrong. Just about everything, maybe," He dug in his pocket, pulled out the photos. "Let's get someplace where we can look at these."

 「たいへんなことやっちゃったわ。証拠探しをしようとしただけでも(1)、狂気の沙汰だわ」。
「君は正しい」。 (そのとうり)
(2)
 「正しくなんかない」。
「そう、間違っている。すべてが間違っているんだろう、おそらく」。
 バージルはポケットに手を突っ込み、写真を取り出した。
「どこか、これを検分できる場所にいこう」。


 保安官の車でバージルのトラック駐車位置まで戻る途中、保安官はストレスによって頬骨がいっそう突き出しているようにみえた。
"Thar fuckin' Flowers. That's what they said. I paid no attention. This . . .  I mean, I dunno. I dunno. I mean, I really don't know."
"I know what you mean," Virgil said.
"Maybe I should turn us in," she said. "That's be the right thing to do, I'd inform the court, then resign..."
"Ah, for Christ sakes, don't be a child," Virgil said,

 「あのアホフラウワーズ」、
 みんながそう呼んでたけど、別に注意を払わなかった。だけど、こうなってみると、なんていうか、なんていうか、その、まったく・・・なんていうか・・・」。
「いいたいことはわかるよ」。
 「自主すべきかもしれない」、コークリーはいう、
  「そうすべきよ、裁判所に告げて、辞職する・・・」。
「ああ、何をいってんだい、子供っぽいことをいうなよ」、
 バージルが応じた。

  二人はバージルのトラックに到着し、保安官はバージルの後を追ってホリデイインまでやってきた。


*1.捜索令状なしで不法に入手した写真を裁判で証拠として提出する行為は絶対に許されざるものである。"due process"ということを重んじるアメリカの刑事裁判では、検察側がそんなことをすると、一発で「無罪」」となる。単にその証拠の価値が否定されるだけでなく、事は裁判全体に及ぶ(理論構成その他、詳しいことは知らぬが)。
 だが、証拠として使用することまではせずとも、(捜査の手がかりにするために)住居に不法に侵入して証拠を探そうとした行為を犯しただけでも狂気の沙汰だといっているのである。
*2."You're right."は、「おっしゃるとおり」、「そのとおり」の意味で、この場合の"right"は「合っている/合っていない(間違っている)」という意味の、道徳倫理的には無色のことばである。すなわち、直接的には、倫理的な意味での「善悪」には関係しない。
 それを、保安官は、倫理的な意味での「正しい」という表現に置き換えて、「正しいことなんかなんにもない」と、ことば遊びをしているのである。


2.モーテルの部屋で

  二人はバージルの部屋で写真を検分する。
 写真をベッドの上に並べた。
 おぞましい光景が展開していた。
 その家の主とその娘、14歳にも満たない娘との性交、娘と、何人もの他の男とのそれ、娘の母親も、誰かれ問わず行っている。
 検分後、写真を浴室で燃やし灰を流した。

 「さて、これで、何が起きているか、わかったわね」、「で、次は、どうする」。
 保安官が問う。
 「そう、明日まで待つんだ。あした、DNA鑑定の結果で"S"(当直警官Cの元の妻)を挙げることができれば、Sを責めて全貌を明らかにすることができると思う」、
「そうすりゃ、家宅捜索令状の束だ、ツインシティ(セントポール/ミネアポリス)からBCAの応援部隊を何人も呼んで、一斉に家宅捜索をやる」。
 「分かった」、「わかった、明日ね」。
 コーリーが応じた。


3.Screw it. Right now! すぐにやって!
 二人はベッドの傍に立っている。写真を燃やした匂いがわずかに残っている。
       "This afternoon, I had this . . . vision, kind of. We'd be lying out there in the sleeping bags, you know not much going on, and we'd start to neck a little. Then nothing would happen, and we'd go back to the truck, and fool around a little more, then we'd come back here. You know?
  Virgil shrugged.
"But those pictures," she said. "How could you have  any kind of decent sexual experience with those pictures still in your head?"
He shrugged again. "They were  . . . out there."
"So maybe . . . maybe I could stop by again? Like tomorrow night?"
"Sure. Don't do anything you don't want to, Lee,"
Virgil said. "I mean, you know. Do what you want."
She stepped away and said, Tomorrow."
"Okay"
Then she stepped back, grabbed his shirt, shoved him back on the bed, following him down, and said,
"Oh, screw it. Right now."

 
きょう、昼間、私は・・・なんていうか、姿を予測するみたいなことをしていたのよ。二人で、偵察場所で、お互いに寝袋に入って横たわって、ね、ほら、大したことが起きないから、少しネッキングを始めたの。で、それ以上監視していても何も起きそうにないからトラックに戻って、もう少しいちゃついて、そして、この部屋に戻るの、ほら、わかるでしょ」。
 バージルは肩をすくめる。
「だけど、あの写真」、「あんな写真の姿が頭にこびりついている状態では、正常な精神状態でセックスなんかできやしない」。
 バージルは再び肩をすくめる。
 「まあ・・・、その・・・」。
「だから、ね、出直してくるわ、そうね、明日の夜とか、いい?」。
 「いいよ、したくないことはやらない方がいい、リー」、バージルはいう、
つまり、「したいことをやれ」っていうことだ。
 コークリーはベッド傍から歩み去っていって、いう、
「あした」。
 「オーケイ」、バージルが応える。

 その瞬間、保安官が歩み戻って、バージルのシャツを掴み、バージルの身体を振りまわすようにしてベッドの上に押し倒した。
 そしていう、
"Oh, screw it. Right now." 「やって、いますぐやって!」


V.顔、胸、腰、両股による圧迫からの生還
     ――すごかったなあ――
 翌調目覚めたバージルは思った。
 保安官コークリーの積年にわたる欲求不満、下降カーブをたどった10年の結婚生活のなかで我慢し続けてきた欲求不満は、それがなんであれ、すべて解決された。
 そう思った。
 起きあがろうとして腰の痛みに呻いた。背骨から腰にかけての筋肉を野球時代に痛めていて、たまに痛みがぶり返すことがあった。昨夜、その筋肉を強く引っ張った。そのことには気付いていたのだが、行為に夢中になっていて、痛みのことはすっかり忘れていたのだ。それが、一夜のうちに硬直し鋼鉄の締金のように感じる。、

 再度、枕にもたれた。
 バージルは、ほとんど毎晩、寝る前に神について考える。
 ルーター派牧師を父にもつ環境から、18年間、毎晩ひざまずいて夕べの祈りをささげてきた。大学に入学して、父親影響下の宗教観からは離れたが、依然として無神論者ではなく、神の存在、現在ではそれは自然の神秘みたいな存在として観念されるものであるが、その存在そのものは肯定している。

 昨夜はしかし、神については考えなかった。
 ゆうべしたことは、女保安官の、身長ほぼ6フィートの、細身だが頑丈な保安官の、

 顔、胸、腰、両股による圧迫のなかで、窒息から逃れて必死に生き延びようとするあがきであった。
 十年連れ添った亭主から思いもせず離婚話のパンチをくらった衝撃から、その亭主は離婚後三週間で別の女と結婚したというショックから、「自分は女としてダメな存在なのか」と真剣に悩んで、それを探ろうとする女の、すべての抑制をとり払って自らの「女」を、性を、「ダメかどうか」を追究しようと、実験台バージルに立ち向かってくる女の、唇の、乳房の、下腹の、そして
、アアーッツ、両股による激しい圧迫のなかで窒息から逃れて、なんとか生き延びようとあがいたことであった
 
  (前掲書217、8ページ。一部、原文から離れて多少脚色している箇所がある)


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年3月11日 (月)

ジョン・サンドフォード(John Sandford)記事一覧表 ― Preyシリーズ(Lucas Davenport物)とVirgil Flowersシリーズ。

2013.3.11
 ジョン・サンドフォード(John Sandford)の刑事小説、「 Preyシリーズ」(Lucas Davenport/ルーカスダベンポート物)と「Virgil Flowersシリーズ」(バージル・フラワーズ物」。
 これまでに書いた記事の一覧表を作成し、相互参照ができるようにした。
 記事が増えるごとに一覧表に追加していく予定である。

◆◆◆◆◆◆◆◆
                                                       <<<一覧表>>>

■Preyシリーズ(主人公、Lucas Davenport/ルーカス・ダベンポート)
(1).2011.10.19
 マーシー・シェリル(Marcy Sherill)が死んだ。愕然、絶句! なんてことだ!ジョン・サンドフォード(John Sandford)の "Prey"シリーズ(邦題、「獲物」シリーズ、早川書房)最新版、第21作"Buried Prey"
(2)2011.10.20
 シェリル追想―その1。ジョン・サンドフォード(John Sandford)、「**Prey」シリーズ(邦題、「獲物シリーズ」、早川書房)。まずは、ミネアポリス警察署殺人課課長Marcy Sherill警部補を殺した最新作"Buried Prey"の紹介から始めよう。
(3)2011.10.21
 シェリル追想―その2(1)。ジョン・サンドフォード(John Sandford)、"Secret Prey"(「**Prey」シリーズ第9作。邦題は「獲物シリーズ」早川書房)。夜も昼もなく性に溺れた究極の40日その初日を書く。ルーカスに仕掛けるシェリル情慾に素直に生きる、大人の、かわいいシェリル。
(4)2011.10.22
 シェリル追想―その2(2)。ジョン・サンドフォード(John Sandford)、"Secret Prey"(「**Prey」シリーズ第9作。邦題は「獲物シリーズ」早川書房)。夜も昼もなく性に溺れた究極 の40日。その初日。ルーカスに仕掛けるシェリル、情慾に素直に生きる、大人の、かわいいシェリル(後篇)。
(5)2011.10.25
 シェリル追想―その2(3)。ジョン・サンドフォード(John Sandford)、"Secret Prey"(「**Prey」シリーズ第9作、邦題「獲物シリーズ」)。夜も昼もなく性に溺れた究極の40日。連続殺人事件の出張捜査にでかけるルーカスとシェリル。}
(6)2011.1027
 シェリル追想―その2(4)。ジョン・サンドフォード(John Sandford)、"Secret Prey"(「**Prey」シリーズ第9作、邦題「獲物シリーズ」)。夜も昼もなく官能の享楽にふけった究極の40日連続殺人事件の一泊出張捜査、レッドリバー峡谷(Red River Vally)での二人。シェリルにとって、一生忘れ得ぬ至福のときだったであろう。
(7)2011.10.28
 シェリル追想―その2(5)。夜も昼もなく官能の享楽にふけった究極の40日。連続殺人事件の一泊出張捜査、二人はレッドリバー峡谷(Red River Vally)から戻ってくる
(8)2011.10.30
 シェリル追想―その3。シェリルは振り向き、ルーカスを見て、「やあ」・・・・・・恥ずかしそうにいう。夜も昼もなく官能の享楽にふけった究極の40日。だが、二人は納得ずくで関係を絶ったのである。"**Prey"シリーズ第10作、Certain Prey。
(9)2011.10.31
 シェリル追想―その3(2)。そして、エレベーターの扉が開き、シェリルは見た。腹ばいになって、ピストルの狙いをぴったりとシェリルの胸につけているルーカスを
(10)2011.11.1
  第10作Certain Prey映画化
  ジョン・サンドフォード(John Sandford)の"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ)第10作"Certain Prey"、「USA Network社」が映画化し、この11月6日(U.S.時間)に封切される。予告編You Tubeが存在する。眺めてみよう。
(11)2011.11.3
  第10作Certain Prey映画化-2
  ルーカス・ダベンポート(Lucas Davenport)とマーク・ハーモン(Mark Harmon) ― USA Network社製作"Certain Prey。ジョン・サンドフォー"**Prey"シリーズ第10作、"Certain Prey"の映画化作品。
(12)2011.11.9
  シェリル追想―その4。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"
(13)2011.11.15
 シェリル追想―その4(2)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"
(14)2011.11.22
 シェリル追想―その4(3)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"
(15)2011.11.23
 シェリル追想―その4(4)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"
(16)2011.12.2
  シェリル追想―その4(5)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"
(17)2011.12.5
  シェリル追想―その4(6)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"
(18)2011.12.7
  シェリル追想―その4(7)。シェリル撃たれる。ジョン・サンドフォード、"*** Prey"シリーズ(邦題「獲物」シリーズ、早川書房)第11作、"Easy Prey"
(19)2013.6.10
  John Sandford(ジョン・サンドフォード)の"*Prey"シリーズ最新作(第22作)Stolen Preyを読んだ。落ち目のシリーズをなんとか支えたいとして、新興シリーズ主人公Virgil Flowersを引っ張ってきたが、策は不発で、かえって冗漫作品にしてしまった。


■Virgil Flowersシリーズ(主人公、Virgil Flowers/バージル・フラウワーズ)
(1)2013.1.31
  ジョン・サンドフォードのショック・ウェイブを読んだ(John Sandford's Shock Wave)。Virgil Flowers series(バージル・フラワーズ)シリーズ第5作だ。
(2)2013.2.2
  バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その1 ― ジョン・サンドフォードのシリーズ小説主人公(John Sandford's Virgil Flowers series) 。
  (第5作"Shock Wave"から)
(3)2013.2.4
   バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その2 ― ジョン・サンドフォードのシリーズ小説主人公(John Sandford's Virgil Flowers series) 。
  (第1作"Dark of the Moon"から)
(4)2013.2.6
バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その2(後編) ― ジョン・サンドフォードのシリーズ小説主人公(John Sandford's Virgil Flowers series) 。
    (第1作"Dark of the Moon"から)
(5)2013.2.9
バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その3 ― ジョン・サンドフォードのシリーズ小説主人公(John Sandford's Virgil Flowers series)。
     (第1作"Dark of the Moon"から)
(6)2013.2.12
  バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その4 ― ジョン・サンドフォードのシリーズ小説主人公(John Sandford's Virgil Flowers series) 。
     (第1作"Dark of the Moon"から)
(7)2013.2.18
 バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その5 ― ジョン・サンドフォードのシリーズ小説主人公(John Sandford's Virgil Flowers series) 。
     (第2作"Heat Lighting"から)
(8)2013.2.21
  バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その6 ― ジョン・サンドフォードのシリーズ小説主人公(John Sandford's Virgil Flowers series)。 併せて、「Virgil Flowersシリーズと"**Prey"シリーズとの関係」の考察を試みる。
     (第2作"Heat Lighting"から)
(9)2013.3.19
  バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その7。Come Away With Me、One Flight Down、The Nearness of You・・・二人は踊る。"Oh, God, Virgil"、女が呻きバージルの耳を噛む(前編)。
       (第3作"Rough Country"から)
(10)2013.3.23
  バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その7-2。Come Away With Me、One Flight Down、The Nearness of You・・・二人は踊る。"Oh, God, Virgil"、女が呻きバージルの耳を噛む(後編-1)。
   (第3作"Rough Country"から)
(11)2013.4.1
バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その7-3Come Away With Me、One Flight Down、The Nearness of You・・・二人は踊る。"Oh, God, Virgil"、女が呻きバージルの耳を噛む(後編-2)。
    (第3作"Rough Country"から) 
(12)2013.4.3
  バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その7-4。三回もチャンスを潰したが、「またという日がないじゃなし」、4回目がやってきた、今日は絶対やれる。事件も解決したし、ルンルンで臨む(後編3)。
    (第3作"Rough Country"から)
(13)2013.4.18
  バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その8 ― バージルは、抑制から解放されて堰を切ったように奔放に振舞う保安官の、顔の――そして、胸の、尻の、両股の圧迫のなかで、窒息から逃れ、生き延びようと必死にもがいた。
       (第4作"Bad Blood"から)
(14)2013.4.25
  バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その8 (続編)― ①Jesus, Lee, Get your head out of your ass. ②If I pick out a man, that's pretty much it. ③Cool. Interesting. It's kind of like a little landing strip.
       (第4作"Bad Blood"から)
(15)2013.12.11
  ジョン・サンドフォードのマッド・リバーを読んだ
(John Sandford's Mad River)。Virgil Flowers series(バージル・フラワーズ)シリーズ第6作だ。

(16)2015.11.5
 ジョン・サンドフォードの「バージル・フラワーズ・シリーズ」、第7作、Storm Front(ストーム・フロント)を読んだ (John Sandford's "Virgil Flowers" Series, the seventh novel)

■両シリーズ共通
(1)2013.3.4
    「Prey vs Viegil Flowers」両シリーズ作品一覧表と相関関係John Sandford(ジョン・サンドフォード)のPreyシリーズとVirgil Flowersシリーズ、各作品の時系列的相互位置関係を探る。

■間接的に関連する記事

(1)2010.9.9
  ダベンポート・ブルース。ルーカス・ダベンポート(Lucas Davenport)、ビックス・バイダ―ベック(Bix Beiderbecke)、そしてダベンポート・ブルース(Davenport Blues)。
(2)2010.10.28
  ルーカス・ダベンポート(Lucas Davenport)の名がない。「小説に現れる有名な刑事」として50人も名前を挙げているのに、この男の名がないぞ。え、どうだい、おかしくないか、おまいら、ファンよ。
(3)2010.11.1
「オレなら、9インチのブラットブルストをぶち込んでやるんだが」――マークスは大口を叩くが、実際には女房忠誠一筋の男だ。
(4)2013.3.5
 ポルカドッツ・アンド・ムーンビームズ。"a nose, a bit too big and a little crooked"、 "a pug-nosed dream"、故あって "Polka Dots and Moonbeams"(ポルカドッツ・アンド・ムーンビームズ)、歌詞と日本語訳。
(5)2013.3.6
  「ロック時代トップ100曲」(Best Songs of the Rock Era)第1位、"ZZ Top"の"Sharp Dressed Man"、初めて聴いた。悪くない。ついでだから、歌詞と日本語訳を掲げておく。
(6)2013.3.27
  Come Away With Me、One Flight Down、The Nearness of You・・・二人は踊る、"Oh, God, Virgil"、女が呻きバージルの耳を噛む。うーん、なあ・・・そこで、The Nearness of Youの 歌詞と日本語訳を掲げる。





| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年2月21日 (木)

バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その6 ― ジョン・サンドフォードのシリーズ小説主人公(John Sandford's Virgil Flowers series)。 併せて、「Virgil Flowersシリーズと"**Prey"シリーズとの関係」の考察を試みる。

                      <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2013.2.21
  [Virgil Flowersシリーズと"**Prey"シリーズとの関係]
    言行録その5(前回記事)でシリーズ第2作"Heat Lightning"から題材をとったが、その作品の後半部分に、"**Prey"シリーズに登場する常連人物がたくさん出てくる場面がある。"**Prey"シリーズとは、Virgil Flowersシリーズに先行するもので、Lucas Davenport(ルーカス・ダベンポート)という主人公が活躍するこのシリーズは、1989年の第1作"Rules of Preyから2013年5月に予定されている第23作"Silken Prey"まで延々と続いている人気シリーズである(1)。
 そこで、今回は、その場面でのバージルの言行を紹介したうえで、両シリーズの時系列関係を考察してみたい。
  (以下、両者を「バージル・シリース」、「ルーカス・シリーズ」ということにする)

*1.第23作(Silken Prey)は発売そのものが2013年5月に予定されているものであるが、その手前第22作"Stolen Prey"も、
まだハードカバー発売の段階であり、ペイパーバックは同じく2013年5月にならないと出回らない。商売戦略として、発表後一年間はハードカバー版しか売らず、ペイパーバックは一年待たせるという方針をとっているそんなことで、当ブログ主は第22作ペイパーバックを鶴首して待っているところである。

 まあ、
鶴首して」といったが実際にはそうでもあり、そうでもないというところだ。
 というのは、
ある事情によって第13作"Mortal Prey"から興味が薄らいでいたところにもってきて、第21作"Buried Prey"で我が愛するシェリル(Marcy Sherrill)を作者が殺してしまったからだ。うん、白状しちまうと、ある事情とは、ルーカスの「女」面での活躍がなくなってしまったからである。女医と結婚してしまったのだ。当ブログ主の猛反対にもかかわらず。こちらは、そこらが楽しくてファンになっていたのだ。
 特に第9作Secret Preyで見せた同僚女巡査部長刑事との「ずっぽりセックスと口論の40日」はよかったね、凄かったね。関係
その作品限りで終わってしまったが、当ブログ主はこの女刑事の大ファンだった。第7作Mind Preyから登場した。悲しいことに、第21作Buried Preyで死んでしまう。腹立たしいことに、作者はこの哀しくも男勝りの可愛い女、シェリル殺してしまった。
  *「シェリルを作者が殺してしまった」ことついては、2011.10.192011.10.20(シェリル追想その1)過去記事で書いた。
   参照されたい。
 
  *「ずっぽりセックスと口論の40日」については、シェリル追想その2(1)その2(2)その2(3)その2(4)
   その2(5)その3
その3(2)書いた。
    なお、追想その4その4(2)
その4(3)その4(4)その4(5)その4(6)その4(7)でも関連記事を書いているので併せて
    参照されたい。


◆◆◆◆◆◆◆◆
■「オレと駆け落ちしないか」 ―上司の妻に。
 バージルは、1975年ベトナム米軍撤退時の遺棄重機窃盗7人組の一人と、州北部Bemidji(ベミジー)の北西近郊に位置するリゾート地で待ち合わせて面談する。

 細かいことは省略するが(前回記事参照)、その7人の内の4人が最近になって次々と殺され、生き残っているのは二人だけ(一人は老齢自然死)。そのうちの一人だ。その男は闇世界で商売を営む一種のギャングのような存在なのだが、一連の関係殺人事件から身の危険を感じ、現在は北方の隠れ家に身を潜めている。シカゴから何人ものボディガードを雇って身辺に侍らせながら。その隠れ家から、待ち合わせ場所にやってきたのだ。名をCarl Knoxという。

 その男、それは、起きている連続殺人事件の容疑者である疑いを捨てきれない相手なのだが、そのノックス(Knox)から、「オレは犯人ではない」として、1975年にベトナムで起きた米軍遺棄重機窃盗7人組の一人による現地家族殺戮事件の全容を聞く。
 すなわち、その殺戮は生き残っているもう片方の男Ralph Warren  一人だけが引き起こしたもので、他の6人は現場付近にはいたが、事件を目撃したにすぎない。殺戮を止めることはできなかった。あっという間のできごとだった。全員が事件をひた隠しにしてきたが、30年を経て、良心の咎から、隠してきたことを自白しようとする動きが6人中の一人から出た。現在当地で起きている一味殺害事件は、動きを察知した男が、暴露を防ぐためにやっているものだ。
 ノックスはこういいい、自分は殺戮当時、後々のために殺害現場の写真をこっそりと何枚も撮ったとして、その写真をバージルに見せ、渡した、ネガは保持し続けるとして。

 バージルはルーカスに電話して、写真を手にその自宅に向かう。
 ルーカスの自宅は、ミシシッピ川に沿って延びているMississippi River Boulevardの脇にある。その車寄せには3台の車が停まっていた。邪魔にならぬように道路に車を停める。ドアを開けると、バーベキューの匂いがし、裏庭でしゃべっている賑やかな声が聞こえた。車寄せからガレージを回って裏門を開ける。ダベンポートの妻ウェザー(Weather)が気付いて、声をかけてきた。

"Virgil Flowers!"
「まあ、バージル・フラワーズ」。

 ダベンポートがいる。スローンとその妻がいる。スローン(Harrison Sloan)は元ミネアポリス市殺人課敏腕刑事で現在はバー経営者になっている。同じく元ミネアポリス署刑事で現BCAの同僚捜査官デル・キャプスロック(Del Capslock)と妊娠中のその妻がいる。スローンはルーカスより一、ニ歳年上、デルは二、三歳上だ。
 ほっそりして眼鏡をかけたエレ(Elle)、ダベンポートの幼馴染で修道尼(修道院系列大学の心理学教授)だが、そのエレがいる。そして、ダベンポートが養女として育てているミドルティーン、もうすぐ華麗な娘に変身することをうかがわせる容姿のレッティ(Letty)と、ダベンポート夫妻の子、よちよち歩きのサム(Sam)がいる。

Weather came over and pinched his cheeks and said, "It's about time you got here, you hunk."
  He gave her a little squeeze and asked, "Why don't you run away with me?"
  "Then you wouldn't have a job and I'd have to support you," Weather said.
  "Then he'd be dead and you wouldn't have to support him," Davenport daid.
    "Still, couple good days at a Motel 6 in Mankato ... might be worth it," Virgil said to her.
   Davenport said, "Yeah, it would be. When you're right, you're right."

    Elle, the nun, amused, said, "You guys are so full of it."
"The shrink speaks," Del said. Elle was a psychologist.
     Give the poor boy a hamburger, Lucas and then let's hear his story," Elle said to Davenport. She patted a chair next to her in the patio set, "Sit next to me, so I can ask questions."

                                              (Berkleyペイパーバック ISBN 978-0-425-23061-9、245ページ)

ウェザーが歩み寄ってきてバージルの頬をつねる。そしていう。
「もうそろそろやってくる頃だと思っていたわ、このマッチョ」。
バージルは相手をちょっと抱きしめ、いう。
「オレと駆け落ちしないか」。
  「そんなことしたら、ルーカスから首にされるから、失業して、私が養わなきゃならなくなってしまうわ」。
  「首なんかじゃない、おそらく殺されちまうだろうから、養はなくてすむんじゃないか」、ダベンポートがいう。
「それでもなお、マンケートー(Mankato)のモーテル6で数日オレと一緒に過ごす方がいいんじゃない、それぐらいの犠牲を払っても、おつりがくる」。
「そうかい、そうかい、お前のカラダがいうことをきくならな、カラダが」。

 修道尼のエレがおもしろがっていう。
 「あんたたち、どうしょうもないわね」。

   「シュリンクは語る」、デルがいう。エレは心理学者(精神分析医)なのだ。
 「その坊やにハンバーガーをあげて、ルーカス、そして話を聞こうじゃないの」、
 エレがダベンポートにいい、パティオ(
中庭)にセットした場の自分の隣の椅子を手で叩く。
 「ここ、私の隣に座って、質問できるように」。
******************************************


[英語表現]
1. "You guys are so full of it".のitはshitのことであろう。
 「あんたたち、どうしょうもないわね」
2."shrink"(シュリンク)
 精神分析医のことを、揶揄して、あるいは軽蔑の意味をこめてこういう。本来は「縮む」という意味のことばである。探偵小説を読んでいると頻繁に現れる。由来については、脳が縮むからだとか、診療費がバカ高いので身が縮む、財産が縮むからだとかいわれている。

◆◆◆◆◆◆◆◆
Virgil Flowersシリーズと"**Prey"シリーズとの関係
 この件に関する記述は、取り去って別記事(2013.3.4)として載せた。全体が重くなりすぎ、ごちゃごちゃと読みにくい記事になってしまったからである。
 表と多少の関連記述だけを残しておく。

[Preyシリーズ]
                                    Prey Series(Lucas Davenport)
Photo_2                    右端欄、MPD=ミネアポリス市警察、PC=民間人、 BCA=ミネソタ州特別犯罪捜査局。
                        VF=Virgil Flowers( 物語にバージルが登場していることを示す)      
           表は暫定的なものであり、過去作品の読み返し調査が進むに連れ
、修正していく       

[Virgil Flowersシリーズ]
                                         Virgil Flowers Series
Photo_3           
 物語年度はしばらく保留にしておく。
 バージルの年齢は、第2作Heat Lightningで30代半ば(mid-thirties)である。

               Prey Series(Lucas Davenport) vs Virgil Flowers Series
 
[両シリーズの関係]Photo_6
[表の説明]
 先に掲げたPreyシリーズの表にVirgil Flowersシリーズ(左側)をくっつけたもの。右端欄に"VF"とあるのは、Virgil Flowersの省略で、その物語にバージルが登場していることを表わす。つまり、バージルは第17作Invisible Preyで初登場している(同時に、その刊行年度からVirgil Flowers Series平行的に走りはじめた)。
 ルーカスもバージルもBCA犯罪捜査官だが、ルーカスは第14作Naked Preyからここに移っている。

 それまでの身分をついでに記しておくと、第1-3作まではミネアポリス市警察で一匹狼的に犯罪捜査に従事する警部補。第3作で事件終了後に退職する。
 第4作(Silent Prey)ではニューヨーク市警察の嘱託刑事として、第5作(Winter Prey)ではニューヨークから戻ってウイスコンシン州山荘に行き、そこで年越えをした年初に郡保安官事務所の臨時保安官補として活動する。
 第6作Night Preyから、ミネアポリス市警察に戻る。すなわち、「政治的配慮によって任命された副署長(politically appointed deputy chief)としていわば特捜部のようなかたちで犯罪捜査を指揮し、活躍する(「副署長」は「部長」とか「本部長」と考えてもよい。署に複数人がいる。パトロール担当副署長、殺人/麻薬担当副署長、内務監査担当副署長というように)。
 (上に掲げてあるPrey Series時系列表の右端欄を参照されたい)

 バージルはセントポール市警察で刑事として働いていたが、在籍8年、仕事にやや飽きはじめていたときに、 BCA(Bureau of Criminal Apprehensionミネソタ州特別犯罪捜査局)に出向してルーカス・ダベンポートの下で犯罪捜査に従事した。それから、連鎖的に関係が深まり、いわば、ルーカスに取り込まれるようなかたちで、セントポール市警察を辞して BCAに移った。
 バージルは、セントポール市警でもBCAでも、驚異的な犯罪解決率(犯人検挙率)を上げている。 

[BCAについて]
 BCA(Bureau of Criminal Apprehension)ミネソタ州特別犯罪捜査局は、Department of Public Safety(DPS)、「ミネソタ州公安局」傘下の部局である。その責任者は、ローズ・マリ(Rose Marie)。マリは、第6作Night Preyにおいて、ルーカスを政治的配慮任命による副署長としてミネアポリス市警(MPD)に呼び戻した新任署長であり、それ以来第13作Mortal Preyまで8作品にわたってルーカスが仕えてきた人物である。現州知事(民主党)の信任が厚く、その縁で第14作Naked Preyからミネソタ州公安局長(公安委員会委員長)(Minnesota Public Safety Commission)に就任している(市長が交代したので署長を辞めなければならない運命にあった)

  ルーカスは、マリの引きでBCAに移ったのだが(マリの署長失職により、共に地位を失う立場にあった)、公式な肩書きとして、Director, Office of Regional Studies(ORS)、地域問題研究所所長という職に就いている。なにやら訳の分からない名称だが、その部署はルーカスが州知事の内命を受けて、ローズ・マリ局長を通じて、場合によっては直接内命を受けて、特別に特定の犯罪捜査に従事するために設置されているものであり、いわば傀儡的な部署名の下にBCAからの独立予算で機密に活動する機動的な独立特捜部隊である(形式組織上は、マリとルーカスの間に「本部長」クラスの人物がいるが、名目的なものであり、j実質的な口出しはしない)。

◆◆◆◆◆◆◆◆
                                          Prey Series (第1-20)
20_2                       第21作(2011)
Photo_6

                                            Virgil Flowers Series (第1-5)
5

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年2月12日 (火)

バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その4 ― ジョン・サンドフォードのシリーズ小説主人公(John Sandford's Virgil Flowers series) 。

                                                          <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2013.2.12
 バージル・フラワーズ言行録、引き続き、第一作"Dark Of The Moon"を題材にする。

      "Fuck your mama."
      "Not my mama," she said. "Not my mama."

               「
フxxク・ユア・ママ」 ( あんたのママのことなんか、もうどうでもいい)  
        「 ママじゃない、ママじゃない、 ireruのはわたし、わたしにireて!」


◆◆◆◆◆◆◆◆
   ――話の腰を折るわけじゃないが、ジミー、あの女のケツ見てみろよ――
 
バージルは殺人事件捜査の手助けにやってきた町で、保安官に、こんなセリフを吐いた。保安官事務所の表で立ち話しをしているときに、通りかかった女が、まさに、ミロのビーナス、芸術品のケツだったのだ。 
 ところが、保安官は、知らない仲でもないのに、どうも話に乗ってこず、煮え切らず、なんかおかしい。
  ? ? ? - - - - ウン?
  ホワイト・ブロンドの髪、翡翠グリーンの目・・・・・・保安官の髪も、目も・・・・・・。

 なんてこった、 女は保安官の妹だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆
 この場面の後、バージルは捜査目的事件の被害者、殺害された老医師夫妻の住居、殺害現場を検分しに行った。「事件現場で不審者がうろついている」という隣人からの911通報で、警官が急行してくるなどのことがあった。検分を終えて町に戻った。
 宿泊モーテルの事務員から教わっていた軽食カフェに入る。ドイツ料理の店だった。ローストビーフ、ライ麦パン、ピクルス、ポテトサラダを注文して、注文カウンターと向き合った側にあるブースに座る。

 座ってから一、二分後に、保安官のあの妹が入ってきて、サラダとコーヒーを注文し、バージルの姿を認め、頷いてみせた。バージルも頷き返した。女はすぐに料理のトレイを手にブースにやってきて、向き合って座った。
 「ジミーが職を失わないように、手助けしてくれてるの」。いきなりいう。
 女は、完璧な美人ではない。眉がやや下がりすぎだし、唇は四分の一インチほど広すぎる。しかし、非常に美しい。そして自分でそれを承知している。

"My name's Joan Carson. Jimmy said you had some nice things to say about my ass."
 「わたし、Joan Carson(ジョアン・カーソン)。ジミーがいってたけど、なんか私のお尻について、褒めてくれることがあるそうね」。

 そんな会話から始まって、ジョアンは、兄が現在二期目であり、三選を狙うには(保安官は選挙で選ばれる)、それでなくても大変なのに、医師夫妻殺人事件の解決が遅れていることに住民の不満が強く、加えてBill Buddという富豪宅で放火殺人が疑われる火事が発生したりしたので、クビになる虞が大きいことなどを語った。

 この出会いの後、Budd宅火災はやはり放火殺人であったことが判明するなどの展開をみながら、二人の仲は事件解決の話題を中心に接近する。
 そして、下の場面に至る。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 放火殺人の被害者Bill Juddの妻に妹がいたこと、この妹も、姉の結婚前と結婚中を通じてJuddと性関係をもっていたことが判明した。
 当人は州境を越えたSioux Falls(スー・フォールズ)にある老人施設に入っている。
 この義妹から話を聞けばBudd放火殺人事件解決の糸口がつかめるかもしれない。
  ジョアンの母親、Lauraは、以前この女と交流があった。そこで、女から話を聞きだすために、その施設に母親を連れていこうとしているのである。
  ジョアンが母親に電話し、母親は行ってもいいと返事した。

 バージルがジョアンの家にやってきた。女はかなりの規模の農場を経営している。農場から戻ってきたばかりで、土の匂いを消すために急いでシャワーを浴びるという。母親の家に20分以内にいく約束をしたという。

"Happy to wash your back."
"I need that," she said. "There's always that one spot right in the middle, it's been dirty for eight years now,"
"What happened eight years ago?"
"That was the year before I got married, " she said.

 「背中を流してあげようか」。
「流して欲しいのよ、真ん中あたりにあるのよね、どうしても手が届かないところが。もう8年も汚れたままだわ」。
 「8年前に何があったの」。
「結婚する前の年が8年前なのよ」。


 女が浴室に行き、バージルはあちこち動いて、飾ってある写真を眺めたり、引き出しを開けたりする。後ろめたくなって居間に戻る。

◆◆◆◆◆◆◆◆
     
"  Fuck your mama."
      "Not my mama," she said. "Not my mama."

               
フxxク・ユア・ママ」 (あんたのママのことなんか、もうどうでもいい)  
             「ママじゃない、ママじゃない、ireruのはわたし、わたしにireて!


----------------------------
He eased back into the living room, heard a door open: "Hey. Are you going to wash my back, or what?"
ALMOST STOPPED HIS HEART.

  He put the Coke down and headed back down the hall; saw her damp face and hair at the end of it, and then she pulled back inside the bathroom. And by the time he'd gotten to the bathroom, she was back inside the shower.
He opened the shower door, and there she was, her back to him, as well as the third-greatest --- he gave her an instant promotion -- ass in Minnesota, and maybe on the entire Great Plains(*1
).

"Oh, my God," he said.
"Just the back,"
"Just the back, my sweet ...."
"Just the back," she said. "You offered, I'm accepting."}"If you ..."
"Don't you in this shower, Virgil Flowers," she said. "You'll get all wet and we have to be at my mom's in fifteen minutes, and she'll know that we've been up here fooling around."
"Give me the soap and back up," he said.

  He washed her water-slick back, and the third-greatest ass, and then, squatting, her legs, one at a time, working upward, and by the time he was getting done, she was hanging on to the faucet handles, and when he was done, he snatched her out of the shower and turned her around and kissed her and said, "Fuck your mama."
"Not my mama," she said. "Not my mama."

---------------------
  バージルは居間に戻ってきた。ドアの開く音がして、女の声が響く。
「ねえ、背中流してくれんの、どうすんの」。
   心臓が止まるかと思ったぜ。

  コーラを下において廊下を浴室に向かう。突き当たりに、髪の毛の濡れた顔をドアから突き出しているのが見え、すぐに引っ込んだ。たどり着いたときには、ジョアンは奥の仕切りの中に戻り、シャワーを浴びていた。
 バージルはシャワー室のドアを開ける。
 ジョアンがそこにいた。背中を向けて。そして、第3位の――バージルは瞬時に順位を上げたのだが――第3位、ミネソタ州第3位のケツ、おそらく、グレート・プレインズ(大平原)
(*1).地域全体でも第3位のケツ、尻を見せて、ジョアンが立っている。

 「オーマイゴッド」、バージルの呻きだ。
「背中だけよ」。
 「背中だけ、いいよ、だけど・・・・・・」。
「背中だけ」、ジョアンがいう、「そっちがそう提案したのよ、私は受け容れただけ」。
 「もし君が・・・・・・」
「シャワーに入らないでよ、バージル・フラワーズ」、女はいう、
 「びしょぬれになるから。15分以内にママのところに行かなきゃいけないのよ、遅れたら、二人がいちゃついてたことがばれちゃうわ」。
 「石鹸をよこせ、背中を出して」、バージルが命じる。

  バージルは、女の背中を洗い、第3位の尻を洗う。そして、しゃがみこんで、脚を片方ずつ洗う。下から上に。洗い終わったときには、ジョアンは蛇口のハンドルにつかまっていた。 
 バージルは女をシャワーの外に引っ張り出して、ぐるっと身体を回してこっちを向かせ、キスをし、いう。

 
    「フxxク・ユア・ママ」
(あんたのママなんか、もうどうでもいい)
        ママじゃない、ママじゃない、ireruのはわたし、わたしにireて!」         

 おもしろいね、サンドフォードは。だから、大ファンなのだ。

  *おもしろさのオチはおわかりだろうが、老婆心としていっておくと、 "Fuck your mama"(あんたのママなんか、どうでもいい)を、「アンタのおふくろをやっちまうぞ」と「かけ」て、「ママじゃない、ママじゃない・・・・・・」と女にいわせているのである。

Photo_2                ("greatest ass in Minnesota"でgoogleしたら、こんな画像が載っていた。ココから。)

*1.Great Plains(大平原)
 ミシシッピ川の西側、ロッキー山脈の東側に連なって広がる巨大な平原地帯。アメリカ合衆国とカナダにかけて、幅800キロ、長さ3,200キロにわたって横たわっている(Wikipedia)。
アメリカ合衆国では、ノースダコタ、サウスダコタ、ネブラスカ、カンサス、オクラホマの全域と、テキサス、モンタナ、ワイオミング、コロラド、ニューメキシコの部分域にまたがっている。



       Great Plain(Wikipediaから)

Photo                                        (ココから)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年2月 9日 (土)

バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その3 ― ジョン・サンドフォードのシリーズ小説主人公(John Sandford's Virgil Flowers series)。

                                                          <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2013.2.9 
 バージル・フラワーズ言行録、その3。その2に続き、第一作"Dark of the Moon"から材料を取る。

 ――<<<話の腰を折るわけじゃないが、うん、ジミー、ちょっと、あの女のケツを見てみろよ>>>――
 
 はは、バージルはケツが、上品にいえば尻だが、お尻だが、とにかく、女のケツが、女性の尻が好きなんだよな。
 大いに共感できるね。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 バージルは、ミネソタ州西南端部にあるスターク郡(Stark county)の、Bluestemという町にやってきた。殺人事件捜査について郡保安官を支援するためである。時期は7月。途中、V字型高気圧雷雨圏に見舞われ、嵐をついての夜間走行となったが、到着したとき、地元の富豪の屋敷に、放火殺人が疑われる火事が起きていた。その火事現場に立ち寄り、現場にいた保安官と話をし、宿泊モーテルに戻り、いつものように神について考え、考え終えて、午前一時に寝た。

 翌朝、火曜日、裁判所庁舎(郡庁舎、courthouse)(1)にやってきた。
 ストライカー(Striker)保安官の秘書が、でっぷり肥えて、髪をパールブロンドにセットした50歳ぐらいの女が、横目でバージルをちらっと見て、バージルの服装を、サングラスにTシャツ姿、真ん中に鯉の模様をあしらったSheryl CrowのTシャツ姿を見咎める。


2_2       
  Sheryl Crow(シェリル・クロウ)。この歌手(カントリーウェスタンのシンガーソングライタ)の写真あるいはイラストをあしらったTシャツであろう。
    ----------------------
"Who are you?"
"Virgil Flowers, BCA."
She looked him over again: Really?"
"Yup."

「どなたですか」。
 「BCA(
ミネソタ州犯罪捜査局)のバージル・フラワーズ」です。
 女はもう一度バージルの服装を舐めまわしていう、
「ほんとに?」。
 「そうだ」。
 
  ----------------------
 保安官から、「来たら通せ」といわれているという女の声を受けて奥の保安官室に通ろうとするバージルに、女がいう。
「Fairmontであの男に何発撃ったんですか」。
 「14発だ」。
 女はうれしそうだ、
「やっぱり、聞いたとおりだわ、それで、一発も当たらなかったの」。
 「狙って当てようとしたわけじゃないんだ」。
「だって、相手は撃ってきたんでしょう」。
 「いや、奴は、おれを傷つける気はなかった」、「捕まったことに腹が立って、当たり散らしただけなんだ。実際には、奴はそんなに悪い男じゃない。ガススタンドに押し入ったことはまちがいないけどね。8人の子どもと奥さんを抱えているんだ」。
「強盗が仕事だというんですか」。
 「まあ、そんなもんだ、だけど、6年ぶち込まれたからな」。
「ハ」、「ここら辺の男なら、撃ち殺していたわ」。
 「冷酷な連中じゃなきゃ、やらないがな、そんなこた」。
バージルは女に不愉快を感じながら奥の部屋に進んだ。


*1.Courthouse (court house)
  コートハウス。北米特有のことばで、地域の第一審裁判所を収めている建物のことである。「地域の」とは、連邦裁判所との対比でいっていることである。つまり、「アメリカ合衆国連邦裁判所」の第一審裁判所としての「連邦地方裁判所」のことではなく、「州裁判所」の第一審裁判所が入っている建物である。
 ここでは、この物語の舞台となっている上記の"Stark"郡」を管轄する一審裁判所のことであり、それが

"Bluestem"という町に存在するということである。

 少し敷衍しておこう。
 アメリカ合衆国の各州には、連邦の機関としての「連邦裁判所」と、州独自の司法機関としての「裁判所」というものが存在する。連邦裁判所は、連邦地方裁判所 (国内各地に散在する。ミネソタ州には4つ存在するようだ。)、②連邦控訴裁判所 (各地に散在する。ミネソタ州は第8巡回控訴裁判所の管轄。)、③連邦最高裁判所(ワシントンDCにある)という階層構造になっている。
 裁判所も一般的にいえば、①第一審裁判所、②控訴裁判所、③最高裁判所という階層構造になっている。ミネソタ州の第一審裁判所は10ヶ所あるようだ() 

 さて「コートハウス」のことだが、多くの場合、郡庁舎(つまり郡の役所)も入っている。他の英語圏諸国家では、裁判所の建物は、単に"court"、あるいは"court building"という。
 コートハウスは、通常、郡庁舎所在都市(郡都、county seat)に置かれている。ただし、大都市圏にある郡ではその支所が他の町に存在することがある

 つまり、コートハウスとは、いわゆる「市」の市庁舎の中に裁判所が並置されているような
 存在である
 言い忘れたが保安官事務所も、それは行政組織の一環だから当然だが、ここに入っている。

 バージルがやってきた目的は、老医師夫妻殺害事件の捜査のためである。地元で50年医者をやってきて、引退して10年になる医師とその妻だ。共に80歳代、子どもが三人いるがみんな町を出ている。三週間前に殺された。妻は居間のカウチに座った状態で、心臓に一発撃ち込まれて、夫は背中下部を一発、両眼に一発ずつ撃ちこまれて。どうやら、妻が撃たれたのを見て居間から逃げようとしたところを後ろから撃たれ、倒れたところを至近距離から両目に撃ちこまれたようだ。夫は、裏庭のライトに照らされて、眼窩(がんか)がぽっかり空いた状態で、案山子(かかし)のようにそこに座っていた。犯人は死体を裏庭まで引きずってきて、意図的にそういう状態で置いたようだ。

 シェリフはいう。保安官事務所(
ある保安官を長とする警察組織)なんて、部下の半数はボスを蹴落として自分が取って替わろうと狙っているようなところだ。弱みを嗅ぎつけると、襲いかかってくる。事件を解決しないと、無能呼ばわりされ、地位が危うい。
 持てる情報、資源はすべて提供するから、よろしく頼むと。

 二人は表に出た。

  ---------------------------
They stepped outside, into the sunshine. A woman was going by on the sidewalk, fifty feet away, slender, pretty, small features, white-blond hair on her shoulders. Maybe early thirties? He was too far away to be sure, but Virgil thought her eyes might be green.She lifted a hand to Stryker and he lifted one back, and her eyes caught Virgil's for a beat - an extra beat -- and then she went along toward the corner.
 
二人は表に出て、陽を浴びながら立った。50フィートほど離れたところの歩道を一人の女性が通り過ぎようとしていた。細身で、美しく、小柄だ。白色ブロンドの髪の毛を肩まで伸ばしている。三十歳ちょっというところか、遠すぎて、しかとはわからない。しかし、目はグリーンのように思える。
 女はストライカーに手を上げて合図した。保安官も合図を返した。女の目が一瞬バージルの目を捉え、もう一度ちらっと見てから、曲がり角の方に歩き去った。

   "Another thing," Stryker said. "We've got this newspaper here and the editor thinks he's the New York Times. His name is Wiliamson. He's investigating my investigation, and he says I'm screwing it up. Just a heads-up in case he calls you-- and he will."
 
「もう一つ頭の痛いことがあるんだ」、ストライカーがいう。「町に新聞があるんだが、その編集長は、まるで、ニューヨーク・タイムズ気取りなんだ。ウイリアムソンっていうんだが、奴はオレの捜査を捜査しており、オレが捜査を暗礁に乗り上げさせようとしているといっている。念のために知らせておく、やつがあんたに電話してくるかもしれないから、おそらくしてくる」。

    Virgil nodded, then said, quietly, "Not to step on your train of thought, there, Jimmy, but look at the ass on that woman, My God, where do the genes come from? I mean, that an artwork. That's the Venus de Milo, and you're a bunch of goddamned Germans."
 バージルはうなずき、静かにいう。
 「話の腰を折るわけじゃないが、ジミー、あの女のケツ見てみろよなんてこった、すげーな。どこから来るんだ、あんな遺伝子。ほら、芸術品だぜ。「ミロのビーナス」だよ
(↓画像はココから)、あんたらはドイツ人の群れだというのに。   

Photo_2 "Yeah," Stryker said, a noncommittal note in his voice. Virgil looked at him: "What? She's married to the mayor? You don't even look at her ass?"
"No, I don't, really," Stryker said. "And she's not married. She's been divorced since February. Folks figure she's about ripe for the pluckin'."
"Have you asked her out?"
"Nope, Stryker said.

 「そうだな」、ストライカーはいう。気のない返事だ。
 バージルは相手の顔を見返していう。
「なに、どうしたんだ、彼女、市長と結婚してるとでもいうのか、あんた、ケツを見ようともしないな」。
 「ああ、見ない、それに、彼女は結婚していない。二月に離婚してからずっと独りでいる。熟れて、そろそろもぎ取る時期がきているなんて、人々はいっている」。
 「デートに誘ったのか」。
 「いいや」、
 ストライカーがいう。
  ------------------------

 二人は、女が道路を渡って歩道をメインストリートの方に歩いて行くのを見遣った。
バージルがいう、
「あんた離婚して独りもんだろ、ジミー、かあちゃんに未練を残しているわけでもない。相手はシカゴにいるんだし、女を嫌ってんだから」。「ああ、おれがあの女を嫌いだということだけど」、
 「だから、ミネソタ州で4番目にいいケツをしている女がいるのに、あんたの町にいて、そして、オレの見るところおっぱいも結構いけるのに・・・・・・なんていうか、まあ、こんなこと訊いちゃ悪いが、まあ、どうでもいいことだが、だけど、あんた、オカマかなんかじゃないんだろ」。
 保安官は苦笑いしていう、
「違う」。

 女は白色ブロンドの髪に一振りくれて、遠くの角を曲がっていった。おそらく、こっちを振り返ったんじゃないか。女はみんなそうする。二人が自分の噂をしていることを知っているのだ。
 バージルは、女の長所の分析をもうひとくさり語ろうとして保安官を見遣ったが、その時、相手が女と同じ白色ブロンドであることに気付いた。翡翠グリーンの目も同じだ。

        A thought crossed Virgil's mind.
       He said, "That's your sister, isn't it?"
       "Yup."

        考えが心をよぎった。
       「あれ、あんたの妹だ、そうかい」。
        「そうだ」。

 二人は通りを見渡したが女の姿は消えていた。
バージルはいう、
 「なあ、ジミー、ケツについていったこと、アレは・・・・・・」。
 ストライカーがいう。
「気にすんな、ジョアニーは、自分のことは自分で始末できる。あんたはただ、住民を殺し続けているクソッタレ犯人のことだけ考えてりゃいい」。


       以上、"Dark Of The Moon" by John Sandford, 2007; Berkley International Edition, ISBN: 978-0-425-22479-3の、18-24ページから。

◆◆◆◆◆◆◆◆
英語表現

[Not to step on your train of thought]
   話の腰を折るわけではないが、思考に水を注すわけではないが
-------------
1."step on"として、次のような説明がある
  step on a person's toes ― (話)(人の)気持などお構いなしにやる。
                         (小学館プログレッシブ英和中辞典)
2.train of thought
 思考の流れ(ある一定の脈絡における連続的な関連思考)。
-------------

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年2月 6日 (水)

バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その2(後編) ― ジョン・サンドフォードのシリーズ小説主人公(John Sandford's Virgil Flowers series) 。

                                                          <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2013.2.6
 前回記事、「バージル・フラワーズ言行録、その2」(2013.2.4)の続きである。
 バージルは郡保安官を支援するために、ミネソタ州西南端部にあるスターク郡(Stark county)のBluestemという郡庁舎所在地町(州都)に赴く。時期は7月。途中、V字型高気圧雷雨圏に見舞われ、嵐をついての夜間走行となった。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 インターステイト90(I-90)を走りきたって、目的の町の手前までやってきたとき、そこから北方6マイルほどの場所で、そこら一帯はBuffalo Ridge(バッファロ・リッジ)という珪岩台地(quartzite plateau)なのだが、その東側斜面に建っている大邸宅が燃えているのを発見する。150マイル四方で最も高価な邸宅だ。
 東側斜面はそのほとんどが州立公園になっている。

Photo_5  画像左、色の薄い部分がBuffalo Ridge、右上画像の丘になっている地帯である。この一帯には、現在、風力発電風車が何本も立っているようだ(画像はココから)。珪岩とはWikipedia)

 それは、Bill Juddという男の住まいである。
 すなわち、大手穀物取引商が抱える地元訴訟の代理人民事弁護士から出発して、商品取引、不動産開発、銀行業務に進出して財をなした男、引退して一人住まいをしている82歳の男の住まいである。妻は先に逝き、息子は家を出ている。

 男は、1980年代初旬、もうすでに財をなし普通なら引退を考えるところ、バイオ燃料エタノール抽出原材料となる朝鮮アザミを、実際には各種のひまわりなのだが、それを主力農産物としていくという大々的な栽培促進計画を推進した。州政府、連邦政府をも巻き込んだ計画である。栽培すれば儲かると農夫らに勧めて、苗を売りまくり、特に、それがどんな場所でも育つ植物であることから、物の育ちにくい岩だらけの珪岩台地で四苦八苦している農夫たちに受けたのだが、売りまくって大損をさせた。
 ある農夫が種を茎塊に育てて他の農夫に売る、買った農夫が、その金儲けの旨みを知り、同じようなことをして大勢の農夫に売る。この連鎖で、栽培が大々的に広まったのだが、最終的な蒸留精製業者も含めた関係者らに大損をさせ、大勢から恨みを買っている。
 
 原料コストがかかりすぎ、精製業者は1バレル50ドル以上で売らないと元がとれない状態になった。他方で原油価格は、80年代、その半額で流通した。原油代替品としてバイオ・エタノールが大いに売れるという思惑は外れた。というよりも、最初から似非計画、男と商品取引業者が結託した似非計画だったと人々は非難している。男は大儲けしたが、追及に対して、その金は法律制定のための州/連邦政府ロビー活動、計画予備調査、精製プラント建設、ローン(資金貸付)費用に消えたと弁明している。
 いや、その金で投機株を操り、さらに膨らませて海外の銀行に流れた。名前でなく、番号による匿名預金で眠っている。人々はこういう。
 大勢からの怨恨の声は消えない。

 セックス面でも芳しくない噂が立っている。
 地元の女たちの小遣い稼ぎ売春、ツインシティ(ミネアポリス/セントポール)からの怪しげな女たち、田舎ではめったに見ない人種の女たち、乱交、深夜の悲鳴、密集するブルーステム(カラス麦のような穂の出る草画像)に囲まれて建つドラキュラ屋敷などなど。
 一人住まいの富豪男につきものの噂、同時に、徹底的に嫌われている男につきものの噂かもしれない。
 
 バージルはハイウェイ75との交差地点でI-90を下りて右折し、目的の町に着いたが、そのまま通り過ぎて北方の火災現場に行った。その屋敷は男が1960年初旬に建てたもので、その後、周囲一帯は男が寄付した土地やなんかで州立公園になっている。

◆◆◆◆◆◆◆◆
 丘に通じる公園道路をパトカーがブロックしている。野次馬の脇を抜けて、そのパトカーの後ろに車を停めた。
  レインコートを着た警官がやってきた。
  バージルは窓ガラスを下げていう。
-------------------------------
"Viegil Flowes, BCA. Is Strycer up their?"
"Hey, heard you were coming," the cop said. "I'm Little Curly. Yeah, he's up there. Let me get my car out of the way."

「BCAのバージル・フラワーズです。ストライカーはいるかい」。
「ああ、あんたが来ることを聞いている」、警官はいう、「オレはリトル・カーリーだ、うん、シェリフはあっちにいる。おれの自動車をどかせるから」。

                   *BCA=Bureau of Criminal Apprehension(ミネソタ州犯罪捜査局)
-------------------------------
 ビールを片手に持った女がレインコートのフードを跳ねあげて運転席の窓からバージルを覗きこんだ。黒髪黒目のいい女だ。女はニヤッと笑って空いた方の手の指をゴニョゴニョと動かして合図をしてきた。バージルは笑い返して、女に向けて親指を立てて合図し、パトカーの脇を抜け、丘を登っていった。


 保安官の名前はJimmy Strykerという。この男は高校時代にBluestem Whippersでピッチャーをやっていたから、バージルは大なり小なり、男のことを見知っていた。しかし、丘の上にいる者は全員が防水ナイロン雨具の塊と化しているから、保安官を見つけるまで、三回も訊かなければならなかった。
--------------------------------
"THAT'S YOU JIMMY?"
Stryker turned. He was a tall man, square-chinned, with pale hair and hard jade-green eyes. Like most prairie males, he was weather-burnt and wore cowboy boots.
"That's you, Virgil?"
"Yeah. What happened?"

「ジミー、ジミーかい?」。
 ストライカーが振り返る。背が高く、角ばった顎、色の薄い髪の毛に、翡翠色の目をしている。高原地帯の男がみなそうであるように、日焼けした肌に、カウボーイ・ブーツを履いている。
「え、だれ、あ、バージル、あんたかい?」。
「そうだ、何があったんだ」。
-------------------------------

 バージルは保安官と別れてBluestemの街に戻り、予定宿泊先のホリデイ・イン(Holiday Inn)に入った。
 Holiday Innの部屋は禁煙(smoke free)で、ペットの持ち込みは「絶対禁止」(Strictly No Pets)である。しかし、煙草と、ペット動物と、猫の小便と、消臭剤の匂いがする。望むか否かにかかわらず、ベッドが2台だ。バッグを片方のベッドに放り投げ、レインコートを脱いで、滴る水を切るためにシャワーの蛇口に引っかけて吊るした。


Photo_3                                                             (ココから)Photo_4                                                          (ココから)

◆◆◆◆◆◆◆◆
[容貌、体格、スポーツ]

 バージルは、「中ぐらいの長身」(medium-tall)の男だ。ブロンド目はグレイ、身長6フィート0.5インチ(184.15cm)。細身で肩幅が広い腕が長く手が大きい。警官にしては髪の毛が長すぎる。しかし、肩までは届いていない。
  * "medium tall"は「中背」だが、ここでは意識的に"medium-tall"として、「中程度の長身」を表わしているものと思う。すなわち、、「バカでかい、超長身」、「中程度の長身」、「まあまあ長身」と3つに区分しているのであろう。
 184.15cmを「中背」とはいわない。

---------------------------
  He had played the big-three sports in high school, had lettered in all of them, a wide receiver in football, a guard in basketball, a third baseman in baseball.
 高校では御三家スポーツをやり、そのどれにおいても優秀選手として学校表彰を受けた。フットボールでは広範囲で動くレシーバー、バスケットボールでは守備役、野球では三塁手だ。(
"lettered"につき、末尾の「英語表現」欄参照)
---------------------------
  しかし、大学レベルのフットボール選手として活躍するには、体の大きさも足の速さも足りない。バスケットボールでは背が低すぎる。野球については、大学レベルの肩(
投球能力)を持っていたが、打撃がイマイチだった(→追記) 

[追記 - 2013.2.9] 
  大学で 2年間三塁手をやった。強肩三塁手として守備面では優秀だったが、打てず学年シーズンの通算打率は1.90だった。そこで、自然退部のようなかたちで辞めた(第2作"Heat Lightning"、15ページ)。

[学歴、職歴]
 ミネソタ大学(University of Minnesota)卒業。
 専攻についてあれこれふらついたが、最終的にエコロジカル・サイエンス(ecological science、生態学、生態科学)分野で学士資格を修めた。併せて、副業的に創作的作文(creative writing)を履修した。生態学は取り組みやすく、興味深いものであるうえに、野外活動や、植物が好きだったからである。さらには、創作的作文の授業には女学生がいっぱい集まったから。
 卒業後陸軍に志願し、半ば強制的に軍警察官(military police)に配属された
(→追記)。扱った事件にはやっかいなものもあったが、怒りに駆られて銃を撃ったことは一度もない。
 除隊後家に戻ったが、学士程度の生態学者には大して需要はないので、警察学校を志願した。結婚して離婚し、結婚して離婚し、結婚して離婚した。この繰り返しの5年間が終わる時点で、もう4度目の離婚はしないと決心した。そこで、結婚することを中止した。

 セントポール市警察で刑事として働いていたが、在籍8年時のことだったが、仕事に飽きはじめていたときに、ミネソタ州犯罪捜査局(BCA)に出向して、組織的な家宅侵入連続事件の捜査に従事した。それから、連鎖的に関係が深まり、セントポール市警察を辞してBCAに移った。
 それは、
ルーカス・ダベンポート(Lucas Davenport)という男の軌道にはまり込んだからである。政治的配慮に基づいて任命されている上級職員、刑事だ。
 男は、バージルにとって、絶対に断れない申し出をしてきた。
-----------------------
We'll only give you the hard stuff."
 「やっかいで難しい事件しか与えないから」。
----------------------
 こういうものであった。

 バージルがこの「やっかいで難しい事件」を処理するようになってから、3年が経過した。そういう生活を送る一方で、私生活での取り組みとして、アウトドア・ライターとして活躍している。フリーランス・ライターの原稿を採用する雑誌は減ったが、
バージルの記事掲載実績は、フリ―ランスを変わらず採用し続けている雑誌のほとんどに及んでいる。
 しかし、アウトドア・ライターとして身を立てる気はない。社内記者として採用されるのでないかぎり、その気はない。雑誌の未来は明るくないように思える。まあ、いずれにせよ、
書きで身を立てることに、あまり興味を感じなくなっている。
 ずる賢い悪漢どもを捕まえることほど、おもしろいゲームはない、ダベンポートは以前こういったが、バージルもそう感じることが時々ある。



[追記 - 2013.2.9] 
 陸軍のArmy Officer Candidate School(陸軍将校候補生学校)を志願した。自分では歩兵隊(infantry)を考えていたが、軍警察に配属された。何度か乱闘を経験したが、人に銃を撃ったことはない(第2作"Heat Lightning"、15ページ)。

[年齢]
 さて、年齢、肝心の年齢。いくつになる男なのか。人物像として一番重要なことだが、「何歳」とはっきり書いていないので、計算して割りだしてみよう(→追記)。

(イ)大学卒業後陸軍に入る。
 [22歳xxx月]で卒業し、すぐに志願入隊(active duty、現役兵)したとしよう。問題は、何年勤務したかということである。勤務の長さは2年から6年のあいだで選択できるようになっているみたいだから、まあ、中を取って期間3年で志願したとしよう。すると除隊時の年齢は[25歳xxx月]ということになる。
(志願時に、何年勤務することができるのか質問され、その期間に応じて、適当な特定の軍事行動/作戦に配属する兵隊として採用される。採用の仕組みは、そのようになっているようだ)。

(ロ)除隊後警察学校を志願して警官になる。
 警察学校の教育/訓練期間は、通常6ヶ月である(ニューヨーク市警、ロスアンゼルス市警など、ここではセントポール市警だが、学校の運営母体が定めていること。相互に多少のばらつきはあろう)。故に、卒業時で[25歳xxx月+6ヶ月]。

(ハ)セントポール市警に8年在籍後BCAに移る。
 セントポール市警察に志願して「見習い巡査」身分で警察学校に入るわけだから、「市警に8年在籍」ということは、警察学校入学時を出発点としてのことと考えるべきである。つまり、退職したときの年齢は、[25歳xxx月+8年]、すなわち、[33歳xxx月]である。

(ニ)現在は、BCA勤務3年経過時点。
 故に、間髪をいれずBCAに移ったと仮定すると、現時点は、[33歳xxx月+3年]=[36歳xxx月]。
 こういうことになる。まあ、大学卒業後すぐに陸軍入隊、除隊後すぐに警察学校入学セントポール市警察を辞めてすぐにBCAに就職と、「すぐに」を三回仮定しているから、そこに余裕をもたせて3、4ヶ月程度を加えるとすると、
        [36-37歳]
 この作品でのバージルの年齢は、こういうことになる(あくまでも、軍隊勤務を3年と仮定してのこと)

[追記 - 2013.2.9] 
 年齢について、「三十代半ば(mid-thirties)」と明記された(第2作"Heat Lightning"、15ページ)。
Virgil was medium-tall and lanky, mid-thirties, weathered, with blond hair worn on his shoulders, too long for a cop.

(第2作"Heat Lightning"、15ページ)。

[服装]
 バージルはプレイリー(
平原、高原)土着の服装をしている。色褪せたジーンズ、すり減ったカウボーイブーツに、ロックバンドなど音楽グループのTシャツだ。そして、警官だから、その上にスポーツコートを羽織っている。夏場、太陽が出ている日は、麦わら帽にサングラスだ。

[拳銃]
 通常は拳銃を身に帯びない。ただし、セントポールにいるときは別だ。ダベンポートにみつかるとまずい(
BCAはセントポールを本拠にしている)。法律では、勤務中は武器を携行しなければいけないことになっている。しかしバージルの見解では、拳銃はとにかく重すぎるし、ゴワゴワして落ち着かない。だから、運転席の座席の下に置くか、ブリーフケースに入れて持ち運ぶ。
 かつて、犯人と対峙した際に、ピストルを撃ってくる相手に対して、逮捕時まで14発を撃ち、一発も命中しなかった。そういう逸話の持ち主だ。しかし、射撃が下手なわけではない。


◆◆◆◆◆◆◆◆
 さて、元に戻って、場面はホリデイインの部屋。
 バージルは、ラップトップで、カナダの雑誌社からのメールを確認する。記事が載る予定になっているのだ。編集者が、スペースの都合で原稿の一部を削りたいといってきている。編集後の姿を確認する。問題なし。三回目の掲載だ。どうやらレギュラー投稿者として採用されたようだ。小切手が待ち遠しいと返事する。口笛を吹きながら天気予報を見る。明日は晴れて、三、四日続くという。Googleニュースにざっと目を通す。
 マンケートーを発ってから、まだロンドンに水爆は落ちていないようだ。

 コンピュータを閉じ、服を脱ぎ、シャワーヘッドから雨具を外し、我慢できないぐらいの暑い湯を浴び、最後にやけどしそうなほど暑いのをざーっとかけて、死ぬ思いでベッドに飛び込んだ。
 自分の家で丸焼きにされた男と、慌てて去ったことが目撃されているトラックのことが頭をよぎる。
 興味深い殺人事件だ・・・・・・。

[神]
 そして、神について考えた。しばらく考えた、ほとんど毎晩そうするように。
 バージルの父は、長老派教会の牧師だ。母は土木工学の教授で、神に偉大な土木家を見るとともに、夫と同じように献身的に神を信じている。
 バージルは、子どものころからずっと、寝る前に毎晩ひざまずいて神に祈った。それは、ミネソタ大学(University of Minnesota)寄宿舎での初めての夜まで続いた。
 その夜、みんなに見られると恥ずかしいので、ひざまずかなかったのだが、自分が祈りをささげなかったために世の終末が到来してしまうのではないかと、恐れおののいた。

 しかし、クリスマスまでに、ほとんどの生徒がそうなるのだが、宗教から卒業した。
 「異邦人」(The Stranger)を小脇に抱えてキャンパスをうろつきまわり、黒髪の神秘的な女学生たちの関心を惹こうとするようになった。見極めるべき神秘を持つムスメたちに近寄ろうと。

 宗教には戻らなかった。しかし、ある種の確信を抱くようになった。
 それは突然やってきた。陸軍の独身将校居住区で起きた自由討論(bull session)で。
 一人の男が無神論者だと公言した。別の男が、バージルの評価では大して利口ではない男なのだが、その男が、堰を切ったようにいったのだ。
 「あ、そうかい、だけど間違ってると思うね。世の中に起きている驚嘆(
不思議、奇跡、wonders)を考えればいい。驚嘆がいっぱい起きている」。
 バージルは自然に囲まれた田舎で、驚嘆が存在する環境で育った。大学ではエコロジー(生態学)を学んだが、その世界にはもっと多くの驚嘆が存在することを知った。そういう身なので、その男の発言の正当さに衝撃を受けた。大して利口でない男の発言に。
 驚嘆はいたるところに存在する。
 無神論者たちは、一般的に、黒板とコンピュータとファーストフードしかない人工的な立方体の中で仕事をする。だから、驚嘆というものを信じないのである。見たことがないからである。

 そんなことで、確信が復活した。しかし、それは奇妙な確信だ。父親に話せばおそらく認めようとはしなかったであろうと思われる「神」の世界における確信だ。
 バージルは、ほとんど毎晩、その神に想いを致す。その神のユーモア感覚、神が、神自身さえ曲げることのできない諸規則を制定したという明白な事実、などなど・・・・・・。
 そして、午前1時、神に想いを致し終えて、バージルは眠りに落ちた。
 そして夢を見た。
 モーテルの部屋に座って、暗闇の中で、内緒でマールボロを吸い、違法に持ち込んだ猫が部屋の中をうろつき回るのを眺めている男たちの夢を見た。


 以上、"Dark Of The Moon" by John Sandford, 2007; Berkley International Edition, ISBN: 978-0-425-22479-3の、6-16ページから。

◆◆◆◆◆◆◆◆
■英語表現
  [He had played the big-three sports in high school, had lettered in all of them, ....]
letter ―  (vi) 2.(学校間の運動競技などで)優秀者が学校のイニシャルの紋章を受ける。
      (小学館「プログレッシブ英和中辞典(第2版)」



◆◆◆◆◆◆◆◆
 
言行録というよりも人物紹介のようなことになってしまったが、これで「その2」を終える。
 人物について言動を紹介してみても、当人の生い立ちその他の基本的情報が知れていなければ、あまり興味がわかない。
 まあ、そんなことで、こうなった。

  ――  完 ――

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年2月 4日 (月)

バージル・フラワーズ(Virgil Flowers)言行録、その2 ― ジョン・サンドフォードのシリーズ小説主人公(John Sandford's Virgil Flowers series) 。

                                                          <<<[関連記事一覧表](相互リンク機能を付しているので適宜参照されたい)>>>
2013.2.4
 前、前々回に続き(2013.1.312.2)、ジョン・サンドフォードのバージル・フラワーズ小説を題材にする(John Sandford's Virgil Flowers series)。
 バージル・フラワーズ言行録、その2。ここでは、初登場、第一作"Dark of the Moon"から材料を取る。
 
◆◆◆◆◆◆◆◆
 The rain was pounding down from  a wedge(1) of thunderstorms, and Virgil Flower's was running west on 1-90, trying to hold the truck against the angling wind. He'd been due in Bluestem(2) before the courthouse closed, but he'd had a deposition(3) with a defense attorney in Mankato.
      ("Dark Of The Moon" by John Sandford, 2007; Berkley International Edition, ISBN: 978-0-425-22479-3、5ページ )
 ウェッジ(1)がもたらす雷雨 から来る激しい雨が、浴びせかけるように落ちてくる。バージル・フラワーズは、ますます猛ってくる風に対抗して、車線をはみ出さないように緊張しながらI-90ハイウェイを西に走っていた。 
 
これより前、郡庁舎が閉まるまでにBluestem(2)の町に行かなきゃいけなかったのだが、マンケートー(Mankato)での刑事被告人弁護士事務所で行った証言録取書(供述録取書)(3)手続きが長引いたために、それがダメになってしまっていた。                                  
  
    バージル・フラワーズの初登場場面である!!
      次のように続いている(以下は抄訳)。

------------------------------
 その弁護士は一月前にロースクールを卒業したばかりの者で、初めて扱う刑事事件だった。あーでもないこーでもないと、杓子定規(しゃくしじょうぎ)で、融通の利かないこと、能率の上がらないこと甚だしい。三時間もかかってしまい、弁護士事務所を出たときは5時になっており、郡庁舎が空いている間に彼の地に着くことは不可能になっていた。
 その事件の担当検事と共に歩きながら、一番賢い行動はダウンタウンのバー、 Cat's Gradleでサンドイッチとビールをやることだと二人で決めた。

 そのように行動したら、途中で警官が何人か入ってきて、結局愉快な大騒ぎになった。酒、チーズバーガー、ビール・スナックの宴会だ。
 なかに、すごい美人がいて、何かのはずみに、手をバージルの股に置いてきた。
 完璧だ、が、が、あかん、よく見るとバーの明かりに結婚指輪がはっきりと浮いている。
 悲しいカントリー・ソングだ。 

  6時半にバーを出て家に帰り、洗濯物を洗濯機に放り込んだ。それがガタガタと揺れる音を後方に聞きながら、ベッドルームのロッキンチェアに座ってカメラマン用ベストの縫い目のほころびを繕った。ベッドサイドの読書ランプの光の中に座って、縫い、椅子を揺らし、先の既婚警官、バージルにちょっかいを出してきた警官のことを考えた。
 貞淑義務とは、その意味するところは、それが存在する故の問題点、などなど。
 すこし寂しくなった。
 女が好きだ。しかし、しばらく接していない。
              ----------------------
 その後、洗濯物を乾燥機に入れて乾くのを待つ間、居眠りをこき、目覚まし時計で起き、シャワーを浴び、歯を磨いて、着替えを詰め込んだダッフェルバッグをトラックの荷台に放り込み、ショットガンを工具箱に格納して施錠し、.40口径スミス&ウェッソン・セミオートマティック・ピストルを運転席の下に置いて、10時10分に家を出て、ハイウェイ60を南西に向かった。
 一時間後、西の方向に雲が盛り上がり、地平線に稲妻が光るのを見る。依然として新月がバックミラーに映っている。が、しかし、すぐに突風第一陣が紙くずや落ち葉をまき散らしながら吹き来たった。


Photo_5  (ココから)

 コンビニに寄ってコーヒーを飲む。
"Gonna rain like a cow pissin' on a flat rock,"and Virgil said, "you betcha."
He tool a leak himself.
 「平べったい岩の上で牛が小便を垂れ流すように雨が降りますよ」、
長髪の定員がいう。
 「そうだな」、バージルは答え、自らも用を済ませた。
 トラックに戻ったとき、太い最初の雨だれがフロントガラスを打った。

 そのまま南西に向かい、WorthingtonでI-90を右折し、もう一度店に立ち寄ってコーヒーを飲み、西に向かった。
 西部開拓時代の西部(Old West)、真の開拓時代西部に入っていく。バージルはそう思った。スー族(Sioux)のオールド・ウェスト、高地、乾いた平原、野生馬、野牛の国。それは、WorthingtonとBluestemの間のどこかの地点から始まる。


Photo_2                                               (Dakota Sioux、ココから)  

 四輪駆動トラックに雨が叩きつけている。辺地のような場所だから、走行自動車のライトは多くない。しかし、嵐のためにI-90はトンネルのようになっている。前には何もない。後ろにぼんやりとしたヘッドライトが見えるだけだ。ときおり東向き対向車線をトラックや自動車が走り去る。
 バージルは車線右端の白線を注視しながらヘッドライトで線に沿ってハンドルを操作し、路肩に落ちないように走る。
 衛星放送でアウトローカントリーを聴き、ジャズに切り替え、ハードロックに移り、カントリーに戻る。


Photo_3                                                            (Minnesota/South Dakota平原/prairie、ココから)
 
Photo_3                                            (Old West、ココから)

*1.Wedge ウェッジ、さび型高気圧圏
 
二つの高気圧に低気圧が挟まれている気圧配置の高気圧圏のこと。低気圧との境界がV字型をなす。全体的にはいい天気なのだが、境界地域は激しい雷雨となる。

*2.Bluestem―架空名称。
 I-90(インターステイト90ハイウェイ)を西に向かって走ており、Worthingtonを過ぎた場所という記述からして、想定されている実際の町は、Luverneである(郡はRock County) 。その町は郡庁舎所在地となっているのであるが(郡保安官の犯罪捜査支援のために赴く)、Worthingtonからサウスダコタ州との州境までは60-70マイルしかなく、この間にI-90沿いないし周辺に存在する郡庁舎所在地町は、ここしかない。LuverneはRock Countyという郡の郡都(郡庁舎所在地、county seat)で、2010年度国勢調査人口は4,745だという(物語では郡の名は"Stark"county)
 なお、物語では、Bluestemという町はこの地域のプレイリー(高原、Prairie)に生える草の名から来ているとしている(下画像)。

*3.Deposition  証言録取書、供述録取書
 法廷以外の場所、例えば弁護士事務所などで、宣誓させる権限のある者の前で、質問に答えてなされ、書面化された供述。アメリカではdiccovery(開示)の一方法とされる。一定の場合には、のちに法廷での証言を弾劾するために、あるいは、証言する者の出廷が得られないときには法廷での証言に代えて用いられる。(東京大学出版会、「BASIC英米法辞典」(編集代表田中英夫)


Photo_2                                   (Bluestem。カラス麦に似た穂をつける背の高い草だ。ココから)

 右ヘッドライトの上方に火花のようなものが見え始め、火の塊となり、3マイル進んだところで巨大な火事と判明した。
I-90をハイウェイ75との交差点で下りて、右折し目的の町に入った。ホリデイ・インの前を通り過ぎてそのまま北上、火事の現場に行き、車を停めた。


Photo_4            Mankato→ ハイウェイ60 →WorthingtonでI-90に入り→ ハイウェイ75のジャンクションで下りて街に入った。

◆◆◆◆◆◆◆◆
Virgil Flowers series
1.Dark Of The Moon(2007)、2.Heat Lightning(2008)、.3.Rough Country(2009)、4.Bad Blood(2010、) 5.Shock Wave(2011) 6.Mad River(2012)(未読、ハードカバー版発売中)

1                                                   (Virgil Flowers series)

 言行録を書くつもりが、ついつい前置きが長くなってしまった。まあ、多少の言動描写になっていなくもないが、とにかく、これを「言行録、その2」記事の前編として、後編に続けることにする。

―― 後編に続く ――

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧